30279 返信 Re:南京事件 初歩の初歩2 URL 曽田 2004/10/22 19:46
市民58歳さんへ返信いたします。

>唯一何か建設的な方法があるとすれば、それらの本が何を資料にしている
>かという、言わば原典資料一覧表のようなものをあらゆる著作物について一
>元的に作成し、どの本の著者がどの資料に依拠しているかを分布の形で把握
>し、それらの著者の結論の違いがどのような資料に基づいているかを検証す
>ることでしょう。

それはそれで意義のあることだと思います。ただ、「どういう資料を用いているのか」ということに加えて「その資料をどのように活用し、どのような論理展開を行っているのか」ということも重要だと思っています。以下私がなぜそう思うのか、ご説明いたします。

私は著者の結論の違いは資料あるいは史料(歴史の研究・編纂に使う文献や遺物。とりあえずこの用法で統一します)の選択よりはそれらの活用方法や論理展開の違いによるところが大きいように思います。例えば、とほほさんの投稿にもありましたが、トリミングなどの手法を用いると資料全体が示す内容と正反対の主張をすることが技術的に可能です。この場合、史料の使用の有無によって結論の違いを分析することができません。

ただし、史料の活用および論理展開を私たち大衆が本格的に検証するのは大変です。まず史料を閲覧して、(文献の場合は)通読するところから始めないといけませんから。

これに順ずる方法として立場の異なる論者の論争を見る、というやり方があります。一方が相手の史料の使い方などを批判し、相手が反論を行うといったやりとりによって、トリミングなどの不正は明らかになりますし、見解の相違の実態が鮮明になります。しかし学会誌などを取り寄せるにしても、南京大虐殺に関する本質的な論争はすでに終わっているので、バックナンバーを探す、という簡単そうに思えて結構きつい作業が待っています。

そこでさらに順ずる方法として、一般向けに出版された書籍を読むことによって前述の反論・再反論をある程度確認することが出来ます。

例えば東中野修道氏「南京大虐殺の徹底検証」に対しては「南京大虐殺否定13のウソ」で反論がなされていますし、その中に史料の使用方法についての批判も含まれています。これに対し、東中野氏も「南京『虐殺』研究の最前線(平成14年度版)」で再反論を試みています。

私自身の検証は以上の確認作業が主です。市民58歳さんの提案は、ご自身もおっしゃっているようにかなり大変だと思います。

例えば兼松さんへの返信に対する横レスで恐縮ですが
>あとは通州事件も無差別虐殺に入るでしょう。
とありますが、いわゆる通州事件(支那駐屯軍司令官香月清司中将の記録によれば犠牲者は日本人一〇四名と朝鮮人一〇八名)については中国政府は日本に謝罪し、賠償金も支払っているようです(以下はゆうさんのウェブサイト「小さな資料集」からの複写です)。
−引用開始−
未曾有の惨事として世人の記憶に新たなる通州事件の解決方に関しては冀東政府長官宋墨氏と日本大使館森島参事官との間に折衛が続けられてゐたが、廿四午後四時半池長官は北京大使館を訪問して公文を手交し、正式陳謝と将来の保障をなし、併せてこの事件に上る被害者に對する弔慰賠償金を手交し、森島参事官より右に對する回答文を手交、ここに同事件は全く解決を告げるに至った。
[読売新聞社編輯局『支那事変實紀 第五輯』非凡閣、昭和十三年一月十一日発行(1938年)、p.266]
−引用終了−
この例でいけば、読売新聞社の「實紀」に依拠して通州事件を語るやり方、「實紀」に依拠せずに通州事件を語るやり方があるわけです(通州事件を非難する人は「實紀」に依拠しないケースが多いように思いますが)。「實紀」の分量自体大変なものですから、その中のどれを利用したか、しなかったかを含めると依拠史料の分析は難しそうですね。書籍の中には依拠史料を示す注釈が全くないものもありますし(渡辺昇一氏・小室直樹氏共著の「封印の昭和史」とか…)。
 とまれ、市民58歳さんの意欲には敬意を表します。成果物ができたら是非問答有用板で紹介して下さい。