| 30660 | 返信 | Re:Erna Parisは帝国主義の手先 Re:『歴史の影――恥辱と贖罪の場所で』 | URL | 前田 朗 | 2004/11/08 15:19 | |
| 森永和彦さん ご意見ありがとうございます。 私の投稿へのこれまでの反応は、私が書いていることとほとんど関係のない妄想を書き連ねた非難ばかりで、苦笑する以外ありませんでしたが、森永さんのご意見は正面からのご批判です。 > >Erna Paris< なる者はNATO侵略者の手先であり、 「帝国主義の手先」「侵略者の手先」「戦犯」「粉砕」「血で購う」ですか・・・。森永さんのご意見として承っておきますが、反論の必要もない行論です。というよりも、反論しようがない。 そして、森永さんはきわめて政治的な議論をはじめながら、途中からあたかも法的な議論をしているかのように振る舞っています(法的なものと政治的なものはつねに重なり合うものですが)。 「カンガルー裁判所」「でっちあげ法廷」というのも、森永さんがそう考えていることはよくわかりますが、国際社会に通用しない独断にすぎません。 日本の歴史修正主義者が日本の内輪だけで東京裁判批判をしているのと同じような話です。旧ユーゴスラヴィア国際刑事法廷(ICTY)については、国際社会でも(国連安保理事会内でも、国連人権委員会でも、多くの国際法学者の間でも)さまざまな批判や、不十分との指摘がありますが、だからといってICTYを否定するような意見は表舞台には浮上していません。国際司法裁判所でも、人権委員会でも、人権小委員会でも、ICTYの存在と活動を前提とした議論が行なわれています。東京裁判にいくつかの欠点があっても、多くの国際刑法テキストが東京裁判とその判決を前提としているのと同じです(歴史修正主義者のように、「俺はいやだあ〜、東京裁判は認めない!」と叫んでも、議論になりません。空さえ見上げようとしない井の中の蛙がいるものです)。 旧ユーゴ領域における諸紛争・諸事件には長い歴史があり、複雑なので、とうていここに書くことはできませんが、ICTY設立・運営との関連で言えば、当時喧伝された「民族浄化」が欧米諸国によって「誇張」されたこと、ICTYが当初は一方的な逮捕と裁判しかできなかったこと、などの批判は当然できますし、私も講演などではそう指摘してきました。しかし、それを理由にICTYを否定するような暴論に加わるつもりはありません。エルデモビッチ事件、タディッチ事件、イェリシッチ事件、フォツア事件、セレビッチ事件、ラスヴァ事件等々の裁判とその判決によって、ICTYは国際法の世界で地位を確立しています。 また、NATOのユーゴ爆撃が違法であり、それ自体が戦争犯罪であると私は考えていますが、NATOに対する非難をICTYに向けるのはナンセンスです。NATO側の戦争犯罪はそれとして裁くべきだという主張をするのが普通の考え方です。一方の戦争犯罪を理由に他方の戦争犯罪を免罪する議論は採用できません。 ミロシェヴィッチ裁判に問題があることは周知の通りです。やや性質は違いますが、ルワンダ国際刑事法廷(ICTR)でも、たとえばメディア裁判では証拠の翻訳問題をめぐって紛糾が生じています。裁判所の側に不手際があったことは否定できません。手続きの不備や訴訟指揮の不当性を批判するのは当然のことですから、批判したい人はどんどん批判すればいいのです(批判に耐えない事務処理や訴訟手続きを行なえば、それは永久に記録されるでしょう)。私も内外のさまざまな裁判や事件について批判声明を書いたり、賛同を求めたり、求められてきました。その際に一定の「選択」を行なっているのは事実ですし、当然のことです。私自身苦労してきた経験によれば、「筋の悪い事件」はいくら訴えてもなかなか賛同署名してもらえないものです。 ミロシェヴィッチ裁判が「政治劇」と化しているのは検察側や裁判所側の不手際によりますが、もともと「国際政治」そのものなのです。政治権力を濫用して犯罪を犯し(これは私の政治的判断です)、政治権力をタテに裁判逃れをして、いまは法廷を認めないと称しながら出廷して自ら弁護権を行使している「政治劇」の主役は「政治的復讐」に直面するしかないのです。法的に見れば「弁護権侵害」ですから当然批判できます。たとえどのように政治的な事件でも、被告人がいかに政治的に振る舞おうとも、法廷は弁護権を保障しなければならないのですから、批判の理屈はいくらでも並べることができます。しかし、問題の所在はそこではありません。だから著名な法律家のほとんどが署名していないのでしょう(私の尊敬するラムゼー・クラークさんやピーター・アーリンダさんは署名していますが)。 森永さんの基準から見て「本物かどうか」ご診断いただくのは結構ですが、「帝国主義の手先・侵略者の手先」として森永さんに「粉砕」され「血で購うことになる」のは御免こうむりたいですね。 |
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