小熊英二
「『左』を忌避するポピュリズム」
書誌データ:小熊英二 「『左』を忌避するポピュリズム 現代ナショナリズムの構造とゆらぎ」〜『世界』1998年12月号、岩波書店。
論評
『戦争論』考
(松原隆一郎・社会経済学者、ウオッチ論潮、朝日新聞、1998年11月日)
抄録
「『左』を忌避するポピュリズム」
「大東亜戦争」肯定論をとる「新しい歴史教科書をつくる会」が運動をナショナリズムに求めたのは現代社会において規範となるべき「健全な常識」を見いだせないがゆえの不安からだろう。その背景には冷戦体制崩壊による社会主義の失墜、国際化の進展、家族や地域共同体の崩壊などがある。この運動が意外なほど天皇制や民族問題で「戦後民主主義」世代の感覚を反映しているにもかかわらず、「戦後民主主義」や「リベラル」といった形容で総括する「左」の言葉を忌避する理由は、「左」の言葉こそが、現在の日本の「体制側」の言葉だとみなされているからだ。運動の政治的影響力を過大評価する必要はないが、問題はこの会の出現が示した現代日本社会の心の闇、閉塞感である。
(「Views from Japan」1998年12月、フォーリン・プレスセンター)
抄録(英訳)
Looking for an Enemy in "the Left"
("Hidari" o kihi suru popyurizumu).
Eiji Oguma, instructor, Keio University. Sekai, December 1998.
The Japanese Society for History Textbook Reform has attracted attention in recent years for its stance, which takes a positive view of Japan's role in the conflict in East Asia before and during World War II. This movement frames its views in opposition to progressive intellectuals and the bureaucratic elite, but the lack in modern society of a consensus has roots in the fall of socialism accompanying the end of the cold war, the advance of internationalization in Japan, and the decline of the family and community organizations. Despite the fact that this movement reflects the opininons of the "postwar democracy" generation to a considerable extent in its lack of strong views on the Imperial system and ethnic issues, it goes to great length to distance itself from "postwar democratic", "liberal", and othe viewpoints falling under the "leftist" rubric. This is because leftist terminology is now perceived as the language of "the system" in Japan -- the real target of the group's antipathy. The author argues against overestimation the movement's political influence, seeing the emergence of the group rather as a sign of spiritual malaise -- a sense of lonely powerlessness -- in modern Japanese society.
(Views from Japan, Foregin Press Center/Japan, December 1998.
論評
(前略)
宮台真司:最初はバカらしいから断るつもりでした。
上野千鶴子も断ったしね(笑)。
でも「ちょっと待てよ、小林よしのり批判にマトモなものが
ないじゃないか」。そう思い直して、引き受けたんです。
宮崎哲弥:従来の『戦争論』批判には読むべきものはなかったってこと?
「世界」の小熊英二は結構よかったんじゃない。
私が岡本編集長に薦めたんだけどさ(笑)。
宮台:いや、小熊英二さんのは面白かった。彼は日本的ナショナリズムが
何を母体にしてどういうふうに動いてきたのかを
非常に的確に整理していて、そういった中で小林よしのり的なものを
うまく位置づけている。学問的な相対化の見本だと思います。
宮崎:小熊さんは「小林よしのり的なものが出てくるのは地域共同体が
弱まっているからだ」みたいに言ってはいるけど、分析がない。
そこが甘いと思いませんか。
宮台:それは社会学者がするべきことで、思想史家の仕事としては十分です。
ところが社会学者がするべきことをしていない。
仕方なく私が登場する(笑)。
(後略)
(宮台真司・宮崎哲弥、サイゾー、1999年7月号)