1996.12.25-車が動かない!


 今日は、うちでミュンヘンに住んでいる近藤夫妻とクリスマスパーティだった。午後、近藤夫妻がこちらに来るとのことだったので、午前中に大学に行ってメールを書いてくることにした。そのときは、相変わらずエンジンのかかりが悪いとはいえ、何の問題もなく車は動いていたのだ。

 そのパーティで一通り食べるものも食べて、飲むものも飲んで、ひと休みになると、近藤さんが「ちょっとFFの車も運転してみたいな」と言い出した。12.23にも書いたように、彼の車はRRなので、クリスマスイヴの前の日に降った雪では、結構苦労していた。「それじゃ、ちょっと運転してみます? エンジンのかかりは相変わらず悪いですが。」といって、2人で外に出ていった。近藤さんにキーを渡して、私は助手席に座った。近藤さんが座席を少しずらして、キーをひねったがうまくエンジンはかからなかった。「あっ、チョークを引いて下さい。冷えるとチョークを引かないとなかなかかからないですよ。」と私は横でアドバイスをした。近藤さんがチョークを引いて試みてみたが、セルはまわっているのだが、エンジンはなかなかかからなかった。「いやー、なかなか難しいですね。」と近藤さん。「そうでしょう、ちょっとこつがいるんですよ。」と私は助手席で、余裕をかましていた。近藤さんが何回かチョークを引いたり戻したり、アクセルを踏んだり戻したり、試みたが結局うまくかからない。そこで、私が「じゃ、ちょっと代わりましょうか。」といって、私がエンジンをかけることになった。しかし、セルは回れどかからない。いつもは確かにかかりにくいが、それはエンジンが温まりにくいということで、エンジンに点火しないということではない。しかし、今回は全く火がつく気配がない。「あれ、おっかいしいなあ。」とか言いつつ、だんだん焦ってきた。そうじゃなくても今日は寒くて、バッテリーは弱っている。いつまでもエンジンがかからなければ、バッテリーが上がってしまうのも時間の問題だ。アクセルを踏み込んでかけようとするとかかりそうになるのだが、やはりダメだ。そうこうしているうちに、やはりバッテリーが弱ってきてしまった。近藤さんは「プラグが汚れているのかな。ちょっと、はずして磨いてみましょう。」といって、プラグを磨くことになった。近藤さんの車の工具で、プラグをはずして古い歯ブラシで磨く。確かに、結構汚れていたようだ。4本全て磨き終わって、また元に戻し、試みてみたがやはりかからない。とうとうバッテリーは完全に上がってしまった。「じゃあ、うちの車に連結してやってみましょう。」ということになり、近藤さんのビートルから電気をもらうことになった。しかし、バッテリーコードが短くて、うまくつなげない。なにしろ、ビートルのバッテリーは後部座席の下についているのだ。しょうがなく、車を2台並べて接続することにした。それにしても、普通の道幅が6メートルもない脇道である。他の車には本当にいい迷惑だ。バッテリーを接続して試みるが結局かからなかった。

 それから、のべ1時間半以上またプラグをはずして磨いてみたり、バッテリーを接続したり、何度も試みたが、ダメだった。だんだん、「これは困ったことになってきたぞ。」という実感がわいてきた。なにしろ、今はドイツはほとんどの企業や商店は冬休みに入ってしまっている。修理にもって行くにも、いったいいつになるか。いずれにしても、夕方の寒さの中、1時間半もやっていて、近藤さんと私の体は冷え切ってしまった。どうやら気温は氷点下10度以下だったようだ。先日のすぐに凍ってしまう雨が降った日の夜に、結構な量の雪が降って、次の日からは晴れているが、連日同じような寒さだ。初めて、噂に聞くドイツの寒さを経験することになった。とりあえず、日がくれてしまうので、今日はあきらめることにした。近藤さんも「ぼくが疫病神だったかな」と気を使ってくれた。

 それにしても、この車のトラブルはこれに始まったことではなかった。アウグスブルクに住んでいた、坂東レーシングチームの御曹司の坂東さんから1200マルクで買ったのは10月の下旬だった。確かに、1200マルクはめちゃくちゃ安い。なにしろ、保険の方がずっと高いのだから。それにしては良く走るように見えた。しかし、買ってから少しずつその安さの理由がわかってきた。まず、ラジオもない。これは最初からわかっていたことだが、彼は「友達にもらったラジオがあるので、それをつければ聞けますよ。たぶん。」といっていた。だから、買ってからそれを自分でつければいいや、と簡単に考えていたのだが、ラジカセの入る部分をあけてみたら、なんだかわけのわからない配線がぐちゃぐちゃ。さらに、プラグのようなものが取れているものや取れていないものや。どう考えてもそのラジオが簡単につきそうにない。そこで、カーステレオを売っている店に行って、配線を調べようと思ったのだが、売っているカーステレオは皆最近のシステムらしくて、ワンタッチのような構造になっていて、全く参考にならなかった。逆に言えば、最近のカーステレオを買ってもつなげないかもしれない。結局、面倒なので、ウオークマンに、スピーカーをつけて音楽を聴いていた。

 次には、運転席側の窓が開かない。ミュンヘン空港に遊びに行ったとき、有料駐車場のゲートを通るときにチケットを取らなければならなかった。窓を開けて取ろうとしたら窓が開かないのだ。窓が開かないといってもパワーウインドウではないので、あのくるくるとまわすやつがまわらない。そのときはしょうがなくドアを開けて取ったが、あとから試してみると少しなら開くがそれ以上をあけるのが非常にたいへんなことがわかった。何回かまわす取っ手を行ったり来たりがちゃがちゃやっていると、次第に開いてくる。それにしても、窓を開けるだけでえらい苦労である。ちなみに、助手席側の取っ手は持つところが取れてしまっている。しかし、こちらでは日本のように高速道路にあがる度に、チケットを取ったり、お金を払ったりする必要がないので、「まあ、何とかなるかな」とあきらめることにした。

 さらに、車の中のエアコン(クーラーはついていないからエアコンじゃないのかな)をつけると「キュルキュル」とうるさい。エアコンのスイッチを1にしているときはいいのだが、窓の曇りを取るためにスイッチを2や3にすると、モーターの回りが悪いようで、「キュルキュル」「ガラガラ」と音を立てる。いやー、なんとも耳障りな音だ。それが一定のテンポでキュルキュルいうのではなくて、なったりならなかったりするのでまた耳障りだ。でも、これは機能にはあまり関係ないので、だんだん慣れてきてしまった。それにしても、外にもその音がでているのが恥ずかしいが。

 その他にもボディーがあちこちさびていることや、サイドのバンパーが一部ないことや、運転席のメータがあるところの上の部分(いったい本当はなんていうのだろう)のプラスチックが、「バッキ」と真っ二つに裂けているといったことは、あまり驚くに値しない。いずれにしても、これまでの問題は走るということに関してはなんら影響がなかった。さらに、驚くことに非常に燃費がいいのである。これまでで、一番良かったときには、1リッター15kmは走った。もちろん、道路事情がよいこともその理由の一つであろうが、日本で乗っていたプリメーラが5年目で同じくらいだから驚きだ。なにしろ、このOPELはもう12年目で17万キロも走っているんだから。

 「結構調子いいじゃん!」と思っていられたのもつかの間だった。まず最初にタイヤに問題があることがわかってきた。そもそもタイヤは場合によっては全部冬タイヤに取り替えようかと思っていたのだが、どうも後ろの1本だけが空気圧が低いなあ、と思っていたら、良く見ると、わきが大きく裂けている。これに気がついたのは、もう結構走ってからである。「いやー、良くこんなのでアウトバーンを走っていたなあ」と思うと、ぞっとした。しかし、このタイヤの問題はそれほど深刻ではなかった。全部取り替える費用がかかることも想定していたし、トランクのスペアタイヤを見てみると、なんとまともなタイヤが入っているじゃないか。「どうしては、坂東さんはこのタイヤを交換しなかったのだろう?」と若干の疑問もあったが、タイヤを買うまでもなく交換できそうだ。坂東さんが交換しなかった理由はすぐにわかった。タイヤをはずそうとしても、ネジが堅くて外れないのだ。さらに、ネジは錆びついてしまっている。何年このタイヤはここについているんだろう、という感じだ。しかし、これも先の近藤さんに手伝ってもらってやっと交換することができた。なにしろ、近藤さんは私より何十キロも体重が重そうだから。「そういえば、普通の体重計だと体重が量れない」とか奥さんが言っていたような。それにしても、この最初のタイヤ問題もそれほど深刻ではなかった。

 第2弾は、リバースにギアが入らない。むかしむかしもう10年近く前に、オートマのファミリアに乗っていたときに、やはり同じようなことがあったので、昔を思い出してしまったが、ある日突然リバースに入らなくなってしまった。そもそもこちらの車は、通常のギア操作の時にリバースに入ってしまわないように、リバースに入れるときにはストッパーのようなものをはずすようになっている。私のOPELでは、ギアの丸いところにしたについているとっかかりを上に引き上げるとギアがリバースにはいるようになっている。しかし、そのとっかかりが上に上がらなくなってしまったのだ。そもそも、その日に一度バックしたときにもちょっとあがりにくいような感覚があった。その日の夜家に帰ってみるととうとう全く上がらなくなってしまっていたのだ。明日は、家内の友達といっしょにニュルンベルクまで行く約束をしているし、いったいどうしたものかと考えたが、もう夜遅かったので、その日はそのままにして、次の日の朝考えることにした。次の日に、ギアボックスの上のじゃばらみたいなカバーをはずして(こんなところはずしたのもの初めてだったが)、中を見てみると、ギアの棒(本当はなんて言うんだろう)を固定するように2つのビスが貫いている。その一つはとっかかりを引き上げると下の方でストッパーの役目をしている部分が持ち上がり、リバースにはいるようになっていた。もう一つは純粋にその棒を下のギアボックスにつなげる役割をしているようだ。このもう一つのビスが少しどうやら外側にでてきてしまったようだ。そして、その少しはみ出たビスが、持ち上がってリバースに入れる部分のストッパーに当たってしまっている。これがぶつかってしまうので、ギアが入らないことがわかった。「なんだ、簡単じゃあないか」と思って、そのビスをドライバーで押して反対側に戻そうと試みた。しかし、これがまた全く動かないのである。このビスは、板バネのようなもので、板状の金具をのり巻きのように巻いている。つまり、穴に入れると自ら広がって、固定するようになっている。つまり、少しはみ出してしまったこのビスがその径が大きくなってしまって、元に戻らなくなってしまったようだ。なんとか、押し戻そうとドライバーで押したり、さらにドライバーの後ろを金槌でたたいたり格闘してみたが、ギアボックスの方が壊れてしまいそうだ。「これはいったいどうしたものか?」 いずれにしても、バックできないのではお話にならない。よくその引っかかっているストッパーを見てみると、その引っかかっている部分は穴になっていて、その穴の下の部分は大した厚みがない。つまり、この穴の下を削ってしまって、穴をU字型にしてしまえば、ビスが引っかからずにストッパーが上がるだろう、ということに気がついた。それにしても、これにはちょっと勇気がいる。なんでそんな構造になっているのかわからないけど、きっとそれには理由があるのだろうし。どっかほかのところがおかしくなりそうで・・・ でも、躊躇していても直らないので、いっそのことその穴を削ってしまうことにした。ずいぶんと堅いプラスチックだったので、それほど厚みがないとはいえ、非力なカッターではずいぶんと時間がかかった。しかし、やっとの事でその穴がU字型になり、ビスが引っかからないようになると、意図も簡単にストッパーは上がって、リバースにはいるようになった。「うーむ、こんなことでいいのだろうか?」と思いつつも、「まあ、直ったからいいか」と思うことにした。

 そして次には、突然オイルが非常に少なくなってしまった。坂東さんの話では、10月下旬つまり私が車を買うちょっと前にオイルの交換をしたとのことだった。ということは、しばらくオイル交換の必要はないだろうから、1月に排気ガスの検査(ドイツは車検以外にそういうものがあるのだ)を受けなければならないから、そのときにいっしょにオイルを交換しようと思っていた。なにしろ、日本と違ってガソリンスタンドでは、全てセルフサービスである。通常は、オイルの交換もオイルを買って自分でするものらしい。その際に日本でなされているように、エンジンの下からオイルを抜くわけではなくて、オイルを入れる場所から、あるいはオイルの量をはかるあの細い管から掃除機のようなものでオイルを抜き取るそうだ。いずれにしても、日本でも自分でオイルを抜いたことがないので、とりあえず最初は1月の検査の時に工場でやってもらおうと思っていた。でも、さすがに古い車なので、暇があるとオイルの量は確認するようにしていた。ある時確認したときには、少し少なくなっていたようだった。「まずいなあ、1月まで保たないかな? でも、1月まで遠出することもないしな。」と思っていた。それからは論文に忙しくて車どころでなかった。車も天気の悪い日に大学へ乗って行くぐらいだった。なにしろ大学は本当に近いので(歩いても15分ぐらい)、着くまでに車が温まらない。だからたいていエンジンの調子はいまいちで、本来の調子がどうなのかわからなかった。それが、論文を日本に送ってしまって、久しぶりにのんびりと買い物でも行こうかと、車を動かしたら、どうやらエンジンの音が変である。特に、ちょっと走って、エンジンが温まってもである。最初は、マフラーがおかしくなったかな、と思った。坂東さんの話では、エンジンに直接接続しているマフラーの部分だけ、最も古くて、そこを交換する必要がでるかもしれないということだったからだ。しかし、オイルメータを見るとどうやらオイルが異常に少なくなっている。もっとも、まだ警告ランプはついていないが。そこで、すぐに家に一度戻ってオイルを調べてみた。すると、検査の棒の下の方にちょっとしかオイルが付いていない。「これは、やばい。早くオイルをつぎ足すか、オイルを交換しないと」と思って、一路ガソリンスタンドに向かうことにした。しかし、オイルの交換の仕方がわからないので、まずガソリンを入れて、それからレジのお姉ちゃんにやり方を教えてくれと頼んでみた。すると、彼女は「自分はわからない。わかる人は1時間ぐらいしたら帰ってくるよ。」なんて言っている。さすがに1時間も待っていられないので、応急処置としてオイルを足すだけ足そうと思った。そこで、オイルを買って、車をスタンドの奧に移動してオイルを足すことにした。ボンネットをあけているとレジのお姉ちゃんが来て、ちょっと見せてみろという。どうやら、足すだけだったらわかるぞ、というようなことらしい。それなら、私だってできるぞ、と思ったが、この場は彼女に任せると、彼女はオイルの量をはかる棒を引き出して、量を見て、"Oh! Ganz leer!"(ああ、全くないじゃない!)と驚いた。「だからさっきないって言っただろう。」彼女は、1リットルのオイルを入れながらこれじゃ足らないと言い出した。そうかと思って、もう1本買ってくると、彼女はもう1リットル入れてしまった。どう考えたって、この車のクラスじゃ4リットルもエンジンオイルを入れないだろうし、2リットルも入れちゃっていいのか、と思ったが彼女に任せておいた。彼女はこれで大丈夫というようなことを言って、レジに戻っていた。まあ、これでとりあえずはなんとかなるかな、と思ったが、車のエンジンはそれからしばらく調子が悪かった。最初は、オイルが少ない状態で走ってしまったからかな、と思っていたが、今から考えるとやはりオイルを入れすぎていたようだ。何日かして次第に調子は元に戻っていった。

 そんなこんなのトラブルが続いて、とうとう25日に動かなくなってしまったのだ。27日には、大家に頼んでバッテリーを接続して、またチャレンジしてみた。うちの大家の車はちょっと古いディーゼルのベンツなのだが、全然関係ないけど、やっぱりベンツはエンジンルームもかっこいいなあ。それにしても、ディーゼルの大きなバッテリーで試みても、やはりうちの車のエンジンはかからなかった。なんか、もうちょっとという感じだったのだが。

 結局、この車はこのまま年を越すことになってしまった。いったいいつ動くのだろう。今後の経過はまたあとの独り言で。