注:本稿は『行政評価による地域経営戦略(中央法令出版)』の一部分についてさらに抜粋して連載したものです。全容を捉えることのできる詳細な全文は『行政評価による地域経営戦略(中央法令出版、99年3月出版)』をお読みください。
時事通信社「地方行政」掲載前草稿
連載:行政評価の実例−米国オレゴン州ムルトマ郡から
第一回 『「わがまちはどれだけ豊かになったか」に答える
−第1章・ムルトマ郡をとりまく環境−』
「行政経営フォーラム」海外調査会
自治体経営にとって、「行政評価」は今日最も関心の高いテーマの一つではなかろうか。米国オレゴン州やカリフォルニア州サニベール市などの海外事例がよく紹介されるが、国内でも三重県の「事務事業システム」や静岡県の「業務棚卸し」などの実例が出始め、多くの自治体が導入しようとしている。国レベルでも、通産省が政策評価広報課を設置し研究会を通じて手法を開発中だし、建設省は道路行政に評価システムの導入を早々と決めている。総理府も行政評価局の新設を決めた。このように、行政評価の概念や、作業のフォーマットや実施体制は徐々に整いつつあるが、その運用の実態については、わが国ではまだあまり深く研究されていない。
「できないこと」も公開
行政経営フォーラムは、民間経営のノウハウを行政改革に生かそうという有志が集まる非営利の研究団体である。行政評価は昨年来、多くの会員の関心のテーマであり、今年2月3日には三重県と静岡県の実務担当者をまじえ、両県の評価制度の比較検証などを行った。また、海外の評価制度の運用の実態を調査しているところである。その一環として、今般、米国でも行政評価の先進事例として広く知られている、オレゴン州ポートランド・ムルトマ改革委員会の行政評価報告書(正式名は「コミュニティ・ベンチマーク1996年報」)の全訳作業に取り組んだ。
この報告書の全体は、二月末に東京法令出版より『行政評価指標による地域経営戦略−ムルトマ郡におけるコミュニティ・ベンチマーキング−』という書名で刊行される予定だが、本誌では、その一部をかいつまんで、今回以降六回の連載でご紹介したい。
この報告書は、行政評価に関心を持っておられる自治体の首長、議員、幹部職員の方々に対して格好な事例を紹介出来るものと自負している。さらに、各自治体で行政評価指標の開発に取り組んでいる実務担当者の方々の次のような問題意識に対して、実例でもってお答えできるのではないかと思う。
- 教育、児童・家族、生活環境などの各分野でどのような行政評価指標を導入すればよいのか。
- 住民の視点に立った評価指標項目とはどのようなものか。
- 成果志向による行政改革を促すうえでは、どのような目標指標値を設定するのが妥当か。
- 指標を設定するうえではどのような難しさがあり、また年輪を重ねていくうちに解決すればよい課題としてはどのようなことがあげられるか。
この報告書では、洋の東西を問わず実務担当者が直面するこのような課題に対して、ムルトマ郡の場合はどのように対処し、またどこまでできて、かつどこから先はまだできていないかということまでもが、赤裸々に「公開」されているのである。
“ヨコ糸“からの評価を
さて、日本の行政評価は今のところ、行政マンが中心になって、すでにある事務あるいは事業の妥当性、効率性を評価するという切り口から始まっている。これはいわばタテ糸からの評価といえるのではないか。それに対して改革委員会のベンチマークの73項目は、受益者である住民側のニーズをリストアップしたもので、いわばヨコ糸からの評価と考えることができる。タテ糸からの評価によって自己点検をするのはもちろん重要だが、住民の視点になりきってヨコ糸からの評価でそれを再チェックするのはもっと重要である。本書の視点が、日本で今普及しつつあるタテ糸からの評価のバージョンアップのきっかけになるのではないかという期待をわれわれはもっている。以下、六回にわたる連載は次に示す翻訳書の各章のうち、☆印のついた章の要旨をカバーするものである。当調査会のメンバーが分担した作業結果を基に、同メンバーのうち上山信一、吉川富夫、稲沢克祐の各紙らが編集・加工した。
本プロジェクトは、インターネットやファックス、電話を駆使して、全国ときには米国までをもつなぎ、日頃は直接知り合うことのないメンバーが協力し合って行った作業の成果である。わが国の行政評価の導入に、今回の企画が少しでも寄与すれば幸いである。
翻訳書の構成は次の通り
序 章 ムルトマ郡におけるベンチマークの成り立ち
第1章 ☆ムルトマ郡をとりまく環境
第2章 経済ベンチマーク
第3章 ☆教育ベンチマーク
第4章 ☆子どもと家族ベンチマーク
第5章 ☆生活の質ベンチマーク
第6章 ☆自治ベンチマーク
第7章 ☆公共の安全ベンチマーク
第8章 地域目標
第9章 ベンチマークの開発と活用
第10章 長期ベンチマークの予算化以下、翻訳書の第1章「ムルトマ郡をとりまく環境」の用紙をさっそく紹介する。
イントロダクション
われわれは、毎日、貧困に陥った10代の母親の話、衝撃的な犯罪や伝染病の流行といったニュースなどの新聞記事を目にする。そこでふと思う。「果たしてわれわれは進歩をしているのだろうか?ムルトマ郡の状態は1世代前より良くなっているのだろうか? 」これらは、誰もが知りたいと思う疑問であり、ムルトマ郡の政策当局と都市のリーダーたちが答えを探して取り組んでいる問題でもある。ポートランド・ムルトマ改革委員会 (Portland Multnomah Progress Board) は、コミュニティの現状を示す指標である「ベンチマーク」(Benchmarks)を通してこれらの問題を考えている。3,000人の住民を巻き込んで進められた膨大な努力の結果として1994年に確立された「ムルトマベンチマーク」は、この「われわれは進歩をしているか?」といった疑問に答えてくれるものである。さらにまた、地域の問題に対して地域の構成員が協力して取り組むための「触媒」の役割を果たすものである。
「1996年ポートランド・ムルトマ改革委員会年次報告書」においては、76のベンチマークに関する情報を分析している。 この「報告書」では、1994年の最初のベンチマークづくりの時に、もともとランダムに付けられていたベンチマークの「通し番号」はそのまま維持することにしたが、ベンチマークの数をより単純化し、また論議の焦点を絞り込むため、委員会は「人々」に関連する各ベンチマークを、性に関するもの、人種に関するもの、年齢に関するもの、そして収入に関するものに区分けし分析した。その結果、いくつかの重複するベンチマークを排除することができた。また、1995年にはいくつかのベンチマークが追加され、分析に利用できるデータがもっと明確にわかるよう、いくつかのベンチマークにおいては用語の変更がなされた。
さらに、分析を行う際により焦点を明確にするため、この報告書では、ベンチマークを「経済」「教育」「児童と家族」「生活の質 (Quality of Life)」 「自治」「公共の安全 (Public Safety)」 という6つの領域に分けて論じることにした。
記述の方法としては、各ベンチマークの数値上の変動を明確に示すために、「増加」あるいは「減少」といった「変動を示す動詞」を用いてベンチマークの表現を試みることにした。
委員会は、すべてのベンチマークの目標水準の確立はまだできてはいない。だが、求められるものの方向性は明確になりつつある。しかし、いくつかのベンチマークについては、現在のベンチマークの状態がわからないために、求められるものの方向性も不明確である。こういった場合には「監視」という用語を使うことにした。
これまで述べていたように、ベンチマークというものは、データやその分析手法を改善することや、コミュニティのビジョンとして掲げたことの達成状況を測定するより良い手法の開発を進めることなど、常に「進歩の過程」をたどるものである。
そのためにも、すべてのベンチマークに対して、データの提供や意見・主張の発言を歓迎する。
社会風潮
「ムルトマ郡では、こんな事実を重視しています」 |
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1990年代を通じて行われてきた様々な調査によって、ムルトマ郡の住民のもつ、多様な政策論点に関する意見が集められてきた。ポートランド・ムルトマ改革委員会は、数々の分野における専門家によって提供される他の情報と同様に、これらの調査から得られる情報についても研究をしてきた。「市民は地方政府に対してより信頼を置くようになってきている」
市民は地方政府のサービスは向上してきていると感じている。報告によれば、市民は地方政府ごとの役割の違いをより理解し始めている。さらに、市民は地方政府によって行われている「特別サービス区域」の整理統合を好んでいる。より生活に近い政府を作り上げることも望んでいる。政府の位置が遠くなるほど市民の信頼は減っていくとも報告されている。
「市民はコミュニティを求めている」
多くの市民は、現在の「郊外化」として一般に指摘されていることは、個人のコミュニティ意識とは無関係なものであると考えている。 市民は、地域における活動と同様に、仕事や娯楽の活動においても、人々と相互に接点を持つといった生活習慣から得られる利益に注目し始めている。地域の新聞や他の形態のコミュニケーション手段を頼りにするといった傾向は、このことを象徴している。
「市民は社会の論点がどれほど複雑であるかを理解している」
ここ数年のポートランド市の予算策定過程において行われた「あなたの町のあなたの選択調査」からわかることだが、ある傾向が見られるようになってきている。それは、市民はみずからの住むコミュニティの論点(例えば交通問題や公共の安全など)を一つだけを取りたてて主張するのではなく、いくつかの論点(例えば教育、経済開発、成長管理、公共の安全など)間で相対的に比較して主張する、といったことである。
「市民は自らの長期的な財政状況について不安を抱えている」
われわれは自分の経験をもとに社会の論点についての自らの意見をまとめるものである。ただし、社会の傾向に関する情報の十分に得ている市民や、自分自身の興味以外の領域で行動する市民は希である。さらに言うならば、富裕層と中流層といった階級の分離、意識面での距離感を生み出しているわれわれの経済システムの下では、生活様式の変化から直接的な影響を受けなかった市民はほとんどいない。賃金はわずかに増大するか、もしくは停滞している経済の現状においては、文字どおり、「在宅勤務」を求めるといったこと(すなわち失業)が起こっている。こうした傾向は、市民に将来への不安な思いを抱かせることになる。
「市民はますます精神的なつながりを求めるようになっている」
「Thomas Moore's Care of the Soul」や「James Redfield's The Celestine Prophecy」といった本の流行は、精神的な側面への関心が増大しているといったことを暗示している。多くの人々は、忙しい時間を過ごすことから、自らの内面の人間性を捜し求める時間を費やすように変化してきている。こういった動きは、人々が求めているコミュニティ意識とも共通するものである。
成長の管理
「ムルトマ郡では、こんな事実を重視しています」 |
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「2040年地域計画」(The Regional 2040 Plan)今後、ポートランド市民にとってますます気になる話題は、地域を成長へと導くマネジメント(growth management)のあり方である。この話題が最近、市民の関心を集めるようになったのは、メトロ政府が、「2040年にむけての地域計画(Regional Plan for the year 2040)」の採択に関連して、議論を引き起こしたことがきっかけであった。
メトロ政府は、この計画において、この地域の将来の姿を以下のように描いてみせた。
- メトロ地域は強力な中心都市としての機能を持っていること
- メトロ地域全域のコミュニティ・センターが繁栄していること
- 土地の有効利用を促す革新的な都市設計を理想とするコンパクトな開発がなされること
1970年以来、ポートランド市周辺地域の発展のパターンをみると、住宅や職業の増加は、市の中心からもっと離れた所で行われるようになっていくといった、他の都市と同様のパターンを見せている。つまり、ポートランドの場合には、「都市部発展限界線」へ向かっているのである。ただし、ムルトマ郡の場合には、核家族の住宅については、同様の発展パターンに沿っているものの、そのテンポは非常にゆっくりしたペースとなっている。また、それ以上の大家族向けの住宅については、地域のどこでも一定の安定したペースで増加している。
オレゴン州は 都市部がむやみに広がるのを食い止め、また大切な農園や資源のある土地を守るため、「都市部発展限界線(the Urban Growth Boundary)」を設けるといったユニークな方法をとっている。土地利用計画と区画調整の両面から強い規制がかけられているため、この「都市部発展限界線」は都市部の明確な境界線を作り出している。この規制には、ムルトマ郡全域が含まれるだけでなく、クラカマス郡(Clackamas)や、ワシントン郡の一部も入っている。メトロの2040年地域計画で描いたビジョンを実現するには、市当局は、この「都市部発展限界線」を調節する必要が出てくるかも知れない。
1974年以来運用されてきたオレゴン州の土地利用システムは今、地域の急速な発展という新しい局面に直面している。現在のシステムがそのまま通用するかどうかは、このメトロ地域が21世紀に向けたビジョンをどの程度実現することを目指すのかにかかっている。地域内の都市と協力をしながら、メトロ政府は、2040年計画が掲げたビジョンを実現するために、どの程度、土地開発をする必要があるのかを推定する作業を行っている。われわれポートランド・ムルトマ改革委員会は、この数字が確定し次第、ただちに計画の進行具合を測るためのベンチマークを開発する予定である。
訳注)文中に出てくるメトロ(Metro)とは、ポートランド周辺のオレゴン州メトロポリタン・エリアの3郡(ムルトマ郡・クラカマス郡・ワシントン郡)・24市についての、主に都市開発や交通、住宅政策を担うための地域共同行政体指す。
子供の置かれている現状
「ムルトマ郡では、こんな事実を重視しています」 |
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取り残されたままの子供もいる
- 過去十年において、20歳から34歳までの年齢グループの成人における貧困の割合が急速に増えている。
- このグループに属する両親を持つ子供たちは、以下のような様々な危険に出会う可能性がある:出産以前のケアが不十分であること、幼児期において不健康な状態にさらされること、幼稚園に入園する時点での学習のための準備が不足すること、そして結果的には学校や社会でうまくやっていけないといったことに直面する。
こうして、貧困で自立できないといった状況は、永続し、なお悪くなっていくのである。 それでは、失業や収入が不十分となる雇用とはどうして生まれるのであろうか?基本的な教育の質が足りないためであろうか?教育の期間が短すぎためであろうか?就業のためのトレーニングが足りないことが原因であろうか?仕事に対する態度が間違っているのであろうか?それとも、反社会的な行動を彼らがとっているとでもいうのであろうか?彼らの幼い子供たちを助け、また現在の貧困の影響とも戦いながらも、彼らの状況を改善していくにはどうしたらよいのであろうか?ポートランド・ムルトマ改革委員会は今後もこの件に関して調査を進めて、こうした疑問に対する答えを見つけていこうと考えている。
ベンチマーク:その方法と現状
アカウンタビリティ(説明責任)ベンチマーキングは、行政評価(performance measurement)という大きな動きの中の一部である。また、行政評価とはそもそも、市民に対して政府の公共プログラムを説明する義務をさらに果たしていこうとする、政府内から始まった動きである。政府の提供する公共サービスの財源が不足していくにつれ、また、市民の側も自分たちの支払う税のより価値ある使い方を求めるようになるにつれ、我々はもっと高い水準の効率性と成果を実現していく必要に迫られるようになった。
ベンチマークは、行政を運営する人間にとっても、そして市民にとっても行政の実態を分かりやすくすることで、このアカウンタビリティ(説明責任)の問題を単純化しようと試みている。
ベンチマークの概念は、もともとは民間ビジネスから借りてきたものだ。民間企業、特に製造業などでは、ある事項に関して、同業社内での基準を設定し、それと比較するために自分の企業の実態を測るといったことが行われている。アメリカ国内のいくつかの州・地方政府ではすでに、自分たちの業績を評価するため、この種のベンチマークを始めている。
オレゴンにおいては、この「ベンチマークという言葉を、計測が可能なもので、かつ時系列に追っていける、コミュニティ全体にまたがるものに限って利用することとしている。例えば、犯罪率や、住みやすさを示す指標、住民の健康状態を示す指標などがそれにあたるものである。結局のところ、我々の利用するベンチマークとは、最終的な目標(ゴール)を達成するために十分な進歩を遂げているのかどうかを分かりやすく内外に示す、戦略的な業績指標であるといえる。
ターゲットの設定
我々の経験では、ベンチマークを行うにあたっては、ターゲット(個々のベンチマークの達成目標)を設定することは非常に難しい仕事である。ターゲット設定のプロセスは苦労に絶えない。仕事の性質上、かなりの程度の主観が入りこむことになりやすい。また、あまりに理想的で非現実的なターゲット、もしくは、達成することがあまりに容易なターゲットのいずれを作ったとしても、政策を実施する組織と説明責任のあるコミュニティとの間に挟まれて苦労することとなる。それ以外にも、ベンチマーク項目に選んだ事業の業績を良くするためにはどの変数を改善すればよい結果が出るのかなど、あまり明確でないことが多いし、行政を運営する立場の者が、将来、このベンチマークの業績によって予算が決められることに不安を抱いて、ためらいを感じることも分かっている。さらに意識したいのは、ベンチマークの中には改善するにはコストがかかり過ぎるものもあるということである。ターゲットを達成したときに得られる利益と、その時の限界的なコストを、きちんと把握しておいた方が良いということも分かってきているのである。
われわれは、すべてのベンチマークにターゲットを設定したいと考えているが、現在のところはターゲットを設定できるようデータの収集・分析を行っている段階である。その方法は以下のとおりである。
- 住民の意志 (Public Will):まず住民に問うこと!住民調査や電子投票、市民アドバイザー・グループなどを通じて情報を得ることを行う。
- 傾向の予測 (Trend Projection):傾向の分析を行い、ベンチマークに良い変化が見られれば、そのまま将来も続くとの予測が立つことになる。
- 比較をする (Comparability):ベンチマークによっては、匹敵する他の行政区やプログラム、またはグループなどと比較が可能なものもある。
- 広く受け入れられている基準 (Widely Accepted Standards) :いくつかの指標基準に関しては、専門家グループや他のグループによって開発・発展されているものもある。
- その他すでに設定されているターゲット (Targets Set by Others) :オレゴン州が既に示している「オレゴン・ベンチマーク」が既にかなりのベンチマークに関してターゲットを作っており、そのままムルトマ地域においても使えるものも多い。
- 継続的な改善 (Continuous Improvement) :我々の関心はコミュニティに関する指標を良い方向へと動かしていくことにある。従って、時には、我々が最も望むのはゆっくりと、継続的な改善になることがある。
ベンチマークの体系の提案
- ビジョン (Vision):将来のある時点までに、コミュニティが達成したいと考える、全体的な特徴のこと。
- ゴール (Goals):コミュニティが望む将来ビジョンを実現するための具体的な条件。
- 戦略的なベンチマーク (Strategic Benchmarks):各分野の課題について、特定の時期ごとに、コミュニティの状態を示す指標のこと。この指標は、ゴール達成に向けてどれだけ前進しているのかを計測している間、つねに追跡されるものである。
- 比較のための指標 (Comparative Indicators):人口規模や密度、生活費、その他の要素から、比較可能と思われる他のコミュニティの状態。ただし、どのコミュニティも、それぞれ違った要素の組み合わせを持ち、また独特の雰囲気をもつものであるため、厳密な比較をすべきではない。
- 業績評価 (Performance Measures) :プログラムやその他の活動の業績成果を評価するために使う指標。業績評価 (performance measures)とは、プログラムや他の活動の結果を評価できるようにする道具であり以下のものを含むものである。
- 事業量の評価 (Workload Measure):そのプログラムによって実際にはどれだけの量の事業が行われたかを示すもの。
- 効率性の評価 (Efficiency Measure):使用した資源(コスト)と、行った事業との関係を明らかにするもの。
- 効果への評価 (Effectiveness Measure):そのプログラムがどの程度結果を出したのかを測定し、いかに効果的であったかの結論を出すもの。
指標に関する補足
よくある意見は、コミュニティの全体の状態を示す指標が欲しい、ということである。いくつものベンチマークを組み合わせて、そのコミュニティがゴールに向けてどのくらいやっているのか総合的に判断する方式を作ってしまえ、という主張もしばしば聞く。また、こういった評価システムに対して、メディアも非常に受け身的であり、この方式がどういう評価法に基づいているのかの疑問ももたずに出版することがある。実際に、いくつもの雑誌において、毎年、格付けの特集を行っている。例えば、「サイクリングに良い都市」「中小企業に好意的な都市特集」「子供を育てるのにより良い街」などである。また、ポートランド市は、ゆとりや暮らしやすさにおいて突出しているということで、頻繁に高いランキングで取り上げられている。
ポートランド・ムルトマ改革委員会は、このようなベンチマークを累積的に利用する指標に強い関心をもち研究をしている。こういった指標は、間違いなくベンチマークに対する市民の関心を引きつけることであろう。しかし、そうは言っても、我々のベンチマークに利用するデータ収集はまだ未熟な段階にあり、今のところ、できるだけ信頼性の高いベンチマークを報告しようと奮闘中である。こういった訳で、今以上に複雑な、新しい方式の作成にあえて乗り出そうという準備は行ってはいない。
ベンチマークは、システムの全体像を理解しておくことの必要性を指摘するものである
ベンチマークが引き起こす最も重要といえる効果とは、コミュニティ全体の現状を最も明確に示す指標をしだいに特定してしまうということである。ベンチマークを用いながら、我々はベンチマーク項目を追加したり、逆に削除したり、または内容をより洗練したものに変えていく。その結果として、ベンチマークは、コミュニティの現状をほぼ完全に描ききったものになっていく。丁寧に一つひとつの項目を検討しながら、たいていの場合、ベンチマークの総数は絞られて行くものである。データと言葉を互いに対応させながら、丁寧にどちらをも洗練させていき、また、同時に何度も徹底的に繰り返し分析も続けるのである。これは実に手間のかかる大変な仕事なのである!
ベンチマークを行っていく上で、早急にしておいた方が良いことは、指標に影響力のある行政システムを理解しておくことである。例えば、1995年に我々は、公共の安全に関するベンチマークを再検討する会議を開くため、ムルトマ郡の法の執行に関わる部署(law enforcement)、法廷、検事、刑務所(correction)などからスタッフを集めた。
この件に関して、我々がそもそもの目的としたことは、情報管理のシステムをより発展させて、個人情報も追跡できるようにして、政策やプログラムの効果をより正確に評価できるようにすることであった。どんな情報システムを導入したとしても、その結果を診断するには「使用前・使用後」の情報が必要となると考え、会議を開いたのである。しかし、結局我々が発見したことは、情報システムに欠点があったというだけではなく、同時に、我々自身の行政システムそのものへの全体的な理解が足りなかったという事実であった。
ポートランド・ムルトマ改革委員会は、将来、このような行政システムの全体像をきちんと描けるようにすることで、よりベンチマークに対する理解を深めること、また、ベンチマークの目標を協力しあって達成していくことに役立てたいと考えている。
(※本文章は執筆者原文のものです。掲載のものとは若干異なります)