小熊研究会有志読書会第一回発表レジュメ

アンソニー・ギデンズ −構造化理論を中心として−

相澤 真一

Introductionにおける筆者のギデンズやブルデューの位置づけ

第二部では社会的な構造や構成に関する現代社会理論を紹介

(第一部より、よりマクロな視点で捉えようとしている。)

その中でギデンズやブルデューはその中でもオリジナルなものを持っているという形で取りいれられている。ギデンズのオリジナルなもの→構造化理論のエッセンスを抜粋(”The Constitution of Society”『社会の構成』―残念ながら邦訳はなし−より)

 

『史的唯物論の現代的批判』にまとめられている構造化理論の要点

@      構造とシステムの区別

システムは時間的、空間的に実在し、構造はシステム属性としてのみ実在するヴァーチャルな存在である。

 

A      規則と資源のセットとしての構造概念

構造とは、機能主義でいうような実体的な社会システム構造ではなく、規則のセットしての構造である。実体的な存在ではないが、本質的な規定力を持っている一方で、構造は資源配分システムとしても考えられている。

規則と資源は行為や相互行為の媒体であるとともに、構造を構成する要素でもある。構造とは規則と資源が組織化されて成立するシステム、規則システムと資源配分システムである。

規則と資源はなんらかの様式と形態を有し、相互行為と構造を相互媒介的に実現させる媒体でもある。

 

B      構造と実践の関連を、構造の二重性として把握する

構造機能主義や構造主義は、構造が社会をメカニカルに再生産するとみなすが、

ギデンズは、構造を人間の行為を制約すると共に可能にする条件と見なし、行為可能性が構造を変化させる契機を重視する視点を選択する

 

C      行為主体である人間の意識は三層構造、すなわち無意識、実践的意識、言説的意識によって構成されていると見なす

中でも、実践的意識が重視されている。

構造は実体的には存在せず、実在するのは相互行為である。

相互行為を構成する行為の主体である人間は、規則と資源を活用して行為する

→それは言語表現的な意識ではなく実践的に意識しているから

 

D      構造化の分析を、社会システムの存続、変動、解体を統御する条件の研究とする

構造化とは社会システムの再生産であるが、これには生産すなわち変革も含まれている

 

E      社会的再生産をコンティンジェント(不確定的)で歴史的であると見なす視点

社会の再生産は不確定、しかし、不確定的であることは、新たな可能性が開かれることでもあり、歴史的条件のもとで行為主体である人間が、その可能性を生かしうることこそギデンズの社会変動論の基本特性である。

 

F 社会的再生産は三つの時間性、すなわち相互行為の再生産(ミクロ)、人間の再生産(メゾ)、制度の再生産(マクロ)という時間性をもっている

 

G         相互行為の要素としてコミュニケーション、サンクションのみならず、パワーを設定する

パワーの原型は行為に見られる変革能力

相互行為においては自立と依存の関係

構造においては支配・被支配関係を実現する

 

H         社会統合とシステム統合との区別

社会統合は行為主体間の実践の相互性

システム統合は集合体間の実践の相互性

 

I         矛盾とコンフリクトとの区別

矛盾は構造レベルの原理的対立、

コンフリクトは相互行為レベルの行為主体間の対立

コンフリクトはパワーとパワーの衝突であり、争点をめぐって繰り広げられる相互行為である。構造的な対立点が具体的な争点として現れ、その争点をめぐるコンフリクトを通じて、構造が維持され、あるいは変革される。

 

本文との関連

構造化理論の用語の表現

The Duality of Structure (P.127)

Structure(s) = Rules and resources, or sets of transformation relations, organized as properties of social systems

(社会システムの所有物として組織される規則と資源、または変換関係の集合体)

System(s) = Reproduced relations between actors or collectivities, organized as regular social practices

(規則的な社会的実践として組織される行為者と集合体との間の再生産関係)

Structuration = Conditions governing the continuity or transmutation of structures, and therefore the reproduction of social systems

(構造の連続性や変化を支配する状況であり、またそれゆえに社会システムの再生産を支配する状況)

 

構造化理論の中の規則(rules)(P.122)

ゲームのなかの規則とは違うものである。

単一のものとして扱われるものではない。

資源と離れて概念化されることはない。

社会的相互行為の中の整然とした手順を含意している。

意味の構成と社会的行為のモードの認可(裁可)という両面を持っている。

 

構造の二重性(the duality of structure)とは

the rules and resource drawn upon in the production and reproduction of social action are at the same time the means of system reproduction = the duality of structure

{社会的行為の生産と再生産の中で引き出される(今までに引き出された)規則と資源が同時に(今後の)再生産の手段であること。}(P.128 L.39)

 

難読個所の説明(P.121 L28)

“To say that structure is a ‘virtual order’ of transformative relations means that social systems, as reproduced social practices, do not have ‘structures’ but rather exhibit ‘structural properties’ and that structure exists, as time-space presence, only in its instantiations in such practices and as memory traces orienting the conduct of knowledgeable human agents .”

「いわば、Aとして修飾される構造は@以下のことと(and)A以下のことを意味している。」

というのが文の基本である。

A=is a ‘virtual order’ of transformative relations(変革する関係の「仮想的な秩序」)

@=that social systems, as reproduced social practices, do not have ‘structures’ but rather exhibit ‘structural properties’

(社会的実践が再生産されるような社会システムは構造を持っているのではなく、むしろ「構造的所有物」を見せている。)

A=that structure exists, as time-space presence, only in its instantiations in such practices and as memory traces orienting the conduct of knowledgeable human agents .

(時空間の中の存在のような構造はそのような実践の例示の中や聡明な行為主体としての人間のふるまいに始まる記憶の跡でのみ存在する。)

直訳(いわば、変革する関係の「仮想的な秩序」である構造は、社会的実践が再生産されるような社会システムは構造を持っているのではなく、むしろ「構造的所有物」を見せていることを意味しているのであり、時空間の中の存在のような構造はそのような実践の例示の中や聡明な行為主体としての人間のふるまいに始まる記憶の跡でのみ存在することを意味している。)(という英文ではないかと思われる。)

つまり、この文で言いたいことは、

@ 構造は仮想的な秩序であること。

A 社会システムと構造との関係は、社会的実践が行われるシステムの中で構造的なものが見えるのであり、社会システムが構造を保持しているのとは限らないということ。

B 構造は可視的に把握されるものではなく、行動の事後的な判断や記憶の中でのみ把握されているということ。

であると考えられる。

 

参考文献

Anthony Giddens ‘Elements of the Theory of Structuration’ from Edited by Anthony Elliott “Contemporary social theory” (Blackwell Publishers 1999)

Anthony Giddens “The Constitution of Society” (Polity Press 1984)

アンソニー・ギデンズ著、松尾精文、藤井達也、小幡正敏訳『社会学の新しい方法規準』(87年而立書房)

宮本孝二著『ギデンズの社会理論−その全体像と可能性』(98年八千代出版)