32960 | 返信 | Re:「朝鮮民主主義人民共和国」の略称は「朝鮮」 | URL | 前田 朗 | 2005/02/16 12:58 | |
皆さん、熱心ですね。 でも、前提がそれぞれ違っているので議論がかみ合っていません。 「略称とは何か」の理解自体からして異なっているのでは? 私も「略称とはこれだ。こうあるべきだ」と主張するほどの意見は持っていませんので、議論に加わらずにいたのですが、若干の情報提供をしておきたいと思います。 (1)正式名称、略称、俗称 朝鮮民主主義人民共和国の「略称」という場合、先方が「略称は朝鮮である」と明言しているのですから、それで「解決」です。私は通常は「朝鮮」としています。 しかし、「北朝鮮」という「俗称」を用いることを否定もできません。話し相手が「北朝鮮」と言えば、私も「北朝鮮」を使うことがあります。 アメリカ合州国の略称や俗称は、日本では「アメリカ」「USA」「US」「米国」など多様ですし。 しかも、上記には「合州国」と書いていますが、「合衆国」の方が一般的です。 何が言いたいかというと、私たち市民がある国家を呼ぶ場合に、正式名称、略称、俗称などを様々な形で用いているという単純な事実を指摘したいだけです。 朝鮮と韓国については、分裂国家という特殊性があり、しかも日本は歴史的に様々な問題を「共有」または「対立」しているために複雑な状況となっていますが、感情的な対立を持ち込んだり、差別意識丸出しの議論が横行するのも困ったものです。 (2)国連人権委員会60会期の出来事 上に「若干の情報提供」と書いておきましたが、昨年4月に国連欧州本部で開催された人権委員会60会期の際におもしろい出来事がありました。当時私がジュネーヴから日本に送っていたメール・ニュースを下記に貼り付けます。日本の新聞記者たちが何人もいましたが、日本では報道されていないからです。 私たち市民が「朝鮮」といったり「北朝鮮」といったりするのとは、別の次元のお話です。 ********************************** (以下は2004年4月6日に書いて送ったニュース) 前田 朗です。 4月6日 5日の人権委員会は議題12「女性に対する暴力」の審議でした。午前に韓国政府が発言し、日本が反論、韓国も反論。午後に朝鮮政府が発言し、日本が反論、朝鮮も反論。 (1)国連のプレスリリースには載りませんが、5日のハイライトは、日本政府と朝鮮政府の応酬です。というのも、5日のセッションの一番最後の午後6時ころ、以下のようなやりとりがありました。 日本政府(反論権)−−ENDO大使が「北朝鮮NORTH KOREAの発言に応える」と発言しました。 この瞬間、朝鮮政府のキム2等書記官が、プレートで机をバンバン叩いて、ポイント・オブ・オーダー(議事進行上の異議申し立て)。議長が認めると、キム書記官は「わが国の正式名称を呼ぶように要求する」。 日本政府(反論権の継続)−−ENDO大使が、「2002年9月17日にピョンッヤン宣言を出した。北朝鮮NORTH KOREAは・・・」 ここでまたキム書記官が、机をばんばん叩いて、ポイント・オブ・オーダー。「繰りかえすが、国連に登録しているわが国の正式名称を呼ぶように、議長から日本政府に伝えるよう要求する」。 議長は、「日本政府に、国連における適切な用語を用いるよう要請するrequest to use the proper term in UN system」と指導しました。 日本政府(反論権の継続)−−「朝鮮民主主義人民共和国と日本はピョンヤン宣言を交わした。二国間協議することになっている問題である。被害者の数は不明なのに、朝鮮政府は根拠のない数字を挙げている」という趣旨の反論。 1度目はともかく、2度目の「NORTH KOREA」は、わざと言っていると受け止められても仕方ありません。 (2)韓国政府−−ヤキン・エルテュルク「女性に対する暴力」特別報告者が、クマラスワミ特別報告者の活動に引き続いて、戦時における軍隊性奴隷制について取り扱うよう希望する。クマラスワミ特別報告者の最終報告は、日本政府が勧告を実施していないと述べている。韓国政府は重ねて日本政府に被害者に対する措置を取るよう促す。 (3)日本政府(反論権)−−日本政府は果たすべき義務は完全に果たしている。村山談話にあるとおり。アジア女性基金からお金を出している。 (4)韓国政府(反論権)−−クマラスワミ「女性に対する暴力」特別報告者も、マクドウーガル「組織的強姦」特別報告者も、日本政府に法的責任があり、犯罪について処罰するように述べている。日本政府が勧告を履行するよう促す。 (5)朝鮮政府−−日本は戦争犯罪と人道に対する罪を犯した。20万の女性が被害にあっている。日本政府の弁解は、「戦時強姦は戦争犯罪ではない」という不合理な主張であるとクマラスワミ報告書も指摘している。日本政府は誠実に法的責任を認め、謝罪と補償をするべきである。ヤキン特別報告者が調査するよう要請する。 (6)日本政府(反論権)−−日本政府はピョンヤン宣言に従って二国間協議をする(*つまり国連では議論しない)。被害者の数については朝鮮政府は20万といっているが証拠はない。 −−この日本政府の反論で、上に述べたように「NORTH KOREA」を繰り返しました。 (7)朝鮮政府(反論権)−−日本政府はピョンヤン宣言を守っていない。昨年11月にわが国が交渉を申し入れたが、返事もしていない。被害者の数については、96年と2003年のクマラスワミ報告書にも20万と明記されている通りである。 以上が5日の「慰安婦」関連発言です。 中国政府は、アメリカにおける女性の人権侵害を強調していました。「慰安婦」問題には言及しませんでした。 ENDO大使が被害者の数を取り上げたのは、意味不明です。被害者の数はもちろん不明ですが、国連では10年来20万といわれてきて、日本政府は、私の知る限り、一度も異論を唱えてきませんでした。朝鮮政府が指摘している96年のクマラスワミ報告書は、クマラスワミ報告者が95年に日本を訪問して、日本政府の協力を得て調査した報告書で、20万と書いてあったはずです。朝鮮政府は毎年のように発言してきましたが、毎回20万といってきました。この間のNGO発言でも何度も20万と出ています。20万が朝鮮の被害者なのか、アジアの被害者かという点もはっきりしていません。20万という数字に客観的根拠があるとは私は思いませんが、すでに定着した数字です。日本政府に今になって数字が違うと主張する資格はありません。また、そういう主張をするのなら、日本政府が責任ある調査をして、より正確な数字を出すべきです。ENDO大使の発言は、単なる値切り発言でしかない印象です。 日本政府の「NORTH KOREA」発言を見ても、およそ誠実さにかけています。アメリカが朝鮮たたきをしていることと、日本国内では「拉致」問題があることで、ENDO大使は朝鮮政府に対して居丈高になっているのでしょう。しかし、わざと相手国の正式名称を呼ばないというようなやり口は、日本政府の品位を下げる効果しかありません。 6日午前は議題12のNGO発言です。 |
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