| 31313 | 返信 | Re:アフガニスタン女性革命協会(RAWA)の主張は真実か?Re:再質問Re:ICTYの違法性についてRe:Erna Parisは帝国主義の手先 Re:『歴史の影――恥辱と贖罪の場所で』 | URL | 前田 朗 | 2004/12/06 15:14 | |
| 森永和彦さん ご教示ありがとうございます。 1)私の専攻は刑法(刑事人権論、戦争犯罪論)です > 前田教授によると、「創設者のミーナは、1987年に、ソ連KGBの手先によって暗殺されました。」のだそうです。前田教授は、このこの主張が真実かどうかを自分で調査したのでしょうか? > > 「アフガン女性と連帯する会」のサイトにも、この主張が載っています。 > 私はアフガニスタン研究者でもなければ、KGB研究者でもありません。アフガニスタン国際戦犯民衆法廷(ICTA)の運動のために必要な情報を収集し、調査をし、運動を展開してきました。これ自体は、私の「研究」ではなく、「運動」です。カブールには戦争被害調査のために4度行きました。クンドゥズやマザリシャリフにもいきました。パキスタンには8度行きました(もちろん「運動」の成果を「研究」に活かすことをいつも考えていますが)。 私はRAWA研究者ではありません。「RAWAと連帯する会」という運動団体のメンバーです。RAWAは研究対象ではなく、連帯運動の仲間です。RAWAの病院、学校、社会人教育教室、難民キャンプなどを4回ほど見学させてもらいました(もちろん、RAWAとの連帯活動の中からさまざまな研究の芽をもらっていますが)。 従って、森永さんが指摘される論点(KGBとヘクマティヤル・・・)は私にとってはどうでもいいことです。というか、ほとんど誰にとってもどうでもいいことで、これを「論点」として思いつくのは森永さんだけでしょう。それに、私は「ヘクマティヤル」などと書いていません。 なお、森永さんが引用されている「アフガン女性と連帯する会」は、私たちとは関係がありません。まぎらわしい名前ですみませんが、私たちは「RAWAと連帯する会」です。 2)歴史・記録・記憶 森永さんのご指摘は、90年代日本における歴史や記憶をめぐる思想の闘いを想起させます。日本軍性奴隷制や南京大虐殺をめぐる論戦は、まさに歴史・記憶・責任(無責任)をめぐる思想戦でした。アーナ・パリス『歴史の影――恥辱と贖罪の場所で』がトータルに提起しているように、あるいはプリーモ・レーヴィが自死に至るまで懸命に問い続けたように、あるいは「女性国際戦犯法廷」に結集した日本とアジアの女性たちが日本国家に突きつけたように、そして先日、ベアトリス・トゥアソンさんと李溶洙さんが細田官房長官に面会して訴えたように、加害と被害の間での歴史への向き合い方が問われ続けてきました。 <歴史を語り、書いてきたのは誰か>という問いです。 直ちに指摘できるのは、第1に、歴史は「勝者」「侵略者」によって記録され、語られてきたことです。「帝国主義侵略者」であろうと、「非―帝国主義侵略者」であろうと同じことがいえます。第2に、「男性」によって語られてきたことです。「女性」の歴史的経験は無視され、その声には耳を傾けることもなく、「男性による男性のための歴史」が記録されてきました。 RAWAについて言えば、第1に、この四半世紀のアフガニスタン史は、「勝者」「侵略者」によって書かれてきました。それに反する歴史は抹殺されてきました。ソ連や、一部のムジャヒディン、そしていまはアメリカの都合によって、<歴史が書き換えられています>。 第2に、アフガニスタン女性の声は無視されてきました。一般にどこの国や社会でも女性の声が無視されてきたのですが、それ以上に、アフガニスタンでは女性無視が貫徹してきました。 第3に、RAWAは設立当初から非合法とされ、投獄・拷問・暗殺の被害を受けてきました。そしてパキスタンへ逃げて難民として暮らしています。今でも非合法であり、アフガニスタンでは公然活動はできません。パキスタンでは多少の活動を目こぼしされていますが、今でも原理主義者に襲撃されたりします。 ちょうど良い機会なので、私の手元にある関連文献のリストをつくってみました(研究のために購入したわけではありません。ICTAの運動のためにカブールやイスラマバードの書店で購入したものです。アラビア語、ダリ、パシュトゥンはわからないので購入していません)。そのリストを末尾に掲げます。日本語文献は除外してあります。 これをご覧になっても、アフガニスタンについて誰が書いてきたのか、語ってきたのかを推測することができます。多くはニューヨークやロンドンや、ニューデリーやラホールで出版されてきたのです。そしてほとんどがムジャヒディンやタリバンやビン・ラディンについて言及しています。あたかも男たちの闘いだけで世界が成り立っているかのように。一部の例外を除けば、アフガニスタン女性の姿を見ることができません。RAWAや設立者のミーナの名前すら、登場しないのです。 以上のことから言って、RAWAがその主張を文献によって「証明」できなかったとしてもそれはやむをえないことです。「証明」を求めるほうがどうかしています。RAWAがその設立当時の記録を保持していないことはやむをえないことです。それにもかかわらず、RAWAに「証明」を求めること自体が「抑圧」にほかなりません。RAWAの記憶を否定し、誤りを指摘することはもしかすると容易かもしれませんが、それは「日本国家によって書かれた歴史だけを絶対視して、慰安婦の声に耳を傾けない」のと同じことではないでしょうか。 3)RAWAの現実と記憶――ミーナの暗殺 それではRAWAの歴史・経験・現実はどのように伝えられてきたのでしょうか。当時のカブールでは、RAWAのチラシや「女性の声」(1981年創刊の機関誌)を保有しているだけで逮捕の恐れがありました。何も持っていなくても突然、夜間に家宅捜索されたりしています。RAWAだけではありません。反政府と疑われた多くの人々の共通体験です。米軍がイラクでやっている家宅捜索を想起させます。 このためRAWAメンバーはしばしばチラシを廃棄し、口頭で連絡を取らなければならなかったのです。パキスタンに逃れて難民となってからは、難民キャンプの中に学校をつくり、自分たちの経験を伝えてきたのです。パキスタン国境の難民キャンプに暮らす多くの難民たちは、仕事もなく、食料や水を手にするのにも苦労し、モスクもなく、学校には明かりも机も教科書もないのです。2002年と2003年に私が訪問した6つの難民キャンプのどこでもそういう状態でした(それでも私が行ったのは、状況がいくらか改善された後のことです)。RAWAの学校も、本当に貧しい状況の中で苦労して続けています。パキスタンの学校教科書を使っていたりしますが、古くて、あちこち破れた、日本では到底考えられないような教科書1冊を数人でまわしています。 こうした現実野中で、RAWAは、自分たちの闘いを口頭で伝えてきました。「女性の声」も何とか続けてきました。最近では海外のサポーターの協力によってウエッブサイトを開設していますが、RAWAがもっているコンピュータはわずかです。ペシャワルのRAWAの学校では800人の生徒にパソコン1台です。 さて、ミーナの暗殺については、下記の2冊の本に書かれています。 1) Anne. E. Brodsky, With All Our Strength, The Revolutionary Association of the Women of Afghanistan, Routledge, New York, 2003. 2) Melody Ermachild Chavis, Meena, Heroine of Afghanistan, St.Martin’s Press, New York, 2003. いずれもアメリカ女性によるものです。アフガニスタン女性によるRAWAの歴史やアフガニスタン女性史はまだ書かれたことがありません。 日本語文献は次の2冊です。 3) アフガニスタン国際戦犯民衆法廷実行委員会編『アフガニスタン女性の闘い――自由と平和を求めて』(耕文社、2003年) 4) RAWA(アフガニスタン国際戦犯民衆法廷実行委員会訳)『声なき者の声』(耕文社、2004年) 3)には原本がありません。私たちが、RAWAのパンフレットやアピールを編集して出版したものです。4)はRAWA自身が編集した写真集の翻訳です。http://afghan-tribunal.3005.net/ さて、上記2)チャビス著の14章によると、1987年2月4日にミーナが行方不明になり、6ヵ月後、新聞記事でミーナが殺されていたことが伝えられました。犯人はアーメド・スルタンとモハメド・ハマユンです。わかっていたのに、パキスタン警察は捜査も逮捕もしていません。捜査を要求しても拒否されています。アフガニスタン難民女性が殺されたからといって、パキスタン警察は何もしなかったのです。それどころか、ミーナの遺体はパキスタン警察によって埋葬されましたが、RAWAメンバーにはその場所も教えられませんでした。ハマユンは、一方でヘクマティヤルと結びつきながら、他方でKHADとつながっていました。こうした二面的な役割は当時は決してないことではありませんでした、と。 これがRAWAにとっての歴史であり、記憶なのです。 さて、森永さんは以下のように書いています。 > 「グルブディン・ヘクマティアル(Gulbuddin Hekmatyar)の率いる原理主義者」がKGBと共謀していたという主張を行っているのは、RAWA以外には、米国のファシストLyndon Laroucheの組織だけであることが指摘されています。 「・・・だけであることが指摘されています」とあるので、何かと思ったら、「マルクス主義メーリング・リスト」ですか。その主張をすることに「政治的利害」を有している「マルクス主義メーリング・リスト」に書いた投稿です。上に書いたようなアフガニスタンの歴史と現実をめぐる状況を一顧だにせず、コンピュータの前に座ってチャカチャカとキーボードを叩いて記事を量産している人物の投稿に史料的価値があるはずもありません。 それより何より、カブールに行って普通の市民に質問すればすぐにわかります。ヘクマティヤルが無節操な人物で、あちこちから資金援助を受け取り、かつ私物化していたこと、あっちにつき、こっちについてその場その場で立ち回ってきたことは、常識の部類に属します(「無節操」というのは私の「評価」であって、本人は戦略的に多方面からの資金援助を獲得している、ということだったのかもしれませんが)。「まったく証明されていません」というのは、常識に沿わない、机の上の議論に過ぎないと思います。 森永さんも、まさかコンピュータの前に座ってキーボードを操作して現実がわかったなどと思わないでしょう? 4)毛沢東主義者 森永さんは次のように書いています。 > > いえ、70年代および80年代の彼らの文書を読むならば、彼らが毛沢東主義者か、それに近い組織であったことを理解することは難しくありません。そもそも、前田教授が引用している「ソ連社会帝国主義侵略者」という用語自体、当時の毛沢東主義者の主張そのものではありませんか? 第1に、「ソ連社会帝国主義侵略者」というのは、RAWAからの引用ではありません。森永さんがあちこちで「帝国主義侵略者」とか「反帝国主義」といった用語を多用しているので、それに合わせて私が造語したものです。誤解を招く表現だったとすればすみません。 第2に、「70年代および80年代の彼らの文書を読むならば、・・・理解することは難しくありません」とありますが、読んだのですか? どこで読んだのでしょうか。何語で読んだのでしょうか。ぜひ教えてください。 当時のRAWA文書の大半をRAWA自身が持っていないのです。持っていれば逮捕され、拷問されたからです。難民となって流浪したからです。ミーナが暗殺されたときに大弾圧を予想して、そのとき持っていた文書はいっせいに処分したからです。当時のRAWA文書を持っているとしたら、それこそKGBだけだと思うのですが。 RAWAが毛沢東主義者であるといううわさは、当時から流れていましたが、それはミーナの夫のファイズが「アフガニスタン解放組織(Afghanistan Liberation Organization)」の中心メンバーだったからです。「夫が毛沢東主義者だから妻もそうだ」という決め付けがアフガニスタンでは通用したのです。妻が自分で自由に考えて、自分で行動するということを許せない男たちの間で。しかし、ミーナは、RAWAのもとになった女性グループを立ち上げたときに、ファイズの組織とは関係ないこと、政治団体ではなく、女性の権利擁護団体をつくることを、確認しています。ですからALOとRAWAは一緒に活動はしていません。ただ、ミーナがファイズから教わった言葉を使ってチラシを書いた可能性はあります(というか、その可能性は高いでしょう)。カブール大学を中退して活動に専念したミーナにとって、世界に関する知識の多くをファイズから得ていたでしょうから。 RAWAを毛沢東主義とするうわさを伝えるのは、文献リスト41)のエマディです。アフガニスタン女性の状況について研究したすぐれた研究ですが、筆者はパキスタン男性で、アメリカの大学で研究しています。情報は1993年段階のもので、ニューヨークで出版し、全く同じものを2002年にカラチで出版しています。 RAWAは長い間、このうわさを否定し、毛沢東主義者と呼ばれることを拒否してきました。上記1)のブロツキーは、RAWAの主張を伝えています。 ここでも、先に書いた歴史と記憶の問題が介在します。<RAWAが何者であるかを誰が書いてきたのか>という問題です。エマディはアフガニスタンの女性の権利についてまじめに考えている研究者ですが、男性です。チャビスおよびブロツキーは女性ですが、アメリカ人です。 5)人民民主党政権の評価 > アフガーニスターン女性を解放しようとした人民民主党政権とそれを支援したソ連に敵対し、宗教反動勢力と共闘したのは誰なのでしょう?当時、ソ連が撤退し、人民民主党政権が崩壊したなら、暗黒の宗教独裁が実現し、女性の権利は完全に奪われてしまうことくらい、誰の目にも明らかだったのではないでしょうか?にもかかわらず、人民民主党政権に敵対して宗教反動勢力と共闘した勢力が、どうして女性の解放者であると自称する資格があるのか? 最後に、人民民主党政権の評価にかかわる論点ですが、2点だけお尋ねします。 第1に、「人民民主党が女性を解放しようとした」というのは事実でしょうか。主張の中に人民民主主義的な女性解放論が含まれていたとしても、それをもって「解放しようとした」とはいえません。人民民主党が女性解放のために何かをしたという具体的事実を教えていただけませんか。 上記3)の『アフガニスタン女性の闘い』30−32頁に当時の状況についてのRAWAによる評価が書かれています。人民民主党時代に女性の社会的進出、政治役職への就任などが促進された事実を認めつつ、結論として「要約すると、カルク政権は女性の活動に反対はしなかったが、女性の社会的地位を改善するためには何もしなかった」と。 第2に、人民民主主義の変革の嵐の中で、多くの女性を含む人民が虐殺されたとされていることについて、森永さんはどうお考えでしょうか。解放すると称して、多数殺していたのではありませんか。 RAWAは次のように述べています。「当局は国内の政治舞台の浄化を始め、民衆に実力を行使し、野蛮な弾圧を始めた。秘密警察による知識人への迫害と逮捕が始まった。アジア最大の監獄の一つであるプルチャルキ監獄は罪のない民衆で溢れ、監房はわが若き世代の血に塗れた。一年後、内務省が発表したリストには暗殺された一万二千人の民衆の名前があった」(31頁)。 人民民主党による大規模虐殺・拷問・粛清は、何もRAWAだけが主張しているのではなく、アフガン史の常識の部類に属します。いちいち指摘するまでもなく、多くの文献に記録されています。日本語文献でも、前田耕作・山根聡『アフガニスタン史』(河出書房新社、2002年)にも「国内各地では反政府活動が盛んになった。政府はこれを弾圧するべく、数千人を検挙、逮捕し、様々な残忍な拷問によって粛清した」とあり、さらに人民民主党内の権力抗争により「ハルク派はパルチャム派の二〇〇〇人を処刑したといわれる」とあります(138頁)。 * ************************************ アフガニスタン文献(手元にあるもの) A アフガニスタンで出版 1) Nancy Hatch Dupree, An Historical Guide to Kabul, The Afghan Tourist Organization, Kabul, 1965,1972(2nd). 2) Muhammad Ali, An History Guide Afghanistan, Behzad Books Center, Kabul, 1969. 3) Republic of Afghanistan, President Daoud’s Speeches, Messages, Interviews and Official Visits.(July 17, 1973 to July 15, 1975), Ministry of Information and Culture. 4) National conference of the PDPA on National Reconciliation, Documents, Afghanistan Today Publishers, Kabul, 1987. 5) International Islamic Meeting Kabul Oct 22-23, 1988, On the Call of Prophet Mohammed for Peace and Social Justice,1988. 6) Ghulam Nabi Mubtakir, Afghan, True & Unique History, Kabul, 2002. 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