上杉鷹山の経営学

童門冬二著、PHP文庫

推薦者: 山谷拓志

 

かつてのアメリカ大統領ジョン・F・ケネディが「最も尊敬する日本人」と賞賛した、

江戸時代中期の米沢藩主上杉鷹山。

本書は、上杉鷹山の藩政における様々な施策やエピソードを「経営学」というフレームで捉え、

経営の改革に必要な考え方をわかりやすく解説している。

プロ野球をはじめ多くのプロチームが赤字経営に苦しみ、また多くの企業チームが
独立採算を標榜されている中、
例えば貴方が部外者であるにもかかわらず
そんなチームの経営者を任されたならどうするだろうか。

単純に考えれば、「支出を減らし」「収入を増やすこと」を実行しなければならないわけだが、
言うは易し、
支出減らしながらも同時に付加価値を創造することは至難の業であり、
しかも外様の経営者が
それらを断行するとなれば、節々で抵抗勢力にぶつかることであろう。

しかし、そんな困難を見事に克服した「経営事例」がなんと江戸時代に存在していた。

いまから約230年前、米沢(山形県米沢市)の藩主であった上杉鷹山は、
潰れかけた藩を上杉家の養子という立場ながらも
改革を断行し、見事に甦らせたのだ。
当時の幕府や藩の改革は、役人が既得権益を守り私利私欲に走ることで、
そのほとんどが
失敗に終わっていたが、鷹山は改革の目的を「民富」とし、領民のための藩政を試みた。

封建社会の時代において、いわゆる「顧客重視の経営」という発想は希有であろう。

また鷹山は民富の思想を藩士(役人)にも植え付け、「人のために尽くすことの喜び」によって
仕事のやり甲斐を再発見させた。

これも今風に言えば、ホワイトカラーの意識改革と言ったところであろうか。

そのような取り組みにより鷹山は藩の財政を健全にすることに加え、人々の心に
火を灯すことに成功したのだ。
クラブの経営に置き換えれば、ファンや社会への価値創出を理念とし、
スタッフや選手が理念を実現する取り組みを
やり甲斐としてパフォーマンスを発揮する
環境をつくりあげる、ということになろうか。
すなわち経営者には、内外のステークホルダーの
モチベーションをマネジメントし価値を創出するという発想が今も昔も必要なのである。


   
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