32742 返信 Re:「ドイツ語」を話すユダヤ人(Re:「十分」…貴方はこれを何と言ひますか:余談) URL 梶村太一郎 2005/02/06 04:50
> 梶村さん、
>
> > まず、イディッシュがイディッシュ語といえるか否かについてもついても学者の間に議論が分かれています。つまり単なる方言ではなかろうかという議論です。たとえば、沖縄の石垣島の方言を石垣語とは言えないように。
>
> それは、イディッシュを独立した言語として扱うかドイツ語の方言として扱うかという問題でしょう。ちなみに石垣方言は辞書もありますし、比較するなら「東京方言―石垣方言」「ドイツ語―イディッシュ」という対比でなければおかしいでしょう。石垣方言は八重山諸語のひとつですし、日本語の二大方言のひとつ、琉球語の一部でもあります。
>

そうですね、だからスイスのドイツ語でさえドイツのドイツ人が聴いてもむずかしい(スイスのテレビ番組をドイツで放送するときには字幕がつきます。)のですが、それをドイツ語の方言とするか、スイスドイツ語とするかは判断の問題でしょう。
石垣島の方言にも東京でやる時には字幕が必用でしょう。

> > イディッシュというのは、おっしゃるとおりドイツ語圏内で古いヘブライ語その他の言語を話していたユダヤ人がドイツ語の大きな影響を受けて話し続けた言葉です。
>
> ドイツ語圏内でヘブライ語を話していた人々が、かつていたのでしょうか? ヘブライ語はパレスチナで古典ヘブライ語から直接復活したものだと思っていましたが…。ちなみにイディッシュは、ヘブライ語がドイツ語に影響を受けたものではなく、ドイツ語がヘブライ語の影響を受けたものでしょう。
>

このことにも独自の歴史があります。
ヨーロッパのユダヤ人はずーっとタルムートをヘブライ語で唱え続けてきました。これが文化のゲットー化を招いた原因のひとつです。2千年のディアスポラの間そうだったのです。そのため各地の文化にとけ込めない弊害がでてきました。ゲットーのなかでイディッシュを話す生活を続けていたのです。
ドイツにおいてはモーゼス・メンデルスゾーンという哲学者が18世紀の終りに、この
問題を解決するために、旧約聖書をドイツ語に翻訳したのです。このことは、ルターの新約のドイツ語訳に続く画期的な出来事でした。そのためにベルリンを中心とする都会のユダヤ人たちはゲットー言語であるイディッシュを軽蔑し、ドイツ語を話てドイツ文化に参画を始めることになったのです。ドイツのユダヤ人からはイディッシュは駆逐されていきました。

ところが、圧倒的多数であったポーランドからロシアのユダヤ人たちはイディッシュを話し続けていたのですが、ポーランド分割でロシア領となった地域をふくめ、ロシアのエカテリーナ2世は北はリトアニアからベラルーシ、ウクライナをへてモルダビア黒海にいたる広大な地域をユダヤ人定住地域として支配しました。いわゆる東方ユダヤ人の居住区です。これによりユダヤ人の更なる移住を防いだのです。
いわゆるイディッシュ文学はこのような背景のもとにこの地域から出て来たのです。したがって、多くのスラブ系の言語の影響が起こりました。

> > それに、ドイツ語が基礎のひとつであるにしても、この言葉は書いても聴いてもドイツ人には理解できません。よそから来た人が石垣島の方言がさっぱりわからないよりももっともっと極端です。
> > 戦後になってイディッシュはヨーロッパではほぼ死語になり、ニューヨークへ逃亡したユダヤ人の間で(ここでは新聞もあったとのことです)とイスラエルでほんの一部が話されていましたが、現在ではほぼ消滅しました。
>
> なるほど。ドイツでイディッシュ語を聞いたことがないのでなんとも言えませんが、こういう経験をしたことはあります。昔アジアを旅行していた頃、同じホテルにイスラエル人の旅行者がいたのですが、彼らがなぜかドイツ語で話していたのです。そのときは不思議な感じがしたのですが、後から考えて、あれはイディッシュだったのかと思いました(私はドイツ語は話すことも書くこともできません)。しかし、梶村さんのお話によると、彼ら(90年頃に20代だった若者でした)はドイツ語で話していた可能性が高いわけですね?
>

若者でイディッシュができるひとはほとんどいないでしょうから、おそらくドイツ語でしょう。今のイスラエルでもアメリカでもドイツ語の良くできるユダヤ人は多いのです。

> > ですから、イディッシュとドイツ語の差は朝鮮語と日本語の違いぐらいは最低でもあります。文法構造が似ているとか、語源がドイツ語の単語が多い(日本語と朝鮮語では漢語が多いのと同じように)といったぐわいです。
>
> これはちょっと同意できません。イディッシュは、言語学的には完全にドイツ語の一方言です。ドイツ人が聞いて理解できないとしたら、ヘブライ語彙やスラヴ語彙が多く混じっているからでしょう。私の手元にもイディッシュのテキストブックがありますが、見たところ、言語としてはほとんどドイツ語ですよ。
>
> ここにごく簡単な日常会話の対照表がありますが、ドイツ人が日常会話のレベルでこうしたイディッシュを聞いて理解できないとはちょっと考えられません。
> http://www.din.or.jp/~a_ohno/pages/Deu_jiddisch.htm
>

見てみましたが、これはドイツ語に対応ができるもののリストですから、ほんの一部です。スラブ語との対応も挙げれば、似たようなリストができるでしょう。
前述したようにドイツ人にはさっぱり理解できません。すでに20世紀のドイツ生まれのユダヤ人にも理解は不可能でした。

> 内容が文学に傾けば傾くほど語彙が乖離し、理解不能にはなると思いますが、少なくともこのレベルでは、イディッシュは「なまったドイツ語」でしかありません。朝鮮語と日本語どころか、琉球語と日本語、さらには九州弁と京都弁よりもずっと近い言葉なのではないかと思います。ちなみに朝鮮語と日本語は、英語とイタリア語よりももっと離れております。
>
朝鮮語と日本語は論議の流れでお互いの差の例えとしてあげたもので、もちろんそれと全く同じだとは主張しません。
日本でイデッッシュの専門家は少ないのですが、西成彦『イディッシュ』作品社、でもお読みになれば、その複雑さが理解できるでしょう。

> で、言いたいことはですね。イディッシュはもともとドイツ語から派生したクレオールですから、ユダヤ人がイディッシュからドイツ語にスイッチするのと朝鮮人が日本語にスイッチするのとでは、状況も言語も全然違うので比較対照にならないのではないか?ということです。

これは、一般的には言えないでしょう。むしろバイリンガムの在日の方に尋ねたほうが良いでしょうね。
うちの娘は日独英を日常でも勉強でも使っていますが、英語生活を3ヶ月ほどすると、
ドイツに帰ってきてから2、3日ほどドイツ語と英語がチャンポンになります。この二つは近いですからね。
>