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2006年04月09日

トラフィック横流し

AT&TがトラフィックをNSA(国家安全保障局)にそのまま横流ししているという話が駆けめぐっている。AT&Tの元従業員の協力を受けたEFFが訴訟を起こした。

Whistle-Blower Outs NSA Spy Room@Wired News
AT&T Forwards ALL Internet Traffic Into NSA Says EFF@LinuxElectrons

使われているのはNarusというアメリカの会社の機器で、最近では上海テレコムがVoIPをブロックするために発注したという。

China Firm Wants Internet Calls Blocked@ABC News

『ダ・ヴィンチ・コード』のダン・ブラウンの『パズル・パレス』という訳本が出た。NSAが舞台らしいので買った。しかし、原題はDigital Fortress(デジタル要塞)だ。パズル・パレス(The Puzzle Palace)はJames Bamford が書いたNSAのノンフィクションの本のタイトルだろうに。原書を読もうと思って勘違いする人がいそうな気がする。

ちなみに『ダ・ヴィンチ・コード』は著作権侵害で訴えられたが、著作権は表現をカバーするだけだから、アイデアは著作権ではカバーできないのでは。同じアイデアで売れた本に対する腹いせの訴訟なんだろうか。

さらについでに、4月7日の日経夕刊に、聖書に出てくる裏切りのユダは、実はキリストに頼まれて裏切りをセットアップしたという内容の古文書が発見されたという記事が出ていた。これも何だか小説になりそうなネタだ。2000年を超えてユダの名誉が回復されるのだろうか。考古学って地味だけど楽しそうであこがれる。

1700年前のパピルス文書『ユダの福音書』を修復・公開:ユダに関する新説を提示@ナショナルジオグラフィック日本版

2006年04月04日

SOCA

今朝の日経にイギリスのSOCAについての小さな記事が出ていた。先月の学会でもイギリスの担当者が来て発表をしてくれたのだが、あまりその重要性に気づかなかった。イギリス人はその辺、控えめというか、あっさり話すのでよく分からなかった。

「英版FBI発足、4000人、組織犯罪に対応。」 2006/04/04, 日本経済新聞 朝刊, 8ページ,  , 188文字

SOCA(Serious Organized Crime Agency:「ソカ」と発音。英語のsoccer[スポーツのサッカー]の発音とよく似ている)は、Serious Organized Crime and Police Act of 2005に基づいて作られた。その役目はイギリス版のFBIということだが、MI5との住み分けはどうなるのだろう。MI5はIRAなどのテロ対策で、SOCAはその他の組織犯罪ということなのだろうか。

2006年03月23日

日本の暗号解読

20060322anime.jpg

日本チームと入れ替わりで昨日からサンディエゴに来ている。しかし、ダウンタウンから離れたホテルで開かれている学会(International Studies Association)に缶詰なので野球の余韻はまったく味わえない。ただし、日本の面影は写真のような店で見ることができる。店内はミニ秋葉原みたいな感じだ。私が泊まっている別のホテルにも本格的な寿司バーがある。寿司は本格的に流行っているなあ。

この学会は、40ほどのセッションが同時並行で進み、それが午前2回、午後2回、4日間繰り広げられる巨大なものなので、きっとおもしろい話を聞き逃しているに違いない。テーマと発表者で選んで聞くしかないが、当たり外れが当然ある。外れだと非常にがっかりする。

今日聞いた中でおもしろかったのを紹介すると、まず、ジョージタウンのJennifer Simsの「インテリジェンス理論の開発」と題する話。「インテリジェンスの目的は真実を見つけることではない。競争上の優位を獲得することだ」とのこと。そうだとすると、イラク戦争は必ずしも失敗ではない。

次に、インディアナ大学のJeffrey Hartの「情報通信技術の国際レジーム」。私と問題意識が近い。同じセッションのアメリカン大学のSimon J. Nicholsonの「遺伝子組み換え食品のアンビバレントな政治」。ザンビアへの援助として遺伝子組み換え食品が送られているのに対し、ザンビアの大統領は「毒付きだ」といっているそうだ。

一番おもしろかったのは「インテリジェンスにおける歴史的な教訓を活用する」という題のセッション。イスラエルのハイファ大学のUri Bar-Josephは、イスラエルの情報機関のパフォーマンスを1953年から2003年まで検証すると、成功したのはたった5%だという。これは低すぎる数字のような気がするが、どうなのだろう。

同じセッションで神戸大学の簑原俊洋助教授が「日本のブラック・チェインバー」と題して発表した。アメリカの暗号解読機関について暴露したハーバート・ヤードリーの『American Black Chamber』をもじったタイトルだ。日本の戦時中のインテリジェンス活動については、1945年8月13日にほとんどの文書が燃やされてしまったが、簑原先生が見つけた文書では、米国、英国、中国などの暗号を解読していたらしい。パネルの聴衆はインテリジェンスの専門家ばかりだが、みんなよく知らなかったらしい。これは大きな発見かもしれない。ペーパーが公刊されるのが楽しみだ。

2006年03月22日

秘密なんです。

http://inthedark.openthegovernment.org/index.html
何でも秘密なんです(アメリカ人向けですが……)。

2006年02月08日

毒が回るインターネット

Barton Gellman, Dafna Linzer and Carol D. Leonnig, "Surveillance Net Yields Few Suspects: NSA's Hunt for Terrorists Scrutinizes Thousands of Americans, but Most Are Later Cleared," Washington Post, February 5, 2006; A01.

日本の新聞でも引用されていたが、ワシントン・ポストが報じたところによれば、昨年末に発覚したブッシュ政権の令状無し傍受の対象になった人は5000人にもなる可能性がある。当初の報道では3000人という数字が出ていたが、とにかく多い。そのほとんどがテロとは無関係だという。

この記事はさまざまな専門家に取材していておもしろい。法律が求めている「probable cause(相当な根拠)」がなければ傍受できないとすると、ほとんど使えなくなる可能性は高くなるが、それにしても5000人を傍受無しでやっているというのは尋常ではない。ブッシュ大統領は記者会見で「30件」と言っていたから、「5000人」という数字のインパクトとは大きくかけ離れている。

この記事がもう一つ面白いのは、ネットワーク分析で使う「degrees of separation」を使っていること。つまり、ケビン・ベーコン・ゲームをテロ分析に援用していることだ。

電子メールの傍受がどう行われているか、少し説明されている点も面白い。

ところで、下記は頼まれて書いた原稿だが、前にもほとんど同じことを書いていた(情けない)ので自分でボツにした。若干付け足されている情報もあるからここに載せておこう。

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2005年11月23日

現代アメリカ基礎講座『国際犯罪とテロとの戦い: FBI東京の役割』

アメリカン・センターからのお知らせ。現場の情報が聞けそうだ。

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現代アメリカ基礎講座
第15回 『国際犯罪とテロとの戦い: FBI東京の役割』

日時: 11月29日(火) 17:00 - 19:00 
場所:東京アメリカン・センター・ホール(芝公園2-6-3 abc会館10階 )
地図: http://japan.usembassy.gov/j/amc/tamcj-map.html 
講師: ブルース・ストラウス Bruce Strauss (FBI特別捜査官)

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2005年10月23日

北岡元教授

20051019kitaoka.jpg

先日、授業のゲストで北岡元・国立情報学研究所教授に来ていただき、エキサイティングな話をしていただいた。理論編もさることながら、初めてうかがう歴史編も大変興味深かった。インテリジェンスに対する世間の認知もだいぶ進んできた気がする。

2005年09月14日

対外情報機関設置を提言

対外情報機関設置を提言 有識者懇、英MI6「参考」に

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/17/rls_0913a.html

大森さんが動いているぞ。

2005年07月19日

非伝統的安全保障

日米防衛協力の変容と非伝統的安全保障」というシンポジウムに出た。お世話になった安倍フェローシップに恩返し。最近はインターネット系の会議ばかりだったから新鮮だった。隣に座ったステイプルスさんは米軍のコマンダーだし、ヒルさんは六カ国協議の当事者だ。おまけに番匠さんの話まで聞くことができた。

しかし、私は相変わらずの馬鹿話で、ギークが安全保障にも影響を与えていますよと話してきた。Google Earthのデモを見せたらぎょっとしている人が多かった。ナショセキュ(安全保障)の人たちはネットの世界のイノベーションがあまり見えてないのかもしれない。

今回初めて知ったのだが、モーリーン&マイク・マンスフィールド財団のフェローシップというのがあって、米国の政府官僚が2年間日本の役所や政治家の事務所で研修できるとのこと。このフェローシップでは来日前に1年間日本語のレッスンがあるそうで、ステイプルさんもヒルさんも日本語が達者だ。いい制度だと感心した。

国際交流基金日米センターの皆さんの段取りも良くて、いいシンポジウムだった。でも疲れるので、今度は聴衆として行きたい。

2005年07月08日

パトリオット法

ロンドンで嫌な事件が起きた。クリエイティブ・コモンズの関係者は無事だという連絡が入っている。

サミットのタイミングをねらったものだとしても、これは大西洋の反対側にも影響を与えそうだ。米国議会はパトリオット法のサンセット条項(今年中に期限が切れる)を恒久化するかどうか議論している。もちろん、ブッシュ政権が恒久化しようとしている。

それに対し、ACLU(米国自由人権協会は)反対の署名を7月20日までに10万人分集めるキャンぺーンを開始した。

http://action.aclu.org/Petition1

パトリオット法の条項は、何の疑いもないのに医療記録、納税記録、図書館で借りたり書店で買ったりする本の記録まで、政府が調べることができることを認めている。テロリストとの関係が明白でなくても家宅捜索を無断で受けることがあるし、それが秘密裏に行われることもある。本当にこんな条項は必要なのかなあ。

2005年07月01日

Google Earth

浜村さんのブログで紹介されていたり、友人からメールで教えてもらったりしたGoogle Earthをようやく試す(私はマック・ユーザーなのだ!)。

IMINTをデスクトップにっという感じ。ワシントンDCで住んでいたアパートもばっちり見つかった。

2005年05月23日

まだ先は長い

某社のセミナーでインテリジェンス・コミュニティの話を少ししてきた。ドン引きされてしまった。アメリカから帰国してもうすぐ丸3年。いろいろなところで書いたり話したりしてきたが、まだまだ理解されていない。先は長いなあ。

2005年05月07日

CIA移転?

CIAの国内部門をデンバーに移転させる話があるらしい。まだ決定ではないそうだが、それにしてもなあ。同じ時期に隣人が引っ越してしまったら、「あいつもCIAだったか」なんてことにならないだろうか。

Dana Priest, "CIA Plans to Shift Work to Denver: Domestic Division Would Be Moved," Washington Post, May 6, 2005; Page A21.

2005年03月16日

テネット前長官

昨日、テネット前CIA長官の講演を聞くことができた。キーワードは中国とデータ・フローだった。台頭する大国中国とどうやって伍していくか、そして中東の次はアジアが世界の震源地になるというのが前半の話。そんな簡単にアジアを一くくりにしないで欲しいなあと思う。後半は、インテリジェンスの共有には、データ・フローが重要だとの指摘。9/11で情報が集まらなかったのがやはり問題ということなのだろうか。

前長官は政治家ではない(選挙に出たことはないはず)のだが、話っぷりは政治家そのもので、メモは見ていたが、よどみなく熱弁を振るっていた。今はジョージタウン大学に籍を置いている。まだまだ次に野心がある感じがする。

インテリジェンス関係のカンファレンスは初めてだが、やはりネット関係のものとは違う。だいたい、質問する人がほとんどいない。ネット関係や学会だとマイクに長蛇の列ができるが、司会者が何度も促しても質問する人がほとんどいない。インテリジェンス関係の人は行儀がいい。

日本人はどうやら私だけ。アジアから来ているのは、パネリストで呼ばれたシンガポール人とその一行だけのようだ。パネリストの多くは国土安全保障省から来ている。制服の人もけっこういる。日本人が呼ばれてもいないのに来るのはめずらしいらしく、朝食を食べていたら主催者側の人がやってきて、どうやってこの会議を知ったのか、なぜ興味があるのかと聞かれた。やはり研究者が少ないのだろうか。司会者のあいさつでも「日本からも参加者がいる」とわざわざ言っていた。

明日は移動で、あさってはギークの集団に仲間入りする。

2005年02月20日

GOVCON05

3月にアメリカ出張に行かなくてはいけないようなので、ついでに行けるカンファレンスはないかと探していたら行き当たったGOVCON05。興味津々なのだが、何とアメリカ市民権がないと参加できない! やっぱりインテリジェンスは秘密主義なのだ。

たぶんオライリーのEmerging Technology Conferenceに行く気がする。レッシグ教授も出るし、W. Daniel HillisやCory Doctorow、Clay Shirkyも出る。参加費高いなあ……。

2005年02月12日

9.11事件と情報機関の再編

春名幹男「9.11事件と情報機関の再編」日本国際問題研究所編『国際問題』第539号(2005年2月)44〜55頁。

共同通信の春名さんが9.11レポートと最近の報道に基づいて米国のインテリジェンス・コミュニティ改革論議をまとめている。

2004年12月20日

Fighting for Intelligence

Douglas Jehl and Eric Sschmitt, "Pentagon Seeks to Expand Role in Intelligence-Collecting," New York Times, December 19, 2004.

米国の国防総省がインテリジェンス活動にもっと力を入れる計画だそうだ。これは、(1)CIAと国防総省(のDIA)との間で権限争いが起きている、(2)秘密工作活動が増える可能性がある、ということを示しているという。CIAがよたよたになっているところで国防総省が勢力拡大をねらっているのだろうか。

2004年12月05日

インターネットはアキレス腱

ワシントン・タイムズの記事によると前CIA長官のジョージ・テネットがワシントンDCのカンファレンスで、金融の安定性や物理的な安全にとってインターネットはアキレス腱だ、と言ったらしい。

"I know that these actions will be controversial in this age when we still think the Internet is a free and open society with no control or accountability," he told an information-technology security conference in Washington, "but ultimately the Wild West must give way to governance and control."

2004年12月02日

IMINT

イメージ・インテリジェンスのことを略してIMINTということがあるが、同僚の吉田浩之先生はその専門家だ。今日、いろいろ見せてもらってとても驚いた。画像の威力というのはすさまじい。頭で考えているよりもずっと迫力がある。キューバ危機や湾岸戦争の画像、最近の北朝鮮のミサイル基地の画像まであった。

ついでに、今日は三人の同僚の研究室を見せてもらったが、それぞれ個性が出ていてとても刺激的だ。私の部屋が一番つまらない。どうにかしなければ。

2004年11月15日

『帝国の驕り』の著者

ABCニュースのグッド・モーニング・アメリカを見ていたら、CIAを辞任したMichael Scheuerという人物が出てきた。彼が『帝国の驕り(Imperial Hubris)』の著者Anonymousだそうだ。肩書きは、「Former Head, CIA Bin Laden Unit」となっている。すでに誰が著者かは知られていたわけだ。どうやらCIAの新体制に抗議して辞めたようだ。

CIA混乱中

Dana Priest and Walter Pincus, "Deputy Chief Resigns From CIA: Agency Is Said to Be in Turmoil Under New Director Goss," Washington Post, November 13, 2004; Page A01.

The deputy director of the CIA resigned yesterday after a series of confrontations over the past week between senior operations officials and CIA Director Porter J. Goss's new chief of staff that have left the agency in turmoil, according to several current and former CIA officials.

CIA新長官の改革はうまくいってないらしい。

2004年11月14日

インテリジェンスという新しい政治

Richard K. Betts, "The New Politics of Intelligence: Will Reforms Work This Time?," Foreign Affairs, May/June 2004.

ここ数年のインテリジェンスの数々の失敗にも関わらず、制度改革はうまくいかないだろうと悲観的。

CIA長官はインテリジェンス・コミュニティ全体を統括するDCI(Director of Central Intelligence)でもあったのだが、新設のDNI(Director of National Intelligence)はCIA長官を兼務しなくなるがゆえに立場は弱くなるのではとも指摘。ますますインテリジェンス・コミュニティのパフォーマンスは悪化するのではないかという気もするが大丈夫なのだろうか。

2004年10月31日

何が彼らを怒らせているのか

残念ながら日本人の人質が遺体で見つかったようだ。

私は9.11以来、何が彼らをそこまで怒らせているのかについて考えてきた。以前、このブログで下記の本を紹介したが、この本の著者(匿名になっている)の見方に私はだんだん与するようになってきている。

Anonymous, Imperial Hubris: Why the West is Losing the War on Terror, Washington, DC: Brassey's, 2004.

米国の自由や民主主義という価値観を彼らは嫌っているのではない。ただ単に「彼らの土地に異教徒がいる」ことが問題なのだ。もともとイスラムは異教徒に必ずしもひどい仕打ちをする宗教ではない。特に同じルーツを持つユダヤ教とキリスト教には比較的寛容だった。しかし、それは彼らが主導権を握っていた時代の話だ。今は(理由は必ずしも石油だけではないだろうが)異教徒が入り込み、大きな顔をしている。それがアメリカ人だろうが、日本人だろうが、本質的には関係ない。

われわれの価値観で見ようとするから本質を誤っている気がする。29日にアルジャジーラが流したビン・ラディンのテープでは、「米国の不実」が批判されている。そして、「ブッシュ政権は堕落したアラブの政府と変わらない」とも言っている。彼が批判しているのは、イスラムの教えに忠実ではないアラブの政府と人々であり、異教徒だ。だから、彼がサダム・フセインと手を組むはずもない。サウジ・アラビアから追放されたのも、サウジ・アラビア政府の姿勢を批判したからだ。イスラム諸国が民主化されるということにはビン・ラディンは関心を持っていない。イスラムの教えに忠実な政府と国を確立することがねらいなのだろう。そうだとすると、こちら側の目的が何であれ、招かれざる客人としてイラクを訪問することはとても危険だ。自分の家に他人が入り込んで騒いでいたら誰だって不愉快なはずだ。

無論、私はまちがっているかもしれない。だが、以前よりは問題がクリアになりつつある気がする。

上記の本で筆者が指摘しているポイントは下記の六つだ。

  1. 米国の指導者たちは明白な事実を受け入れなかった:われわれが戦っているのは犯罪でもテロでもなくイスラムの反乱(insurgency)であり、これに対処できていない
  2. 軍事力だけが米国のツールになっている:パブリック・ディプロマシーやさまざまな外交対話が成り立っていない。13億のイスラムが米国を嫌うのはその価値ではなく行動
  3. ビン・ラディンは正確に理由を語っている:フリーダム、リバティ、デモクラシーは無関係。イスラム世界での米国の行動が問題
  4. ビン・ラディンが遂行している戦争はすべてイスラム教の教義に関係がある:イスラム教徒たちがイスラム教を信仰していなかったら彼の成功はない。イスラム教徒たちは自分たちの土地が米国と西側に蹂躙されていると思っている
  5. ペルシャ湾の石油と代替エネルギー開発の欠如が問題の核心である:石油がなかったらサウジアラビアのような専制国家を米国が支持する理由はない。ビン・ラディンはこうした専制国家を破壊しようともしている
  6. この戦争は子供の代までの戦いになり、米国本土が戦場になる可能性がある

2004年10月30日

翻弄

人質情報に翻弄される日本政府の様子を見るに、情報を収集し、分析するプロセスとサイクルがまだないのだろうなと思う。無論、日本にヒューミント(Human Intelligence)は事実上ないわけだから、現場で直接情報をとってくることができる人はほとんどいないだろう。その結果、シギント(Signal Intelligence)やイミント(Image Intelligence)が及ばないこうした人質事件では、目と耳がない状態になる。いきおい米国に情報を頼らざるをえない。政府が未確認の段階で情報をメディアに流したのは、世論と家族にいきなりショックを与えないようにするためだったのかもしれないが、いい加減さを露呈するマイナスも大きい。「日本にインテリジェンス・コミュニティはいらない。米国から情報はもらえばいいのだから」と主張する人がいるが、それでいいのか、どうしても疑問に思う。無論、現場を知らない私がごちゃごちゃいえることではない。ただ、現地の対策本部ではできることが実はほとんどなくて、座って電話を待っているだけになっている、ということがないように願いたい。

2004年10月01日

帝国の驕り

Anonymous, Imperial Hubris: Why the West is Losing the War on Terror, Washington, DC: Brassey's, 2004.

残念なことに神がわれわれの目から驕りを取り除かねば、われわれは負ける。われわれがそれを取り除くことができる兆候は無く、アル・カイダがわれわれよりも世界を明確に見ていることを私は心配している(Sadly, unless the Divinity rids our eyes of hubris, we are lost. There is no sign we can remove it, and, I fear, al Qaeda sees the world clearer then we. )

米国のインテリジェンス・コミュニティで20年以上分析に従事してきた人物が匿名で書いた本。米国の政策がいかにまちがっているか、アル・カイダを理解していないかを告発している。

2004年09月26日

『9.11委員会報告書』

Joanna Glasner「ネットで無料公開の『9.11委員会報告書』、書籍版もベストセラー」(wired news)

この本は、米国の同時多発テロに関する国家調査委員会(通称:9.11委員会)の報告書を一字一句そのままで印刷し直した、516ページにもおよぶペーパーバックだ。通常この種の本が米国民の読書リストのトップを維持することはない。しかも、この報告書は他のたいていの政府発表文書と同様に、オンラインで無料で入手可能なのだ。

私も買った一人だ。この報告書の「人気」は、インテリジェンスに関する米国民の関心の高さを示している気がする。

それにしても、入国に際して指紋と写真をとるのはなんとかならないのだろうか。

2004年08月26日

CIAの内幕

スタン・ターナー(佐藤紀久夫訳)『CIAの内幕—ターナー元長官の告発—』時事通信社、1986年。

カーター政権でCIAの改革に腐心したターナー長官の回顧録。よくある暴露本かと思ったが、いろいろと勉強になった。

一九四七年の国家安全保障法の起案者たちはDCI長官に、全情報機関が収集した情報の拡知に関する管理権を与えた。起案者たちは、日本の作戦計画に関する情報を狭く押し込めた結果、パールハーバーを招いたような事態の再現を望まなかった。(p. 239)

今とまったく同じではないかと思ってしまう。9.11を防げなかったことから、ブッシュ政権はインテリジェンス・コミュニティを総括するポストの新設を迫られている。しかし、すでにCIA長官=DIAであり、インテリジェンス・コミュニティを総括する役割を担っていたはずだ。

訳書では、ターナーの肩書をCIA長官ではなくDCI長官としたが、原書に従ってそうするのが適当だと思ったからである。もちろんCIA長官のことである。アメリカ政府の法制では、この地位はディレクター・オブ・セントラル・インテリジェンス(DCI)であって、CIAを含む全情報機関を統轄する。原書はすべて、この肩書で記述している。同長官はCIAの長でもあるが、それは権限の一部である。つまりDCI長官は全情報部門とCIAの双方の責任者であるわけで、単なるCIA長官ではない。(p. 262:訳者あとがき)

現在ブッシュ政権が求められているのは、CIAからも独立した総括ポストということになる。しかし、そうするとよほどうまくやらないとどこからも情報が上がって来なくなるという危険がある。それに、9.11後に国土安全保障省を新設し、その時にCIAやFBI、NSAなどは入れないということになったはずだ。コミュニティ全体の秩序が混乱するだけのような気がする。

2004年08月25日

リーズバーク・パイク通り5913番地

田中 宇「テロをわざと防がなかった大統領」(2002年1月24日)

そんな愛国的な雰囲気のフォールズチャーチには、アメリカを愛していないと思われる人々も住んでいた。この町には、911のテロ事件の容疑者のうち4人が以前に住んでいたと思われるアパートがある。リーズバーク・パイク通り5913番地(5913 Leesburg Pike)という住所である。

これもたまたま見つけた田中ニュースの記事。ここに出てくる番地は、私が住んでいたところに結構近い。Yahoo!のドライビング・マップでは車で12分の距離だ。先に知っていれば見に行ってきたのになあ。しかし、このアパートは本当に使われていたのだろうか。この辺は確かに住宅街で、ところどころ大きなアパート(日本のマンション)が立ち並んでいる。巨大アパートになると、隣がどんな人かはあまり気にしないのは日本と同じ。ワシントン近郊なら外国人が住んでいても特に目立つことはない。

2004年08月24日

情報デモクラシー

毎日新聞社会部『情報デモクラシー』毎日新聞社、1992年。

一昔前の本だが、「一見、便利で快適な「情報化社会」でありながら、重要な情報はテクノクラートに操られ、情報公開は遅々として進まない『日本的情報世界』」というのがテーマ。新聞社の取材本だけあっていろいろなエピソードが入っていておもしろい。

警視庁では「データを持ち出した、あるいは持ち込んだ行為に対して規制する法律はない。背任や横領など背景に明確な動機があれば別だが、これも認定がかなり難しい」(広報課)としている。(75〜76ページ)

という現状は今も変わらない。情報を盗む行為そのものを罰する規定がない。個人情報保護法は、情報管理を怠った者は罰することができるが、情報を盗んだ者はコピー用紙の窃盗罪として裁かれるだけだという。情報の価値を定義づけるのが困難だかららしい。プライバシーに関する情報は、当事者にとってはすごく高価だが、関係ない人にとってはゼロに等しい。商業的価値に換算するのは難しい。住居侵入や不正アクセスで捕まえることになるが、電子データをコピーしてその痕跡を残さなかったとすると、裁くのはますます難しくなる。外国では、スパイ防止法や産業スパイ防止法のようなものがあるが、日本ではトレード・シークレットとして守るのがせいぜいで、個人のプライバシーは裁判でいちいち争わないといけないようだ。

蛇足ながら、

私たちの身の回りを眺めると、一口に「情報」といっても、一次情報としてのinformationと、二次情報としてのintelligenceを混同していることが多いのではないか。(254ページ)

という記述はいただけない。形式的には二次情報ともいえなくはないが、これでは単なる伝聞もインテリジェンスになってしまわないか。インテリジェンスそのものの理解ができてないのではないかと思う。

2004年08月20日

「情報は要らない」

岩島久夫「『情報無視・思惑先行』型日本政治−昔を思い今を憂う

当時外交当局を牛耳っていた最高幹部(今は退職)が冗談ともつかず言った。「日本が独自に撮影した写真に基づく自前情報が入ってくるようになると、国際政治上の日本の責任が増え、大きくなるので困るよ・・・」

ウェブを検索中にたまたま見つけた。この最高幹部はひょっとするとあの人かなあ。

さすがに今はそんなことはないと思いたい。

2004年08月16日

すべての敵に向かって

リチャード・クラーク(楡井浩一訳)『爆弾証言―すべての敵に向かって―』徳間書店、2004年。

遅ればせながらようやく読んだ。原書が出たときに大変な話題となり、クリントン政権と現ブッシュ政権の閣僚が議会の公聴会に呼ばれて内容を問いただされたという曰く付きの書だ。クラークはレーガン政権から現在のブッシュ政権まで四人の大統領の下で官僚をずっと務め続けた異例の人だ。クリントン政権以降はホワイトハウスで対テロ対策にあたってきて、ブッシュ政権のやる気のなさといい加減さに怒って辞職した。

この本は米国のインテリジェンス・コミュニティの現実を学ぶのに格好の教科書だと思う。クラークやFBIのジョン・オニール(あるいはCIAのジョージ・テネットを含めて)が9.11の前からアルカイダをどれだけ追いつめようと努力してきたかが分かる。クリントン政権はうまく対処しようとしてきたが、クリントンのスキャンダルで政治力を失ってしまい、ブッシュ政権は最初からアルカイダを無視してイラクを叩こうとしていた。9.11を利用してイラクを叩いたと言っても過言ではないだろう。

また、ホワイトハウスはインテリジェンス・コミュニティの陰の部分である工作活動(covert action)の発動にためらいを見せていないのに対し、逆にCIAと国防総省が極度にそれを嫌っている姿は面白い。いったん事が露見するとホワイトハウスはCIAや国防総省に責任を押しつけて知らんぷりするのがこれまでのパターンだったからのようだ。

いずれにせよ、現場の様子がよく分かって面白い本だった。インテリジェンスの訳語が相変わらず諜報とか情報になっているので、インテリジェンスの重要性が埋もれてしまっているのが残念。

「すべての敵に向かって(Against All Enemies)」という原書のタイトルは、米国の公務員が就任する時に行う宣誓に入っている言葉だそうだ。

2004年07月23日

911独立調査委員会報告書

911独立調査委員会の報告書の最終版が発表された。「脅威認識の不足」を指摘しているらしい。

2004年07月22日

議会報告書

米国議会上院インテリジェンス委員会のウェブページ

最近インテリジェンスのネタばかりだが、アメリカの新聞のウェブを見ているとその話ばかり。議会上院のインテリジェンス委員会のウェブでは500ページ超の報告書がダウンロードできる(23メガある)。中に黒々と線が引かれているのが生々しい。

2004年07月18日

CIAもFBIも監督するポスト

CIAもFBIも監督、ポスト新設勧告へ 米議会調査委

01年9月11日の米同時多発テロをめぐる米議会超党派の独立調査委員会が、近く発表する最終報告書の中で、米中央情報局(CIA)や連邦捜査局(FBI)などの情報機関を監督する閣僚級ポストの新設を勧告する。報告書を見た複数の政府当局者が語った。

すでにCIA長官がインテリジェンス・コミュニティ(ここでいう情報機関)全体を総括する中央情報長官(DCI: Director of Central Intelligence)を兼任している。ここではこの兼任を解いて、別のポストを作るということだろうか。しかし、それを国土安全保障省(Department of Homeland Security)がやろうとして失敗しているはずなのに。

2004年07月15日

イギリスも

英の独立調査委、大量破壊兵器問題で情報機関を批判」(asahi.com)

イギリスも間違いを認めてしまった。今後どうやって米英がインテリジェンス・コミュニティを立て直して行くのか見物だ。

2004年07月11日

私は失望し、悔やんでいる

情報源は亡命者「カーブボール」 「戦争の大義」に影響」(asahi.com)

やはり偽情報だった。パウエル国務長官は「情報源は不正確で間違っていた。私は失望し、悔やんでいる」と言っているという。

下からあがってくるインテリジェンス情報をどう評価するのかはやはり難しい。それを間違えると国策を間違えることになる。

2004年07月06日

電子メール傍受

Saul Hansell, "You've Got Mail (and Court Says Others Can Read It)", New York Times, July 6, 2004.

サーバーをリレー中の電子メールは読んでもいいという司法判断がアメリカで出されたようだ。

2004年07月03日

中国のテキストメッセージ検閲

Joseph Kahn, "China Is Filtering Phone Text Messages to Regulate Criticism," New York Times, July 3, 2004.

China has begun filtering billions of telephone text messages to ensure that people do not use the popular communication tool to undermine one-party rule.

中国は今度は携帯のテキストメッセージを検閲し始めたらしい。

2004年07月01日

「インテリジェンス」を一匙

雑誌『選択』に連載されていたインテリジェンス・コミュニティ論が単行本にまとまった。体系的に書かれているわけではないが、全体像を知るいい教科書だと思う。大森さんは元内閣情報調査室長。

大森義夫『「インテリジェンス」を一匙』選択エージェンシー、2004年。

今回内舘さんのアイデアを借りて『「インテリジェンス」を一匙』、とタイトルを決めたのはインテリジェンスは毒だからである。毒があるから解毒作用が起きる。両作用の拮抗で生命体は活力を持つ。医療関係者に限らず企業エクゼクティブも教育関係者も同意いただけると思う、戦後の我が国は子供の世界からも大人の世界からも「毒」を除き過ぎたために、のっぺらとした虚弱な体質になってしまったのではないか。(15ページ)

日本の危機管理論の一番の問題は過去の手痛い教訓がいっこうに積み上げられない点にある。(17ページ)

本稿の最終回(本年十二月号)に到達するであろう結論を予め記しておこう。
 それは、
(1)政府の「情報コミュニティー」を整備して、中核となるインテリジェンス組織を再編する。
(2)世界各地に関する地域研究を強化することからスタートする。いきなり外国で情報員を運用したり、教科書か小説に出てくる手法をトライする力量はない。現地情報に重点をおいて時間をかけつつ中央アジアにせよ中南米にせよ基礎研究を深め、人的パイプを開拓して行く。任務にたえられる人材も養成されてくるだろう。
(3)新しいインテリジェンスは国内イシューをカバーしないこととする(これには例外がある。後述する)。
 以上の結論を基調として現状の問題点を逐次検討してみたい。(20〜21ページ)

インフォメーションでは物足りない、インテリジェンスには力不足、それだったら先ず「クラシファイド・インフォメーション」(機密性の高いインフォメーション)を丹念に集めることから我々は始めよう。仮免許からスタートしなくてはならない。(24ページ)

国際インテリジェンスとは砲弾の飛び交わない陰の戦争であって、攻防(インテリジェンスVSカウンターインテリジェンス)とはともに愛国者のゲームだからである。インテリジェンスの任務につく者は勲章や栄達で報われようとは願わない。(26ページ)

日本でも海外で働く日本人を守るため、国益を守るために国際情報は必要である。(27ページ)

日本に新しいインテリジェンスが出来たらオペレーション部門は別として、分析部門のスタッフには守秘と論文作成の二つの義務を課したい。そして個人能力の評価による一年ごとの契約で精鋭だけを選抜する。最高の能力の持ち主に対してはエズラ・ヴォーゲル博士がCIAのナショナル・インテリジェンス・オフィサーを務めていたようにナショナルな(国家の)称号をもって遇すべきである。現行の公務員制度で収まることではないが制度の根底から変えねば国家の情報能力は向上しない。現状は情報に与えるステイタスが低いから組織がモラールの面で低きに流れるきらいなしとしない。(28ページ)

大切なのは危機に素早く対応することである。危機を乗り越えるために必要な、役に立つ武器を当局に与える、その濫用に対しては厳しくチェックする、最終的には国民の代表が総括する、というのが闘う国家の姿だと思う。日本の現状は、(1)命題の捉え方が後追いになっている、(2)観念論議が多すぎる、(3)そのくせ既成事実になってしまうと抜け出せない。(33ページ)

当局の行う通信傍受などのインテリジェンス活動はプライバシー侵害の恐れのある「毒」である。ただし必要な毒だから国民はこれを直視して、解毒の社会装置を構築しておくべきなのである。(34ページ)

戦後の日本が今日に至るまで半世紀以上にわたってインテリジェンスの機能を欠いたままで来たのには理由がある。他人の秘密を覗くのは下品な業だとする感情は別として、一つは戦前・戦中の暗い思い出である。「間諜」とか「諜報」といった言葉自体、謀略や人権抑圧、非条理な多国への侵略を連想させる。強圧的な特高警察、憲兵の亡霊を見るひともいるだろう。政府(大本営)のウソ発表を忘れないひともいる。結果として、インテリジェンスは敬遠され今なお諜報に代わる訳語すらない。二つには戦後日本が自国の存在と安全を米国に委ねてきたからである。(38ページ)

日本のインテリジェンスにとって現状のままでも、すぐ出来る改善を二点提言したい。一点は外国との情報接受の窓口を一本化すること、もう一点は情報管理である。(41ページ)

結果は明白である。十万人の人員と年間三兆円の予算を使いながら世界最大の米国インテリジェンス機構は九・一一テロを予測できなかった。(44ページ)

情報も一つの商品である。商品である以上、第一に客=ユーザーがあり、第二に商品の生産システムがあり、第三に商品の質がある。(45ページ)

日本のインテリジェンス再建は一〇〇%防衛的なカウンター・インテリジェンス組織の構築から始めよう。防衛戦を重ねているうちに米国はじめ攻撃的インテリジェンスにたけた国々が世界レベルとはどんなものか教えてくれるに違いない。(57ページ)

ワシントンポスト紙はデビッッド・イクナティウス記者署名の論説を掲載した。タイトルは「スパイ活動のためにブッシュは友人を獲得せよ」。その内容は、(1)テロリズムに対する戦争は軍事力だけでは勝利できない。的確なインテリジェンスが必要である、(2)米国は歴代、スパイゲームにおいて成果を収めていない。国民性に合わないのだ、(3)過去、米国が貴重な情報を入手できたのはウォーク・イン(内部情報をもたらす亡命者)を得たからである。自力で敵対組織に浸透できた事例はまずない、(4)インテリジェンス分野における米国の強みはテクノロジー、資金(マネー)そして世界の同盟国ではないか、(5)経験豊かなイギリス、フランス、イタリアに学べ。幸いロシア(プーチン大統領)という友人を得たのだから……。(59ページ)

そこはかとなく「伝えたいこと」を伝えあうのが外交であるとすれば、伝えたくない内面を探るのがインテリジェンスである。外務省は外交の範囲で情報活動を行い、リスキーな部分はインテリジェンスにアウトソースすればよい。これが世界の常識の筈だが、本格的なインテリジェンスを作ろうと言えば猛反対するのは左翼勢力と外務省である。(70ページ)

国家の情報機能は外交、インテリジェンス、軍事の三つのチャネルで成り立っている。(75ページ)

情報は受ける側にも器量と水準が要求される。(82ページ)

私は提唱する。日本にもインテリジェンス機関をつくろう。それは警察からも外務省からも独立していなくてはいけない。それは政局とか選挙とか国内問題は一切カバーしない。インテリジェンス要員に必要なのは警察官に負けない使命感と根性であり、国際経験である。(89ページ)

警察は法の執行機関だから活動は厳格に法の枠に限定される。他方インテリジェンスのとる手段は「合法と明確な違法の間のグレーな空間」を広く用いる。その手段と範囲は国際的な水準に拠って自ずから合理的な枠組みが設定される。といってインテリジェンスが野放図な行動を許されるのではない。国会の厳格な監督に服するし、法の逸脱には裁判所が刑事罰をもって規制する。しかし第一自適にはインテリジェンスのトップがインテリジェンスの行動を管理するのである。(94ページ)

情報を読む決め手は経験と執念である。(99ページ)

米国の商業衛星は米国政府との契約によって「シャッター・コントロール」条項をもつ。つまり米軍の軍事行動は撮影しない。米国の担当者は「米本土とイスラエルの上空写真は撮らせない」と言う。米国の支援を受けつつも我が国が独自の衛星を運用したい所以である。(118ページ)

やってはあならない戒めとしての「朝寝、昼酒、幼稚な会話、愚か者の集いに連なること」は我々むしろ老年になって守るべき教えのように思われる。(126ページ)

「人脈のつくり方」指南の本があるが、基本的なポジション(立場)とケミストリー(体質)が合致すれば「お友達」になるのは簡単だ。(128ページ)

情報は与える側の意図的操作であることが間々ある。調理(cook)された、あるいは味付け(season)された情報の危うさである。(130ページ)

軍事的に中級の国家がインテリジェンスで国を守っている、その仕組みこそ学ぶべきだ。しかし抹殺部隊(キドン)をふくむ実働部門は日本には要らない。(中略)我が国が手本とすべきはMI6とも呼ばれる英国のSIS(シークレット・インテリジェンス・サービス)であろう。政策と分離して純粋に情報だけを扱う。事件になれば警察に、外交処理は外務省に実務を委ね黒子に徹する。抑制的な英国型情報活動に学んでJ-SISの情報組織論を模索したい。必要なのは腕力ではない。観察力と知恵である。(132ページ)

日本のインテリジェンス組織は百人でスタートすればよい、と私は思う。一桁か二桁少ないのではないか、との嘲笑が降ってきそうだが構わない。だいたい適格者がいない。適正のないエージェントを抱えた情報組織ほど始末のわるい代物はない。三十年後に五千人規模を目指すことにして、身の丈相応で営業開始しよう。(165ページ)

[英漢辞典で]Intelligenceを引くと日本語に似ていて、智力、情報、諜報、情報機関といった中国語訳が出てくる。一方のInformationを引くと、情報、通知などとならんで信息という訳もある。信は中国語で手紙の意味であり、返信などと日本語でも使う。息は消息の息である。(189ページ)

私は近い将来日本でも一般のInformationは「信息」に統一され、Intelligenceを諜報ではなく、情報と使うようになるのではないかと予測する。「情報」は文字通り、情に報いるものだからIntelligenceの訳語にふさわしいと思う。(190ページ)

2004年06月09日

泥棒を捕まえに泥棒を送り込む

"Ex-C.I.A. Aides Say Iraq Leader Helped Agency in 90's Attacks" (New York Times)

イラクの暫定首相になるIyad Allawiは、かつてCIAと協力してサダム・フセイン政権に対抗するために爆弾テロをしていたと元CIAのオフィサー複数が認めたという。Allawiの第一優先事項は爆弾を止めさせて治安を回復することだというから、「Send a thief to catch a thief」というわけだ。彼の反体制グループの爆弾テロはフセイン政権には何の影響も及ぼさなかったようだが、よりによってそんな人を引っ張り出すとは人材難もはなはだしい。あるいは、アメリカの傀儡政権を作るという冷戦時代の発想からアメリカは抜け出ていないのか。そこまでひどくないと信じたいが。

2004年06月04日

CIA長官辞任

テネットCIA長官が7月辞任 大量破壊兵器で引責か」 (asahi.com)

いつどうやってやめるかが焦点だったCIA長官人事。「個人的な理由」としたものの、更迭の印象をぬぐえないということか。

世界で一番情報を握っているはずなので、情勢を見極めることができなかったのはなぜなのか。

2004年05月13日

盗聴できない量子暗号

盗聴できない量子暗号、実用化に一歩 産総研が最速通信」(asahi.com)

量子暗号や量子コンピュータというのは何度読んでもよく分からない。「従来の約100倍、世界最高速の毎秒45キロビットを達成した」というけど、そんなに遅いのかと驚いてしまう。いい解説書はないものだろうか。

2004年05月04日

中国の無線LAN標準

China, U.S. strike trade accord (ZDnet)
China Downplays Wireless Security Delay (Yahoo!)

ちょっと古いけど、中国は独自の無線LAN技術標準採用を見合わせることで米国と合意した。この標準が採用されると、無線ネットワーク上のあらゆる通信を政府が解読できることになるという。いやはや。

2004年04月23日

国民のあらゆる通信を解読

米中が貿易摩擦解決に向けて合意(CNET)

WAPIの仕様は、中国政府がワイヤレスネットワーク経由でやりとりされる国民のあらゆる通信を解読できるようにつくられている。

勘弁してよ。なるほど中国からCFPに参加者がいないわけだ。日本からは今年は5人かな。うち2人はカリフォルニア在住。

2004年04月21日

YOU ARE ON CAMERA(2)

ワークショップに出たら、やはりこのタクシーの問題が気になった人がいたようだ。彼によると、写真を撮っただけではその人が誰なのかはわからないけれども、タクシーの中にRFIDのリーダーをつけておいて、その人が持っているタグの記録をできる限り読んでしまえば、どこかのデータベースで引っかかるようになるだろうという。犯罪者は裸でないとダメだね。

2004年04月20日

YOU ARE ON CAMERA

1時間遅れでサンフランシスコに到着。入国のセキュリティが厳しくなったというが、何の問題もなく通過。「ビジネスって何?」「会議出席です」「何の会議?」「コンピュータ関連の会議です」「どこで?」「サンフランシスコとワシントンDCとボストンです」で終わり。

前の人はビザを持っていたみたいで、指紋をとられていた。入国審査官の前に、小さな電子式指紋読み取り装置が据え付けてあって、左手の人差し指、右手の人差し指を順番に乗せるだけでいいらしい。

サンフランシスコ空港からバークレーまでタクシーに乗る。ぼおっと窓の外を見ていると、窓に「YOU ARE ON CAMERA(カメラに撮られてますよ)」と書いてある。「何?」と思って反対側を見ると同じステッカーが貼ってある。

youareoncamera.jpg

カメラはどこだと探すと、バックミラーのところに確かについている。

camera.jpg

「Fare View in Operation」とも書いてあるから、料金トラブル防止のためらしい。しかし、それだけじゃないだろう!? いやはやアメリカもすごいことになってきている。こんなのありか?

#TKさんに写真を明るくしてもらったので差し替えました。ありがとう。

2004年04月15日

高額な携帯電話の傍受費用

米の捜査当局、高額な携帯電話の傍受費用に音を上げる

ニューヨーク州司法当局は、費用が急騰した時期を経て、現在年間40万〜50万ドルの通信傍受費用を支払っているという。

やっぱりけっこうやっているなあという感想。1ドル100円とすると4000万円〜5000万円。50州で単純に50倍すると、20億円〜25億円。

これは携帯電話だけだから、固定電話やインターネットの通信傍受がさらに加算される。記事にあるように、携帯電話は高いのだろうけど、それにしてもなあ。これも犯罪やテロを防ぐコストだと思えば、安いのか、高いのか。

2004年04月08日

欧州中央情報局

日本国際問題研究所のニューズレター『焦点 世界のいまを読む』第7号(2004年4月)に友田錫氏が欧州中央情報局のことを書いている。

テロとの戦いで最も重要な情報能力強化について、EU本部提案の欧州版CIAである「欧州中央情報局」の創設は情報独占にこだわる英、独、仏の反対で実現せず、情報交換と政策調整にあたるテロ担当官の新設や容疑者データベースの創設にとどまった。

なかなか興味深い。独仏は英米のインテリジェンス活動に反対するという構図だと思っていたが、そうでもなくなってきているということか。