早稲田黄金時代、直前直後の7回の優勝がそれを物語る。57・58回大会
にいたっては優勝・準優勝独占であった。なのにこの大会に限ってなぜ‥‥?
不思議な結果であった。しかしその早稲田の奢り、というよりその間どうし
ても勝てずにいた東京大学の苦しみを知らずにいたことが敗因なのかもしれな
い。東大の主将は木原。前回も主将として挑んだこの大会では、全試合相手
チーム主将にも関わらず全勝、しかしチーム成績は振るわなかった。この大会
を最後に卒業、職域最後の出陣であった。池野選手は主将・木原の一つ上の学
年。優勝を知らずに卒業していった中村・関谷の同級生である。さらに力を持
ちながらなかなかチャンスの巡って来なかった井上・小林・山崎ら若手が抜擢
された今回の東大チームであった。
ディフェンデング・チャンピオン早稲田は主将に学生時代数々のタイトル戦
を荒らした波多野、これも最後の職域出場となる。経験豊富な萬年・下宇宿、
さらに連勝中の柳・小澤、と万全の布陣。おそらく出陣に際して微塵の不安も
なかったのではなかろうか? それが証拠に東大のいるブロックにレギュラー
のチームをぶつけた。果たして第一試合での大勝負。余裕の布陣を組んでいる
早稲田は、「この一戦」に賭けた東京大学立ち後れる。
小澤−井上
柳−池野
下宇宿−山崎
萬年−小林
波多野−木原
決して東大に有利な組み合わせではなかった。小林・山崎は初めて
のAチームでの出場ということを考えると、早稲田の5勝とみる者も
いた。しかしこの2年生コンビはプレッシャーなどどこ吹く風、強敵相手
に大接戦を演じた。小澤勝ち、池野勝ち、1勝1敗で迎えた1枚−2枚の
場面、小林が自陣を守り2勝目をあげれば、木原は絶対に抜きたい敵陣の
1枚・1字の「はなさ」をみごと抜き、山崎とともに1−1に持ち込む。
2勝している東大、木原の送り札は、当然山崎の持つ「ちぎりき」。札合
わせ完成。出札は「ちぎりき」で山崎守り、東大3勝。
早稲田Bチームはこの後なんと
5勝・5勝・5勝、実に20戦17勝の驚異的な勝ち星を重ねるが、後の祭り。
緒戦の星を落としたのが痛く、3位に終わる。
挽回を狙う早稲田Aチーム、東北大学に敗れたものの慶應大学との一戦では
村越が驚異的な粘りをみせ、逆転勝ち。大井川に敗れた東北大学をかわし決勝
進出する。
勝てば5連覇となる早稲田大学と悲願の初優勝目前の東京大学。しかし
早稲田は「裏」チームであり、東大有利と思われた中、意外にも接戦となる。
今日絶好調の小林が圧勝、木原も主将浅倉をくだし東大2勝。早稲田は期待の
1年生福原・A級に抜擢された2年生の山川、若手2人の活躍で2勝。勝負は
池野−村越戦に預けられた。前試合の疲れ抜け切らぬ村越、池野に大量のリー
ドを許すが、再び驚異的な粘りをみせ、1−4まで追いすがる。しかし次の
出札は池野の手の中に収まり、同時に東大は初の職域を掌中にした。
メンバーでは早稲田が明らかに充実していた。しかし東大の「打倒・早稲
田」に向けて1点集中した気持ちが今日この日の結果を導いた。抜擢されそし
て活躍をみせた若手小林・山崎は今回以降「職域男」「職域女」として名を馳
せることになる。ポイント早稲田戦で貴重な勝利を収めた池野は同期中村・関
谷が届かなかった夢に到達する。井上も次期主将として貴重な体験を得る。そ
して主将木原。初戦の波多野戦を1−1で落としているが、全勝した前回より
はるかに嬉しい悲願の職域大会初優勝。満願成就での卒業となった。
(田口貴志氏による観戦記)