記憶のメカニズム III
- 1.符号化特殊性理論
- 2.処理水準説
- 3.記憶の生理学
1.符号化特殊性理論
- (1)符号化特殊性理論とは
- Tulvingは、記憶の再生と記憶の記銘は、独立ではなく、
互いに関連していると考えた。覚えた単語を再生するときには
記銘段階に与えられた状況と同じ状況の方が、異なる場合より
も再生率が高くなることを見出した。
- (2)符合化特殊性理論に関わる実験
- 単語を記銘する際に、2つのグループを設け、一つのグループでは
水中で単語を覚えてもらい、別のグループでは、陸上で同じ単語を覚え
てもらった。そして、覚えた単語を再生する際に、水中グループの半分は
水中で再生をし、残りの半分には、陸上で再生をしてもらった。同様に陸上
グループの半分は、陸上で再生してもらい、残りの半分は水中で再生しても
らった。結果として、記銘段階と再生段階が同じ状況(記銘も再生もともに
水中、あるいはともに陸上)の方が、2つの段階が異なる状況(記銘は水中
で再生は陸上あるいは、記銘は陸上で再生は水中)より再生率が高かったの
である(Godden & Baddeley 1975)。
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2.処理水準説
- (1)処理水準説とは
- Craik and Lockhart(1972)は、貯蔵庫モデルのように
貯蔵庫という考え方から記憶を考えるのではなく、記憶の処理
水準から記憶をいくつかの段階に分類した。処理の深さである
処理水準は、物理的、音響的、意味的水準の3種類の水準に分
類されると考えた。まず、物理的水準で知覚的処理が行われ、
次に、音響的水準で、発音のような音響的な特性で処理され、
最後に刺激の意味をもとにした意味的な処理が行われる。記
憶が短期記憶になるか、長期記憶になるかは、その刺激が
がどの水準まで深く処理されたかによると考えたのである。
3.記憶の生理学
- (1)H.M.の場合
- てんかんの手術で、海馬の前から3分の2とその周辺組織、
および扁桃体を切除する。意識を取り戻したとき、2年ほど前
からの記憶を完全に消失する。そして、手術以来、自分の身に
起こった新しいことを覚えることができない。しかし、昔の記
憶やピアノを弾いたりする手続き記憶は、損なわれていない。
- (2)アルツハイマー型痴呆の場合
- 初頭効果や新近性効果がみられない。短期記憶よりも長期
記憶(意味記憶、エピソード記憶)の障害が顕著。十分な時間
を与えると、成績が上昇することより、知識の障害ではなく、
検索の障害と考えられる。
- (3)コルサコフ症候群
- 慢性アルコール中毒患者で、間脳および前頭連合野の損傷を
受けている。個々の記憶は、よく覚えているが、時間的、空間的
文脈に関する記憶が冒される。
- (4)記憶の生理学
- <間脳>間脳の乳頭体や視床内側部は、記銘(情報のコード化)
の過程と関連している。
- <側頭葉>側頭葉の海馬は、空間情報の処理や、情報の転送や
取り出し、記憶の固定に関連している。また、扁桃体は、トラウマの
記憶のような恐怖がらみの記憶が保存されている考えられている。
- <前脳基底部>扁桃体および海馬と連絡をとる部分。損傷を受け
ると個々の事柄は覚えられるが、それらの相互関係や時間的文脈が
わからなくなる。アルツハイマー患者の病変が認められる部位である。
- <前頭連合野>時間的な順序に関する記憶と関連する。損傷を
うけると、情報それ自体は思いだせても、それをいつどこで入手した
かがわからない。エピソード記憶と関連する。
- <小脳>運動学習と関連する。
- <大脳基底核>技能学習と関連する。
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