大室政右氏の訃

 
 今日、旧知のテープ起こし者の方とメールを往復する中で、大室政右さんがお亡くなりになっていたことを知った。1月12日、老衰によるという。92才。大室さんは戦時中、国民精神総動員運動中央連盟、大政翼賛会、翼賛政治体制協議会といった機関で事務担当として活躍され、その後、南方マカッサルに赴任、戦闘に巻き込まれながらも命をつなぎ、抑留を経て復員、戦後は都議として5回連続当選、自民党都連幹事長も務められた。
 大室さんとお目にかかったのは2002年の初夏のことだった。当時、私は政策研究大学院大学のオーラル・ヒストリープロジェクトのRAであり、同プロジェクトで特別研究員をされていた武田友己さん、府中市博物館の馬場治子さんと、その後10回、1年半にわたってお宅を訪問し、お話を伺った。冒頭のテープ起こし者は、この時の記録を担当して下さった方であり、やりとりの中でふとしたことから同オーラルを思い出され、訃報を教えて下さった。ありがたい。ご葬儀に伺えなかったのが悔やまれる。
 お話を伺っていた当時、大室産はすでに80代後半でいらっしゃったが、堂々とした体躯、ゆったりした動き、時に躊躇されながら誠実にお話くださる人柄は、強く記憶に残った。事前調査の担当をしていたこともあり、私にとって、大室オーラルは今でも戦中期を考える際の大きなよりどころとなっている。同オーラルの記録は、武田さんのご尽力により『大室政右オーラル・ヒストリー 元国民精神総動員運動事務局員・元東京都議会自民党幹事長』として冊子化されているので、ご関心の向きには、ぜひ手にとって頂ければ、と願う。
 今年も年賀状を頂き、昨年も古鏡の取材で大室家を訪れたという記者からご健勝ぶりを伝え聞いていたので、突然の訃報にただ驚くばかりである。大室さんとのオーラル・ヒストリーは、私にとって、まだオーラル・ヒストリーを始めたばかりのころ、いつも温かくお迎え頂いたことで、とても元気づけられた、大切な思い出である。お亡くなりになられたことは残念であるが、お元気でいらした折に詳しく、暖かくお話を伺えたことを心から感謝して、ご冥福を祈りたい。