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                   第2号  2000年2月15日


 論理の世界に引っ越してきたばかりの新人には、論理的なだけでは説得的では
ない、と前回書きました。しかし、論理的であることだけでは充分ではありません
が、必要なことではあります。
 そこで今回は、どのようにすれば論理的に説明できるのかについて書きます。
ただし、論理的ではない方法を4つ紹介することによって(質問もありましたので)。
基本的には入門書の逆をいけば、論理の誤謬になります。


1 論理の誤謬
1.1	ジレンマの強要
  さて、前回少しふれたこれから始めましょう。例えば、以下のようなものが
そうです。
「(名護市において)基地受け入れか経済振興策か」
投票の争点になったこともあり、必要以上に問題が単純化されています。そして、
どちらを取ってもデメリットが少なからず生じます。これがジレンマです。考え
なければならないことは、必ずどちらか1つを選択しなければならないのか、
という点と、第3の道はないのか、という点です。環境問題でよく使われる手法です。

1.2 過剰な一般化
 マーケティングの一環としてアンケートを行うことがあります。あるいは、
選挙の前に新聞社は世論調査を行います。これらの、いくつかのサンプルを基に
全体を推測するのが一般化です。しかし例えば、マクドナルドが美味しくないから
といってファースト・フードがすべて美味しくないとまで言ってしまうと、過剰な
一般化です。(フレッシュネス・バーガーやモス・バーガーはそこそこいけます。)
これは、サンプルの取り方に問題があるのです。「サンプル数は充分か」や「偏りは
ないか」などを確認しましょう。詳しくは統計学や社会調査法の本を読んでください。

 ディベートで、より以上に初心者が行い易い誤謬は、例外をもって反論すること
です。尋問や反駁において、1つの例外を示すことによって相手の主張がなり
たたないことをアピールする人がいますが、多くの場合は無駄です。100%
正しいことを証明できるものなどそもそもありませんし、ディベートにおいても
必要ありません。まあ90正しいくらい、確実ならいいのです。現実の問題を扱う
ことが多いこともありますし、何か1つの事実で議論が決するようなら論題
(論点)選びを失敗しています。

1.3<権威>の濫用
  専門家が書いたものを使って立論などを補強することは、1番よく使われる
立証の仕方でしょう。しかし、使いやすいこともあり、なんでもかんでもという
人も見受けられます。考えてみれば分かりますが、例えば、名の売れた心理学者が
監修しているからといって、心理テストを本気で信じる人はいません。皆さんも
話のタネに使う程度だと思います。あるいは、マスコミで学者が社会現象を解説
しているのを見て、「本当にそうなのか?」と思ったことがあるかもしれません。
必ず、その人の専門領域なのか、と、しっかりした根拠に基づいているのか、を
確認しましょう。権威の意見に「絶対正しい」ものはないことも忘れてはいけません。
経済学上の論争や、ニュートン力学がアインシュタインのそれになり、これも今
また変わろうとしているのはいい例です。

(余談:なぜ、ドラマや音楽などを基に社会を分析するのでしょうか。もちろん、
他に判断材料があまりないのが一番の理由です。しかしそれと同時に(それ以上に?)
<本場>アメリカの影響があります。かの地では、映画学科やメディア学科が
たくさんあり、それを受けてたくさん論文もかかれています。学生はもちろん、
学者も論文の数をこなさなければならない面もあるため、この方法は書き手に
とって都合がいいのです。そしてその方法を(何も考えずに?)そのまま輸入して
いる、というわけです。結果、アメリカでも日本でも玉石混交となるわけです。)

1.4	<伝統>の虚偽
  「それが慣例だから、そうしろ」と言われて納得ができなかったことはない
でしょうか。「かつてそうしていた」という事実だけでは「今そうしなければ
ならない」という根拠としては論理の上で弱すぎます。その際たるものが
<伝統>の名で行われる主張です。ひと言<伝統>というと、千年も万年も前から
そうであるかのように思いがちですが、実際に調べてみればそれが結構
最近生まれたものであることがわかるはずです。例えば終身雇用制度。これは
せいぜいが30年間程度の代物です。高度成長期(60年代)からバブル期
(80年代後半)のしかも大企業にしか見られない現象でした。この期間でも
中小企業は終身雇用ではなく、それによって弾力的に人員調整をしていたのです。
また、それ以前は雇用労働というものも今ほど多くはありません。

  女性学のテーマになる問題も多くはこの虚偽への挑戦です。「専業主婦が一般化
し始めたのは高度成長期以降だ」ですとか「夫婦が同姓になったのは明治民法からだ」
などもそうでしょう。どこかの党幹部は「子が親の介護をするのが美風だ」と頭の
悪いことを言ってましたが、老人介護が社会問題になったのはこの10年20年の
ことです。その歴史を調べましょう。いつ頃発生し、どのように広まったのか、など。
そのことにより、本当にそうしなければならないのか、や、変更することはでき
ないのかということが分かります。(<常識>という言葉も似たような使われ方を
することが多いことを記しておきます。)

(余談2:なぜ<慣例>に従って物事を決定することが多いのでしょうか。かつて
は合理的だったかもしれませんが今もそうかは分かりません。まず第1に、
考えずにすみ、かつ重大な責任を負わなくてもすむからです。今まで通りにやれば、
失敗して責任を取ることになってもさほど重いものにはなりません。そして官僚の
場合ですが、変更は前任者が間違っていたことを意味するため、なかなか踏み切れ
ないのです。)

2 前回のフォロー
 関東地区以外の方から、ディベートをやりたくても(習いたくても)近くで
やっているところがない、というメールを複数いただきました。前回紹介した
3団体は規模の上でも活動内容でも1番ですが、やはり活動は東京中心になって
います。講習会も大会も、ほとんどは東京で開催されています(それ以外の場所
でも時々はあります)。ただ、具体的な活動は知りませんが、全国教室ディベート連盟
 ( KFD02107@nifty.ne.jp ) は各地に支部を持っていると聞いています。それから、
大阪では毎日新聞(?)主宰のディベート大会があったと聞いています。東京でも
10年15年の<伝統>しかありませんので、地方においてはこれらを基盤に
これから組織作りをする必要があるのかもしれません。ディベート団体はどこも
普及活動に力を入れていますので、快く協力してもらえるでしょう。

 日本ディベート協会 ( jda@kt.rim.or.jp ) は、4月に京都で講習会を行うとの
ことです。他に、関東以外でディベートの講習・大会を開催する方がいましたら
メールをください。このメルマガでも紹介したいと思います。



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