32781 | 返信 | 京都議定書 | URL | memo | 2005/02/08 23:51 | |
工場が排出する二酸化炭素が地表の温度を上昇させるという説は、既に19世紀の末、スウェーデンのArrheniusによって唱えられていました。20世紀に入ると二酸化炭素の増加や気温の上昇が実際に報告され、1957年から開始されたハワイ・マウナロア山の計測では、 二酸化炭素濃度が、季節変動を繰り返しながらも毎年のように上昇していく様が克明に測定されました。 しかし冷戦期にはむしろ、核戦争により大気中にまき散らされた汚染物質が太陽光を遮って気温を下げるという「核の冬」の方が脅威と捉えられており、それほど気温が上がらなかったこともあって、温暖化に対する政治的な取り組みはほとんど進みませんでした。 それが1985年、ソ連のゴルバチョフ書記長就任をきっかけに冷戦が終わりに向かう頃になると、入れ替わるようにして気温上昇が目立つようになり、「温暖化問題」が浮上しました。1988年にはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設立され、各国から指名された専門家が共同して気候変動の調査を続けています。 IPCCは1996年に発表された第2次評価報告書で、 ・世界の平均地表温度は、19世紀末以来0.3-0.6℃上昇してきている。 ・(1990年代の巨大火山噴火の影響も加味された)エアロゾルの冷却効果にもかかわらず、近年は1860年以来最も気温が高い。 ・19世紀後期以降、世界の海水面位は10-25cm上昇してきており、その要因の大部分が、地球表面温度上昇に起因しているものである可能性が高い。 等と、温暖化の傾向を明言しました。二酸化炭素の他、メタンや亜酸化窒素、フロンや代替フロンによる温暖化についても指摘しています。 なお、大気中の二酸化炭素濃度は10世紀以降18世紀頃までは280ppm(0.028%)程度で安定していたと推測されますが、1957年時点で既に310ppmを越え、1985年には約350ppm、現在では380ppmに達しました。地球が過去42万年、経験したことのない高さです。 ちなみに、二酸化炭素自体高濃度では毒性を持ち、日本産業衛生学会では5000ppmを上限値と定めているのですが、その濃度になる前に、人類は温暖化で絶滅するでしょう。 第2次評価報告書では以下のように、将来の状況も予測されています。 ・中位排出予測によると、21世紀の終わりまでに、平均地表気温は、約2℃(不確実性幅1〜3.5℃)上昇すると推測され、その時までにもし温室効果ガス濃度が安定化されていたとしても、その後も数十年間、気温は上昇し続けるであろう。 ・海面は2100年までに中位予測で50cm(15-95cm)上昇し、その後も数百年間上昇し続けるだろう。 2001年の第3次評価報告書ではもっと急速に、21世紀の終わりまでに1.4〜5.8℃の気温上昇を予測しました。 http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc_tar/spm/spm.htm 国立環境研究所でも、100年で4℃の上昇を予測しています 。 http://www.env.go.jp/earth/nies_press/effect/index.html これによると、日本の夏も約4℃暑くなるようです。昨年の夏は西日本で観測史上2位、東日本で3位となる猛暑でしたが、それでも平年との差は西日本で1.2℃、東日本で1.3℃に過ぎません。「4℃」は凄まじい数字なのです。特に関東以西の大都市ではエアコンの排熱等が昇温を増幅し、夏は連日40℃を越える暑さになるでしょう。 ともあれ、第2次の評価報告書を受けて行われたのが京都会議ことCOP(気候変動枠組条約締約国会議)3です。COPは今までに10回開かれていますが、 1: 1985/03/28-04/07 ベルリン 2: 1996/07/08-19 ジュネーブ 3: 1997/12/01-11 京都 4: 1998/11/02-13 ブエノスアイレス 5: 1999/10/25-11/05 ボン 6: 2000/11/13-24 ハーグ 7: 2001/10/29-11/09 マラケシュ 8: 2002/10/23-11/01 ニューデリー 9: 2003/12/01-12 ミラノ 10: 2004/12/06-17 ブエノスアイレス なかでも京都は、先進国各国に対する温室効果ガス削減目標をまとめ上げた大会議となりました。参加者は約1万、1992年のリオ地球サミット以来の環境イベントとなり、会議ではメディアやNGOの注視する中で各国のエゴが衝突し、予定を36時間過ぎた11日昼前になって、ようやく満場一致で京都議定書が採択されました。 各国の、1990年から2008〜2012年にかけての削減目標は以下の通りです。 EU 8% 米国 7% 日本 6% 先進国全体 5% 日本は、1990年時点でかなり省エネが進んでいたという主張を認めさせて欧米より容易な目標値を得たのですが、この6%ですら、このままでは極めて難しいというのが現状です。 1990年と2003年の二酸化炭素排出量を比べてみますと 産業(大工場) 1990年4.76億t 2003年4.76億t 業務(中小工場含) 1990年1.44億t 2003年1.97億t 家庭 1990年1.29億t 2003年1.66億t 運輸 1990年2.17億t 2003年2.59億t 計(発電所等含) 1990年10.5億t 2003年11.8億t と、実に13%も増えています。 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2003sokuho.pdf メタン等の排出量は減っていますが、温室効果ガス全体で見ても1990年に比べ8%の増加。 議定書を守るには、今から14%の削減をかけなければなりません。環境税を導入して、収入を省エネや自然エネルギー開発に充てることが必要になると考えます。 http://www.env.go.jp/policy/tax/041105/01.pdf 環境省では税収4900億という案を出していますが、 (炭素1tあたり2400円: 電気1kWh 0.25円h ガソリン1リットル 1.5円 灯油1リットル 0.82円(本来倍だが軽減税率) 天然ガス1kg 0.76円) 、スウェーデン(炭素1tあたり民生部門野367ユーロ、工業部門92ユーロ)等にならって10倍は欲しいところです。 なお、 http://www.jccca.org/ondankan/pamphlet/# の「家庭でできる10の取り組み」では、以下の項目が紹介されています。 (1)冷房の温度を1℃高く、暖房の温度を1℃低く設定する(31kg) (2)週2日往復8kmの車の運転をやめる(185kg) (3)1日5分間のアイドリングストップを行う(39kg) (4)待機電力を90%削減する(87kg) (5)シャワーを1日1分家族全員が減らす(65kg) (6)風呂の残り湯を洗濯に使いまわす(17kg) (7)ジャーの保温を止める(31kg) (8)家族が同じ部屋で団らんし、暖房と照明の利用を2割減らす(240kg) (9)買い物袋を持ち歩き、省包装の野菜を選ぶ(58kg) (10)テレビ番組を選び、1日1時間テレビ利用を減らす(13kg) (カッコ内は二酸化炭素の削減量) 京都議定書では排出量削減の手段として、「京都メカニズム」と呼ばれる、国際協力による方法も認められています。この仕組みは、マラケシュのCOP7で具体化されました。 ・排出量取引(削減の進んでいる国から排出量を買える) ・共同実施(他の先進国での削減事業の成果を分け合える) ・クリーン開発メカニズム(途上国での植林が算出できる) この制度には「抜け道になる」との批判もありますが、例えば原発を増やして議定書を達成しようとするくらいなら、京都メカニズムを使った方がいいでしょう。 ** 京都議定書は本来、2002年には国際法として発効する予定でした。意外な難産となったのは、主に米国のブッシュ政権の離脱が原因です。ちなみにクリントン政権のゴア副大統領は米国の中では「環境派」でした。 議定書第25条では、次の発効条件が定められていました。 (1)55カ国以上の批准 (2)1990年における先進国のCO2排出量の55%を占める先進国の批准 <上2つの条件が満たされた90日後に発効> 一方、世界各国の二酸化炭素排出量は以下の通りです。 米国 1990年 48.5億t 2000年 56.1億t 中国 1990年 24.3億t 2000年 28.0億t ロシア 1990年 22.5億t 2000年 14.4億t 日本 1990年 10.5億t 2000年 11.9億t インド 1990年 (不明) 2000年 10.7億t ドイツ 1990年 10.7億t 2000年 7.9億t 英国 1990年 5.8億t 2000年 5.7億t 世界計 1990年 207億t 2000年 230億t http://www.stat.go.jp/data/sekai/17.htm http://www.jccca.org/find/ondanka/pamph/page3.html 米国の排出量は圧倒的なものがあります。この米国とロシアが締結しなかったために、条件(1)の倍以上になる120カ国以上が批准しながらも(2)が満たされず、発効が延び延びになってきました。昨年11月18日のロシアの批准によりようやく、来たる2月16日の発効が決定しました。 表を見ると中国の排出量も増えていますが、人口1人あたりの排出量ではまだまだ先進国に及びません。 (2000年の一人当たり二酸化炭素排出量) 米国 19.8t ロシア 9.9t ドイツ 9.6t 英国 9.5t 日本 9.4t 中国 2.2t インド 1.1t この表では日本がきわどく英独を下回っていますが、90年代の両国の削減ぶりから見て、現時点で「追い越された」ことは確実です。例えばドイツでは風力発電の導入が進み、2003年の容量1万4600MWは日本の21倍、国内需要の6%を賄うまでになりました。 実際問題として温暖化の防止効果を考えるなら、仮に京都議定書を批准国が完全達成したとても、米国や中国等の排出を抑えられなければ「焼け石に水」でしかありません。ですがだからと言ってホスト国自ら議定書を反故にしているようでは、2012年以降に他国の排出を抑えることも余計難しくなるでしょう 21世紀に入って温暖化はますます「強大化」し、北極ではイヌイットの住居が崩壊し、ヒマラヤでは氷河が融けて大洪水が起こり、島嶼国では海面上昇で亡国の危機が迫る等、各地に被害が広がっています。 ** 余談 ** 「「ドイツ語」を話すユダヤ人」スレッドには圧倒されます。 http://otd2.jbbs.livedoor.jp/mondou/bbs_thread?base=32720&range=1 |
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