情報公開の目的は「行政への参加と監視」の仕組みを確立させることだ、といわれる。だが、現実にそのようなことができるだろうか。少なくとも、東京都の情報公開制度を利用しての臨海副都心計画に対する「参加」や「監視」は、普通の都民には不可能であるとの印象を受けた。それは、同じ制度を活用している他の行政活動にもいえるのではないだろうか。つまり、現行の制度ではとても都政を監視することはできないと思えるのである。普通の、一般の都民が簡単に利用できる情報公開制度を確立させなければ、「行政への参加と監視」の仕組みを確立させることなど、永久に不可能であるといえるだろう。
「参加」や「監視」のない情報公開制度、それではダメなのである。そんなものでは情報公開の意味がないというものだ。本来の目的である「行政への参加と監視」の仕組みを確立させることができなくて、何が情報公開だ、である。本末転倒とはこのことだ。本来の目的を忘れて、どれだけ情報が公開されているか、という議論だけで進むのは危険である。どれだけ簡単に情報が得られるか、どれだけ情報公開の制度が整備されているか、そしてどれだけ行政への監視ができるか、という原点に立ち戻らなくてはならない。
目的を忘れた議論など、具のない餃子のようなものだ。今こそ、情報公開の制度を見直し、市民の行政への参加を促進させるような制度にしなくてはならない。
我々は、このコンセプトに基づき、東京都の情報公開制度にスポットライトをあて、その制度を知り、分析することにより、新たな制度の構築にたどり着いたのである。そしてそれを2つの提言というかたちにまとめてみた。
以上、この2つが我々の提言2大柱である。
まず、「行政文書館」の設立について説明しよう。
これは情報の管理を一元化し、自由に公文書を閲覧できるシステムをつくる、という目的をもとに考え出された公文書館である。
3章の(1)のように、現在の都の情報公開制度での情報は分散しており、一元化が必要である。
また(2)のように、与える側に都合のよい情報しか公開されない可能性を消すため、開示・非開示を決定する新たな機関が必要である。
つまり、(1)と(2)の問題を解消するには、必然的に新たな機関が必要となってくるのである。そこで登場するのが「行政文書館」である。
この「行政文書館」は、都が仕事をする上で作成したり取得したりした文書をすべて集めた図書館のようなもので、都政に関する情報を自由に見られる施設である。また、この「行政文書館」は開示・非開示を決定する機関でもあり、そのため他の都の機関とは完全に独立した施設である。だから、「行政の論理」に惑わされることなく、都の情報公開条例に沿った情報の開示が行われるだろう。もちろん、その開示・非開示の決定は文書が収められた時点であり、文書の開示請求後ではない。このようにすれば、(4)の開示・非開示の決定に時間がかかるという問題点も、打破できるであろう。
以上のように、「行政文書館」の設立は情報の一元化を実現し、「行政の論理」に惑わされない情報の開示、自由な文書の閲覧を可能とするのである。
次に、「都民の秘書」制度を説明しよう。
(3)であったように、現在の情報公開制度を一般都民にも実用的にするには、情報を請求する人と行政との橋渡しをするような人間が必要である。その人間こそが「都民の秘書」なのである。
具体的にいえば、この「都民の秘書」というポストをつくり、その人たちに「行政図書館」にいてもらうのである。そこで、普通のそれほど都政を知っているわけではない都民が漠然とした考えのまま文書の公開を求めたとき、それにふさわしい文書を渡したり、簡単な基礎知識程度はレクチャーしてあげるようにする。もちろん、都にとって不都合な情報も隠したりはしない。こういったことが「都民の秘書」の役割である。
このような、ある意味便利屋的な「都民の秘書」の存在により、どのような情報も簡単かつ、スムーズに得ることができるだろう。いわば、普通の都民用語と行政用語の通訳となるのが「都民の秘書」なのである。
さて、以上の2つの柱を我々の提唱するべき新情報公開制度とする。この2つの制度が確立されなければ、情報を得るのに時間がかかり過ぎるし、漠然とした問題意識のままでは何も知ることができないという大きな問題が解決されないだろう。一般の、普通の都民がより簡単に情報にアクセスできるようにするための「行政文書館」であり、「都民の秘書」制度であるのだ。
我々はこういった制度の確立を、東京都に対して強く望む。なぜなら、この2つの制度こそが東京都の情報公開の役割を増すことにつながるとともに、情報公開の本来の意義である「行政の参加と監視」の仕組みの確立に間違いなく役立つはずであるからだ。