「Policy Debate」 政策分析ネットワーク 2002/12「政策評価」文献紹介 玉村雅敏(千葉商科大学政策情報学部 専任講師)
1.政策評価の基本概念
「政策」と「評価」という言葉は、利用される局面に応じて様々な内容を指し示す。例えば、「政策」という言葉は、大別して「Policy(政策:目指す方向性を示すもの)」、「Program(施策:Policyを実現するための具体的な方策や対策のまとまりを示すもの)」、「Task・Project(事務・事業:Programを構成する具体的な活動内容)」の3つがあり得る。一方、「評価」には、英語で言う「evaluation(客観的な基準による事後的な判断)」という意味以外にも、「assessment(事前に行う査定・審査)」、「rating(評定、評点)」、「appraisal(費用見積や資産の鑑定など)」、「valuation(価値基準に基づく判断)」「measurement(測定)」といった意味がある。
このように、「政策」「評価」という言葉は、様々な意味を併せ持っており、「政策評価」が指し示す内容は、その評価対象や評価目的、想定する改善活動などによって異なるものになる。
こういった多様な意味合いを持つ「政策評価」について、その概念や手法、枠組みなどの全体像に関する理解を得るには、以下の文献が参考になる。
政策評価研究会『政策評価の現状と課題:新たな行政システムを目指して』木鐸社、1999古川俊一・北大路信郷『公共部門評価の理論と実際』日本加除出版、2001
山谷 清志『政策評価の理論とその展開―政府のアカウンタビリティ−』晃洋書房、1997
建設省建設政策研究センター『建設政策における政策評価に関する研究−政策評価用語集−』建設省建設政策研究センター、2000
2.政策評価の技法
公共政策の成果として実現を目指す価値は、「投資してどれだけ収益が上がったのか」といった「金銭的価値」よりも、「地域社会がどれだけ豊かになったのか」「日々の不安がなく暮らせるのか」といった「非金銭的(公共的、社会的)価値」に力点が置かれる。
金銭的価値の場合には、その実態は、貨幣価値(数値指標)という形で示され、そのまま分析・評価に利用することができる。一方、非金銭的価値の場合には、自然状態では、数値指標で自動的に実態が示されることはほとんどなく、定性的な価値基準を代替的な数値で指標化するなど、様々な政策評価の技法を組み合わせて分析・評価に利用する情報を得る必要がある。
公共政策において、具体的にとりうる政策評価の技法については、以下の文献が参考になる。
龍慶昭、佐々木亮『「政策評価」の理論と技法』多賀出版、2000山田治徳『政策評価の技法』日本評論社、2000
E.ストーキー・R.ゼックハウザー著/ 佐藤隆三・加藤寛監訳『政策分析入門』勁草書房、1998
三菱総合研究所社会アセスメント研究グループ『社会アセスメント―公共事業評価の手法と総合化』東洋経済新報社、1999
3.行政における評価システム
公共政策の最大の担い手である「行政」の世界には、競争原理が働くオープンマーケットがなく、営利企業のように売り上げ利益といった明確な評価尺度もない。そのため自己改革が進みにくいという特徴をもっている。
こういった特徴を持つ行政システムであるが、国内外の先進的な行政機関では、様々な政策評価の理論や技法を活用して「評価システム」を設計し、機能させることで、民間企業の競争原理に変わる、持続的な自己改革を促す仕組みを構築してきている。
行政において、いかにして効果的な評価システムを構築するのか、「行政評価」とは何か、具体的にどういった手法がとりうるのかなどについては、以下の文献が参考になる。
上山信一『「行政評価」の時代―経営と顧客の視点から』NTT出版、1998石原俊彦・トーマツ『行政評価導入マニュアルQ&A』中央経済社、2001
島田晴雄・三菱総合研究所政策研究部『行政評価−スマート・ローカル・ガバメント』東洋経済新報社、1999
上山信一・玉村雅敏・伊関友伸『実践・行政評価』東京法令出版、2000
小野達也・田渕雪子『行政評価ハンドブック』東洋経済新報社、2001
上山信一『日本の行政評価―総括と展望』第一法規出版、2002
石原俊彦『地方自治体の事業評価と発生主義会計−行政評価の新潮流』中央経済社、1999
星野芳昭『ガバメント・ガバナンスと行政評価システム―企業経営に何を学ぶか』公人の友社、2001
4.行政の経営改革と政策評価
90年代後半以降、日本の地方自治体において、「生活者起点の行政」「行政DNAの転換」「成果志向の行政運営の追求」といった標語を掲げた改革を推進し、行政の活動の結果として何を達成したのかという「成果」を重視する自治体が現れ、行政経営の実態が変化しつつある。
海外の先進諸国の行政経営は、より明確に変化している。例えば、執行部門に対して大幅に権限を委譲した上で、成果の達成について一種の契約を結び、徹底的に成果と効率を追求することや、住民を顧客と考え、その満足追求を活動の基準に据えることなど、民間経営に学びながら改革が行われている。
こういった動きは、OECD主要諸国共通の行政経営の新しいパラダイムとして、「NPM(New Public Management:新しい公共経営)」と総称され、持続的に成果と効率を追求できる行政の経営モデルをいかに構築していくかが、1980年代以降の世界各国の行政改革の共通テーマとなっている。
また、こういった改革では、行政の活動による成果を測定する評価システムを構築することが重視されている。
NPMや、行政の経営改革に関連する評価システムに関しては以下の文献が参考になる。
【NPMを理解するための文献】大住莊四郎『パブリック・マネジメント』日本評論社、2002
国土交通省国土交通政策研究所『NPMの展開及びアングロサクソン諸国における最新状況に関する研究−最新NPM事情』国土交通省国土交通政策研究所、2001
田中秀明・岩井正憲・岡橋準『民間の経営理念や手法を導入した予算・財政のマネジメントの改革−英国、NZ,豪州、カナダ、スウェーデン、オランダの経験』財務省財務総合政策研究所、2001
総合研究開発機構『公的部門の開かれたガバナンスとマネジメントに関する研究』総合研究開発機構、2001
大住莊四郎『ニュー・パブリック・マネジメント−理念・ビジョン・戦略』日本評論社、1999
D.オズボーン・T.ゲーブラー著/高地高司訳『行政革命』日本能率協会マネジメントセンター、1995
D.オズボーン・P.プラストリック著/小峯弘靖,前嶋和弘訳『脱「官僚主義」―欧米の行政に革命を起こした「リインベンション」とは何か』PHP研究所、2001
白川一郎・富士通総研経済研究所『NPMによる自治体改革―日本型ニューパブリックマネジメントの展開』経済産業調査会、2001
【行政の経営とその改革を理解するための文献】
ジェームズ スイス著/柿崎平訳『行政機関のマネジメントシステム―成果志向の行政経営モデルを構築する』ピアソン・エデュケーション、2001
C.フッド著/森田朗訳『行政活動の理論』岩波書店、2000
上山信一『行政の経営改革―管理から経営へ』第一法規出版、2002
淡路富男・社会経済生産性本部自治体マネジメントセンター『「行政経営品質」とは何か 住民本位の改革と評価基準』生産性出版、2001
石井幸孝・上山信一『自治体DNA革命』東洋経済新報社、2001
大住莊四郎・他『行政経営の基礎知識50』東京法令出版、2001
上山信一『「行政経営」の時代―評価から実践へ』NTT出版、1999
【行政における業績・成果の測定手法と戦略計画】
米国行政学会・行政経営センター/上山信一監訳『行政評価の世界標準モデル』東京法令出版、2001
H. Hatry,"Performance Measurement:Getting Results" The Urban Institute, 2000
龍慶昭、佐々木亮『戦略策定の理論と技法―公共・非営利組織の戦略マネジメントのために』多賀出版、2002
H.サイモン・E.リドレー著/本田弘訳『行政評価の基準』北樹出版、1999
P.ドラッカー著/田中弥生監訳『非営利組織の成果重視マネジメント―NPO・行政・公益法人のための「自己評価手法」』ダイヤモンド社、2000
ポートランド・ムルトマ改革委員会、ムルトマ郡理事会著/行政経営フォーラム海外調査会監訳『行政評価による地域経営戦略』東京法令出版、1999