28851 返信 スウェーデン対ニュージーランド URL memo 2004/07/12 23:54

 以前25378番投稿で、世界で初めて女性参政権を認めた国としてニュージーランド、外国人の地方参政権を認めた国としてスウェーデンを取り上げました。
http://bbs2.otd.co.jp/mondou/bbs_plain?base=25378&range=1

 この両国には、他にも政治の「先進国」と呼べる側面が色々と見られます。
 もっとも、先進国には先進国ゆえの問題がある、そのあたりは経済や軍事の「先進国」と変わらないでしょう。

** 女性参政権追記

 1893年のニュージーランド女性参政権の裏には、紙幣の顔にもなったケイト・シェパード等の活躍がありました。
 彼女は元々、キリスト教婦人禁酒連盟(WCTU)のメンバーでした。当時のニュージーランドは女性より男性の方がはるかに多く、飲酒暴力による女性の被害も「旧世界」に比べはるかに深刻だったため、キリスト教婦人禁酒連盟は女性運動の中心的存在でした。
 ケイトは1887年にWCTU参政権部門の責任者となり、1892年には「女性参政権連盟」を発足させて女性参政権のための署名を集めました。この署名が、1893年には、ニュージーランド成人女性の約4分の1にあたる3万にものぼり、参政権実現のための大きな力になりました。

 ニュージーランドの女性参政権には、英国を見習った植民地建設の際、数少ない女性の主婦労働が高く評価されたという背景もありました。今でもかなりの専業主婦が存在し、日本に比べ20代女性の就労率は低く、出産率は高くなっています。一方で、30代以降の女性の就労率は日本を上回ります。

 なお参政権の実現ではオセアニアに遅れましたが、スウェーデンでも女性の政治進出は相当に進んでいます。
http://www.ipu.org/wmn-e/classif.htm
から、国会議員に占める女性議員の比率を引用します。

スウェーデン 一院45.3%
ニュージーランド 一院28.3%
中国 一院20.2%
米国 下院14.3% 上院13%
日本 下院(衆議院)7.1% 上院(参議院) 14.6%
(試算では、今回の参院選で女性議員が36人から33人(13.6%)に減少しています)

世界平均 一院もしくは下院 15.6% 上院 14.2%

 また、スウェーデン女性の就労率は25歳から60歳までの全年代で75%を越え、世界でも屈指の高率です。

** 「ラゴム」と「フェアー・ゴー」

 スウェーデン人の価値観を象徴する言葉として「ラゴム」(節度を持って、ほどほどに)があります。

> バイキングは仕事を終えてひと休みするとき、焚き火を囲んで集まり、動物の角で作った杯に満たした酒を回し飲みした。肉体労働のあとで喉もカラカラだったにちがいないが、全員に酒が行き渡るよう、ひとりひとりが控えめに飲むのが戦士たちの礼儀となった。いいかえれば、仲間全体のことを考えて〜つまり"laget om:ラゲット・オム"(のちに"lagom:ラゴム"と省略されるようになった)の精神で〜飲むのである。
(スウェーデン人のまっかなホント ヘーテル・ベルリン 幾島幸子訳 マクミラン・ランゲージハウス)

 このような傾向は北欧全般に共通するようで、バイキング時代の「シング」(民会)時代から平等志向が強い。これが、富裕者にかなりの税をかけて福祉に回したりする政策に反映されているようです。

 ニュージーランドには「フェアー・ゴー」(公正さ)という、悪徳商法やお役所仕事への苦情を取り上げる番組が、1977年の放映開始以来高い視聴率を集めて来ました。実際ニュージーランド人にとって「公正さ」は極めて重要な美徳となっています。

** マオリとサーメ

 ニュージーランドの先住民マオリには、「ハワイキ」と呼ばれる故郷の島から、カヌーの大船団を組んで移住して来たという伝説があります。現在でも多くのマオリは、自分がどのカヌー大船団(大きなものは8つある)に属しているかをたどることができるそうです。しかも、約1000年も昔にカヌーで大洋を渡ってきたというこの伝説は、かなりの部分まで史実ととらえられています。「ハワイキ」はタヒチだとか。
 マオリも他の植民地先住民の例にもれず土地を奪われ、多くの弾圧を受けてきましたが、1970年代に入ってから「先住民族性」をアピールして抵抗運動を盛んにします。当時のニュージーランドは建国以来の白人至上主義をようやく脱しつつあり、マオリが全国民の8%(20万人位)を占める人口を持っていたこともあって、この運動は国有地の部分的返還や漁業権に関する金銭的補償などの成果を挙げました。
 もっとも、現在のマオリの多くは都市に住み、失業率は白人の3倍にもなるということです。

 サーメはラップ人とも呼ばれますが、これは「単純な人々」という蔑称の意味があるため、自称である「サーメ」の方が一般的に使われています。彼らは元々トナカイとともに生活して来た遊牧民族で、活動範囲はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの4カ国にまたがりました。もちろん国境線など、あとから来た征服者が勝手に切り刻んだものです。一時は「北欧」諸国に対する北からの独立運動もありました。
 結局独立はかなわず、現在のサーメは多くが定住生活者となり、トナカイぞりではなくスノースクーターを使い、民族衣装は観光用に着るだけ、になってしまっているようです。人口は全部で6万人位。

 それでも例えば、マオリと米国先住民、サーメとアイヌの境遇を比べれば、マオリやサーメの方が「まし」とは思います。サーメも北欧諸国を越境したり、民族語の教育や議会自治を行う権利はそれなりに認められています。

** その他いろいろ 

 スウェーデンとニュージーランドは、ともに20世紀の初頭から、医療、教育、老人等に対する手厚い保護制度を築き上げてきました。しかし高度成長の終わりとともに高福祉の負担が目立って来たため、ニュージーランドでは1980年代に入って労働党政権自ら国家支出の削減を行いました。それでも、例えば障害者を施設ではなく住宅地に住ませ、地域社会での生活を支援するといった政策は維持されています。
 スウェーデンも1990年代には経済危機に見舞われ、政策の見直しを余儀なくされましたが、基本的には高負担高福祉政策を保ち、1998年以来黒字財政を続けています。

 近年は両国とも移民が増え、スウェーデン人の12%を移民出身者が占め、ニュージーランド人の7%がポリネシアもしくはアジア系住民で占められています。両国とも「移民のおかげで食生活が豊かになった」ということが、移民が受け入れられている一因となっているようです。
 スウェーデンの国旗は青地に黄十字で、13世紀以来の王室の紋章。ニュージーランドの国旗はユニオンジャックに南十字星をあしらったもので、ともに君主制を維持しています(ニュージーの元首は英国女王)。
 スウェーデンの人口密度は日本の6%、ニュージーランドは約4%なのですが、ニュージーランドの森はほとんどが牧場にされてしまいましたし、スウェーデンの森もかなり酸性雨にやられています。それもあってか、両国とも自然保護や動物愛護運動が盛んです。

** 余談 **

 入管問題等をめぐる「吉田メビサ」スレッドは内容が濃いと思います。
http://bbs2.otd.co.jp/mondou/bbs_plain?base=28723&range=1
http://bbs2.otd.co.jp/mondou/bbs_thread?base=28724&range=1