日本におけるコレクティブハウス
齊藤綾子
慶應義塾大学 環境情報学部4年 70053927
キーワード: ・コミュニティ ・コレクティブハウジング ・NPO
要旨
コレクティブハウジングの歴史をデータ・事例を中心に概観した上で、日本においてネットワークコミュニティの考え方を取り入れた、選びうる住まい方の選択肢のひとつとしてのコレクティブハウスの実際、可能性の模索、そこからあらわれてくる社会状況・心理の分析およびコレクティブハウスを通じて構成されるアイデンティティや生活観の調査、整理を行う。
目次:
1 問題意識
2 先行研究・方法
3 コレクティブハウジングとは
3−1 「共同住宅」の形態
3−2 コレクティブハウジング〜スウェーデンをもとに
3−2−2 事例
3−3 海を越えたコレクティブハウジング〜コウハウジングとは
3−3−1 事例
4 日本におけるコレクティブハウス
4−1 日本の「共同住宅」
4−2 阪神淡路大震災後のコレクティブハウス
4−2−1 実態
4−2−2 導き出される「支援の形」
5 事例研究〜 日暮里「コレクティブハウスかんかん森」
5−1 「かんかん森」のメンバー
5−2 居住者のすがた―定例会資料 自己紹介文より抜粋
5−2−1 生活科学運営
5−2−2 コミュニティハウス日暮里に住む人
5−3 コレクティブハウスを選んだ理由と意識
5−3−1 WSの様子
5−4 実際の運営方法
5−5 入居後のコレクティブハウジングについての語り方
5−5−1 自分達についての語り方
5−5−2 メディアとの関わり〜自分達の見せ方、外部へのPR
5−5−3 コレクティブな生活を維持する・コミュニティを成り立たせているもの
5−5−6 問題解決の一例
5−5−7 変わったことと変わらないこと
6 考察
1 主題と問題意識
近年、家族の形態は多様化し、その機能も縮小してきている。よりよい生活のための協力関係は家族・血縁を単位とした連帯によるもののみによらず、その広がり、つながりは拡大している。誰とも会わずにひとつのテーマコミュニティを作ることも可能な社会であり、一方地域コミュニティなど対面できるコミュニティの重要性も強調される。確かなことは、もはや個人は家族内の役割の範囲に収まるのではなく、自立し主体的に行動しつつ他者と「対面できるコミュニティ」を通してつながることにより生活の諸問題を解決し、生活そのものを自分でデザインしていく生き方を選べる環境が整い始めたという事であり、このようなコミュニティは多様な世代からの注目を浴びている。個人ではまかないきれない、行政ではカバーしきれない日常生活についての問題をよりよく解決し、合理的に自分に合った生活をしようとするとき、ひとつの解決方法・選択肢として「コミュニティの力を利用すること」への期待感は大きい。コミュニティで生活を共有するというと福祉施設のイメージが強いが、人間をもともと不完全なものだとし、個人で完結した場合以上の生活を求めるとき、主体的なひとりひとりの不備を補い合うため、そのコミュニティは万人に必要なものだと考える。ただし、個人が主体的に関わることが求められるので、そのコミュニティへの関わり方は様々であってよく、運営理念に基づき柔軟に、ニーズに沿った運営がなされる必要がある。もちろん、コミュニティに参加することで生活についての様々な利益を得ることも出来るが、ひとたび采配を間違うと個人にとってマイナスになることも当然ありうる。様々な関わり方が考えられる中で、コミュニティが上手く機能し、続いている事例には何らかの方法論も存在するのではないか、また、どのような理念を持ち、「コレクティブな暮らし方」を形成しているのか明らかにしたい。
この研究の主な目的は、日常生活を共有するコミュニティを「生活コミュニティ」としたとき、その中でも中心部分といえる「居住空間」と「日常生活」を、切迫した必然性によるものではなく、理念で連体し、共有するという、「コレクティブハウジング」とは日本に於いてはどのような意識から成り立っているのか比較検討し、整理することである。北欧で発達したコレクティブハウジングは、ヨーロッパの周辺だけでなく、海を越えてアメリカでも「コウハウジング」として成長しひとつの流れを形成している。その流れが、日本にも伝わったとは現時点で断定できないが、日本での共同住宅のあり方やその思想を整理し、今後ますます北欧型に移行していくのか、日本独自の形が現れるのか考察したい。
コレクティブハウスの居住者はコミュニティに関わることが大前提であり、共有テーマでもある。個室は完全に独立し、ルールによる縛りもそれほどきついものではなく、関わり方の自由と違いは認められているとはいうものの、コミュニティは個人に密着し、その人の生き方・日常生活や思想に大きな影響を与え、物理的にも精神的にもリスクが大きい。しかしだからこそ、この生活コミュニティは効果的なヒューマンサービスを生み出し、有機体として柔軟に人々のニーズに応え、成長していくことも出来、住まい方のひとつの有効な選択肢となれるのではないか。
コレクティブハウジングは、理想論のように見えて実はきわめて合理的で、現実的な住まい方でもある。なぜそう言えるのか?次の各章でまとめていく。
2 先行研究・方法
・岡崎愛子「コレクティブハウジングにおけるコモンミールの役割」(2002年度日本女子大大学院 修士論文紀要)
同じ対象「コレクティブハウス」を取り扱い、コモンミールの役割に焦点を当てた修士論文。最終的にコモンミールの試案にもまとめられているが、コモンミールのみに対象を絞っているので、居住者の姿が見えてこず、社会的背景に至る説明などが取り上げられていない。また調査時期は居住前までで、住み始めてからの変化や理念と暮らしの実態などには触れられていない。コレクティブハウスの他の機能やネットワークとの関連、住まい始めてから関係・生活がどう変わったのかまで取り上げる必要がある。
・本研究の意義
コレクティブハウスの先行研究としてはその実態や建築物の概観に迫ったものはいくつかあるが、新しいコミュニティを居住場所という生活そのものに取り込んでいるという面を中心に考えたい。その上で形態は違えど、理念が似通っている居住形態と比較しつつも対象をひとつに絞りそこから歴史をたどり、発展の流れをつかみ、将来の形を予測する。
また「コレクティブハウジング」の根本の思想を検証し理念を一般化、応用可能なものに仕立て、暮らしに関する諸問題を解決するために、現実的に選びうる住まい方の選択肢として提示する。
・方法
文献調査・コレクティブハウス「かんかん森」定例会・各種ワークショップ・コモンミールでの参与観察、インターネット上の発言、会話やこれまでの議事録分析
3 コレクティブハウジングとは
3−1 「共同住宅」の形態
居住者でグループを作り、生活を共有する住まい方には、高齢者のための福祉施設とそれ以外、入居形態や運営方法などによる区分がある。なんらかのグループでお互い認識しあい、関わりあいながら住まうという点ではそれぞれ共通している。以下は二つの区分から比較していく。
●高齢者・要介護者向けのもの
・グループホーム
一般的には少人数の知的障害者や精神障害者、痴呆高齢者のための住まいを指すことが多い。日常生活の援助を受けながら自宅と同じような空間を、共同で生活する小規模なものである。そこでは食事の提供、相談その他の日常生活上の「援助」があり、国と地方自治体の基準や補助制度が設けられている。個人経営によるものが多く、障害者の自立、リハビリが目的で家族が同居することはまず無い。病院を離れしかし自宅でもない普通の場所で普通の生活をするために、障害をもつ人または高齢者がその様々な状態や需要に応える体勢づくりのひとつ。
・痴呆性高齢者グループホーム
介護保険制度のなかに「痴呆対応型共同生活介護(痴呆対応型グループホーム)」として位置付けられている。そこでは痴呆老人が世話を受けながら、共同生活することで社会性を維持しボケの進行を止める、遅らせる、あるいは改善するためのリハビリを目的とするもので、それぞれ「労働・仕事」を行うが無理のない範囲内で考えられている。このグループホームは、法人でなくてはならず、利用者:介護職員=3:1以上、介護サービスに関わる計画を作成する担当者や管理者は、介護員の経験者であること、共同生活住居は、その入居定員を5人以上9人以下とし、居室、居間、食堂、台所、浴室その他必要な設備を設けること、一居室の床面積和室であれば4.5畳以上とすること等の細かい決まりがある。
●高齢者に限らない万人向けのもの
・コーポラティブハウジング
コーポラティブハウス方式による住まいづくりは、海外ではヨーロッパを中心に広く普及してい
る。それは自分の家を建設しようとするもの同士が共同組合を結成して、共同で土地の取得・建物の設計・工事発注・その他の業務を行い、家ができてからも共同で管理・運営していく集合住宅である。各自の条件に合わせて個別に自由に間取りを設計することが可能であり計画立案から入居まで1年半から2年程度かかるのが一般的。良い住まいを手に入れたい、という気持ちが先にあり、共同でひとつの住宅を手に入れるというスタイル。入居後の共生はゆるやかで個人がコミュニティ対して負う義務は話し合いに参加すること以上特に要求されない。コミュニティを作るというよりは個人レベルではできない、一戸建てではなかなか実現しにくい環境ポテンシャルを手に入れることに重点を置く。デベロッパー(マンション分譲会社)の利益や広告費、豪華なモデルルームの諸費用等(約20%〜30%)が省かれ、参加者が地主から直接土地を購入し、直接工事を発注するため、より原価に近い価格での住宅取得が可能。コーポラティブハウスは、一方的に与えられるのではなく、参加者がイメージから作り上げる住空間といえるが一方、新規の計画の場合、土地購入資金に巨額がかかる・希望者間の意見調整、事業の企画立案、地主や入居者への説明から始まり、工事、完成まで全てを見守る専門家、コーディネーター役が必要で、そのコーディネーターの影響が建設計画を進める上で大きいという一面もある。
・シェアードハウス
1軒の家に数世帯がプライベートな個室を持ちながら共同で住む形式。居間や台所、食堂は共有。シェアードハウスは必ずしもグループとしてではなく、他の住宅機能を使い合って住む大きな家のこと。シェアードハウスは欧米では学生や若者の経済的な住まい方として一般的であり、アメリカでは単身の高齢期を安心して住むためにハウスメートを募って自宅をシェアードハウスにすることを応援する組織も存在する。日本でも必ずしも血縁にこだわらず、同じ目的をもつ仲間や、高齢期は気の合う仲間で住みたいという人たちが増えてきてはいるが多世代であること家の枠組みを越えたコミュニティを形成しているところは珍しい。
・ コレクティブハウジング
本研究で取り上げるもので、北欧で盛ん。自分の住居とは別に共用空間を設け、食堂、洗濯室、図書室、庭、子供室、ゲストルームなどを共にできるようにした集合住宅。何を共同化するか、共有空間の使い方や維持管理はどうするかは、居住者が自分たちで取り決めて運営する。
スゥエーデン王立工科大学でコレクティブハウス研究の第一人者であるD.Uヴエストブロはコレクティブハウスの条件として以下の4点をあげている。
1) 共同の食事運営に関する何らかの義務
2) インドアで居住者の密接なふれあいがある
3) 総ての人に開かれている
4) 私的な住戸が完備している
更なるポイントとしては以下の点がある
1)居住予定者の参加
居住予定者は話し合いを通してプロジェクトの最初から実際の住まい開始後、そこに居住する限り継続して参加する。土地の取得、銀行からの借り入れ、プラン作り、施工者の選定など全ての部分で住民の参加による決定が基本となりまた、敷地計画、施設、住戸計画など、コミュニティ全体をデザインする。しかし総てを経験も知識も少ない居住者で取り計らうのは不可能なので、コーディネーターの働きが重要な部分になり、コーディネーターは勉強会を開催するなど関係作りのための示唆も行う。
(2)多世代・ミックス居住
高齢者のみのシニアタウン・若い世代のみの共同生活とは異なり、若い夫婦から高齢者まで、年代や人種も様々な人々が参加することが前提である。収入面でも多様な人々が住むようにアフォーダブル住宅(支払い可能な値段で入居ができる)システムを取り入れ、賃貸住宅などもミックスし、障害者のグループハウスなどを取り込んだものも存在する。
(3)共同の施設と共同管理
自分たちの自宅の他に共同で使用・運営する施設を持つことになるので、そのコモンスペースの運営に於いては住人管理組合が作られ、掃除、ゴミの管理などを住人の運営委員会で作業を分担しあって行うのが基本である。
(4)エコロジカルデザイン
個人規模では実現の難しい、自然を残した配置計画が行なわれ、また、地球環境全体を考えた省エネルギー、省資源、自然材料による建築、自然エネルギー利用なども積極的に取り入れている。
(5)コモンミール
生活を合理化するため、またコミュニケーションを取るために週に何度か食事を協同化する。食事をとるかどうかは自由だが、調理などの当番は義務制
・コレクティブハウジングは話し合い作り上げる段階においてはコーポラティブハウジングと似ているが、運営委員会を設けるなど役割が細かく設定されており、入居後も話し合いを重ねて生活そのものを一部共同化し、その参加は義務である。一般的な住宅としてのプライベートスペースを確保しつつもコミュニティとしての付加が具体的に上乗せされ、しかもそれは一人一人が作り上げていく実感が持てる規模である。生活の場を与えることで結果的に良いコミュニティが出来上がるというコーポラティブハウスよりも、同じくスペースを共有することによる合理性が先にくるシェアードハウスよりも、(個人の住宅として完成されている上で)、コミュニティを重視するというテーマを設定している居住形態であることから対象とする。
3−2−1 コレクティブハウジング〜スウェーデンをもとに
コレクティブハウジングは(アメリカではコウハウジングとも呼ばれている)やはり北欧由来のものが今現在では盛んであり、多くの研究者は北欧のものをモデルタイプとしている。その代表格であるスウエーデンの共生型住まいの歴史をたどると、1970年代の終わりに20〜50戸規模で生活に関わる日常的仕事を居住者が分担・協働し居住者主体で管理していく公的賃貸住宅が、1980年に第1号が60年代に建てられた公共住宅のリフォームという形で建てられたものが初めてのものとされる。60年代といえば、スウエーデンでは産業と生産が急成長し、その中で労働者の地位の向上や男女平等が叫ばれた時代であった。初期に作られたものの中では、労働者のための大食堂つき共同住宅でなるべく労働者、および女性が効率よく働きにいけるように配慮したものを、居住者の手による食事の共同化を行うスタイルに変え、それが元となってコレクティブハウジング生活がスタートしたものもある。というのも1973年の原油価格値上げに始まる一連の経済不況状態により、食堂の経営が困難になり、閉鎖されようとしていたのを居住者が自ら調理を分担するようになったという切迫した経緯が裏にはある。60年代の労働者のための思想を抱きつつも不景気になり、他からのサービス供給を待つのではなく、自ら思想の実現のため(「家事の負担を減らし、女性の社会進出を推進する」等)自ら他人と連帯・共有したという背景がコレクティブハウジングが成長・発展したという一面が裏側にはある。
現在では、不況もあり1990年代以降は公的住宅への税制や有志上の優遇制度がなくなり、公的セクターの縮小、民営化という政治的変化も一因し新築のコレクティブハウジング建設は減少気味である。
3−2−2 事例〜スウェーデンのコレクティブハウス「フェルドクネッペン」
・日本初の北欧型コレクティブハウス「かんかん森」をコーディネートしているNPO「コレクティブハウジング社」(説明後述)の理事や、3人の女性居住予定者(当時)が2002年度6月に実際に見学に訪れており先輩格だと認識しているコレクティブハウス。
・フェルドクネッペン(FARDKNAPPEN)概要
入居年:1993年 所有形態:賃貸
住戸数:43戸 居住者数:54人 40歳以上/子供なし
共有スペース:キッチン、ダイニング、リビング、木工室、暗室、織物コーナー、サウナ、体操室、倉庫、洗濯室
コモンミール:週5回 273円 金曜 364円
・1950年 ストックホルム市の全額出資によって作られた。
対外的な理事と食事、インテリア、アート、庭、図書、掃除など7つのアクティビティグループがあり、居住者は少なくとも1つのグループに属すこと・6週に1度の調理・片付け当番を担うことを原則としている。公共の賃貸住宅ではあるが企画から設計まで将来居住者の主体的参加の元に6年がかりで実現した。40歳以上からと年齢制限を設けているが、それでもシニアハウスにならないために年齢バランスに気をつけ、個人の生活と社会性のバランス、共同化による経済性と豊かさを強調し見学希望者が絶えることが無い。
・日本のコレクティブハウス「かんかん森」のメンバーはこのコレクティブハウスは取材ビデオやアンケートや談話のなかで、ルールを決め、ある程度距離感を保ちつつ協働できるところは助け合っており、まさに自分達が掲げてきた理念を体現していると述べていた。またコモンミールの試案はフェルドクネッペンのものを参考に作成され、またルール作りのための勉強会でもフェルドクネッペンの組織の作り方を参照することが多かった。持ち回りの理事をおき、参加必須のアクティビティグループを作って住まい運営に居住者が関わるというスタイルはフェルドクネッペンを手本にしたものである。
一方スウエーデンのコレクティブハウスと比較して、日本人は食文化を大切にせず有給をとってまで調理に参加する(フェルドクネッペンの例)ことは出来ないのではないかという意見も居住者の中から出たこともあった。
3−3 海を越えたコレクティブハウジング〜コウハウジングとは
北欧でスタートしたコレクティブハウジングに惹かれた、カリフォルニア在住の建築家チャールズ・デュレとキャサリン・マッカマンにより紹介された。コウハウジングの「コウ-Co」は一緒に、平等にという意味とされ、名づけたのも彼らである。91年に第1号ができてから、今では1つのコウハウジングに20世帯、30世帯と集まり、徐々にコウハウジングは作られ始めている。コモンスペースは例えば、キッチン、リビング、ダイニング、の他にゲストルーム、子ども室、ティーンズルーム、作業室、ランドリー等であるが、コモンハウスとして、1軒建て、村のような状態になっているところも多く、規模が大きい。また賃貸でのコウハウジングは一般的ではない。アメリカでも特に補助はないため、住人達には賃貸用の住戸をつくる余裕はない。
3−3−1 事例〜アメリカのコウハウス ケンブリッジ
北ケンブリッジ駅5分という住宅地、東西に長い敷地で、北側は線路と接して建っている。全戸南向きの4階建ての集合住宅と3階建てのタウンハウスで、南側の道路からは子どもの遊び場や、ハーブや花を植えてある前庭がよく見える。
建物は省エネルギー設計で、敷地内の三つの井戸を利用し、ヒートポンプ方式で全館セントラル冷暖房をしており、資源保護と持続可能な環境をつくる事に配慮されている。
規模:41世帯、1才から80才迄95人 単身者13世帯、夫婦のみ12世帯、子供のいる世帯 16世帯
所有形態:分譲区分所有だが、そのうちの2戸を市の住宅局が購入し、低所得者向けの賃貸住宅になっている。
共有スペース:リビング、ダイニング、子ども室、キッチン、ゲストルーム、図書室、ティーンルーム、作業室、娯楽室、ランドリールーム、リサイクルセンター、食品庫、倉庫、機械室、駐車場等。
また、知的障害を持った男性が4人で住宅をシェアしているグループハウスも組み込まれている。
・ 始まりは、1989年、草の根運動で知り合ったコアグループが、他の人に呼び掛け95年の春迄に15組の家族がコウハウジングの中心メンバーになりグループを結成。96年の初めに候補地決定、敷地に建設するために、20家族が費用の30パーセントの200万ドルを払い、土地を買い、専門家を雇った。(住宅信託協会からも費用を借りる事が出来た)住民たちから若い家族の参加も求められたので、自分たちで費用を出し託児サービスを行った結果、15才以下の子どものいる家族の13世帯が入居を決めた。
最初の家族が引っ越したのは98年2月。最後の家族が8月に引っ越して11月にはコミュニティの発会式が行われた。
4 日本におけるコレクティブハウス
4−1 日本の「共同住宅」
コレクティブハウスは、様々なメディアで紹介される際、「現代版長屋」と称されることがある。この「長屋」という呼ばれ方に、かんかん森をコーディネートするNPOは、「意味合いが少し違う」と違和感を持っているようだが、「長屋」風であるとくくられることは多い。ここでは、日本の共同生活の形態として、コレクティブハウス以前の今となっては理想的とされる「長屋」という概念を辿ってみたい。
長屋は、「一戸建て住宅」が隣り合わせで外壁だけがくっつき、横に繋がったようなもので、共用の玄関も廊下も無い。主に関西中心に普及していた。もともとは戦国時代の兵舎から発達し、基本型は間口九尺(2・7メートル)、奥行き二間。ただ、東国は一間1・82メートルの「田舎間」に対し、上方は1・97メートルの「京間」のため、上方が10%ほど広い。東は板屋根、西は瓦(かわら)屋根で断熱性には差がある。
長屋の定義は「複数の住宅を連ねて一棟に建て、壁は共有しているが、各戸の玄関から直接、道路に出入りできる」であり、「人に会わずにはいられない状況」だったという。長屋住まいが一般的だった時代(江戸時代には一時期70%が長屋住まいだったという)は、人々の生活にそれほど差は無く、(身分の違うものは違う暮らし方をしていただろう)交流が持ちやすい状況があったのではないか。コレクティブハウスはおのおのの住居は完結しているので、確かに長屋ほど「交流の必然性」は生まれない。しかし、壁を共有している対等なもの同士の横のつながりという点で類似している。
その他に共同生活でコレクティブの概念に近いものとして「同潤会」アパートを挙げておく。同潤会は、1924年の関東大震災の後に作られた組織で、震災後の住宅復興を目的に内務省の外郭団体として、世界から集まった義捐金をもとに設立されたもので日本では最初の公的な住宅供給機関でありその解散後は住宅営団、住宅公団と引き継が れ、住宅・都市整備公団、そして現在の都市基盤整備公団となっている。発想的に、阪神淡路大震災後の住宅支援の前身に近い。
4−2 阪神淡路大震災後のコレクティブハウス
4−2−1 実態
震災を契機に神戸及び兵庫県では県営型コレクティブハウスが、全部で10タイプ作られ、「ふれあい住宅」としてスタートした。この事業は、主に高齢者が、それまでの住宅やコミュニティを失い、「孤独死」していく中で、新しい隣人関係を速やかに育み、安心した暮らしを再建できるようにと、コレクティブハウス(協同居住型集合住宅)を提案し、その事業推進を応援するNPO「コレクティブハウス事業推進応援団」(代表:石東直子)のサポートのもと、いわば、切迫した必然性によって建設されたもので、ほとんどの人が入居前にコレクティブハウジングという名前すら聞いたことがない状況であった。NPOはそうした人に説明し、活動に参加してもらうのを促し、具体的な内部のプラン作りにも参加した。
しかし、このコレクティブハウスは、同じ団地に一般住棟と混在している場合では、他の居住者から福祉サービスや優遇があるかのように思われることもあり(実際は集会室が少し充実している程度)また家事を共同化しているわけではない。他の問題点として指摘されるのは、計画主旨はよいが、行政の従前、従後の関わりが少ない(建設した後の関わりが少ない)、集会室や活動のための資金が不足する、世話役一人の努力に負ってしまう部分が大きい、体の弱った居住者が増え、これからの課題となっている。住居としては自立しさらに共有スペースも充実しているが、コミュニティ活動はそれほど活発ではなく(食事会が開催される程度)10年近くたった今なお問題を抱えているところが多い。NPOも認識している点だが、形はコレクティブハウスであるが、@高齢者が主であり、A震災後の特殊な状況下Bコレクティブハウスに入居したくて入ったわけではない居住者から構成されていることから、北欧型コレクティブハウスとは性格が異なっている。
4−2−2 導き出される「支援の形」
NPO「コレクティブハウジング推進事業応援団」は、1998年度第3回都市計画シンポジウムにおいて、新しい「居住サポート」を持った住宅づくりが必要であることを述べた。災害公営住宅の新しい事業として、高齢者向けを中心とするコレクティブハウジングやグループ入居制度等が出来たのに伴い、入居前の高齢者にこれら新しい住宅や制度の説明をし、入居後の交流会を開く等の活動を通し、第一の目的である人間関係をつくることがあるべき支援の形だとし、「これらの活動を通していっしょに住む人が顔見知りになること」が安心して住めるまいづくりにつながることが強調された。現代社会では高齢者のみならず若い世代でも一人暮らしの人口が増加し、日常生活での問題が家族や地域の中で解決できなくなっている。隣の人の顔が見える住まい方が必要であり、シンポジウムで紹介された被災地におけるコレクティブハウスコーディネートサポート活動は、被災地での一歩先駆けて経験した住まいづくりであることが指摘された。
5 事例研究〜 日暮里「コレクティブハウスかんかん森」
筆者の主なフィールドである、日本初の北欧型コレクティブハウス「かんかん森」を紹介する。
・荒川区コミュニティハウス日暮里内 「コレクティブハウスかんかん森」
・所在階:日暮里コミュニティハウスの2,3階部分
専有面積:25.52u〜63.28u 1ルーム10戸 1K 8戸 1LDK 2戸 2DK 8戸
家賃・敷金:74000円〜175000円 敷金4ヶ月分(2か月分償却)
共益費:〜5000円 その他月々の費用:コモンスペースにかかる光熱費等
コーディネート:特定非営利活動法人コレクティブハウジング社
「かんかん森」
もとは中学校跡地であり準工業地域・準防火地域・第3種高度地区
敷地面積:2814.47u 規模:鉄筋コンクリート造地下1階付き12階建て
述べ床面積:9325.75u 竣工時期:2003年4月中旬
事業主:株式会社生活科学運営 設計・管理:株式会社公共施設研究所
建物用途:複合居住施設 ライフハウス44戸、シニアハウス46戸、コレクティブハウス28戸、診療所、大浴場、食堂兼多目的室 保育園、学童保育など
・
日暮里徒歩15分の下町に位置している。
・ コモンミール(居住者提供の共同の食事)が定期的に行われ、また月1回の定例会で、システムの見直し、自分達のペースにあわせてルールが変えられるという日本初の北欧式の「本格的」なコレクティブハウスだと位置付けられることから対象とする。2003年12月時点において28戸中25戸(仮契約者を含む)が住まい、1戸が生活科学運営の事務所として賃貸されている。
・ 「かんかん森」 コモンスペースの概要
リビングダイニングキッチン:147.17u(西側オープンテラス19.28uを含む)
専用事務所:8.66u 洗濯家事室:19.40u お手洗い:1室(車椅子対応)
ベランダには各戸の仕切りがなく行き来が自由。
・ 経緯
2000年5月 事業主体より日暮里計画参加要請、企画案作り
2000年12月 企画案をもとにかんかん森コレクティブハウスパンフレット作成
2001年1〜2月 参加希望者説明会3回開催
2〜4月 第一期つくろうワークショップ全6回開催
2月下旬NPOコレクティブハウジング社認可
5月〜かんかん森希望者の会がはじまる
7〜10月 第二期豊かな暮らし作りのワークショップ全6回開催
・義務としては以下のものがあげられる。
1 会費の支払い
2 「森の風」係、進行係 の持ち回り
3 定例会の参加、発言、議決権
4 コモンミール当番
5 掃除当番
6 グループ活動
・対象と筆者の関係 2002年7月から見学者として定例会・コモンミールに参加。2003年2月からサポート会員となり、定例会・コモンミールなどの活動に加わっている。
・2000年の5月頃、日本女子大の小谷部育子(後のコレクティブハウジング社理事長)に、事業主体である生活科学運営から高齢者向けのマンションだけでなく多世代が住む住宅をつくりたいという相談があって、大学の研究室ではサポートしきれないということで小谷部の所属するALCCというコレクティブハジングを広めようという活動をしていた研究グループに話がいき、そこから中心メンバーが独立して非営利特定法人NPOコレクティブハウジング社(以下CHC)を設立、荒川区のまちづくりフォーラムなど居住者・賛同者を募集した。
・非営利特定法人 コレクティブハウジング社について
バックアップする姿勢を確立した。・支援NPOコレクティブハウジング(CHC)社 概要
コレクティブハウス研究を行う大学教授、小谷部育子を理事長に、新宿に事務所を持ち事務局、広報部、事業部で構成されている。
2001年2月下旬 認可
目的:21世紀の少子高齢化社会、男女共同参画社会、高度情報社会、環境共生社会に対応した、人と人、人と自然の共生を目指した生活者主体の住まい作り、コミュニティ作りであるコレクティブハウジングの普及推進を通じて街づくりに貢献すること
相談事業:住みたい、知りたい、建てたい、学びたいという方の相談に乗る
情報提供事業:セミナー、ワークショップ、スライドショー、ホームページ、出版、ニュース発行その他PR
コーディーネート事業:仲間探し、土地探し、コミュニティ作り、計画支援、設計建設支援、運営支援、事業支援(採算計画・賃金計画・運営計画)入居者募集
サブリース事業:建物の一括借り上げと運営、管理事業
調査研究事業:委託研究、調査
メンバーは建築・不動産専門家・広報専門家などが本業の傍ら(HC財団より2年間助成を受けていていたものの個人としては)報酬を受けずに活動している。
・つくろうワークショップ、豊かの暮らしのワークショップとして2ヶ月に1回2001年2月から行われてきたもので、自分達の暮らしの場として具体的にイメージするためCHCのプロジェクトマネージャーが後援した。たとえば「コモンスペースでしたいこと」「コモンスペースでしてほしくないこと」などを議題にし、皆の意見を紙に書き、分類し、すべての人の意見が公平に扱われるようにして決めるスタイルを取り入れ、また壁紙の色・内装を決める際にはゲストスピーカーを呼ぶ、ショールームを見学するなど様々な機会が設けられた。他にも男女関係なく、個人として対等に住まう意識をもつというテーマでジェンダー学習会なども行われた。
・CHCの理事はそれぞれ個性が強く、しかし対等な話し合いを信条としているため議論はしばしば白熱し、内部の人間関係は複雑である。仕事はできるが信頼されてないと個人会員に陰で言われる人、人柄はいいが何も仕事が進まない人、コレクティブハウスを普及させようと急進的なタイプ、慎重な人さまざまである。今までに1度大幅な組織改革があり、事務局で影響力のあった理事が辞任するなど、不安定な時期もあった。
・
会員との思いのずれ(実際に生活しているひとと活動メインの人とのずれ)
個人会員以上に普及に努めているので、生活者の思いを代弁して喋る機会が多く、会員の実際の暮らしに対する思いからずれているような所がある。何名かの会員にインタビューしたところ、「CHCは私たちが新しい暮らしをしているというだけで、私たちを認めてもいいのに、理念を振りかざしてああしろ、こうしろとしか言わない、暮らしに対する本当の思いを語ってくれていない」居住者をコレクティブハウジングのPRに使うことばかりを考えているのではないかという疑問も持たれた。
・CHCのかんかん森内での現在の位置付け。
WSなどでかんかん森居住者に資料をそろえて提示するなど編集者としてリードし、また居住者の中での編集者育成に力を注いだ。今でも定例会などでの発言力は大きい、ブレーン的存在である。しかし居住者の中にCHCメンバーと昔からの付き合いの人もおり、もともと関係を築いてきたのでそれほどコモンミールなどの場にいても特に違和感はない。かんかん森に関わっているCHCメンバーはコーディネ−タとして奉仕価格だというまた定例会は必ず出席し見学会なども主催している。CHCとしては初めてのこのプロジェクトで次のプロジェクトのため、普及のため力をつくそうとしている。
「かんかん森」は全くの企画型で始まり住まい手をどうやって探すかが大問題でした。そこで建物が出来る荒川区のまちづくり活動をしていた「まちづくりフォーラム」の人たちに話をして、そのネットワークを通じて集まった延べ60人くらいの人たちに「コレクティブハウスとは何か」という話をしました。その内に「住んでも面白いかも」という人が5人出てきて、2001年の5月頃に居住希望者の会が出来ました。
その後はホームページを立ち上げて、それを見てアクセスしてくる人や「福祉マンションをつくる会」というこの計画にかかわっていたもう一つのNPOのネットワークなども通じて、その年の終わりくらいまでには10数人になっていました。その間にも設計は進んでいたので、具体的な建物のプランニングのワークショップを繰り返し、説明会もやっていました。どういう共有スペースをつくったらいいかということなどは話し合いの中で決まっていきました。どうなるか試行錯誤で進めてきてしまったところもありますが、私たちとしては「プロセスも考える」という形なので、これがいい方法だったかというとまだよく分かりません(笑)。ただ、具体的なプロジェクトだったので、参加者を当事者化するという威力はありましたね。
2002年の1月に地鎮祭、3月に着工しました。予約住戸は11軒で20人弱くらいのメンバーがおり、居住者組合「森の風」が設立されました。その後は建築ではなくハウスルールやコモンミールについてなど暮らし方のワークショップになりました。また、「カラーワークショップ」という手法を用いて自分のカラーヒストリーというのを作り、自分自身の歴史を色を用いて説明することでお互いを知り、コミュニケーションを深めることも出来ました。
後半は入居が近づいてきて「共用スペースの家具や食器はどういうものを買うのか」といった問題を話し合い、1人当たり17万5千円ずつ出すことになったんですが、引っ越した時や償却、壊れた時の問題、管理費など細かな点を決めていきました。やはりお金のことを考えるというのはすごく大きいですね。また、共有スペースの利用の仕方も具体的な状況をイメージしながらルールを決めるのですが、例えばコモンルームにテレビを置くかどうかも問題になって、今は置かないことになっています。そういう作業をずっとやって「森の風ルールブック」というのが出来ていくんです。
コモンミールを週3回作るということは最後の最後に決まったんですが、最初は「忙しくて出来ない」とか「1ヶ月に1回」という意見もありました。それが4人で30人分の食事を作るワークショップを全員ローテーションで毎月、計10回やっていったら、すごく楽しくて、話し合いをしながらローテーションを組んでいって週3回というところに落ち着いたんです。
それから、最初は何かを決める時も「世帯」という考え方があったんですが、やっていくうちにそれがなくなっていきました。やっぱり椅子は一人一人に必要だし、活動も「女房を出したから私は休んでいい」ということにはならず、一人一人が担わなければならない。「世帯で区切れるものはほんの少ししかないね」というのが皆の合意の中から出てきて、一人一人が何を担い、いくら出す、ということになっていったのは面白かったですね。
そのように2年半もかけて自分たちのコミュニティをつくっていく中に、哲学のようなものも生まれてくるように思います。入居まで2年半というのは賃貸住宅としては常識外れなんだけれども、「参加できる賃貸」というのは、住民たちの評価が高い点だと思います。コモンスペースを共同で賃貸するだけでなく、個々の賃貸契約の保証人は居住者組合「森の風」がしています。お互いが連帯保証してるんですが、その仕組みを皆が恐れなかったのは、お互いを知っているからなんですよね。2か月分は預かっているのですが、結局、誰かが家賃を払わなくなった時にも賃貸はしなければならないので、誰かが払えない時には全員で連帯保証するということになります。(空室保証はしません。)この問題をまじめに考えると文句が出てもおかしくはないわけで、こういう担い合う仕組みの中でだからこそ通った方法だったと思います。これが最善かどうかはまだ検証中ですが、こういうスペースを共同で賃貸するといった途端に連帯保証という方法も入ってきてしまうということで、今回は選択したんです。
こういう暮らし方や生き方の選択もある、ということが私にとっても救いだったんですね。コレクティブは人が自由に生きられるひとつの選択肢だと思っているものだから、どうしても日本の中にその選択肢があったらいい、と。「自分が住みたいか?」と聞かれると、もちろん住みたいけれども、それよりもこの仕組みを日本の中で使えるようにしたいというのが、一番大きい私の「エネルギー」の源だと思うんですね。自由に生きていくために「担う、責任をもつ」ということが、コレクティブハウジングの仕組みには、埋め込まれているんですよね。「ソフトとハード、運営と空間」が両輪としてきれいにととのっているものというのはあまりないんです。そういう意味ですごくいい仕組みだと思っているから、もっと知ってもらいたいし、できればこういう暮らし方にチャレンジしてみることができるチャンスを広げられると、もっと皆生き生きと暮らせるんじゃないか、と思っています。
今年はNPOとしても専従経費をつけて、継続性があるような形を持てるかどうかの正念場だと思います。去年は専従費なしでやってきたわけだから(笑)。やはり採算性や経済性がないと続けていけないので。会費や出資のような形で協同組合のように成り立っていくほどのパイはないかもしれませんが、ある程度は可能性はあると思います。ただ、会費で成り立つNPOはまだまだ少ないので、事業型のNPOとして何百万というお金を動かしながらきちんとやっていけるか、というのもひとつの挑戦かもしれませんね。
CHC 「かんかん森」コーディネート担当メンバーのインタビューより。(労協WEB マガジン2003年8月号、一部)
5−1 「かんかん森」のメンバー
・かんかん森の風景
やっと帰りついた・・・と階段をとぼとぼと上がり、最近一段落ついてHさんのいない静かな工作テラスを横目に、玄関の捕手に手をかけたら・・・
「おかえりぃ。」とテラスに現れたKさん。「あー、ただいまぁ。」その声に、ほっとして、その日の疲れが確実に20%減少した感じがしました。そうこうしていると、3階のテラスに、T夫婦が現れて、「お帰りぃ。」「あれー、まだ起きてたのぉ。ただいまぁ〜。」その日の疲れは、また確実に20%減少しました。なんとも嬉しい、贈り物です。これは、くせになる・・・・。
その後、コモンで1人静かに、Iさんのおいしい「かしわ」の親子丼をいただきました。自宅に運んで食べてもよかったのですが、何となくコモンにはまだ夕餉のにぎわいの余韻があるようで、もったいない感じがしました。(入居して1ヶ月後 居住者による全体へのメール)
・かんかん森の日常〜コモンミール
4時頃大体のメンバーがそろい、分担された作業にかかる。調味料を持ちこみ手際よく配合していく人、ひたすら乱切りをする人…作業は3人の中でその場で分担し、通りがかりの人のアドバイスを話半分に聞きながら調理が進められていく、フル稼働で野菜を蒸し、魚を焼いているコンビオーブンはかなりの優れものだがまだまだガス火の人気も衰えない。ストックルームから、買い置きのジャガイモ、椎茸を調達してくる。後で量ってノートに記入するのを忘れないようにしておかなくては。ストックルームには昆布からカレー粉、一そろいのものがあり朝食をシェアしているグループの棚にシナモン、蜂蜜のビンが見える。ストックルームから出てすぐに高圧のシャワーとシンクが備え付けてあり後片付けをずいぶん楽にしてくれている。よくブレーカーが落ちてご飯が炊けていない!というトラブルが入居当初はあったけれど、最近は炊飯器の位置も工夫し、7時には出来上がっていることが多い。この日も6時半ごろ調理が終わった。保温器になべを乗せ、食器をそろえてゆるやかに食事がスタートした。モリ券を箱に入れ一時なべの周りは混雑する。調理担当者も他の居住者に混じって箸が進む。この箸も共同購入で合羽橋まで下見に行って決まったものだし、什器も数ある中から自然に帰せてかつ飽きの来ないものを皆で選んだ。Kさんの3歳になる子は今日も元気におもちゃを投げ飛ばしてご飯にかかり、他の居住者から怒られつつデザートを余計にもらったりしている。それぞれなんとなくテーブルをともにし、完全に一人でいる人はいない。今度のガーデニング活動のこと、打ち合わせの打ち合わせ、料理の出来具合など、かんかん森についての話が多いが、まじって贔屓の球団の話、仕事の調子、子供のことなどが話される。食べ終わってもそのまま話を続けている人、片付けに移行する人などさまざまで各自のペースで時間は過ぎる。そろそろ明日のこともあるので、遅くなる人の分のラップがけをした夕食を配置し、残り物と分けておかなくては、間違えて買い取られてしまっては仕事で遅くなる人に申し訳ない。買い物の計算をして、ストックから使った物をノートに書き入れる。片付けは高圧のシャワーを大型シンクで食器にかけ、簡単にすすいで食洗機のトレイに。今日は調理当番だけで片付け当番ではないから自分の分だけをささっとやって自宅に戻る。まだ熱気の残るコモンリビングを見下ろしながら、階段を登る。本当に遅くならないうちにランドリーを使いに来よう、明日はガーデニンググループで土を入れることになっていることもあるし、天気が良いといいな。
・「かんかん森」のメンバー
かんかん森のメンバーを区分すると以下のようにいえるのではないか。ここでは参加の度合いからいくつかのグループに分ける。
・ 一般居住者
「かんかん森」居住者募集に反応し、定例会に出席し、ルール作りや活動にみずから関わり、現在入居しているもの。そんなに一人一人活発に意見を言うわけではないが、コレクティブハウジングの理念を知り、義務を果たそうとする。
・ リーダー的居住者
2001年2月早くからコレクティブハウジングに興味をもち、参加していたものでWSや定例会などの発言も比例して多い。CHCメンバーとプライベートでもかかわりを持つもの、まちづくりコンサルタントや不動産業で住まい作りに手馴れているものもいる。
・ 新規居住者
ある意味どんな人がいるのか良く知らないのに、また馴染めるかどうかわからないコミュニティにいきなり飛び込んできた勇気のある人とほかの居住者からいわれている。生活の場で皆と関わることは義務であり、嫌になれば賃貸だから出て行くことは可能だが、暮らしを作り上げて行く過程で生まれる関係性は得られておらずやはり以前から参加していたリーダー・普通の人とはスタート地点から思い入れに差が出る。
・ 活動から抜けていった人
確認されただけでも何度か定例会に参加したりしていた人で、やはり暮らしを作るために集まることに積極的になれるか、関係作りを楽しめるかが活動を続けるかどうかの境界線であり住めるかどうか保証がない中で、あまり意見を言えず、いつのまにかいなくなってしまう人、経済的に無理だと去っていく人などがいた。経済的に選べないというのはCHCにとって今後の課題でもある。
・居住者は対等で、誰もが中心となって積極的に活動に参加し、暮らしていくことが求められるが、とはいえその中でも影響力のあるリーダータイプ、一般の居住者、かんかん森が入居を開始した後の報道を見て参加を決めた新規居住者(2003年6月以降、それまでの会合にはまったく未参加だった者)はやはり「かんかん森」居住者の「語る言葉」をまだ獲得していないので自らの思いはあっても「かんかん森」の理念について語る人はいない。取材を受けていく中で、また定例会や、コモンミール、イベントに参加し、先輩居住者と触れ合うなかで、徐々に語る言葉を身につけていく人、もともと共同で住む暮らし方に興味があり、何らかの共同生活を経験してきたため既に知識だけで喋れる人など様々である。しかし最初は「隣の住民の顔も知らない状態」はやはりどこか大切なものを失っている状態で楽しい暮らしを求めてきた、ここの住民が生み出しているものが良さそうで来たという人が多く、最初の「ここでの暮らしを主体的に作ろう」として集まった人々とは考え方に多少の差がある。ある程度のコミュニティは完成されており、ルールも出来上がっている状態のコレクティブに入居してくることは、作り上げるプロセスには参加できていないという点において気楽であるが大学の寮に入居するのと雰囲気的には変わらない。リーダー的な人は確かに存在し、新規居住者がその人に頼ってしまうときもあるが、その人がたしなめたり、CHCがたしなめるなどしてそれほど「リーダー」とみなされる人はいない。ただ、入居まえは具体的に割り振る仕事も少なく、またパソコンを使って情報発信できる人、暮らし方について意識的に発言しようとする人はどうしても目立ち、周りもその人を頼り考え方を身につけていくというところがあり、リーダー格の数名は入居後も影響力が強い。
比較的新しいメンバーは新しい環境に比較的すぐなじめるタイプであると自ら語っている者もおり、そうでないメンバーも定例会に参加、活動に実際に参加し、居住者との関係の中で回りに認知されていく。
人間関係で問題があった時も、すぐに定例会で話し合われるというわけでもない。なるべく当人同士、水面下で解消しようとし実害が目に見える形にまでなって初めて定例会で問われ、衝突は議論をしよう、話し合いをしようという理念はあるがなるべく避けられる。これはコミュニティの中で暮らしている者のトラブル回避策であり、経験の中で自然に身についたつつがなくやっていくための対応策ともいえる。
5−2 居住者のすがた―定例会資料 自己紹介文より抜粋
居住者の主な職業は、建築家、ITコンサルタント、保育園長、定年退職した夫婦、学生、福祉関係、年金生活者、不動産業などであり、住まい・福祉などにもともと興味が会った人が多い。
年齢層は20代の夫婦から70代の1人住まいまで世代もばらばらだがやや高齢者層が多い。
かんかん森の入居者募集は昨年2月から行っており現在の中心メンバーはその頃から会議やワークショップなどに参加していた人が多い。また過去に海外でコレクティブハウスに住んだ経験がある人や日本でもルームシェアをしたことがある人が多い。
かんかん森居住世帯の収入階層(2003年度まで)
高所得世帯 |
13世帯 |
(フルタイム労働) |
中所得世帯 |
6世帯 |
(専門学校講師、フルタイム夫と専業主婦など) |
低所得世帯 |
5世帯 |
(高校生、年金生活者など) |
入居時に備品費として17万5千円、月々の共有部分の家賃・電気代共益費(コモンスペースの光熱費等を含む)は5000円程度。コモンスペースの光熱費などもあるため周りの物件と比べて割高。万人に向けたものではあるものの、一定以上の収入がある人でないと難しい。また様々な義務があり、コモンのために使う時間も(定例会や調理など)それなりにとられるので合理性だけを求めて入居することはまず考えられない。ある程度「コレクティブハウス」に住むのだという意識を持ち、関係性に投資できる人に限られる。
・家事はちょっと休みたいと思っている人、専業主婦の方は何時の間にかいなくなってしまった。与えられる意識が強かったんじゃないかな(20代大学院生 個別面談にて)
・
かんかん森アクター図
CHC 事務局女性 50代女性 事務局女性 40代女性 (元事務局男性) 60代男性 |
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リーダー格
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普通の人 70代女性 60代女性 50代女性 60代男性 60代女性 20代後半女性 30代女性 40代後半女性 60代女性 30代後半男性 70代女性
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新規居住者
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サポート会員 |
・ 趣味特技はお能の謡、仕舞です。コレクティブの自立しながら緩やかな共生関係のある暮らし方に期待しています。専業主婦の女房が一人、子供は3人です。家族関係もなるべくべたべたせず、かんかん森にはまず私1人が参加し出来れば子供たちが引き継いでくれると良いなと思っていますがどうなるかは未定です(51歳 男性)
・ 専門職としては金属材料技師、現職は協会事務局として異業種交流やネットワークなどをしている。現在独身。(60代前半 男性)
・
夫を一昨年亡くし今は子供3人と住んでいます。念願の一人でのんびり生活したいコレクティブです。得意なことってよく考えたらないんだなあー。建築の設計やってて仕事馬鹿でそれが得意なんていやですね。コレクティブに住んで特技を作らなくちゃと思ってます(57歳 女性)
・ 仕事はゲームクリエーター兼HPデザイナーです。共働きの家族で子供が帰る時間に絶対家にいることが出来るとは限らない、寂しい思いをさせたくない…そんな時に「おかえり」って誰かが言ってくれるそんなぬくもりのある生活がしたいと思い参加しました。「かんかん森」では子供にPCで絵を書くことを教える教室が出来たらなあって思ってます!(25歳女性 夫婦で居住希望)
・居住者たちは、自らは「冒険者」であり後悔しないように自分らしい住まいを作り上げようとしているのだという意識が強く、また公平に色んな意見を取り入れようとする姿勢が見られる。
・あまり声を出さない人もいるがコレクティブというものに面白そうと興味を抱き楽しんで飛び込める人々である(40代男性 コウハウジング研究者 お試しコモンミールにて)
・盛り上げようとはしているが冷静な視点も忘れていない。会議にも意義を見出し、話し合いで解決しようとする。この長年の取り組みが自分たちは成功する、という自信の源泉になっているのではないか。
5−2−1 生活科学運営
事業主体である株式会社。コミュニティハウス内にコレクティブハウスを作りたいと話を持ちかけプロジェクトのさきがけになったが、コレクティブハウスを短期で利益を出さなければならない企業であることから、建物の空きがまずは全部埋まることがどうしても第一目標で、埋まらなければ保育園などの施設を入れることも考えており住民の思いにまで気を回せていない。
2004年1月 定例会での居住者の報告
209に保育施設が入るかもしれないという報告です。住まいであるかんかん森というテリトリーに施設が入ることの意味をよく考えたうえで今後の対応をしていきましょう。(報告者)
・CHCは生活科学運営が居住者に工事を始める前に一声かけるなどの気配り、住まいだという事の認識ができていないと批判。コレクティブハウスを知っているだけに生活科学運営に任せられず内部の設計などもCHCが無償でやらざるを得なかった。しかしNPOとして建物をもてるほどの組織ではないから、企業と提供が必要。ある意味、汚れ役を企業にかってもらい、任された内部のコーディネートは自由にするという企業とNPOのパートナーシップとしては役割分担が明確でうまくいったとも言える。しかしお互いの組織の性格を互いに認め合うとまではいかない。企業は「コレクティブハウスを作る」という意識で始めてはいるものの、内部の関係作りには一切関知しておらず、普通の賃貸マンションと同じように接することがあったためCHCおよび居住者の怒りをかった。
一昨日からお隣さんのお引っ越しの準備が始まり、昨日お引っ越し入居?やっぱり入居じゃない、外の社会をコレクティブハウス「かんかん森」に迎えたんだ。お隣ですから、うまくやっていきたい・・・ドアを開けたら、何かにドアがぶつかってしまいました、廊下天井の配線を見る蓋が下がったままでそれにドアがぶつかった。始める前に一声掛けてほしかった。ベランダから路地を通る出入りをしばらくする。いつものように玄関ドアに内鍵してなかったら、ノック無しに人が入ってきた。びっくりした私と目が合い。あっという間に立ち去ってしまった。単純な間違え?でも表札を見れば人がすんでいるんだってわかる、ノックなりしてほしかった。怒る気もしない。
ここの近しい居住者でもそんな1度もない。鍵してなくとも、応答無しに誰も入ったりしない。
なにしろ、今日はお引っ越しだから大変なんだといいきかせても・・・と思っても私も疲れきっているから、ストレスになる。ここは人々が生活しているところですから、声を掛けてほしい、掛け合っていきたいなあって。眠りながら書いてしまった。(生活科学運営事務所の隣に居住者の居住者メーリングリストに当てたメール)
5−2−2 コミュニティハウス日暮里に住む人
・上のシニアの人との交流
「かんかん森」が入っている建物は日暮里コミュニティハウスといい、その名のとおり建物全体で交流する機会もあるだろうと生活科学運営は当初考えていた。しかし引っ越してから「かんかん森」内部が落ち着くまでに時間がかかり、更に新規入居者が続々と続き、団体として外に目を向ける余裕がまだあまりなく、積極的に交流する理由もまだ見出せていないのでシニアハウス、ライフハウスの人々と交流がある人は限られている。「かんかん森」内部の交流は重要で、何が何でも溶け込まなくてならない「ご近所」であるが、シニア・ライフは急がなくてもよい、それこそゴミだしで挨拶するようになって徐々に話すようになる…といったペースでしかもやりたい人がやればよいといった位置づけで、もう一回り外側の「ご近所」である。
5−3 現在の居住者がコレクティブハウスを選んだ理由と意識
・実利的な部分
コモンミールなどの場で聞き取っただけでもメンタルな部分だけでなく、実際働く女性にとってみれば子供を育てる環境として魅力的に移るだろう事柄が多く出された。
・
夕食を共同化することで働く母予想以上に気楽になっている。またみんなでイベントをすると純粋に楽しい。
・
子育て中でも高齢者のみ世帯でも孤立しない。
・ インターネットが使えない人でもコモンスペースにいって話をすることができるし、掲示板が情報を網羅している。また得意な人に習ってネット環境を導入することもできる
ひとりでは得られない設備、ランドリーなど
(以上コモンミール参加者より聞き取り)
・
コレクティブハウスは生まれてから人生が終わるまでをサポートする、女性の自立を可能にする住まい方だと思う。私は結婚・子育てをすることから自己との戦いが始まった。自由奔放の生活から一転、子供という自分とは違う人格を持った人との生活。戦後の男女平等教育を受けた人間としては、勤労時間よりも短い保育時間、男女平等なんて嘘、子供の食事、入浴、そして就寝。その前に本を読んであげようと思えば時間との競争である。何かもっと良い暮らしが…そんな日々からコレクティブハウスに住んだのなら合理的な生活から時間は勿論他のこともゆとりのある日々を約束できる。近所づきあいができる共働き。家族との良い関係と自己実現を助ける仕掛けで女がどんどん自立して自由に生きて欲しい。(50代 居住予定女性PR文)
・
人とかかわりたいとの思いが、入居を決めた。掃除や食事の役割をするうちに、人との関係を持てそうと期待する。事前準備が大変と思わない。忙しくても時間を作ろうとすれば、作れることもこれまでの集まりで分かった数時間でも手が離れるだけで、親のほうは仕事にも家事にもあるいは息抜きにも、ずいぶんと助かります。もっと若い、大学生のS君や、Uちゃんにも、大人とはまた違う付き合い方で遊んでもらっています。そもそもコレクティブハウスという住まい方に惹かれた理由は、核家族というごく限定された少人数で子育てをする事に対する違和感です。3世代同居ができない事情。転勤等のため、地縁を持つほど一ヶ所にとどまれない。あるいは都会のマンション暮らし。その結果、“外”との関係が量的に少ない、あるいはルートがごく限られることになります。こういった環境のデメリットは、例えば学校への過度の依存や、あるいは逆に居場所を失った場合の受け皿がないといった形で子どもに降りかかってくると思います。実はこれは、私自身の子ども時代の状況そのものなのです。つまり、自分の感じた“育ちにくさ”“生きにくさ”を、我が子には与えたくないという、それだけの事なのです。また同時に、夫婦二人で、世間一般常識を完備した親を演じる自信というものも、まったくありません。職業も普通じゃないし、価値観も一般からズレている。子育てだってこれでいいのかと思うことばかりです。こんな親ですから、子どもには、“外”の影響をたっぷり受けて、広い視野を持って欲しい。
・
子育て中の我が家がコレクティブハウスに期待するもの。それは、親、学校以外の大人との関係、兄弟、同級生以外の子どもとの関係です。多様な世代、多様な価値観を目前に見て育つ事で、自分の個性を知り、他者の個性を尊重するという、人間として非常に重要な“付き合い方”を身に付けてくれれば、と思うのです。(30代 居住者)
・建物上のメリットについて
2月にワークショップを行い、住戸の希望を聞きある程度居住者の希望が反映された。(例えば窓の位置の変更・南側にDLを持ってくるなど)
・希望も言えたし皆で何がいいのか考えることでその住戸に住みたい人以外の視点が加わりよりよいプランが出来た。(50代女性)
・賃貸で設計に口が出せるのは満足だが、他の人に自分が住む住戸に関して口を挟んで貰うのは…(2002年 住まい作りアンケートより)
・出来る出来ないが先にあり、設計のポリシーが感じられなかった(同上)
・
建築の知識が少ない人にはきついものがある。(同上)
・
良くも悪くもあれしかないのでは?(同上)
・新しい暮らしを作り上げていっているという意識
・3人の子供は家を出て夫婦だけの生活です。共働きでもあるので25年の歳月がさすがに単調を越える何かを感じさせます。日本の家族制度を批判しても、夫婦の間ではどっぷり浸かっているようでそれが単調さの原因なのかもしれないと思いながら、男と女が自由に、自立を保ちながらの生活を送るにはコレクティブハウジングの考え方がいいだろうってかんかん森に参加してます。(51歳 居住予定男性 PR文)
・
マンションで隣人の顔も知らないような味気ない暮らしはしたくない(50代後半女性 お試しコモンミールにて)
息子の世話にはなりたくない(50代後半女性 お試しコモンミールにて)
・ かんかん森の暮らしに望むもの…安心感、新しい暮らし(かんかん森研究者アンケートより)
・ 今いろいろな家族と付き合いがあり、いいことも悪いこともあるが、自分の世代にはいろい
ろな人と出会うことが必要。現在、仕事・すまい・ボランティアなどすべて一緒にしている状況であるが、生活をスリム化し、自分の時間も人との時間も大切に出来るようにしていきたい。(50代女性)
・住もうかなと思うのは、ミーティングなどを通して住む人の顔が見えてきたため、合理的な暮らしができそうだと思うため、賃貸であるということ。しかし物足りなさもある。それはエコロジー(省電力、雨水利用、温水など)が見えてこないことや、今住んでいるところより高いため。(60代男性)
・この巨大都市東京で自活して生きるしんどさと自由さを地域の人と共有できたらな。コレクティブハウスに住んだのなら、一人暮らしで孤独だけれど孤立を余り感じないで住めるだろうと思います。(30代 女性)
・ ルールは状況にあわせて変えていくもの、何かあったら話し合いで決める。が基本原則無理に焦って固めようとしない(暮らし方委員 4月定例会)
・ 「気心が知れた」人たちとの共同という部分が大きいかなと思う。(20代 女性)
・ 食事づくりを当番制にするなど、何回かに1回作ればいいというような「合理的な生活」ができる、それが個が確立した形でできるというのが良い。それに、さびしくない。 (50代女性)
・ 人見知りをするタイプ。意固地な性格(!?)を変えられるような生活環境を作れればいいなと思う。「共有」と「個」を区別できるのが魅力では。(40代男性)
・ 人付き合いが好きではない。気心が知れたなかでプライベートが確立した生活ができたらいい。「多世代」といっても、単身者が多い。住む側から考えると、すべて単身者であったとしてもいい。(50代男性)
・ 都心に暮らしていて、周囲を知らないことは非常に不安。知っている人の中で安心して暮らしたい。個も確立していて、コモンもあるというのが良い。その中に「環境共生」も入れて欲しい。環境に優しい暮らし(省エネ、緑化、ごみ、森?)ができればいいと思う。(30代女性)
・ 娘と暮らすようになった時あわてて近所づきあいを始めたが、あいさつどまりで気心が知れ
るところまではいかない。気心が知れるきっかけのあるところにしたい。(40代女性)
・最初はほんと皆仲良くなることから始めて会議も代表者の自宅でやったりしてね…(20代大学院生 個別面談にて)
・居住者どうしのトラブルはどうするのかとよく聞かれますが、自分たちで解決できなければ誰ができるのかという思いでやっている。話し合う仕組みを作れば解決できる。(居住者 新たな参加者に向けた説明会で)
・べたっとした関係ではない。個人はあくまで個人(居住者 同説明会にて)
・
最初のうちは自分の部屋のこととかルールを気にして不満を言う人もいますけどそのうち(皆と知り合ううち)気にならなくなるみたいです(CHC社 同説明会にて)
・ 「多世代」といっても、高齢者が多い多世代では、若者にストレスがかかる。暮らしぶりが違う。コレクティブではコレクティブで自分たちの暮らしをし、その中で交流をするというのでいいのでは。(CHC社 担当女性)
・ 形にとらわれた接し方ではなく、個人的に人と人とで知り合えたらいいな。(居住者 高校生男子(当時))
・ 妻と別々の時間が欲しい、特に週末に。入ってこようとする人が変わり者だから面白い。今高校1年の息子が大学に行く頃には、これくらい変わった人たちと付き合って欲しいという思いもある。便利な場でないので、ひっかかっている部分もある。(50代 男性)
・一人でいる気楽さも一緒にいる安堵感も得られる(50代 居住者女性)
・単身の場合は自己決定し入ってくるわけで拒否する理由はない。家族との入居であればケアが必要になっても家族が責任もってケアの方法を選べばよい(発話者不明)
・持ち家にすると所有欲が働くので賃貸を選ぶ人の中でコレクティブがいいと思わせよう。(CHC社)
・かんかん森のターゲットは子供がいてわいわいというのが良いがファミリー全員で入ってくるのは難しいか。(50代男性)
・確かに金額的に高いかもしれないが、共有スペースの面積を考えるとお得だろう、積極的に参加してもしなくても良いし、最終的に40人程で住むことになるため、全員は好きにならなくてもよく、自由な点、便利な点を強調。お年寄りにも良い。皆で作っていける、愛着がもてる。国が福祉政策としては手助けしないために値段が値段だが。分譲でやってしまうとここから先は自分のものという明確な所有者意識が出てきて、資産価値の話が出てくると人間関係が濁る。持ち家として取り込んでしまう。住民と会って、合うと思った人は留まるけれど、去る人は、すぐ去る。新しい人が来たときに、昔いた人が入れるか判断するのではなく、あくまで入居希望者自身が住まい方に適合しているか自分で判断する。(CHC 新入居希望者向け説明会にて)
5−3−1 入居前WS(ワークショップ)の様子
・初期に募集されたメンバーがコレクティブハウジング社リードのもと暮らしのテーマを立て、大まかなルールなどを確立し、暮らしのイメージをすることからはじめた。まずはどんな住まい方をしたいか、自分に出来ることは何かを出し合い、関係作りからスタートさせていった。とはいえ最初は具体的にイメージすることは難しく、グループごとのたたき台を作る際もなかなか意見が出なかった。
備品のリストについては、なかなか、意見をどうぞ、といっても集まらなさそうです。まだ、イメージしにくいのかもしれません。次のアクションとして、嶋崎さんのリストにそって、実際にどんなものがありそうか、備品担当者で市場調査をしてみませんか。この金額だとこれくらいのものになる、というイメージがみんなに提示できればいいと思います。中古家具の情報あつめ、現地調査、データ整理を分担したらどうでしょうか。カラーコーディネイトとの関連はどうしたらいいでしょうね。(2002年6月かんかん森 HP掲示板書き込み)
WSでは日本におけるコレクティブハウジングがもともと前例がないものなので、CHCのWSの進め方、メンバー間の調整の仕方で意見が分かれる。後半のWSで、住まい作りWSの小規模版として委員会ごとに調査に行く(例えばインテリア委員会が家具を見に行く等)段階になってくると、もはや誰に頼ることもなく中心メンバーで進めていける。その際もどんな暮らし方、ルールがいいかどんどん意見を言っていくが、他の他愛もない話も交え、カジュアルな雰囲気で「楽しもう」と意図的に雰囲気をリーダー中心に作り出しているようだった。リーダーとしては必要以上に義務を分担することに不安を感じ、またできなかった時に負い目に感じず、打開策を考えていくポジティブさを発揮できるよう安心感と信頼感を育てていこうとしていた。WSは常に住まう意思が、共同で取り組もうとしているかの意思確認の場にもなった。その場に来、意見を言うことでその団体に愛着と信頼、そして義務感のようなものが生まれる。
もともと参加していた者が入る前と入った後で変わったことといえば、やはり他の居住者メンバーを更に身近に感じるようになったこと、今まで皆で作り上げてきた暮らしが実現するのだという感慨があったという。作り上げていく時間は長いようで短く、また予想はされていたが取材などの多さにこの暮らしの特殊性が身にしみるようになったと語る人もいた。とはいえここの環境が「各自の住居は完備されている」ため距離を置いて付き合うことができ、また義務を果たしていれば、どんな関わり方でもそれは個性として取られ、糾弾されることはないので余り生活が大きく変わったという感想を持たないという人もいた。実際、若者はあまりコモンに姿を見せず、それぞれの暮らしを楽しんでいるようであり、定例会に出席しなくとも、家族のうちの誰かが行けばいいという雰囲気もある。地域の会合に参加するのが母親だけであっても家族全員の参加を求められないように。しかし定例会に来ない、掃除に来ないということが続けば、確実に立場は悪くなってくる。あまり他の居住者と関わらないのも、コモンの場に出てこないのも完全に自由だが、義務を果たしていないとなると、コレクティブに住まう意味はない。
5−4 実際の運営方法 代表・ルールを決めるまでのプロセス
・ルールの決め方
ルールに対する議論が一番のピークを迎えたのは居住者組合である「森の風」の会則を作る際、そして暮らし始めてさまざまな細則を決定する際、また代表・副代表・会計・会計監査を決める折であり活発な議論がされた。
進め方としてはまずはたたき台をグループでつくりそれを定例会にかけて是非を問うが、最初の暮らし方のルールは最初から参加していて、経験もある人がてきぱき雛型を提示した側面があり、それが可能だったのはやはりWSなどに2年ほどをかけた中で蓄積された信頼関係が構築されていたからだと考えられる。
しかし対等な中で進められていくので、メンバーの考え方の違いから最終的な決定に至るまで時間がかかるという一面もある。決定した事項は皆で遵守するが住まいの状態は常に変わっていくものとして、半年に一回見直す機会を設けている。すべてが新しい挑戦なので、一度運営してみて不都合は後から直すやり方をとる。
・運営方法
2002年の時点で存在していた居住者組合「森の風」に代表・副代表・書記・会計・会計監査を置き、定例会ごとに定例会進行係、記録係をまわし、その他名簿係などがいる。またそれとは別に活動グループを作り、居住者は必ずいずれかの活動グループに参加しなければならない。(掛け持ち可)
・居住者組合 「森の風」概要
構成員:「かんかん森」居住予定者およびコレクティブハウジング社メンバー
議決権は居住予定者(各戸1票)とする
代表、副代表、会計、会計監査、委員会として広報、イベント、省エネ・エコ、緑化、建
築、備品、暮らし方、活動記録委員会を置く。役員の任期は1年。入居前と入居後の役割は変わる。(各委員会は入居後、活動グループに移行し名称を変えて運営されている。)
組合の目的:「かんかん森」に居住するものとそこでの生活をサポートする者とが「かんかん森」でのコレクティブハウジングの実現を図ること。
・定例会の流れ
かんかん森の最高決定機関である定例会の流れ・代表、副代表、会計監査、書記、進行係、記録係、名簿係、議題提案者の仕事は以下のとおりである。
「かんかん森」の運営組織
┌────┐
┌──(A)──┐ ┌───(C)───┐
│ 定例会 │ │┌─(B)─┐│ │┌──────┐│
└────┘
││代表 ││ ││会計係 ││
←───│副代表 ││ │└──────┘│
┌────┐ 運営 ││書記 ││ │┌──────┐│
│
総会 │ ┌→└────┘│ ││会員係 ││
└────┘ ││┌────┐│ │└──────┘│
│││会計監査││ │┌──────┐│
││└────┘│ ││見学対応係 ││
│└──────┘ │└──────┘│
┌───┴───┐ │┌──────┐│
│月の定例会議長│ ││広報係 ││
└───────┘ │└──────┘│
※時により活動グループの │┌──────┐│
リーダーも参加
││地区対応係 ││
│└──────┘│
│┌──────┐│
││大家対応係 ││
│└──────┘│
└────────┘
(A)役員
・総会で、すべて選任(居住者のもちまわり)
(B)+定例会議長(+活動グループのリーダー)
・定例会や総会の議事の取りまとめ
(C)運営係(活動グループとは別の物)
・運営上のバックアップ
・基本は立候補
Ø
懸案事項として「広報係」と「広報グループ」のネーミングと役割分担
前定例会時
0、書 記 →定例会の途中に、次回に繰り越された議題をメモしておく。
定例会1週間前
1、書 記 →掲示板に、0、(↑)で作成したメモをはり出し、
次回の議題提案の追加分を書いておいてもらう。
2、提案者 →掲示板の1、(↑)の用紙に、議題提案と名前を書き込む
3、代表,副代表,会計監査,書記 →定例会への議題、調整を1週間前にはする。
4、書 記 →議題を掲示板にはり出しておく
定例会当日
5、書 記 →定例会に議題をコピーし、持っていく。
提案者 →定例会に出す資料のデジタルデータを事務室のパソコンにポスト(そのうち屋内LANが開通する→IT委員会)しておく。
6、定例会の司会進行を、進行係りが、記録を記録係りが行なう
定例会開始
7、記 録 →定例会の記録。
書 記 →定例会の途中に、次回に繰り越された議題をメモしておく。
定例会終了
8、進行係 →居住予定の掲示板の見られない人分+掲示板にはり出す分の資料を取っておく。
書 記 →進行係に切手と封筒を渡す。
名簿係 →
切手と封筒の所に代表の住所の紙を入れておくか、そのつど住所を進行係に教える。
9、記録係 →進行に議事録を渡す。
10、進行係 →代表が来ていなければ、議事録を郵送する。
議事録+資料を掲示板に貼り出す。
11、書 記 →一週間後に掲示板の議事録+資料を剥がし、ファイリングする。
定例会は入居当初は決めるべきこと、早急に話し合わなければ生活が回らないこと、住居それ自体のトラブル(シックハウスの症状が多発)が多かったため、定例会が3時間にも及ぶことがあり、居住者は消耗していた。この反省から最近では議題ごとに前もって発表者と所要時間が明記され、どうにか2時間程度に収められるようになった。定例会ではリーダー格の人同士活発に意見をかわし、議論に及ぶことが多く、次回の定例会までにグループでもう一度話し合いましょう、と結論付けられることが多い。グループとしてはコモンリビングというすぐに集まれるスペースがあるので、掲示板やメーリングリスト上で告知し、来ていない人は呼び鈴を押しに行くなどしてスムースに集まれているようである。活動グループについて述べると、活動グループとしていくつかの組織を作るが、グループ間に権力関係はなくまったく対等である。決めること、討論することが多いコモンミールプランニンググループもイベントがないと特にすることがないイベント活動グループ、まだ動き出していないが趣味のサークルグループなど様々で、人数が足りないところは定例会で募り、補充していく。活発なところ、それほどでもないところ様々である。掛け持ちしている人が多いので、グループ間で対立するということもない。何か決めるべきこと、提案があれば、グループに割り振り、(このことはガーデニンググループで話し合っておいてください等)グループ内で審議し、定例会という最高決定機関にかける。
2003年 6月26日 CHC女性メンバー メール引用
活動グループは、リーダーをつくらずグループ内の一人一人が責任を持つという大変わかりやすいけれど難しいことになっています。たまたま旧インテリア委員会の責任者であるMさんが先に入居していたこともあり、自分の責任と言うことではっきりさせて下さいましたが、これは個人の問題としてではなく、旧委員会と新しい活動グループの引継と切り替えに気をつけておいた方が良さそうということですかね
入居後、コレクティブハウスとしての環境を整える混乱の中で「かんかん森」メンバーで借りたCHCメンバーの電気ドリルがなくなるという出来事があった。その当時責任があいまいで、そのまま忘れ去られようとしたため、CHC女性メンバーがメールを出し、入居者の一人が答えた。
・権力についての語り方
コレクティブハウジングは「対等な個人が話し合って運営していくもの」であるので、代表や特定のグループに権利があるわけではない。そのため、物事を決めるのに膨大な時間がかかったり、責任が不明瞭で問題になったりした。
またそれ以前に権力を匂わせる言葉にもCHCとリーダー格の居住者が敏感で、活動グループの全身である「委員会」という単語にも「権力があるみたい」(定例会:50代男性)だと指摘が出た。結局他に皆が良いと思う言葉がなかったのと、ある程度定着してしまっていたため「委員会」が変えられることはなかった。
5−5 入居後のコレクティブハウジングについての語り方
・実際の暮らしが始まったことで、取材や見学者も多い。そこでも語り方は、やはりやってきた仲間と生活するのは楽しいが、あくまで暮らしの一部なので、その面ばかり強調されるのには違和感があるようである。
5−5−1 自分達についての語り方
・やはり新しい住まい方をしているという意識がリーダーはコレクティブハウスについて情報を持っていたのでWSなどに参加する前から強くあり、普通の人はWSを重ねる中で発生しており、かんかん森の報道が一斉にされてからの新規居住をきめた者の場合は、ここの住まいを「他とは違う」魅力があるから入ってきたという事から少し変わった、回りから注目されているような暮らしを選んだという事になるさらに取材を受けることでその思いは強化されていく。しかし取材を受ける人はいつも大体決まっており(取材する側がシニアに聞きたいとリクエストすることがあり、また外に仕事を持っている人は予定がなかなか合わない)
・
CHCのコレクティブハウジングについての理念と重なっているが「安心できる住まい」だけではない「居住者」だからこそできることがある。しかし仲良く暮らしているのではなく、合理的な生活・コミュニティベネフィットを追求した形でもある。
5−5−2 メディアとの関わり〜自分達の見せ方、外部へのPR
居住者は常に外に向けて冊子を作るなど発信し、自分達の暮らしに興味をもち、賛同を望むがそのPR戦略と描くコレクティブにすむ「私たち像」
イニシアティブをとらないと変わり者の集まりなのではと思われてしまう、高齢者だけの福祉マンションのようなものだと理解されてしまうことが多い。
シニア世代のこうした希望に沿う新しいタイプの住まいが登場している。多世代の住民同士が家事の一部を分担するなどして助け合う賃貸住宅、安否確認や日常生活での簡単な手助けが受けられるマンション。独り暮らしや夫婦だけの高齢者世帯でも、安心して暮らせるのが利点だ。読売新聞2003年 10月3日
・それに対し、どんな事を知ってもらいたいですか?という5月3日の見学会に関するCHCが行ったアンケートでは
・コミュニティの重要性
・こういう暮らし方をしている事の意義をまず知らせたい。
・どんな風に暮しているかという具体的な場(例えばコモンミール、コモ
ンダイニングなどの生活の様子)を見てもらう
・CH(コレクティブハウジング)の有効性。人が人として自立する大切さ。
社会における諸問題に対する一つの解決として
・暮らし方
・居住者の生活ぶり、入居してよかった点など
・コモンでの生活もあるけど、きちんとプライバシーの確保された無理の
ない生活である(あろう)こと
・暮らし方に対する考え
・住まいを考える事によって、人間関係がつくられていったこと。新しい
コミュニティのような
・入居希望者になら生活の楽しさ、煩わしさ?
・仕事を持ち、決して暇でない住人も含め、どのように役割分担して運営
しているか
・エコ活動
という回答がそろった。
・地域とのかかわり方
地域の人と顔合わせをする為に「お茶会」が企画されている。「マンションの隣に誰が住んでいるかも分からない希薄なコミュニティ」とは違うという意識。ウクレレコンサートなどイベントも随時。しかしコモンスペース(居住者1人17万5千円かけて作った)の外部の使用に関しては、「地域に開かれるのと開放しまくるのは違う」(4/29定例会)と関係作りにそれほど積極的ではない。交流したいのであれば交流するが、すぐに手助け(実利)をシニアハウス、ライフハウスの人に求められるのには疑問を持っている。
5−5−3 コレクティブな生活を維持する・コミュニティを成り立たせているもの
聞き取り・参与観察などから抽出することが出来たのは以下の点である。
・ルールが明確
・暮らし作りに参加する、個人の責任を果たす。(役割の果たし方も様々であっていい。)
・暮らしを大切にしよう、作っていこうという意識
・実際のハードとしてリビング等が既にある。
・組織としての課題
若者がいない。 →染まりきってない家族がいる(家族があまりコモンに出てこないことに対して)居住者40代女性
収入が低い者は今のところ入れる見込みがない。
6月より始まったコレクティブハウスだが、観察者の視点に立つと、やはりコミュニティを維持していくためには相当の労力と意識の変化が必要だと感じさせる。イベント的なコモンミールから日常の食事を請け負うコモンミールへ変化していく中で、勝手が分からない故の戸惑いや、担当人数を減らしたことによる負担から、ある種の強制力や強いモチベーションがないと取り組めないものになっている。また「日々の食事でそれなりの満足度」を出すということに慣れていない、価格設定の見直しなどが課題(これらは当然徐々に変化していくのだろうが…)また、まだ夫婦・家族で固まりコモンミールを取る形が多い(CHC側の理想としては北欧のように入り混じって「誰がどう夫婦なのか分からない」状況に持っていきたい)ことなどがあげられる。
人間関係の問題も、新しいメンバーと古くからのメンバーとのずれ、暮らし方、住まいに対する考えの違いから来る不満や違和感をどうやり過ごしていくか。やはり付き合いがない代わりに気楽な孤立した住まい方に戻るのか、ここが正念場だ、どこまで皆を信じきれるか。(50代男性)という発言にもあるように、着地点を定めようとしている時期である。
・役員や暮らしのルール作りが煩雑、定例会が長時間になることもある。また発言権はあるがサポート会員が発言することはほとんどない(先のCHCの男性は除く) やはり住んでないから言えない…いったような引け目がある。
・また、話し合いの中で、居住者が共有しているコレクティブな暮らしという考え方とコレクティブな暮らし方を長年研究しているCHCから指摘される「コレクティブ」に対する突っ込んだ考え方との差。(一部の居住者はそりゃそうだけどわざわざ言わなくても…という雰囲気)
…でも言葉にしていかないと実現しない。→名称を何度も検討するなど、言葉へのこだわりは引き続き見られる。(定例会などでも)
→ しかしコモンミールも掃除当番も動いており、預り金を紛失するなどのトラブル、高齢者の役割分担についても定例会にかけられ解消している。コミュニティが発達し、成功している例といえるのではないか (居住者・サポート会員・CHCによる)
5−5−6 問題解決の一例
居住者の中に事情により義務を果たせない人が出てきた。もともと病気の兆候があったが入居後、やはり義務を果たせないことが明白になったので、その家族が定例会にかける前に話し合いの場を持ちたいと提案した。そのうち自分も病気などで義務が果たせなくなるようになるかもしれない、自分でなくとも家族がそうなるかもしれない重要な問題だとしてもたれた話し合いだが、この問題についてCHCはもはや居住者内部で解決することを目標にしてもいるので、口は出さず意見を述べるにとどまっている。(CHCは居住者主体ということを第一に掲げているので、建物の大家的な話、見学会の日程、新規居住者のためのフォローワークショップ以外はオブザーバーとして存在している。)その後、居住者で話し合った結果本人と活動グループとの話合いで、出来ることを調整するようする。基本は本人が意思を表明して、活動を行っている人と、本人とで話しあって決める。これは趣味の活動、これは大事な活動という枠は無い。基本的に住んでいるみんなが活動を担い合い、生活し、またそれを入るときに理解して入っている。現段階で、元気でもこれから年を取ったとき、だれかが動けなくなったときに、ちゃんと話し合おう。大人で担えないひと、忘れてしまった人への対策としては、関わりをもっている人が声をかけていくこととなった。
・MLなどで呼びかけても大体人は決まってはいるが何かしらの反応がある。決まってしまっているのは今後良くないかもしれないが。何かあっても迷惑を被るのは特定の人、それを共有して全体で解決しようとする。しかし人間関係のトラブルは直接はっきりと定例会にかけるなどして共有することは出来ない。しかし陰で言っているとこじれる。距離のとり方。ある程度距離を取れる暮らし方で、個人の逃げ場もある。
5−5−7 変わったことと変わらないこと
計画時点から今まで
・リーダーが代わってきた。ハードもシステムもできたので発言する必要性が出てくるのは新しい人が来たとき、取材のときで基本的に生活の一部として特別に何か働きかけるということはしない。
・CHCにはワークショップなどで、居住者は世話になっていると感じているが、説明会や見学会などちょっと疎ましく思うようなことも。とはいえ、毎日の暮らしがあるので、そんなに気にしていない。このことはもともとCHCの理事と親しい居住者が多く、またWSの際皆を取りまとめたという印象が強いCHCに恩のようなものを感じているのではないか。
・当分はCHCと連携しながらの見学対応ということになると思いますがその事での提案、気になる事、などありましたら書いて下さい(5月3日の見学会にたいするアンケート)というものに対しては
・全員CHCの人間だから気にしないでよい。
・当面はCHCが窓口機能を果たし、ハウスの窓口担当と調整しながら進める
のが現実的だと思う
・どういう資料を配布するか、どういう案内するかということについて協力
して詰めていく必要がある
・見る人、見られる人という見学の仕方が多いと負担が大きくなる。
森の風のコモンミールに参加するとか他の委員会の催しに参加するとか具体的な活動ヘの参加を通して「見学」ができるような機会をできるだけ増やしたい
・住人主体の場であること、プライバシーの確保
・住人がこの住まい方を発信するという姿勢
・少なくとも居住者が1人は一緒に付き添うのが原則
・見学の相手によっては居住者と交流した方がいい場合もあるので森の風で
取り組む場合もあるかもしれない。(入居希望者とか他のコレクティブの人)
・今日はどこのどなたが見学に来るという事は掲示板等で前もって知らせる
・地域の人、御近所、区役所の方とか、まずお披露目かいをしたらどうか。
・パーティに御招待という感じで。
・1回の見学は10人程度まで広さからして20人近い人数は多すぎると思う
という回答が出た。
住みはじめから今に至るまで取材が多いが不満があるとしても、珍しい住まいをしているという共通認識があるので致し方ないと感じている。この住まい方を広めていこう!とCHCに近い考えを述べる人もいるがそれほど積極的でない人が大多数。しかし表立って不満は言わない、CHCに協力の意味もありまた新しい居住者を獲得するためにも連携が必要だと感じている居住者が多い。
その他
・家族は崩壊しない
CHCが掲げる理念の中に、家族を超えて個人としての生き方をするというものがあり、実際夫婦だから、家族だからというくくり方はかんかん森内では意識的に避けられる。当番がやりやすいだろうから、一緒に活動したほうが精神的に良いだろうからという理由で夫婦や家族がくっつけられる事は避けられるべきこととされている。この空間では一人一人が個人として責任を持ち自ら周りの人に働きかけていかなくてはならない。この暮らしで家族・夫婦という単位で分けるのはもはや意味がないとされて入るが、実際に既存の家族が完全にばらばらに活動してはいない。かんかん森に住む前までの家族観と住んでからの家族観がどう変わったかについて聞いてみても、明らかに変化したという居住者は少なく、自分が居住者グループの一員なのだという意識の芽生えはあるにしろ、家族意識は厳然として存在し、他の居住メンバーとも区別される。むしろ、近所づきあいを意識的に家の中に持ち込んだというほうが正しく、集まれる井戸端、連絡を取り合う掲示板というインフラを家の中に持ち込んだという感覚である。それより進化したところといえば、お互いの生活をよりよくするために、町内会ではごみ置き場の掃除を当番制にしていたものを食事作りにまで幅を広げ、当番を担っていく中で構築される関係性を戦略的に志向し、互いにコミュニティベネフィットを得ようとすれば確実に得られるシステムを作り出している。それは日暮里だからという理由もあるかもしれない。その中で自由にして良い。地域の人、シニアの人にも開くことで、閉鎖性を回避しようといっていたが、閉鎖性を意識している風ではない。
関係作りはすぐにはできない、最初は警戒してしまうのが普通であるゆえ。仲間意識も出来上がっている。その中で新しい人と古い人の間の仲間意識でそんなに差はない、個人的に普段どれだけかかわりがあるか。
・CHCが言っているほど分離志向ではなく、家族を超えた個人という感じは見受けられない。
以下は居住者の男性が書いた冊子引用
人間は深い付き合いの中で大きく成長していくんだな、ってことなんだ。家族との関係も、他の誰かとの関係があってこそ見直すことが出来たんだよね。
著者は共同住宅に住まうことで不安や心配が解消できたとする。親がいなくても子供は他の居住者と交流し、食事も食堂で済ませ、幸せに暮らせる。親も安心して仕事が出来、個人の都合を優先させることが出来る。しかし、著者はそれは家族の危機であったと回想する。「3人の間の3人にしか持ち得ない大切な絆が、細く結びの弱いものになっているというのにも関わらず、3人とも幸せに暮らせている不思議な現象」だと描写する。そして家族3人だけのプライベートな時間が必要だと感じておりそれが課題だと締めくくる。
そう考えるとかんかん森のコンセプトとはずれが生じるが、各家では家族同士のプライベートな関係を築き、家をベースとしてコモンスペースに出かけ、そこでは家族は一時ばらばらになる。家族という枠組みは取り外しが可能で、お互い気にするが個人の活動はそれとして認め合い、周りが必ずしもあの人とあの人は家族だという見方をしないということが新しいといえば新しいだろう。
6 考察
「コレクティブハウス」にどれだけのものがあるのか、ざっと見渡しただけでもハード・ソフト・それにまつわる人間関係など様々なものがあった。「コレクティブハウス」と名乗っていなくとも、理念や、居住者の言葉が「かんかん森」住人や北欧コレクティブハウス「フェルドクネッペン」住人と酷似していることもあり、「コレクティブハウジング」はけして、「家事を共有していること」などの命題をクリアしたもののみではなく、むしろ概念として流通しているようにも思えた。流れを単純化するなら、もともと日本には「コレクティブハウジング」と類似の思想、住まい方の形態として「長屋」とくくられる地域社会を基盤としたコミュニティ性の強い住まい方があり、そこから高度経済成長により、プライバシーをより重視した、マンションへと移り変わっていった。集合住宅ではあるが、各々独立し、コミュニティの助けを借りない暮らし方から、今また、今度は「コレクティブ」という概念を用いて、単純に過去の長屋に帰るのではなく必要なプライバシー、個人のスペースは確保しつつも、手の届く範囲にコミュニティを持ち、必要分だけの投資から大きな利益を引き出す、高齢社会であり、地域の共同体復活が求められる時代に則した住まい方の発展が進みつつある。
・北欧型スタイルのコレクティブハウスの建築、内部のコーディネートは居住者にとってもNPOにとっても初めの試みであるのにも関わらず、なぜここまで運営できたのか。居住者ひとりひとりの良識が問われるなかで、それでも計画当初から居住者主体を貫いたことが大きいだろう。また情報が常にオープンでまた「根回し」のようなことに対して拒絶反応があること、CHCというNPOが損得なしでコーディネートにかかわり、スウェーデンのケースを参照する機会を設けるなど積極的に勉強会、交流会を開いたこと積極的に発言し、まとめ役を買って出る人がいたことそして、合理性をも追求しており、共同で住まうことにより実際の利益が手間をかけてコミュニティを作る以上のものであったと居住者が信じることが出来る環境作りを意識し、居住者自らが動いたことが挙げられるだろう。
しかしここまで到達するにはそれなりの時間と労力が必要であった。
・
人間関係
・
人との距離・着地点を定める
孤立した住まい方に不便を感じ、「集まって住む」コミュニティリビングを自ら選択し、かんかん森を維持している居住者たちであるが、コレクティブハウスならではの義務の負担に加え、取材・見学会などの煩雑さ、人間関係のストレスなどやりにくさを感じることもあるようである。妥協できるルール作りなどを通し、どのような形態にこれから落ち着くのか、更なる調査を続けていく予定である。
● 参考文献
日本の住宅事情 第2次改訂版 建設省住宅局住宅政策課 監修 株式会社ぎょうせい
住居・住生活論 尾上孝一 理工学社
新住居学概論 石堂正三郎 中根芳一 渇サ学同人
住まい方の思想 私の場をいかに作るか 渡辺武信 中公新書
明日の住宅政策 住まいの平等化へ デイビッド・ドニソン/クレア・アンガーソン
ドメス出版
「日本における集合住宅計画の変遷」 放送大学教育 高田光雄
「ハウジングは鍋もののように―集住体デザイン」 丸善株式会社 延藤安弘
コレクティブハウジングの勧め 丸善株式会社 小谷部育子
コーポラティブ・ハウジング 鹿島出版会 延藤安弘 他
シングル単位の社会論 世界思想社 伊田広行
老後は仲間と暮らしたい グループリビングのすすめ 角川書店 早川裕子・GLネット
21世紀家族へ 有斐閣選書 落合恵美子
近代家族の成立と終焉 岩波書店 上野千鶴子
家族を容れるハコ 家族を超えるハコ 平凡社 上野千鶴子
ネットワーク組織論 岩波書店 今井賢一 金子郁容
コレクティブハウジングただいま奮闘中 学芸出版社 石東直子+コレクティブハウジング事業推進応援団
コウハウジング 風土社 コウハウジング研究会+チャールズ・デュレ/キャサリン・マッカマン
豊かな住生活を考える 第3版 彰国社 小澤紀美子編
住まいの100年 ドメス出版 日本生活学会編
CHC通信 各号
ALCC NEWSLETTER 各号
かんかん森ホームページ http://www.chc.or.jp/project/kankanmori
CHCホームページ http://www.chc.or.jp
ALCCホームページ http://www.alcc.or.jp
コウハウジングパートナーズホームページ http://cohousing.jp/