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フィールドワーク報告

 通産省への訪問は六月十四日の午前中に行った。電気事業法改正を取り扱っている 公益事業部開発課を訪れ,開発課の方に班員四人でお話を伺った。対応してくださっ た方とは以前から電話で連絡をとっていたので,当日は簡単にお会いする事ができた。  電気事業界の現状や電気事業法改正の進行状況については既に調べてあり,開発課 の方にも電話でお話を伺った後だったので,今回は法改正をする事によって通産省が 予想している変化や,私たちの考える問題点などについて話した。
 通産省が官報に発表している法改正の通達では,改正の目的が抽象的で分かりづら かったが,結局のところ通産省も(一般論と同じように)過度の設備投資をやめさせ ,一般電気事業者の電力買い取りにかかるコストを削減させることが目的であること わかった。
 今回の訪問で明らかになった点が二つある。
 まず一つ目の点だが,特定電気事業者の新規参入を許可制から認可制に変えるから といって,通産省はその数を無制限に増やすつもりはないということだ。詳しくいう と,一月改正以降はどんな特定電気事業者でも安全面の条件さえ満たしていれば参入 することができるようになるが,特定電気事業者がある程度の数に達すれば,また以 前のように制限を設けて,それ以上の数が増えないように統制する可能性もあるとい うことだ。
 特定電気事業者が参入してきて一般電気事業が自由化されるということは,消費者 が電力の購入先を自由に選択できると同時に電力会社も販売先を選択できるというこ とだ。ことに,電力事業では販売において地理的制約があるので,地域によって電力 供給環境に大きな差が出てくることが予想される。地域によって,電力を受けやすか ったり受けにくかったり,また高かったり安かったり,といった差が生じてしまって は何のための規制緩和か分からない。このような理由によって,一般電気事業を完全 な市場制に任せるわけにはいかないのである。
 マスコミや文献を通じて調査している段階では,消費者(企業も含めて)の有益こ そ目標に据えるべきものだ,との見方が強かったが,地域単位で比較したときの平等 性を重視する通産省の立場も,非常に重要なものだと改めて感じた。規制緩和の分野 になると官庁は良くない目で見られることもしばしばだが,情報を持たない少数派に 替わって平等性を主張しているのは官庁をおいて他にはないことも知ってほしい。消 費者の意見と言えど,「強い」人々の意見であることが多いのである。
 今回の訪問で明らかになった二つ目の点は,許可,認可の作業に置いて通産省に怠 慢さがあることを,通産省自身が認識していないことである。我々が直接企業から聞 いた話で,発電設備の稼働許可を得るのに非常に時間がかかったことを告げると,通 産省側は全く驚いたようすであった。許可や認可を迅速に行うことで,如何に多くの 発電設備が有効利用され,ひいては電力不足解消につながるということを通産省が認 識しているのか,疑問である。
 公益事業部開発課は,電力問題という重要な分野を扱っている割には小さな課であ り,規制緩和を行って管轄分野を減らすか,人手を増やすかどちらかの道しかないよ うに思われた。行政改革がブームになっている今日,規制緩和の道を選ぶのは当然の 流れといえよう。
 この課の皆さんはお忙しいはずだが,それでも私たちの訪問を歓迎し,一時間もお 話ししてくださった。そのうえ改正について実際の会議で使う資料やデータを頂き, 通産省の電気事業界改革対策を,かなり事実に近い形で知ることができた。
 規制緩和について知る上で,官庁の本音と言うのは非常に重要なファクターである 。それを知ることができ,この訪問は成功だったといえる。

1995年6月14日に千代田区内幸町にある東京電力本社で営業部料金課主任の野 口哲三氏に1時間ほど話を伺った。
 まず、規制緩和を望んでいるかという質問から単刀直入に入ったが、これに対し、 「消費者の利益を第一に考えているので、それがより一層すすむような規制緩和なら ば望む」と、綺麗な答えを返されてしまった。ただ、電気事業法の31年ぶりの改正は 必然的なものとして受けとめているようだった。
 実際に料金に反映される時期についてはまだ未定とのことであり、新料金制度の具 体的な部分についても検討中らしい。
 コスト削減の可能性について聞いてみた。経済的な電源構成の構築、効率的な流通 設備計画、広域運営の推進、新技術新工法の採用などに取り組んでいて、例えば長距 離送電のロスについては、現在、ロスの少ない超伝導の電線を開発中だそうだ。
 効率を優先すると、安定供給との兼ね合いが問題となる。「現状が既に過剰すぎる との指摘もあり、周波数や電圧などを今よりもう少し雑にしても良いにではないかと も考えている」との言葉も出た。どこまでの安定度が望ましいかについては、国民が 今後、判断するべきだろう。用途によっても必要な安定度は異なってくるはずだ。
 ところで、今回の改正に対する企業の反応はどうなのだろうか。「問い合わせは結 構ある」そうだ。しかし、各企業に対して公正を期すために、問い合わせにはあまり 深くは答えられないとのことだ。新聞で幾つかの企業の新規参入が報じられているが 、「本当かどうか疑問」らしい。
 改正された電気事業法の施行から今後について聞いた。新規参入の事業者が安く電 力を供給することが可能な場合、自社の発電量を減らしてでも買うとの回答を得た。 これは以前では考えられないことであり、多くの企業が電気事業に参入すれば今まで の体制が大きく変わっていくことは間違いない。
 電力会社側にすれば、単にコストを削るだけでは利益にならない。「一層の努力が 必要」だ。
 私たちが研究を進める中で、規制緩和が省エネを逆行させてしまうのではないかと いう危惧が強くなっていった。「経済的な電源構成」1つとっても問題は大きい。
 今後とも、電力の需要は伸び続けるだろう。この点に関し将来に対する危機意識を 尋ねたところ、「すごくあります」との答え。需要の伸びに働きかけるDemand Side Managementも必要になるだろう。新たな規制も考えるべきかも知れない。
 いずれにしても、来年1月に改正電気事業法が施行され、電気の世界にはいくつかの 変化が起こり始めるだろう。今や絶対に欠かすことのできない電気。規制緩和によっ てどのような方向に進んでいくのか、注目したい。



Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997