研究室は、中国大陸の政治や社会問題、経済問題に関心を持つ人、あるいは日本と中国、台湾との関係を中心とした東アジアの国際関係に関心があって、その理解を深めたいと思う皆さんが研究するためのプラットフォームを提供しています。
私は二つの問題意識をもって研究に取り組んでいます。一つは現代中国の政治制度の研究です。比較政治研究の分析の枠組みは、どの程度、中国の政治制度を
説明できるのか。中国の政治研究は、どの程度、中国を含む権威主義国家の政治制度の理解に貢献できるのか。そうした点に関心を持っています。いま一つの研
究は中国外交です。これは国際関係という観点よりも、内政と外交の連動に関心を置いています。外交政策決定に国内政治はどの様な影響を与えているのか。国
際環境は国内政治の意思決定にどの様な影響を与えているのか。国際政治研究の古典的な問題である両者の連動に関心があります。
中国は日本のすぐ隣にある国です。毎日、私たちは多くの中国に関する情報をシャワーのようにあびています。もう、何度も中国を訪問した事がある人は少な
くないと思います。にもかかわらず、私たちにとって、中国は、よく見えない、思ったよりも近くない、そんな国なんだと思うのです。
そんな中国について、皆で、資料を読み、皆で現地を訪問し、また皆で中国を含めた海外から訪問してきた中国に関心を持つ友人達と意見交換をしながら、中国に対する理解を深めたいと思います。
多様な顔を持つ中国の10年後を展望する
10年後の中国はどうなっているのか?そんなことを強く意識しながら中国を理解してみませんか?これが、加茂研究室での研究のメインテーマです。
もちろん過去があるから今があり、未来は今の積み重ねです。ですから、未来を展望するためには歴史をちゃんと知っておかなければいけません。
これに加えて、この「10年後の中国」を考えるときに、是非、皆さんにこだわって欲しいことは、中国が多様な顔を持つ地域だという点です。中国の多面性です。
中国という地域は多様な顔をもっているとよく言われますね。例えば経済大国と発展途上国という二つの顔です。GDPの規模でみれば世界第二位の経済大
国
であるということと、GDPを一人あたりに換算すれば百位前後をさまよう発展途上国である、という顔です。視点を経済統計の数値から現実の社会に
移せば、その多様性は一気に拡大します。地域間の経済水準の格差にはじまり、地域間で文化、歴史、習慣、社会構造は大きく異なっていることは、も
はや説明を要しないでしょう。私たちがしばしばテレビで目にする輝かしい上海の夜景が、ちっとも中国を代表してていないということは、よくご存じの通りです。

(私のフィールドワークの対象地域である揚州市)
もう一つ重要なこと。中国は多民族国家であるということです。公式には漢民族と55の少数民族をによって構成される多民族国家です。興味深いことは、中国において少数民族と分類されている民族はアジアや
欧州の国家を上回る人的規模を有し、また広大な地域に居住しています。独自の歴史と文化をもっているのです。
話題が中国の人口に触れましたから
多様性について人口という側面から一言述べておきましょう。中国は13億の人口を抱える人口大国です。中国の人口問題といえば人口管理政策に関心が集まり
ますが、一方で、一部の大都市を中心に中国は少子高齢社会に
突入しています。先進経済国の経済水準に到達する前に、中国は先進経済国が直面している人口問題にも向き合う必要がでています。
(揚州市郊外の宝應県)
そして基本的なことかもしれませんが、中国という地理的空間の「政治」の多様性についても注目して欲しいと思います。政治制度や政治史の文脈では、中国大陸地域を実効支配している中華人民共和国と台湾地域を実効支配している中華民国、さら
には特別行政区である香港と澳門という地域に概念整理することができる、ということです。こうした政治と外交の分野における中国の多様性は、中国を取り巻く東アジアの国際環
境に大きな影響を与えています。
研究室で、私が皆さんとともに取り組みたい研究というのは、こうした中国の多様性を理解する基礎研究をおこない、この多様性が現実の政治
や社会政策、外交政策に対して与える影響を分析する臨床研究である、と例えることができるかもしれません。
これが、私たちの研究室において注意を払って欲しいと考えている「中国の多面性」です。
Global Gateとしての研究室
中国を理解するために、かつては、中国語を話すという特殊技能と、中国に長く滞在したという特殊な経験が必要だと思われてきました。しかし、もはやそう
した特殊技能と経験だけでは中国を語ることができません。中国を語るためには、中国の多面性に対する深い理解とともに、豊富な国際的な経験が必要です。
このために本研究
会では、国内では、他大学の研究会(東京大学、法政大学、立教大学、早稲田大学、フェリス女学院)との交流会や防衛研究所への訪問をおこなってきました。
また国際的な研究交流としては、中国の復旦大学や中国人民大学、あるいは台湾の国立政治大学、香港の香港中文大学との交流に積極的に取
り組んでいます。夏休みを中心とした長期休暇の際には、私の海外で調査している機会に合わせて、研究室の皆さんと海外で研究交流をしています(台北・金門・厦
門、北京)。
この研究会が、中国を理解するための、皆さんにとってのGlobal Gateとして機能することを目指しています。
研究会履修者の論文(学部および大学院)
2008年4月に私は慶應義塾大学法学部から総合政策学部に移籍してきました。それから現在までのあいだ所属してきた学部生と大学院生は、以下の様な研究テーマに取り組んできま
した。
私の研究関心やこれまでの研究の活動については履歴をご覧ください。
学士論文(学部生卒業論文)
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経済発展の遅れる貴州省:貴州省の固定資産投資に見る地方財政の問題点
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中国独自の多党合作制度の理論展開:共産党の指導体制と民主諸党派の政治的役割の変化
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香港住民にとっての「一国二制度」の実態と評価:直接選挙の導入と経済発展という視点から
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中国農村社会と戸籍制度:「先豊論」から「共同富裕」への転換
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ミャンマー軍事政権の民主体制移行の可能性:政権内部の対立から
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中国の外資利用の「量」から「質」への転換政策:カントリーリスクの回避の共同プロジェクト(シンガポール蘇州工業園区に着目して)
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中国外交における「国際責任」の変化とその背景:「責任大国」論の登場
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中国共産党一党体制の強靱性:1970年代以降の政治参加の維持とその範囲の拡大に着目して
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中国人民政治協商会議の今日的存在意義:中国共産党との関係性に着目して
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中国の対台湾政策と両岸関係への影響:「独立阻止」政策から「平和的発展」政策への政策転換に焦点を当てて
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国際市場における中国家電企業のブランド確立の可能性:家電企業の海爾集団、TCLを事例として
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中国における固定資産税導入の実現可能性:土地譲渡金収入に依存する地方財政に着目して
修士論文
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中国の石油工業から見る工業化戦略の転換 : 1960-1978年を中心に
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中国新聞発言人制度の外交機能の考察 : 両岸三地における同制度の比較をつうじて
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中国共産党の「秩序ある政治参加」 : 『選挙法』、『村民委員会組織法』、『信訪条例』の修正を中心に
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中国のソーシャルメディアにおける言論規制:新浪マイクロブログを事例に
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「孔子学院」の世界的展開における中国共産党の戦略:華僑・華人政策との統合から見る
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中国の地方政府における行政上の機能障害現象について:湖北省の最低生活保障制度の実施過程を事例として
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“Development of the East China Sea Gas Field
Dispute: Explaining Domestic Opinion Constraints on Chinese Foreign
Policy”
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中国共産党一党体制における司法機関の役割:1980年代後半の政治体制改革における人民法院に対する措置に着目して
2013年6月現在、博士課程大学院生3名、修士課程大学院生5名、11名の学部生が在籍しています。