32437 返信 帽子屋さんの熱烈なる「ラブコール」にお答えして URL inti-sol 2005/01/25 21:57
しばらく時間がとれなかったので(今も時間はないけれど)帽子屋大先生の熱烈なラブコールにお答えすることができませんでしたが、いよいよ帽子屋さんもボルテージ上がりっぱなしで、少しはまじめにお答えしなければ失礼かと思います。(別に、今までまじめでなかったわけではないのですが)
というわけで、再論

そもそも発端は日中間の貿易関係が、相互依存の関係にあるか否か、という議論でした。帽子屋氏は、この問題に限ったことではありませんが、極端なまでに二元論的な議論の進め方を好む傾向があるようです。AかBか。AでなければB、BでなければAというのが帽子屋さんの好みであり、AでありBでもあるとかAでもBでもない、という選択肢は受け入れられないようです。あるいは、氏の小選挙区制に対する偏愛もまた、そのあたりに理由があるのかもしれません。(これについては根拠ありませんが)
というわけで、帽子屋氏は日中間の貿易関係について
中国の対欧米輸出を起点に、アジア諸国(含む日本)の中間財対中国輸出をまねきよせている「中国特需」の構造上、商品流動からみれば、中国の欧米依存、アジアの中国依存は歴然です。(31847)と、日本が一方的に中国に依存している関係であると力説されました。
私は、違うと思うわけです。いや、中国特需についての帽子屋氏の分析は、基本的には正しいでしょう。しかし、それにも関わらず、否それだからこそ、日本が中国に一方的に依存している関係とは言えないのです。なぜか。
帽子屋氏の表現からは、要するに日本は対欧米輸出の「中国工場」の下請け業者である、というイメージが浮かび上がってきます。しかし、もしそうであるなら、中国は何も外貨を使って日本から中間材を輸入する必要などないでしょう。物価は中国の方が安いのですから、中国が自前で生産できるものならその方が安く調達できるはずで、何もわざわざ日本から輸入することはない。にもかかわらず、なぜ輸入するのか。中国には生産できないか、生産できても諸般の事情で日本から輸入する方が都合がよい(たとえば品質の問題など)からです。例えば、「中国特需」で日本からの輸出が目立って増えたものに工作機械類があります。当然のことながら、工作機械がなければ対米輸出のための商品の製造もできない。もちろん将来的には、中国も自前で工作機械を製造できるようにはなるでしょう。しかし現段階では、日本からの工作機械の輸出が途絶えれば、中国の欧米への輸出にも打撃が及ぶことは明らかです。つまり、中国の輸出産業は日本の工作機械輸出に依存している側面もある(もちろん、日本側もまた中国への輸出に依存していることは、説明するまでもないわけですが)ということです。

それに、日中の貿易関係は、「中国特需」だけがすべてではありません。日中間の貿易額については、香港経由の輸出入をどう扱うかで数字が大きく異なり、香港経由を抜いた数字では、依然として日本の輸出より中国の輸出の方が大幅に多い。もちろん、香港経由の貿易を含めた方が、より実態に近いでしょうから、香港経由を抜いた統計だけで判断しようとした私は正確ではありませんでした。香港経由を含めた日中貿易は、既に日本の輸出超過になっている可能性が高いようです。とはいえ、例え香港経由の貿易を含めた場合でも、例えば1980年代の日米貿易のように輸入が輸出の半分というような一方的状態となっているわけではないこともまた、明白です。

さて、次なる問題は、いや本来はこちらが本論なのですが、
では中国が、そのような日中間の貿易関係を棒に振っても尖閣諸島に攻め込んでくるようなことがあるのか、ということです。

私の知る限り、近代の戦争で経済的な利害得失と無関係に行われた戦争などというものは、ほとんどないと思われます。
端的に言って、多くの戦争は、それによってより大きな経済的メリットが得られることが動機の一つになっている場合が多い、ということです。もちろん、それだけが要因のすべてであるわけでもありませんし、経済的な利害得失といってもいろいろな側面があります。ただし、貿易関係の大小は、経済的な利害得失の中でも、かなり大きな比重を占める問題です。戦争になれば、相手国との貿易関係には大きな打撃が及びますから、貿易に依存する度合いが高ければ高いほど、そのことは戦争に対する抑止力になると考えられます。
もちろん、貿易関係が経済的利害得失のすべてではなく、それよりもっと重要度の高い問題がまったくない、というわけではありません。例えば、太平洋戦争時の日本にとっては、米国との貿易は重要でしたが、石油禁輸によって日本中から石油が枯渇することはもっと重大な問題だった(と軍部は思い込んだ)ので、対米戦に踏み込みました。
それでは、中国は、尖閣諸島に攻め込んで、日中間の貿易を危機に陥れることで、それに代わるどのような利益を得ることができるのでしょうか。あるいは逆に、尖閣諸島に攻め込まないと、日中間の貿易をも上回るどのような利益が失われるのでしょうか。少なくとも、尖閣諸島周辺から採掘されるであろう石油によって、現在の対日輸出を上回るような輸出を稼ぐことはできそうにありません。

帽子屋氏からの納得行く答えは、ありませんでした。ただ

貿易より重要なことがある、たとえば台湾や尖閣が中国の主権の象徴となることがあった場合、戦争にならざるをえない(31997)
と書かれたことがありますが、私が
中国は、少なくとも尖閣諸島の周辺で海底油田の存在が指摘されるまでは尖閣諸島のせの字も言いだしたことはなかった。油田がありそうだと分かったとたんに尖閣諸島の領有権を言いだした。つまり中国が尖閣諸島にこだわるのは主権の象徴だからなどではない。油田がほしいからです。
と書くと、以降「主権の象徴」論は再び言い出すことがなかったので、この意見は引っ込めたのだろうと思われます。

これに対する帽子屋氏の反論は
「日中が戦争になれば貿易関係が妨げられる」と私が書けば
「戦争にならないかぎり、貿易関係をそこなうことがない」のか、と迫ったり

「貿易大だから戦争にならない」と私が書けば
「貿易が少なくても戦争が起きない国はいくらでもある」と応じたり、

と、まさしく二元論大爆裂です。
戦争を人間の健康にたとえるのは不謹慎かも知りませんが、これはまるで
「高血圧は健康を損なう」と書けば
「高血圧でさえなければ健康を損なうことはないのか」と応じ
「血圧が低ければ健康を害しない」と書けば
「血圧が高くても健康な人はいくらでもいる」と応じているようなものです。
もちろん、血圧が適正でも、ガンや大けがをすれば健康であるはずがないし、血圧の高い人にも健康な生活を送っている人が数多くいることも確かです。そういう議論の集積の上で
「血圧の高低と健康状況には有意な差はない」という結論を出すことも可能かもしれませんが、それは何か根本的に変な結論という印象は拭えません。
一般論として、「血圧が高ければ高いほど健康を害するリスクは高まり、低ければ低いほど(ただし適正血圧までで)リスクは減る」これは疑いのない事実です。
戦争と貿易の関係も、ほぼこれと同様のことが言えるのではないかと考える次第です。
さらに、帽子屋氏からは「では中国が尖閣諸島に攻めてきたら日本は戦争をするのか」という趣旨の問題提起がありました。
それに対する私の答えは、中国側が戦争を仕掛けるなら応戦する、そうでないなら日本が戦争を仕掛けるべきではない、つまり尖閣諸島を巡って戦争をするかしないかの決定権は中国にあるのであって日本にあるのではない、というものです。
中国が、尖閣諸島を巡って日本と戦争をしかけてくるなら、それに対しては応じざるを得ないでしょう。少なくとも無条件降伏をするわけには行きますまい。そのために自衛隊というものがあるのですから。そして、自衛隊が適切な対応をとれば、中国は、中国側から戦争を仕掛けずに尖閣諸島を占領することは困難です。もちろん、戦争になれば、戦力差からいって、中国軍は確実に撃退されます。(尖閣のために核を使う、というなら話は別ですが)そして、中国がその程度の戦力の計算、自衛隊の行動に対する予測ができていないはずがないので、中国は日本と戦争をする意志などはないと断言できます。従って、「中国は日本に攻めてくるかもしれない」という種類の危惧は、まったく無用のものであり、無用な危惧で敵対心を煽るのは有害無益なことであるというのが私の考えです。

それに対する帽子屋氏の返信は、

> 尖閣諸島が今にも奪取される可能性があるかのように発言して、防備をおこなうからこそ、「中国は尖閣諸島をせめることが割りにあわず」守られるのです。

だそうですが、「今にも奪取される可能性があるかのように発言」しようがしまいが、自衛隊が強くなったり中国軍が弱くなったりするわけでなし、自衛隊の行動が変わるわけでもなし、そんなことは「尖閣諸島をせめることが割りにあ」うかどうかと、何の関係もありません。尖閣諸島は、現段階においても海上保安庁や海上自衛隊の警戒下にあり、それ以上の特別な防備が必要なわけではありません。
中国であれ北朝鮮であれ、他のどこの国であれ、もし日本に攻め込んでくるというなら迎え撃てばいいし、そうでないないなら対立を煽る必要はない、それだけのことです。

それでは。