テーマ研究会
パブリック・ガヴァナンス(Public Governance)

講義シラバス(担当:玉村雅敏)

 研究の目標

 「公共部門(政府)のガヴァナンス」と「パブリックを供給するためのガヴァナンス」の特性を理解し、現在のパブリック・ガヴァナンスが直面する課題と今後の姿を考察する。 

 研究の概要・授業計画

 「ガヴァナンス(governance)」とは、「統治」「支配」「管理」を意味する言葉である。ヒトは社会的動物であり、集団を組織し、分業を行なうが、そのためには何らかの「ガヴァナンス」のシステムを創り出し、維持する制度や機構が必要になる。

 この講義ではとくに「パブリック・ガヴァナンス」に注目する。この「パブリック・ガヴァナンス」とは、以下の2つの意味を持ち合わせている。

  1.公共部門(政府、ガバメント)のガヴァナンス

  2.「パブリック」を提供するためのガヴァナンス

 これまで、公共財・サービスの提供など、民間部門や非営利部門の活動では提供しにくいものを提供することが公共部門の存在意義の一つと定義されてきた。そこで、公共部門は、住民から税を集め、公共に関すること(=「パブリック」)の提供をほぼ独占的に担ってきた。結果として、(特に日本では)これら2つのガヴァナンスは、ほぼ同義のものとして扱われてきた。

 しかし、近年、この前提を問い直す、様々な流れが現れてきている。

 例えば、1970年代後半以降、財政赤字の増大と公共部門のパフォーマンス(業績成果)の悪化という2つの危機が顕在化したことがあげられる。これは公共部門が独占供給していることによる弊害などが「政府の失敗」として認識され、公共部門による「パブリック」供給モデルのあり方(非効率性、低生産性)に疑問が呈せられることとなったのである。

 他には、インターネットに代表される「オープンネットワーク」の社会的な浸透の影響も今後注目すべきことである。オープンネットワークが浸透した結果として、領土いう概念に縛られない「ネットワーク上のコミュニティ」という新たな活動空間が現れてきている。政府・自治体などの公共部門の活動は、一定の「地理的な領土(ジオグラフィカル・ドメイン)」を基本単位としている。しかし、一定の地理的な領土と、ある課題に対する「論理的ドメイン」が必ずしも正確に重なり合っているとは限らない。例えば、環境問題や民族紛争など、領土という範囲には収まらない現象は多く存在する。領土という概念に縛られない「ネットワーク上のコミュニティ」での合意形成やボランタリー・コモンズの経験は、今後のパブリック・ガヴァナンスのあり方にとって何らかの示唆となるものであろう。

 この研究会では、様々な文献調査や事例研究を前提としたディスカッションを通じて、まず「公共部門のガヴァナンス」と「パブリックを提供するガヴァナンス」の特性を理解する。さらに、パブリック・ガヴァナンスが直面している様々な環境の変化を把握し、今後の姿を描き出すことを目的とする。

 キーワード

パブリック、ガヴァナンス、公共部門、NPM(New Public Management)、政府の失敗、ヒエラルキーモデル、市場モデル、ネットワーク組織モデル、合意形成、官僚行動、成果志向、評価システム、オープンネットワーク、ボランタリー・コモンズ、信頼、信用

 評価基準

研究会への参加度(積極的な発言)やレポート等を参考に総合的に評価する。

 履修上の注意:

この研究会は、毎回、読むべき文献を多数配布します。講義時間外に、配布した文献をすべて読んだ上で、さらなる調査等を行い、熟考を重ねた上で、講義に参加してください。