55回大会以来、5度の決勝を演じている東京大学と早稲田大学、両大学の
マッチレースで職域大会は盛り上げられてきた。しかし両大学についてしまっ
た力量の差を、まざまざと見せつけられた大会となった。
東京大学のメンバー、これはなんと全員が優勝経験者、しかもこの1年の間
に初優勝を果たした者たちによるドリームチームであった。水沢での吉井、宮
崎での小林、新春での中原、宇佐での片山、福井での新川。(但し、山崎選手
のいた前回も同様。)
しかし強調したいのはそのチーム力ではなく、前回伏兵・大井川高校に遅れ
をとった東京大学の、その「本気さ」加減である。
対抗馬の早稲田大学も決して弱いチームではない。前年の選抜大会に優勝し
た池田、この年の選手権大会優勝・準優勝の福原・中本と、タイトル選手を揃
えたチームである。いかに全員が優勝経験のある選手とは言え、そう簡単に倒
せるはずはない。それをあっさり、ほとんど接戦とさえならず4−1と退けて
しまった。その秘訣は? これは意外にありふれたことである。いわゆる「心
構え」である。実に単純なことに感じるが、これまた意外に簡単な話ではな
い。むやみに「やるぞ」「勝つぞ」と連呼する無鉄砲な気合いとは違う。「勝
つことは苦しいこと」ということを知っていなければならない。その上で「早
稲田を倒して優勝する」ということに全員の気持ちが高いレベルで一致してい
たということである。
早稲田とは朝の決戦を選んだ。決勝の盛り上がった時は、相手も120%の力
を出してくる危険がある。むしろ相手の気持ちの落ち着かない朝こそ有利と見
るや、Bチームに主力をかためたその勇。そして自分たちは朝の勝負に不利と
ならないよう、なんと大会前に1試合練習を済ませた者もいるというその計。
負ける悔しさと勝つ喜びを知り抜き、早稲田を倒すためなら最大限の努力をな
すことのできる心構えを持つ一流の選手ばかりだからこそできうることであ
る。
少々誉めすぎのようにも聞こえる。だが、いったい他にこれほど勝負に真摯
なチームがあるのだろうか。東大を誉めるのは、他のチームに「東大に続け」
とばかりに燃えるチームの登場を願うからに他ならない。力のあるチーム同士
の真剣勝負があるからこそ、我々傍観者も職域を見に来るのであり、感動する
のである。さらなる東大の活躍、そして新たなチームの挑戦も待たれてならな
い。
(田口貴志氏による観戦記)