ヤバい社会学

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荻上チキさんも論じているように、同書はいわゆるエスノグラフィーという手法を用いてアメリカのギャング・コミュニティの秩序を描き出している。

この本、今日付けでamazonで182位とかでそれなりに売れているみたいなのだけど、なぜなのだろうか。僕はエスノグラファーではないけれど、フィールドワーカーとしてこの類いの本がそれなりに売れるという事実は大変興味深い。というのも、言葉使いこそブロークンになっているものの、この本はひたすらギャング・コミュニティの日常を描いている本だからだ。僕はコミュニティ分析に関心があるので、こうしたテーマに関心があるけれど、世間一般に読まれる理由というのは良く分からない。けれども、いくつか仮説を立てることはできる。

1. ギャング・コミュニティというテーマが刺激的だから。

一般に自分の生活する「社会」とは異なる「社会」に関心がある。国際情勢だとか宗教に関する本だとかが、世間には満ちあふれている。そうすると、「売れる」フィールドワーク本というのは刺激的なテーマを選択している本ということであり、僕を含めたわりと「ふつー」なテーマを扱うフィールドワーカーにとっては若干残念な結論に収まることになる。

2. ギャング・コミュニティを通して、個別の事態に対する最適化が全体最適性とは異なるという構図が面白いから。

この本では、ギャング・コミュニティが警察も来ない(来ても汚職警官!)、救急車もこないような土地で、住人が生き抜くためのある種の最適戦略として成立している様が描かれる。しかし、この戦略は表裏一体である。確かにこの土地ではこのようなコミュニティが形成されないと生存できないかもしれないが、ギャングにピンハネされ、売春やドラッグが蔓延している状態がベストな生存戦略とは思えない。もちろん逆に、ベストではないが、しかし、自然状態のような無秩序よりかはいくぶんまともな戦略であるとも言うことができる。つまり部分最適化と全体最適化の齟齬が描かれているのだが、これはコミュニティそれ自体の描写よりは広く示唆的である。もし、これが売れている原因だとすれば、フィールドワーカー(少なくとも僕)にとっては大変勇気づけられる。テーマとしては「ふつー」な事例を扱っていても、そこから得られるファインディングスが刺激的であればそれを抽出し記述すれば、学会のみならず市場競争力を持ちうる可能性がある、ということだからだ。

いずれにせよ、僕らはどういう理由で本が流行っているか、正確なところを知る術はもたないけれど、せめて『ヤバい経済学』といい『ヤバい社会学』といい翻訳で、刺激的な文体が使われていれば流行るとかいう悲しい理由でないことが望ましい。

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