「世界の現代を知る4(政治)」

4. 政治哲学・思想(2)−近代−(5月14日)

  1. 近代とは

    哲学の歴史拘束性

    中世の暗黒からの脱出

    ルネサンス(「再生」:14世紀から17世紀)、宗教改革(16世紀初頭〜17世紀前半)、科学革命(17世紀のガリレオからニュートンに至る近代科学の成立期)

    近代

    現代に近い時代。近ごろ。歴史上、文芸復興以後、更に狭くは封建制度廃止以後をさす。また現代と同じ時期をもさす。日本史では普通、明治維新から第二次大戦終結までを言う。

    近代化

    (1)(封建時代から近代に移る時代において)国家・社会・文化が、以前より市民的・合理的なものに変わること。「19世紀における日本の―」(2)(現代において)考え方・処し方で後れていたものが、科学的・現代的なものに変わること。「―した都市」「経営を―する」

    近代社会

    土地を媒介とした主従関係によって特徴づけられる封建社会の解体の後に成立した社会。経済的には資本主義を基盤とする社会。自由で平等な個人が、契約を通じて他者との関係を取り結ぶ市民社会。

  2. ホッブス(Thomas Hobbes:1588〜1679)

    イギリスの哲学者。

    合理的経験論に基づいた機械論的自然観

    政治哲学論『リバイアサン』(1651)では、人間の自然状態(万人の万人に対する闘争)を脱却すべく、自然権の合理的現実として、社会契約による絶対主権の設定を唱えた。ギリシア古典の翻訳もある。

    ホッブスによれば、人間は「欲求」を追求し「嫌悪」を逃れながら、それによって自己保存をはかっていく究めて利己的な存在。→万人の万人に対する闘争

    個人の欲求が唯一の価値尺度。自然状態は「耐えざる恐怖と暴力による死の危険」にさらされている最悪の状態→各人の「自然権」が相互に侵害しあう矛盾した状態

    自然法:このような矛盾した状態を逃れるために理性の推論によって発見された「平和」の諸規則→自然法が正しく機能するためには自然法を侵した人を処罰しうるだけの公権力が存在しなければならない。→全ての人々の信約による国家

    各人と各人の契約であっても人民と主権者との間の契約ではない。→統治契約

    主権=絶対、不可侵、不可分

  3. ロック(John Locke:1632〜1704)

    英国経験論の代表的哲学者、政治思想家。

    宗教的には、人間の悟性に基礎を置いた寛容論。政治的な意味での信教の自由の確立の基礎。

    政治思想では王権神授説に反対して、社会契約説。最高権は人民にあり、政治は人民の同意のもとに行なわれねばならぬと主張し、アメリカ独立戦争、フランス革命に影響。この点で、近代民主主義の政治原理の確立者。

    著書『人間悟性論』『統治二論』『寛容についての書簡』など。

    所有権

    労働を加えた物にだけ所有権はある。

    自分の手に負えないものを持つのは不正であり、それには所有権はない。

    日本の貿易黒字は不正である。

    日本はその黒字で何をしようとしているのか。

    日本は公正なやり方でそれを手に入れたのか。

    自然権

    自分の上着を奪いに来るものを殺しても構わない。

    自然状態では自己保全が最上の目的である。

    自然状態では裁くものがいない。

    アメリカを傷つけようとするものは叩きのめすしかない。
    国際社会は自然状態と同じである。

    立法権

    全員一致による立法

    万民平等

    国際社会は自然状態のままでいいのか。

    全員一致による立法権を作るべきではないか。

    個人と国家とのアナロジーは可能か。

    ロックのねらいは自然状態からいかに政府を成立させるかにあった。自然状態そのものを論じることが目的ではなかった。

    ロックは既に成立していた国家を正当化するために論じたが、まだ世界政府は成立したことがない。

  4. ルソー(Jean Jacques Rousseau:1712〜1778)

    フランスの思想家、文学者。

    反主知主義:文明とこれに伴う社会の人為性が人間の善性を堕落させ、社会の不平等を生み、旧体制下の社会悪を招いた→「自然に還れ」

    彼の思想はフランス革命の思想的根拠として大きな影響を与え、さらに西欧近代思想の確立をもたらした。

    人間だけが持っている自己完成能力が起動因となって、人間はその自然の本性(同情心と自己保存の愛)をねじ曲げ喪失して、利己心を増長せしめ、私有財産制を基礎とする人の人に対する支配を完成する。

    こうした疎外は、能力ある理性あるもの、いわゆる強者において特に顕著に現れる現象であるから、かかる強者による弱者の支配によって成り立っている文明社会こそは、実は全く疎外され、転倒した社会であり、「奴隷の主人こそが全く奴隷的である」ような社会である。

    そこでは、このような文明社会を超克して、人間性の克服をはかるにはどうしたらよいのか。→『社会契約論』

    人間はすでに「熊とともに住む自然状態」には復帰し得ず、また「人間は新しい力を生む出すことはできず、ただ既存の力を統一し、指導し得るのみであるから」→現在の力を集めて文明社会の政治構造を変革する以外に道はない

    全員一致の社会契約による一般意思の創出:各人がその自然人としての独立を放棄し、新しい一体としての人民=公共我を作り出し、そのことによって道徳的人格=市民となり、国家を単なる権力機構から全人民の意思による共同体へと転化せしめること

    人民は一体として主権者となり、その意思の表現である法に従うことによって自由となる。

    しかし、以上は少なくとも一回の全員一致による社会契約が可能で、一般意思を形成しうるに足る「神のごとき人民」を前提にして初めて言いうることであり、もし、それが現実に期待できないとすれば、人間革命→政治革命の道は破産せざるを得ず、かわりに「結果を原因とする」政治革命→人間革命の強行を期待せざるを得ない。これがルソーの「立法者」論である。

  5. カント(Immanuel Kant:1724〜1804)

    ドイツの哲学者。ケーニヒスベルクの生まれ。1746年同地の大学を出て家庭教師を勤め、70年母校教授となり、独身の一生を終えた。

    『純粋理性批判』(第一批判。1781):認識の先験的形式を確立、超経験的対象を論ずる形而上学を否定

    『実践理性批判』(第二批判。1788):道徳律の客観的確実性を論じ、第一批判書で理論理性にとって到達不可能とされた形而上学本来の三理念、「神・自由・不死」を実践理性の要請として承認

    『判断力批判』(第三批判。1790):目的論的世界観を展開、感性の先験的原理による自由と必然の調和、芸術美の根拠を論じ、批判哲学の体系的統一の試みを行う。

    『道徳形而上学』『永久平和論』で法治国思想、市民的応報刑論、平和主義を説く。

  6. ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel:1770〜1831)

    ドイツの哲学者。

    近代市民社会の諸問題を汎神論のうちに解消し、フィヒテの主観的観念論とシェリングの客観的観念論との対立を、シェリングの「知的直観」を方法化することによって、絶対的主体としての絶対精神による絶対的観念論をもって解した。

    ヘーゲル哲学の形式と内容を規定するもの:正・反・合の動的理法としての「弁証法」と、絶対的理念の論理的自己展開の追究が哲学にほかならぬとする立場

    この立場は汎論理主義と呼ばれ、理性的なものは現実的であり、現実的なものは理性的である、とする。また絶対的理念は自己を外化してまず自然となり、さらに精神となり、再び自己自身に還帰するという弁証法的循環を構成すると説いた。

    これらをヘーゲルは「論理学」「自然哲学」「精神哲学」の3大部門に分け、それぞれにさらに細かい弁証法的追究をした。

    この壮大な哲学体系は観念論の完成であると同時に、その極限でもあったので、ヘーゲル学派からは実存主義的思想、唯物論的思想などを生むに至った。

    著書『精神現象学』『大論理学』『法の哲学』『哲学綱要』など。没後その講義を弟子たちがまとめたものに『哲学史』『歴史哲学』『美学』『宗教哲学』がある。

    ヘーゲルの国家論『法の哲学』

    国家:家族、市民社会とともにいわゆる人倫の体系の一部を構成するもの

    人倫:歴史の中で善の理念が客観化され、社会的諸制度の中に具体化されたもの

    社会的諸制度:契約と言うような特殊的個人の恣意の上に成立するものではない

    家族:愛を己の規定とする人間のもっとも基礎的な共同生活体

    市民社会:倫理の喪失態。各人の利己心の織りなす「欲求の体系」

    国家:市民社会の分裂を止揚し、すでに家族の段階にあった一体性をより高次の段階において回復するもの。「倫理的理念の現実態」

    国家の基本的諸機構:立法権、行政権、および君主権よりなるもの。このうち君主権こそ最高に位置し他の2者を総覧するもの

    国際社会:主権国家の織りなす戦争状態であり、世界史はまさにその中で、民族精神を道具として用いての普遍精神の自己実現過程であったが、ヘーゲルはそれを古代オリエントの世界、ギリシャ・ローマの世界、ゲルマンの世界へと区分していった。このようにしてヘーゲルはプロシア型の立憲君主制を擁護

    弁証法

    ギリシア語のdialektikeに由来する言葉で、元来対話・弁論の技術の意。一般的には、矛盾の統一を通じて展開される思考および存在の運動方式、またそれについての学説をいう。世界を固定的事物の複合とみる形而上学的思考法に対立する。歴史的には、エレアのゼノンが、彼の哲学の方法である逆説的論法により弁証法の創始者とされる。ソクラテスでも弁証法は哲学的方法そのものであったが、ソフィストが詭弁術に用いて以来、弁証法の否定的な用法が対立する。プラトンでは概念の分析により真理に到達するための積極的方法とされたが、アリストテレスでは命題の帰納的探求の術として学問的論証から区別され否定的にみられた。中世では論理学とほぼ同義であった。近代になってカントは弁証法を仮象の論理として、純粋理性による論理の詭弁的誤用とみなしたが、ヘーゲルはその理性の陥る矛盾の積極的な意義をとらえて、一般に有限なものはすべて自己に内在する矛盾を動因として反対物を生み出し、それを媒介としてともにより高次の発展段階へ止揚されると主張し、これを現実の世界の一切の運動の原理とした。これによってヘーゲルは思考と存在との統一的論理として弁証法を初めて自覚的に体系化したが、それはイデーの自己展開という観念論的な形で展開された。マルクス、エンゲルスは、ヘーゲルの弁証法をその観念論的外皮から解放し、その合理的な核心を唯物論の立場で継承して、弁証法的唯物論を確立。
  7. マルクス(Karl Marx:1818〜1883)

    ドイツの科学的社会主義の創始者、国際労働運動の指導者。

    弁証法的・史的唯物論に立つ共産主義理論の確立者として後世に与えた影響は計り知れない。

    マルクス経済学

    マルクス、エンゲルスを創始者とし、ヒルファーディング、レーニンらによって発展させられ、社会主義経済学として展開されている経済学。経済が社会の土台であるという見解(史的唯物論)に到達したマルクスは、古典学派の批判から、利潤の源が生産過程で生みだされる剰余価値にあることを発見、労働力商品の売り手たる労働者と生産手段所有者たる資本家の対立の源を究明、労資関係の再生産過程と、剰余価値が利潤、地代、利子となって現われる総過程を明らかにした(『資本論』)。マルクス学説の創造的適用者レーニンは、20世紀を境に顕著になった独占資本の成立が世界市場の分割をもたらし資本主義を崩壊に導くことを立証、さらに社会主義経済学の基礎を築いた。

    マルクス主義

    マルクスとエンゲルスがねりあげた理論体系。科学的社会主義ともいわれる。弁証法的唯物論、史的唯物論、および『資本論』にまとめられた経済学などが中心となっており、資本主義社会の矛盾と、社会主義社会の生ずる必然性を明らかにした。マルクス主義の思想的源泉として、英国の古典学派経済学、ドイツの古典哲学、フランスの空想的社会主義の三つがあげられる。19世紀末に修正主義が発生して社会改良による社会主義の実現という立場が生まれたが、他方では帝国主義段階のマルクス主義としてマルクス・レーニン主義が生まれた。

    マルクス・レーニン主義

    レーニンによって発展させられたマルクス主義。レーニンは、強固な組織をもつ職業革命家の党としての前衛党の創設、労働者と農民の同盟によるプロレタリアート独裁の実現、プロレタリア革命と民族解放戦争による世界革命の実現、およびプロレタリアート独裁下におけるコミューン型国家の概念等についての理論を提起。また哲学上では弁証法的唯物論を強調。レーニンはこれを指導理念として10月革命を遂行。革命後はレーニンは政策担当者としてロシアにおける社会主義建設とコミンテルンの指導に当たり、新経済政策の採用、統一戦線の結成、民族・植民地の解放等で多くの問題提起を行なった。

    史的唯物論

    唯物史観とも。マルクス・レーニン主義の基礎理論の一つで、弁証法的唯物論を社会の現象全般にわたって適用し、社会の発展法則を明らかにしたもの。単に生物学的現象や観念史論では説明できない人間社会の発展の基本的要因を、自然と人間との相互交渉としての物質的生産に求めた。その基本的要素として社会の生産力と生産関係とを設定し、生産力の発展に対応して歴史的には、原始共同体、奴隷制、封建制、資本主義の各生産様式があり、社会主義への発展が展望された。また生産関係を土台(下部構造)として、これに照応するイデオロギー、法制的・政治的制度などの上部構造が成立するが、上部構造はまた下部構造に反作用を及ぼす。生産力の発展に伴い、生産力と生産関係の間に矛盾が生じると階級闘争を通じて、古い生産関係は変革され、新しい生産関係に発展する。同時に古い上部構造も崩壊する。