終章

 

 「政治」と名がつく用語は多数存在する。「政治学」、「政治家」、「政治業界」、「政治意識」、「政治思想」、「政治性」、「政治団体」、「政治犯」、「政治革命」、「政治力」、「政治権力」、「政治的無関心」云々。

 そうした中、マスメディアでは毎朝、毎夕、「政治献金」や「政治家による汚職」など「政治」に絡んだニュースが流され、人々はそれによって「政治意識」を育む。そして「世論調査」によって、そうした「政治意識」の総体は「世論」として発見され、その時代の「政治情勢」に大きく影響するものとして注目される。本屋には、「政治学」と称した数々の本が並べられ、複雑な用語によって「政治業界」の動きや、「政治思想」、「世論」などについて解説されている。「政治革命」を起こそうと試みた「政治運動家」は時には、「政治犯」として糾弾され、時には「政治的英雄」として賞賛される。

 「.jp」の理念は、「政治を生で体感する」ということであった。果たして、「政治」を「生で体感する」とはどのようなことなのであろうか。「政治家」と一緒に料亭で献金を受け取る姿を目撃することか。テレビ局へ行って、「政治のニュース」の制作現場を覗いてみることか。国民一人一人に「政治意識」を聞いて歩いていくことなのか。それとも、「政治学の権威」になるまで勉強を続けていくことか。はたまた、自らが「政治運動家」になって「革命」を起こそうと試みてみるものなのか。

 「.jp」は「政治家」のところで「インターンシップ」を経験してみることをその解決策として選んだ。「国会」へ行き、「部会」に出席し、地元では「ビラ配り」をする。そうして「政治“界”」の内部の中に取り込まれて「政治とは何か」を学ぶ。

 

 代表のI君にとって今回は3期目のスタッフで、初の代表経験であった。彼は、先期、即ち、「12期」が始まった時点で、「13期」の代表に抜擢されていた。言わば、「生え抜き」だったわけだが、「13期」の運営はそこまで簡単にはいかなかったようである。全てのスタッフの中で彼一人が孤立した状況が生まれ、運営自体がままならないという状況まで一時は陥っていたと語った。

 

I:(コミュニケーションを)取ろうと思ってたんすけど、取れなかった。というか、4月の時点で(スタッフから)不信感を抱かれてたらしいんですよ。抱かれてたというか、抱いていたことも知ってたんですけど、まぁ。話し合いをした時に、最初1、2ヶ月くらいは表面は、外面は皆が良くしててー、全部愚痴を隠してたんですよ。だけど、もうずっと僕はそれに気付いていてー、とりあえずそのままにしてたんですけど、絶対これじゃもうダメだと思ってー、4月30くらいに話し合いをした時に、もうボロクソに言われて、10人くらいから。それで「全然君のこと信用してないからー」みたいに言われてー。で、僕は、その時コミュニケーションを取るスタンスで立ってたんですけど、全然取れてなくて、でそういう風に言われてー、またそれでもコミュニケーション取ろうと思ったんですけど、結局取ってもらえなくてー、メールとかもまー、送っても返信してくれなかったりとか。んでもう何か、「ダメだー」みたいになっちゃって。で、新スタッフは新スタッフでまだ入ったばっかなんで、そんなこと話してもわかんないじゃないですか。だからそれでコミュニケーション取る相手がいなくなっちゃって。

 

 原因は、彼自身あまり正確には分からないという、しかしながら、1期でスタッフの半分が入れ替わり、代表も変わるという運営形態。そして、理事側とのコミュニケーションのほとんどがメールでのやり取りという状況は、I君にとって負担であったということであろう。しかしながら、筆者がフィールド・ワークを始めた当初は、そうした状況を全く感じさせなかった、それだけI君をはじめスタッフ各人が努力していたということである。

13期」の中盤になると、そうした問題はさらに深刻化していったようである。代表のI君、「ケイゾク」、「新スタ」に加えて、「理事側」に対する不信感も募りヘゲモニー闘争が展開された。時には、泣きながらスタッフ同士で話し合い、何とか運営に漕ぎ着けたという場面もあったという。

 そうした語りを聞いた後、I君に再度「政治の必要性」を問うてみた。

 

*:あの、改めて、政治っていうのは必要だと思いますか?

I:うーん、そうっすねー…必要だと思いますね。っていうのは、政治って、例えば10人がいたら、一人が取りまとめていかないと上手くいかないじゃないですか。20人いて、代表がいるように。じゃないと上手くいかないように、やっぱり、そりゃ、一億人いりゃ500人とか代表になってやらないといけないしー、でその代表がーこうそれぞれ取りまとめて決めていくことが、まー政治なのかなーって思うし。単純に言えばですけどね。で、その上で、政治があった上で、色々と何か諸問題があるにせよ。世の中を動かすのは政治しかないんじゃないかなとは。何かちょっとよく分かんないですけど…まー無くても良いと思うんすけど、無くても良いと思うんすけど、あった方が便利っていうか。

*:あって、上手く機能してるのが一番良いっていうことですか?

I:はい。

*:ただ、今上手く機能してるとは?

I:そうですねー、あんまり思ってないですね…政治とは何かって言われたら何なんすかね。

 

 ただ単に「議員インターンシップ」を経験したよりは、「.jp」のスタッフとして活動した方がより「政治」に近づけたことには違いないと思う。様々なおぞましい出来事が「政治」によって生み出されてきた歴史と比較すると、彼らの「政治」は「生ぬるい」のかもしれない。しかしながら、少しずつでもそれに近づき、触れていき、想像力を働かせていくこと、「政治的無関心」を巡る言説以降の人々、筆者を含めた我々ができる「現実的な」一歩なのではないだろうか。

 最後に改めて、半年間に及ぶ調査に協力してくれた「.jp」「13期」関東支部スタッフに感謝を申し上げたい。