<第67回職域・学生選手権大会A級(1997年3月)>
今回で4度目のA級挑戦となる暁星。しかし今までの成績を見ると95年の
3位以外は思わしいものではない。さらに今までチームの勝利の半数を
稼いでいる両エース田口・伊藤が練習不足とあり、あまり高望みをして臨
んだ大会ではなかった。選手の合い言葉は「全員が力を尽くしてA級陥落
阻止」であり、そのため好調の安藤を副将に据え、ポイントの争いに備え
ていた。
1回戦・対富士高
最初の相手は前年の高校選手権で29勝1敗と記録的な優勝を収めた富士高校。
その時のメンバー3人を中心とした2年生チームでの参加であった。その3
人は前年夏以来A級で10ポイントを稼いだ超高校級の選手であり、このブロッ
クでの打倒東大の1番手であった。暁星にしてみるとここでの勝利は夏の高校
選手権に向け大いにアドバンテージとなるため、攻めの姿勢、2・4に田口・
伊藤を据えた。果たして田口が主将と対戦を果たす。
この試合の殊勲者は5将に下がった堀口。ほぼ同格と見られた選手に序盤から
ラッシュ、16枚の大差で圧勝、チームに追い風を送る。続いて伊藤が9枚差、
田口が6枚差で逃げ切り3勝、待望の勝点に辿り着いた。
2回戦・対東京大学A
前回は東大同士の決勝であり、今回も優勝候補の最右翼である。しかし前回の
優勝メンバーをA級の2つのチームに分ける大胆な編成を組む。このチームは
優勝メンバーの中原・片山が中心と思われた。組み合わせは田口−片山が
あたり、結果としてここが勝負の肝となった。この試合の殊勲者は安藤。16−
25の大劣勢から突然の追い込み、11枚差で1抜けし暁星先勝。そうなれば
先の試合同様伊藤・田口の順に逃げ切り、再び3勝2敗で勝ち点をあげた。
3回戦・対長泉高
初めてA級で東大を破り意気上がる暁星、あわよくば長泉をかわして
初の決勝進出と欲は膨らむ。しかも組み合わせは万全であった。しかし好事
魔多し。エース伊藤が相手B級中野利の確実な攻めの前に突如大乱調、大差で
痛い1敗目を食らう。安藤も主将・一藤木の前に完敗、2敗目。折しも隣で
試合をしていた東大Aは高らかに4勝を宣言。勝ち星に劣る暁星は決勝進出
するためには残り3人誰も負けられなくなってしまった。前日の学生でA級に
上がった鳥羽がこの日初めての勝利で1勝すると田口も接戦を制し2勝2敗。
全ては堀口に託された。相手は前日の学生でもA級で活躍した「天才」と評判
の1年生富田。堀口、スピードに劣るものの職域4年目の経験を活かし食らい
つき、逆に1−3でリーチをかける。1枚を守られたものの、1−2から出札
「あさ」を激振、3勝。暁星ファイブの歓喜が決勝への陣太鼓のごとく響き
渡る。
決勝戦・対東京大学B
前年の名人戦東日本予選で決勝を演じた新川・吉井を擁する東大B。予選で
早稲田を破り職域連覇へ王手をかけている。初の決勝の舞台での緊張が心配
されたが、この恐いもの知らずの高校チームにそんな心配はなかったようだ。
組み合わせは両エースに吉井・新川を当てられる苦しい形。しかし40枚詠ま
れた時点で暁星5人全員がリードを奪っていた。その日どちらかといえば
自分の試合に集中し、いつものように声をかけていなかった暁星もここにきて
テンションは最高潮、「もしかして東大に勝てる!?」互いの力を信じあい、
「暁星ファイト!」の声がこだまする。もちろんそのままではいかせない
東大、新川・吉井逆転する。しかし失うものの何もないチームと勝たなければ
ならないチームの重圧の差か、堀口・安藤相次いで勝利、王手をかける。田口
が新川に6枚差で敗れ2勝2敗となった時、勝負を握る鳥羽は2−4とリード。
チームメイトと暁星OBが見守り会場中に緊張が走る中、鳥羽は敵陣急襲・連
取! そして大歓声!!
高校チームとして15年ぶりの優勝が達成された。
37回大会の富士高以来、実に30期・15年間も職域優勝から遠ざかっていた高校
チーム。一つには大学チームのレベルの向上があった。試合後の栗栖審判長か
らの講評にもあったように高校卒業者が大学で敵に回るという事情もあり、
参加の高校チームには苦しい職域が続いていた。その中で今回の暁星の優勝は
無欲さと若さの勢い、そしてチャレンジ精神の賜物と言える。
注目したいのは暁星は全試合を3勝2敗で勝ち進むわずか12勝しかない優勝で
あったことである。12勝に一つでも負けがまじっていれば暁星の優勝はなかっ
た。決して選手一人一人の力が高かったわけでなく、チーム力も傑出している
とは言い難い。その中で選手一人一人が自分の試合を大切に戦ったことが運を
呼び込んだものと思われる。
さらに特筆したいのは、決勝戦で敗れた両エースをカバーしきったチーム
ワークである。今までの暁星のA級での勝利の半数以上を稼いだ二人が
倒れても勝ちきったことは、一つには同じチームで試合に出続けている
幸運さがある。先輩たちがA級に上げて受け継いだチームに2年間変わらず
出続けることは中高一貫校でもなければまず無理である。今まで時に勝負
弱いところも見せてきたこのチームが、今回これほどの勝負強さを見せた
のは、それまで何度も積み重ねてきた失敗に負うところが大きい。今回この
チームには全勝者はいない。これも団体戦ではたいへん珍しいことである。
団体戦優勝チームには軸となる全勝のエース、またはその日突然好調となる
全勝者がいるものである。しかし試合毎にかわる殊勲者がそれをみごと補っ
た。3勝者2人・2勝者3人の12勝には、逆に3敗以上の者もいない。まさ
に全員の力を合わせてのぎりぎりの勝利であった。
ある意味で理想的な団体戦の勝ち方を演じた今回の暁星の試合は、自分が
参加していたということ以上に、人に伝えたいもののある試合の連続であっ
た。
(田口貴志氏による観戦記を転載しました)
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