31410 返信 Re:試しに強引に語ってみるー強引じゃないでしょう URL あしな 2004/12/12 23:29
レスを付けてくれた皆さんありがとうございます。要は精神科の問題は他科のそれと違って「医療」とその周辺の範疇で解決不能なやっかいなものなので、「ブラ・よろ」精神科編はなかなか盛りあがんないですねという話です。そこから一気に問題を敷延してみたということで。

> 刑務所へ収容されている、凡そ6万人に対して、精神病での長期入院や自宅での監禁に近い状態で、社会に出られない「精神病」患者が30万人いるという事ですね。
> イタリアのトリエステでの精神病院廃止という壮大な試みがありますが、
> http://www.seirokyo.com/archive/world/trieste/021124document.html
> もう少し詳しい情報あったら教えてください。
>
OECDに加盟している国で日本ほどの惨状を呈しているところはどこもありません。
デンマークのオーフス県のホームページなどを見れば、現在の地域ケアと急性期治療の水準が分かるでしょう。

また「こころ病める人々」石川信義 岩波新書などは、日本の精神医療の問題を包括的に(しかしリアルに)まとめてあります。同書の中でトリエステの現況視察についても述べられています。



> これも、上に書いた、イタリア・トリエステの試みが、実際にどのような成果を結んでいるのかが、一つの指標になると思います。
>
 上記の通りです。加えて時期の差こそあれ、抗精神病薬が1950年代に開発され1960年代に普及した後は、殆どの先進国で脱収容・脱施設が進みます。具体的には精神科病床が減少(人口10万当たり30〜50が同10程度)し、患者の平均在院日数が短縮(何百日から平均すれば30日程度、!0日未満と言うところも多い)します。これは薬物により症状のコントロールが可能になったことで社会復帰が進んだと言うことを意味します。
 しかし日本国内では同じ時期に精神病床数が増加し、平均在院日数が最大で500 日以上まで伸びます。薬剤の使用により、精神科特例下の劣悪な環境・少ない人手でもとりあえず薬でおとなしくさせておくことで、患者に希望のない収容を強いることがより簡単になったと言えます。国内の患者一人当たりの抗精神病薬の処方量は他国に比して多いと言われていることもこの事実に相即しています。


> 知ること・・・・今はこれしか無いのではないでしょうか?

 ちなみに1990年代の前半のヨーロッパと後半のアメリカで出た数字では、

 ある時点で一般人口百人中

 何らかの精神症状を有している者が14〜18人
 医者にかかっている人が7〜8人
 症状が精神疾患によると判断されているものが4人
 精神科医にかかっているものが1人
 さらに精神病床に入院しているものが0.1人

 と言われています。(文献の出所は忘れました。ヨーロッパの数字はWHOの調査によるもので、「専門医のための精神医学」という本で見ました。)

 日本の場合で言えば、厚生労働省の患者調査などからほぼ240万人程度が精神科にかかっているとされています。これは人口の約2%ですが、海外では神経症や軽いうつ病
は精神科医ではなく家庭医が見ているのでそんなにズレない数字と言えるでしょう。
 また入院患者が人口の0.1%という数字は、上記の病床数に見合うものです。日本では100人中0.28人が入院中です。

 一方統合失調症は人口の0.6%ほどと言われていますが、生涯に一度は精神科的な病気に罹患する割合については様々な数字が出されていますが、人口の40%から60%としておくと無難なようです。

>
> 「危険な精神障害を隔離せよ」という無知に根ざした深い誤解と排他性は、公衆衛生学
> 的には100人に2−3人の「隔離対象者予備軍」に自らも含まれる可能性が非常に
> 高い事を、誰も理解していないという事に起因しているのでしょう。
>

 ちなみに精神保健福祉法で措置入院の対象とされる「精神障害者」の範囲(同法5条)には精神病質(いわゆる人格障害)知的障害者や依存症者まで「救急的な強制治療の対象とはなりがたい人々」が含まれます。厚生省(当時)が法務省に押しきられた方だと言われておりますが、 酒飲んで記憶がなくなったことがある人が晩酌を欠かさない状態であれば、これにひっかかってしまいます。患者本人に利益のない強制収容が法律上認められているわけで、上記法制定の経緯と合わせて、国家権力の意志において精神科医療が社会防衛を押しつけられてきたことが見て取れます。

 これに刑法上の責任能力の問題と精神保健福祉法の措置入院制度の絡みを問題にし出すとキリがなくなりますが、一点だけ言えば、措置入院の要件は「自傷他害のおそれ」となっていますが、実際には「他害の事実」を前提に通報される者が大半であり、かつ司法機関による責任能力の判断をスルーして措置入院となってしまうと言うことがあります。

 精神障害者が家族を半殺しにした場合でかつ本人が責任を問われるべき状態であっても、現場の警察官の判断で精神保健福祉法24条に基づく通報が為されれば、そのまま入院となり以後司法はノータッチという事例が多々あります。こうなると精神科病床は「実際に危ないことをした奴」が閉じこめておかれる場所であり、そんなところにかかりたいと自発的に思う人は少なくなります。そうなるともう1〜2ヶ月早く受診していれば外来通院・服薬で済んだのにという人が家族に簀巻きにされたり警官に抑えつけられたりして入院という結果に陥ります。諸外国に比べて有意に高い自殺率についても同様。だって入院したら畳敷きの6人部屋の隣は人殺してからそのまま入っている人かもしれないと思えば誰だってそんなとこに入りたくないだろうなあ。

 以下余談ながら、この辺りは「家庭内の事柄に対しては民事不介入」という発想が絡んでいます。同様に事例としてある種の傷害事件を扱うためにDV防止法が必要になってしまう構造と似ています。極言すれば日本では「家庭は治外法権」と言えるかもしれません。

 こういう状況は、なるべく人民の幸福のために手間暇をかけたくないと言う姿勢で場当たり的に政策誘導してきたツケがたまっていよいよ首が回らなくなったと言えるかもしれません。日本の権力機構のこのような行動パターンはハンセン病でも水俣病を始めとする公害病と同じです。

 ところで本日21時15分からNHKスペシャル「不信の連鎖 水俣病は終わっていない」をやっていたので見てたのですが、14日の深夜(15日0:15)から再放送をやるそうなので皆さん見た方がいいです。