33835 返信 グランサコネ通信05−01 URL 前田 朗 2005/03/23 19:03
2005年3月15日

*国連人権委員会参加のためジュネーヴに来ているので、人権委員会などの様子を時々お知らせします。グランサコネとは、滞在しているジュネーヴ郊外の丘の上の住宅地名です。

*この通信は「報道」ではなく、時に伝聞・推測・未確認情報や感想を含むことをお断りします。


(1)いきなりフジモリ問題  ペルー対日本

3月14日に開幕した国連人権委員会61会期の初日に、フジモリ元大統領問題をめぐってペルー政府と日本政府の間で応酬がありました。

人権委員会は会期初頭に高位級討論を設定していて、各国外務大臣が演説をします。大半は挨拶と政府の人権政策の説明に当てていますが、具体的な問題に触れることもあります。

14日、ペルーのマヌエル・ロドリゲス・クアドロス外務大臣は、拷問、失踪、略式処刑などの人道に対する罪を犯したフジモリ元大統領を裁判にかけるのに、日本政府の貢献・協力を要請しました。

これに対して、日本政府がただちに反論権を行使して、人道に対する罪を犯した者を処罰するべきだというクアドロス外務大臣の意見に賛成するが、要請のあったフジモリ元大統領について証拠があるのかどうかを注意深く検討する必要がある、と答えました。

フジモリ問題が国連人権委員会において提起されたのは、昨年3月26日に、やはりクアドロス外務大臣が人権委員会議題9において発言してからです。この時も日本政府は反論しています(昨年の様子については、この通信の一番最後に資料を付しておきます)。今回は、議題の討論が始まる前の高位級討論で取り上げられたものです。議題9の前哨戦かもしれません。

高位級討論ではそのほかに、ルクセンブルク、スーダン、マレーシア、ベルギー、コスタリカ、キルギス、カナダ、スペイン、フランスの外務大臣や司法大臣などが演説しました。

クアドロス発言原稿を入手したので、該当部分

En este contexto, senor presidente, el gobierno del Peru reitera su invocacion al Gobierno del Japon para que contribuya al acceso a la justicia, autorizando la extradicion del ex Presidente Alberto Fujimori por los delitos de lesa humanidad que la justicia peruana le ha imputado, incluida su presunta responsabilidad por actos de tortura, desapariciones forzadas, ejecuciones sumarias y actos de corrupcion.

El Peru democratico asegura un juicio justo y las garantias del debido proceso propias del Estado de Derecho.

(2)人権委員会61会期

国連人権委員会61会期は、3月14日から4月22日まで、ジュネーヴの国連欧州本部(パレ・デ・ナシオン)で開催されます。「人権委員会Commission on Human Rights」は、国連憲章に基づいて設置された委員会で、通常は春の6週間の開催です。国際人権規約として知られる「市民的政治的権利に関する国際規約(日本ではB規約とも呼ばれる)」に基づく委員会も「人権委員会Human Rights Committee」と言うので、よく混同されますが、まったく別の組織です(私はHRCを「自由権委員会」とか「規約人権委員会」と呼んでいます)。人権委員会という名称ですが、政府が代表ですから国際政治・外交の場であり、「人権委員会」の名にふさわしいか否かは議論の余地のあるところです。とはいえ、人種差別撤廃条約とか女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約とか子どもの権利条約の草案を作成したのは、この人権委員会です。国際人権法の主要舞台であることは間違いありません。なお、人権委員会の下には、人権促進保護小委員会(かつての差別防止少数者保護小委員会)があり、毎年夏に3週間開催されています。

「人権委員会CHR」を構成するのは、国連加盟国から選挙で選ばれた53カ国の政府です。東アジアでは現在、日本、中国、韓国が委員となっています。その他の政府もオブザーバーとして参加でき、実際多くの諸国の代表が参加しています。また、世界保健機関WHOや国際労働機関ILOのような国際機関の代表も参加しています。国連経済社会理事会ECOSOCとの協議資格を有するNGOの代表もオブザーバー参加できます。NGOはオブザーバーとして会場に入ることができ、委員会で配布される公式資料を入手できますし、文書を提出したり、議題ごとに発言することもできます。

私は3月13日にジュネーヴに来ました。途中イスタンブールへ移る用事などもあり、ずっといるわけではありませんが、4月15日までの滞在予定です。昨年に続いて「国際人権活動日本委員会JWCHR」というNGOの資格で参加しています。JWCHRの国連人権機関での活動は14年になるそうですが、国連経済社会理事会との協議資格を取得したのは昨年2月のことです。

人権委員会初日は、議題2(会期の議題の決定)、議題3(会期の作業の組織化)についての簡単な検討と、ルイズ・アーバー人権高等弁務官の演説、そして午後から先に紹介した高位級討論でした。今会期の議長国はインドネシア。


**資料**

2004年の国連人権委員会60会期におけるフジモリ問題をめぐる応酬について、私が当時ジュネーヴから日本へ送ったメールを下記に貼り付けます。

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前田 朗です。
3月27日

ジュネーヴで開かれている国連人権委員会60会期で、3月26日のセッションの一番最後に、日本政府が反論権の行使として次のように発言しました。

「ペルー政府が言及したフジモリ・ケースについては、二国間で慎重に協議しているところである。」

「二国間で協議している問題だから、人権委員会に持ち出すのはなじまない」という趣旨を言外に含んでいます。もともとのペルー政府の発言を聞き逃しているので、具体的なことはわかりません。29日の午後になればプレスリリースが出ますので確認します。ともあれペルー政府がこの問題を人権委員会で取り上げたのは初めてのことでしょう。これまで人権委員会では多くの日本の問題が取り上げられていますが、それは主に第二次大戦中の戦争犯罪に関する問題、在日朝鮮人に対する差別問題、代用監獄や刑務所など刑事施設における人権問題、日本企業の職場における思想信条の自由問題などであって、フジモリ問題は新しい展開です。どこかのNGOがペルー政府発言をフォローするとおもしろいのですが、

ちなみに、「二国間で協議している問題だから」という弁解には説得力がありません。というのは、朝鮮政府は昨年から「拉致問題は二国間で協議している問題だ」と繰り返していますが、日本政府はそれを無視して人権委員会で発言しています。ぺルー政府が発言するのはむしろ当然のことでしょう。

26日の午後は、ミャンマーの人権状況に関する特別報告者やコンゴ民主共和国の人権状況に関する特別報告者の報告がメインでした。

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前田 朗です。
3月30日

(1)29日の午前の国連人権委員会は、議題9のNGO発言。昼から議題10「経済的社会的文化的権利」に入りました。極貧に関する特別報告者や、構造調整の影響に関する特別報告者、食糧の権利に関する特別報告者のプレゼンテーションが続きました。30日はオブザーバーやNGO発言が続きます。

強制失踪に関する特別報告者が30日に記者会見するようです。日本政府の頑張りが効いたようです。議題11はまだ始まっていないのですが、議題10をやっているさなかに記者会見をするのは、一日でも早いほうがいいからか、特別報告者の都合かわかりませんが。日本の参事官が走り回っていましたから、たぶん「拉致」問題についてコメントするのでしょう。そうなればマスコミは飛びつくでしょう。事態の進展がなくても、昨年までと同じ話でも、今回は特別報告者の記者会見ですから。

(2)先にお知らせしたフジモリ問題。3月26日の人権委員会の概要が、29日にプレスリリースで出ました。Information Service.United Nations Office at Geneva. HR/CN/04/24 (26 March 2004) Afternoon です。URLは、http;//www.unog.ch/news

驚いたことに一面トップです。1頁めにその日のハイライトが掲げられるのですが、しっかりペルー外務大臣発言を伝え、最後に日本政府の反論も示しています。そして、2−3ページめにマヌエル・ロドリゲス・クアドロス外務大臣の発言趣旨が約1ページ紹介されています。9ページめに、エンドー・シゲル大使の反論が3行紹介されています。

国連のプレスリリースで日本の話題が一面トップになったことがこれまでどれだけあるのでしょうか。96年のクマラスワミ報告書のときはどうだったでしょうか。それ以外、まず考えられないと思いますが。

クアドロス外務大臣は、ペルー真相和解委員会の調査結果を紹介して、テロの被害は69,280人、死者以外にも拷問や失踪があったと示し、これらは人道に対する罪に当たり、フジモリ元大統領には責任があり、裁判が開かれるべきだといっています。人権と不処罰について詳しく述べた上で、国際法の元での責任のあり方を論じ、日本政府も拷問等禁止条約を批准していること、フジモリ告発の理由の一つは拷問等禁止条約違反にあること、日本政府はフジモリが日本国籍と主張していること、ペルー政府は被害者の権利保障を唱えて、フジモリに公正な裁判を受けさせるべきことを指摘したあとに、国際司法裁判所ICJにもっていくであろうと明言しています。

これに対する日本政府の反論は前に紹介したように「二国間で協議中」というものでした。

議題9で、ペルー政府を応援するNGO発言は残念ながらありませんでした。日本NGOの怠慢です。ICJに行ってしまえば、次回の人権委員会には持ち出さないでしょうから、数少ないチャンスだったのですが。夏の人権小委員会ではぜひ日本NGOが対応するべきではないかと思います。もっとも、日本政府がICJに行くことを拒否するでしょうから、まだまだ人権委員会で続くかもしれません。フジモリは日本国籍だなどという酔っ払いのたわごとをICJで唱えるだけの勇気があるとは思えないので、日本政府はICJに行くことを応諾しないだろうというのが私の予想です。

以上のニュースですが、さて日本のマスコミは報道したのでしょうか。26日の出来事ですから、27日には報道されているはず、なのですが。

A)ペルー外務大臣が、国連人権委員会会場で公式に、日本政府を相手取って、フジモリ問題について、初めて発言しました。しかもICJとの予告つき。国連プレスリリースでは一面トップ。

B)上記の強制失踪特別報告者の記者会見は、人権委員会会場ではなく非公式に、朝鮮政府を相手取って、拉致問題について、従来と同じ事を発言するでしょう。国連プレスリリースには掲載されません。

AとBとでニュースバリューをどう見るのか。日本のマスコミはこれをどう伝え、あるいは伝えないのか。ご注目ください。