- 久米:
- こんばんは。7月1日土曜日のニュースステーションです。井関利明内閣の懸案であった情報公開法が,明日成立する見込みです。ニュースステーションではこの法案の成立に際して三つの段階に分けて検証してみたいと思います。
第1部(現状分析)
まず情報公開法を制定する以前に考えなければいけなかったプライバシーの問題です。まず、これを御覧下さい。
(VTR)
- 加賀美:
- 私は今、キャスターの小宮が住む町の役所の前に来ています。これから\
、この三文判と名簿を使って、小宮の住民票をとってきます。(勝手に用紙に記入して
、三文判を押す。それを提出して、住民票を受けとる。)このように、現場ではプライ
バシーが充分には守られていない、という現実があります。
あー、こういう事もあるんだ。えっちゃん、どう?
- 小宮:
- え、何というか…でも気持ちのいいものではないですよね。
- 久米:
- テレビを御覧の皆さんは、まあ住民票くらいなどとお考えかもしれませんが、こういうセキュリティの甘さが重大な事例につながることもあるわけです。ニュースステーションの調査で分かったことですが、こういうことを応用しますと、他人のパスポートを取ることなどが出来ます。
- 小宮:
- まず必要な物は、戸籍抄本、住民票、自分の写真、認め印と印鑑登録、葉書、原付の免許証、これだけです。
- 久米:
- 実際に行なうことは非常に問題があるために、行ないませんでしたが、これが可能であることを証明した本も存在します。さて本日のゲストは、慶應義塾大学教授の草野薄さんです。草野さん、この問題はどうでしょう。
- 草野:
- そうですねぇ、大きな問題だと思います。行政の情報化、オンライン化が進む今、情報公開法の制定以前に、こういった行政の甘さは、制度上、見直す必要があると思います。
- 久米:
- 例えばどういう方策が可能ですか?
- 草野:
- 法の整備と情報セキュリティシステムの構築でしょうね。更にいえば、よりプライバシーという観点に立ったものとして、個人情報の流出や氾濫を抑えるシステムが必要です。このようなシステムがない状態で情報公開が行なわれれば、その制度で非公開にする情報を指定していても、結局はそれが意味のないものになってしまいますよ。情報公開云々の前に、こういった問題を政府はもっと真剣に考えてもらいたいですね。
- 久米:
- なるほど、情報公開法は、砂上の楼閣に終る可能性もあるということですね。わかりました。では次に、実際の法案の内容について、見ていきましょう。
第2部(法案)
まず、公開・非公開に関する線引きの問題です。説明は小宮から。
- 小宮:
- この法案は情報公開法の適用を除外される項目を挙げ、さらに公開する項目を挙げる方式です。
適用除外項目と公開する項目の判断は審議会が行ないます。
- 久米:
- なぜこの方式になったんでしょうか、草野さん。
- 草野:
- この方式のメリット・デメリットを考えてみましょう。まず、メリットとしては主に二つあるでしょう。一つは非公開が妥当かどうかチェックできるという点がありますねぇ。もう一つは適用除外項目以外に公開する項目も挙げることによって、行政の「存在しない、廃棄した、見当たらない」という言い逃れを防ぐことができるということが挙げられます。デメリットとしては、内容が煩雑で手間がかかるという実務面が挙げられるんじゃないでしょうか。
- 久米:
- この部分は何ですか?
- 草野:
- これはですね、現実問題、適用除外項目を厳密に定めることは不可能ですから、それ自体は同じような情報であっても、周囲の状況によって公開できたりできなかったりするわけです。もちろんこういうものは「公開」する項目には書けません。ですから、この公開する項目と適用除外項目の間には、どちらにすべきか判断が難しい情報が存在するわけです。
- 久米:
- 総合的に判断すると、この方式がベストであると。
- 草野:
- ええ、そう考えていいと思います。
- 久米:
- さて、法案の適用除外項目によって非公開とされるものは、このようになっています。
1と2と3は今ある法律と変わっていませんが、4の通貨・公信用の維持と6の他法令との関連が付け加えられました。さらに行政に支障があるものの内容が明確に規定されています。これはどうでなんしょうか?
- 草野:
- (十六茶を飲む)そうですねぇ、まず行政に支障があるとされる情報の公開について明確に制限したことは評価できるんじゃないでしょうか。しかし、与野党の調整が難航したことによっていくつかの問題のある箇所があります。
- 久米:
- 具体的には?
- 草野:
- 第一に自己情報のコントロール権について、規定がなされなかったことです。自分に関する行政情報を閲覧し、その内容が誤っていればその内容を変更する、このことは非常に重要ですね。次に1に関してですが、これでは例えば知事の交際費などが個人情報として見倣されるなどといった事態が解決できないですね。さらにまた、法人などの事業活動情報に関しても、個人の生命・財産の保護が目的であったり、公開することが公の利益になるようなものに関しては、当該法人の被る被害と照らし合わせた上で公開するということも考えて良かったんじゃないでしょうか。
- 久米:
- 4の国家の安全・信用に関わる情報については、例えば何年後かには公開するように明記した方が良かったと私は思うのですが、どうでしょうか。
- 草野:
- 全くその通りですね。公文書館制度で30年となっているものを、より積極的に進めるべきです。
- 久米:
- 最後に6についてですが、現在、実際にこの条項に関わってくる法律はだいたいこのようになっています。
- 小宮:
- まず、情報公開法の前身ともいうべき行政手続法です。これに関しては、条項中に他法の優先が定められており、なおかつ具体的な文書の非開示は定められておりませんので、行政手続法には情報公開法が優先します。しかし、その他、具体的に文書を指定してある法律はそちらが優先されます。
- 久米:
- で、実際情報を請求する場合は、こういう手続きになっています。
- 小宮:
- 情報公開に関して、一元的に取り扱う部所が総務庁内に設置されます。公開の最終決定権者は情報公開審議会で、国レベルで公開非公開の決定を一手に引き受けます。万が一開示拒否処分となった場合、救済機関が設置されています。
- 久米:
- この救済機関ですが、実際にうまく働くんでしょうか?
- 草野:
- まず、救済制度の条件としては、救済が簡易・迅速に行なわれること、費用がかからないこと、そして公正なことが挙げられます。これを満たした制度としてオンブズマン制度がとられることになったわけです。その特徴としては、まず独立した機関であること。内閣から任命されること。そして、強い権力を持った存在であることが挙げられます。
- 久米:
- オンブズマンの決定に不服だった場合、どうなるんでしょうか?
- 草野:
- それも今回の法案の特徴なのですが、二段階の形式をとっています。この場合、さらに裁判所に訴えることが出来るのです。そして裁判所においては、裁判官が秘密裁判で当該情報の閲覧をし、判決を下すことができるという、いわゆるインカメラ制度を導入し、判断基準を明確にできます。海外でもこの方式がスタンダードですね。
第3部(施行後)
- 久米:
- では、情報公開法が実際施行されたとして、何も問題点が出てこないのでしょうか。第三の検証、立法以後に関してです。どうでしょうか、草野さん。
- 草野:
- はい、私は主なものとして、ここに挙げた四つの弊害が予想されると思います。
まず、1のマスコミについてですが、現在でも、ワイドショーに代表されるようにセンセーショナルな見出しをつけ、何かと誇張したり、時には誤った報道をしていますね。情報公開をすると、もちろん情報量も今より増えるわけで、この傾向は強まると思われます。
- 久米:
- そうした場合、マスコミによって色づけされた情報を国民が真に受けてしまうことも考えられると。
- 草野:
- ええ。また、場合によっては行政や立法に悪影響を及ぼしかねませんよ。
- 久米:
- いや、これは我々も耳が痛いですね。ところで草野さん、これは例えば、ODAなんかがそのいい例かと思うのですが。
- 草野:
- はい、全くその通りです。そのあたりのことはこの本(『ODA(政府開発援助)一兆二千億円のゆくえ--日本の国際貢献のあり方を問う』草野厚著 東洋経済新報社 1993)を是非お読み下さい。1600円です。二番目は文書化の時に起こる問題です。
- 久米:
- というと?
- 草野:
- この法律で行政側は多くの資料を公開する必要があります。その文書が見られるとなると、これまでのように突っ込んだ意見が書きづらくなったり、さらには自らに不利な情報がある時にはそれを加工したり削除したりすることが考えられます。
- 小宮:
- 4ですが、これが一体どういったことなんでしょうか。
- 草野:
- 情報公開法では、誰もが調査されることなしに自由に情報を請求することができるようになりますが、それはつまり、情報をどのように利用するのかは請求者の自由だということです。
- 久米:
- つまり、不当な目的のために情報を引き出そうとするものがでてくる可能性があるということですね。
- 草野:
- そうですね。具体的には、競争企業の秘密を探ろうとする企業や、自分についての捜査内容に関する情報が欲しい犯罪者などです。アメリカでは、請求者の80%をこれらが占めているのが現状です。
- 久米:
- 情報公開法本来の目的である「政治参加」や「汚職の防止」には合わないということですか。何か解決策はないんですかねぇ。
- 草野:
- ここにあげられるようなものがありますが、1については、代理人を立てられればそれでおわりですし、3についても、プライバシーの侵害となったり、請求しづらくなったりする恐れがあります。
- 久米:
- はい、草野さん、本日はどうもありがとうございました。まだまだ、課題が山積みのようです。CM、そして天気予報。