ABSモデル案
−世界システム論モデル−
1999年7月21日
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
土屋大洋
taiyo@glocom.ac.jp
1. 背景
約190の世界の国々の国力はさまざまである。富める国、貧しい国がある。そうした格差はそれぞれの国の生来の条件による場合もあるが、資本主義システム下における搾取・収奪の構造による場合もある。そうした国際的な搾取・収奪の構造を指摘したのが、従属論であり、それを受け継いだのが世界システム論である。そして、近代世界システムとは、田中(1989)によれば、「近代主権国家をその最も重要な構成要素とする非主体型の世界システムで、経済的には資本主義的な一つの分業体制に統合されている世界システム」である。この場合、「非主体型世界システム」とは「それ自体が国家ではない世界システム」である。
2. 新規性
このモデルでは、持てる国が持たざる国を搾取することによって現状を維持しようとする構造を表現しようとしている。しかし、条件を変えることによって現状は変化し、構造そのものが崩れる可能性があることを明らかにできればと考えている。
3. エージェント
・中心(赤):時代の先端産業を擁し、高い生産性を誇り、高賃金を労働者に与えられる地域であり、その中心には、支配的な大都市が存在する
・準周辺(青):中心と周辺の中間にはいるが、ある場合は、以前の中心地域が転落した部分であり、またある場合は以前の周辺地域から上昇した部分である。
・周辺(黄):きわめて広大で、人口も多いが、一次産品に特化し、生産性は低く、賃金も高い地域
中心←→順周辺←→周辺 と変化に応じて色が変わる。
4. 考えられるシナリオ
(1)強力な中心が準周辺や中心から適切な割合で収奪をすることによって、中心、準周辺、周辺の間での周流が起こらず、国際社会のバランスが維持される。
(2)中心が準周辺や周辺から過剰に収奪をしたため、準周辺や周辺が疲弊し、ひいては収奪しようにできなくなるため、中心そのものが疲弊する。
(3)中心の収奪が過小なため、準周辺、周辺が力を蓄積し、周流が置き、中心が入れ替わる。
5. 変数
1)時間
2)リソース(生産され、かつ取り引きされる財)
3)エージェント(国)の数
4)エージェント(国)の各カテゴリー(中心、準周辺、周辺)に属する国の数
5)各エージェント(国)が持つリソースの量
6. 表現形
1)時間が経つにつれてエージェント数が維持されるか、減少するか(増加はしないとする)。
2)時間が経つにつれて各エージェントが持っているリソースが増加するか、減少するか(190カ国なら190カ国のグラフ)
3)時間が経つにつれて各カテゴリーに属する国の数が増加するか、減少するか(中心の数、準周辺の数、周辺の数、それぞれの推移)。下図を参照。
7. エージェントのルール
・上位のエージェントは下位のエージェントからリソースを奪う
・周辺は毎年、準周辺と中心に収奪される
・準周辺は周辺から収奪するが、中心から収奪される
・中心は周辺と準周辺から収奪するが、収奪しすぎると周辺と準周辺が疲弊しすぎ、収奪が足りないと自分が衰退する
・収奪される側にオプションはない
・収奪する側はどれくらい収奪するかのオプションを持つ
・中心が生きられるリソースの範囲:50-100
・準周辺が生きられるリソースの範囲:20-50
・周辺が生きられるリソースの範囲: 1-20
8. システム全体のルール
・各国は毎年自分の生産能力に見合うリソースを算出する
・技術革新については生産能力を調整することで表現する
・リソースが0になるとその国家は消滅
・リソースの増減によって各国は中心、準周辺、周辺の間を移動する
・上位エージェントが下位エージェントからリソースを奪うのは以下の場合
1)距離が近い
2)それぞれが持っているリソースの差が大きい
9. ポイント
・中心がいかにバランスを取って収奪するか
・中心は没落するか、複数極体制は成立しうるか
・三つのタイプの国の間で相互依存関係があることを明らかにできるか
参考文献
田中明彦(1989)『世界システム』東京大学出版会