首相は不満の噴き出し口
改憲は派手に見えても安直

2001年参院選 選択の前に



Q 参院選は「改革」の大合唱です。

A 「最近、『戦後』という言葉の使われ方が気になります。『戦後日本のあり方を改革する』とか『戦後日本は豊かになってモラルが低下した』とか。特にここ5、6年の日本の状況への反発を表現するときに使われています。『戦後』が現状批判の枕詞にされている」
「象徴的なのが『新しい歴史教科書をつくる会』の公民教科書。『戦後』を批判しながら、金銭的エゴイズムの象徴として『グローバリズム』を挙げ、モラル低下を嘆く写真は携帯電話をかける若者たち。ここ数年の状況への反発を語っているにすぎない。代わりに『歴史と伝統』が大切だというが、その具体的な内容は書いていない。気休めの呪文と同じです」

Q 小泉首相の人気をどう見ますか。

A 「現状へのいら立ちの噴き出し口が小泉さんなのだと思う。現状を『改革』するといって人気を集めているけれど、その『改革』の中身がよくわからない。改革支持者の主張も、内容が各自ばらばらだったりする。『改革』も小泉さんも一種の呪文かもしれない」
「ここ10年、『地盤型選挙』が崩壊し、浮動票が増えて、漠然とした反発が雪崩を打って一カ所に集中しやすくなっている。土井(たか子)ブーム、日本新党の細川護煕さん、そして小泉さん。だけど、この内閣支持率の高さは本当に怖い」

Q なぜですか。

A 「現状への反発が一方向に行く恐ろしさを感じる。しかも、どこへ向かうのかわからない。人気の集まるところは、社会党でも日本新党でも、小泉さんでもありうる。それなら右翼政党に向かわないとも限らない。しかも、今のナショナリズムの弊害の一つは、具体的な中身が何もないこと。何かをやったような気にさせて、実は目前のやっかいな問題から目をそらす機能しか果たさない。逆に言えば、中身がないから人気が集まりやすい。一種の麻薬ですね」

Q 教科書問題が論議を呼ぶ一方で、永住外国人地方参政権問題の影は薄いですね。

A 「数年前まで保守政治家にも日本の国際的地位を高めるため、アジア諸国との関係を考慮し、日本を開かれた社会にする志向があった。それが戦後50年の国会決議や外国人参政権の推進と、どこかでつながっていた。ところが不況とともに、アジア諸国からどう思われようと『日本人の誇り』を振かざす方が大切だという安易な内向きの主張が台頭してきている。経済的余裕がなくなって、なりふり構っていられないということでしょうか。実に情けない」

Q 小泉首相は靖国神社に参拝する意向です。

A 「象徴的に『戦後のタブーに挑む』行為をやって、何かを変えたという印象を与えたいのじゃないかな。違うというなら、日本各地やアジアに、慰霊に行くべき場所はほかにたくさんあるはず」
「もともと、この問題は『戦没者は戦前体制のひとつの象徴である靖国神社にまつってもらいたいとは思わないだろう。だから首相が参拝しても喜ばない』というのが最大の反対理由でした。それが戦争を知る世代が減るにつれ、アジアの反発しか反対理由が語られなくなってきたことは少々、心配です。それだけだと、『中国や韓国が文句を言わなくなればいいじゃないか。何なら圧力をかけて黙らせろ』という展開になりかねない」

Q 小泉首相は憲法改正も唱えています。

A 「一番わかりやすく『日本を変える』とアピールできるスローガンですからね。しかも憲法改正を掲げることは、ひとつも利益団体をつぶす必要もないし、官庁への根回しもいらない。一番派手な『改革』に見えて、実はもっとも安直なのではないかな。安直な道を選んでいるうちに、最悪の破局に至るというのは、戦前から日本政治にあるパターンで、それだけは避けたいですね」
「大向こうの受けを狙うのが流行の政治手法だから、この選挙では候補者の具体的な主張を問います。『改革』だの『維新』だのという呪文やスローガンではなくてね。だいたい、スローガンだけで票を集めようなんて、人をなめてますよ」

(朝日新聞、2001年7月28日)