卒論〜エバネッセント光によるactin分子重合のリアルタイム測定

鈴木亮太郎(慶應義塾大学 理工学部 物理学科)

概要

異なる屈折率の媒質による界面(たとえば、空気とガラス)にある値以上の入 射角で光を入射すると、光は全反射します。(その値を臨界角といいます。) このとき、反射光線の他に、入射側と反対側の媒質に、界面からの距離に関して指数関数的に強度が減少するタ イプの光が生じます。この光のことをエバネッセント光といいます。この 光を用いると、界面近傍のごく短い範囲(波長程度)にある物質のみを照らす ことができるため、顕微鏡でサンプルを観察する時に背後の余計な散乱(バッ クグラウンドノイズ)を含まない、コントラストの良い画像を得ることができ るのです。(図1)

図1、エバネッセント光のイメージ図。界面からの距離が離れるほど強度が指数関数的に減少する光の場が生じている。

このエバネッセント光を使って、一分子を直接見れるような高い分解能をもつ 顕微鏡を組み立てることと、その装置を使って実際に高分子の運動をリアルタ イムで観察(たとえば筋肉を構成するタンパクであるactinのモノマーからポ リマーへの重合の過程)することが卒論のテーマです。

実験成果

まず、下図(図2-1,2-2)のような実験系を組み立て、高分解能かつリアルタイム測定可能な新しい顕微鏡を構築しました。

図2-1、実験系の概略図

図2-2、顕微鏡ステージ部の拡大図

つぎに、上図の実験系を使って、テトラメチルローダミンンマレイミドで染色したアクチンモノマーの重合を実際にイメージングしました。以下の写真(図3-1,...)がその結果です。

図2-1、重合6分後。フィラメントが見え始める

図2-2、重合7分後。フィラメントが急速に伸長する

図2-3、重合8分後。フィラメントが急速に伸長する

図2-4、重合16分後。見た目ではほぼ重合が済んでしまった状態

図2-5、図2-3と同じものを従来の落射蛍光顕微鏡でイメージング。タンパク分 子を見分けることはできない。

※、アクチン濃度は3マイクロM,塩濃度はK+が100mM,Mg2+が5mM,温度は摂氏 20度。


平成7年3月