34158 返信 グランサコネ通信05−10 URL 前田 朗 2005/04/09 20:57
2005年4月 9日

*この通信は「報道」ではなく、時に伝聞・推測・未確認情報や感想を含むことをお断りします。

1)4月7日

国連人権委員会61会期の4月7日は、日本軍性奴隷制に関する発言が続々でした。

A)朝鮮民主主義人民共和国

朝鮮政府は次のように述べました。

今年は朝鮮が日本から解放されて60周年である。日本による人道に対する罪は世界の歴史に類のないものであり、忘れてはならない。日本政府は過去の犯罪を暗幕の裏にに隠そうとしているが、「慰安婦」問題は人道に対する罪である。1996年にクマラスワミ報告書が勧告したが、日本政府は勧告を受け入れていない。日本政府は責任を否定する姿勢を変えていない。日本政府が認めた歴史教科書は、慰安婦問題などを削除している。日本の政治家は「慰安婦」を「売春婦」と誹謗してる。日本政府が国際社会で責任ある地位を得るためには、過去の責任を認めるべきである。

B)リベレーション(解放)

ロンドンに本部のあるNGOの「リベレーション(ソン・ヘスクさん)」は次のように述べました。

1996年のクマラスワミ勧告に基づいて、女性国際戦犯法廷が開催され、NHKでも放送された。女性法廷では性奴隷とされた女性の証言に注目が集まったが、NHKは昭和天皇が有罪となったことを報じなかった。この番組改編に中川昭一と安倍晋三という自民党の2人の政治家が関与していたことが判明した。「慰安婦」問題が人権委員会に報告されてから10年以上経過した。この問題の解決は、戦時における女性に対する暴力の根絶のための法的枠組みをつくるのに重要な意義をもつ。日本の首相の謝罪なるものはリップサービスにすぎず、アジア女性基金は失敗した。被害者は80、90代である。被害者に平穏な晩年を送れるようにするのは国際社会の責務である。被害各国はこの問題について国際司法裁判所に勧告的意見を求めるよう促す。

C)国際人権活動日本委員会JWCHR

JWCHR(安原桂子さん)は次のように述べました。

60年以上前に日本は朝鮮半島、中国、フィリピン、台湾、マレーシア、インドネシア、東ティモール、グアムで軍事的性奴隷制を行なった。その特徴は日本政府が行なった公的政策として行なわれたことである。被害者は永年証言しなかったが、1991年に1人が名乗り出ると、多くの被害者が証言するようになった。クマラスワミ報告、マクドウーガル報告、ILOの勧告が次々と出た。韓国には歴史教科書に歴史の事実を記録すること、補償を行なうことなどが含まれるが、日本の中学ではこの事実が教えられていないし、補償を求める裁判は棄却されている。

D)アジア女性資料センター(AJWRC)

AJWRC(渡辺美奈さん)は次のように述べました。

人権委員会が安保理事会常任理事国の基準を設定することに注意を喚起したい。ダルフールの状況に関する特別報告者の報告を歓迎する。暴力が社会の言語であるような紛争地では女性は性暴力被害を語ることができない。日本軍「慰安婦」問題を通じてそのことを学んできた。日本政府は法的責任を否定して、補償裁判は棄却されている。被害者への正義を拒否しながら、日本政府は常任理事国になりたがっているが、これは被害女性にとっては恐るべきことである。大規模な強姦制度をつくっっておきながらその責任を否定している日本政府が常任理事国になるなどどうして受け入れられるのか。常任理事国になるには、国際法のもとでの責任を果たしているか否か、国際刑事裁判所規程に署名しているか否かを考慮するべきである。

E)全中国女性連盟

今年は反ファシズム戦争の勝利60周年であり、日本の侵略に対する中国人民の勝利60周年である。日本政府に、歴史に向き合い、平和を守り、ジェノサイドのような慰安婦制度を含む自分の戦争犯罪について完全な責任を負い、謝罪と補償をするよう促す。女性に対する暴力撤廃宣言から12年、北京行動綱領から10年、女性に対する暴力はいまなお続いている。家庭でも学校でも職場でも社会でも、平等と非暴力は願いであるに留まっている。

F)国際教育開発(IED)

IED(カレン・パーカーさん)は次のように述べました。

IEDは1992年から日本軍による強姦被害者問題を人権委員会に提起してきた。平均的な被害者の苦痛を計算してみると、1日10回の強姦で年間3540回になる。人権委員会に尋ねたい。あなたの娘が毎年毎年3540回強姦されたらいったいどんな補償を求めるのか。娘にどう説明するのか。ドイツは戦争被害者に数億ドルの補償を行なったが、日本は本質的に何も払っていない。戦争の責任を果たしていない国が常任理事国になるべきではない。

G)韓国女性団体連合(KWAU)

KWAU(シン・ヘイスーさん)は次のように述べました。

私の隣に座っているのは、78歳の日本軍性奴隷制被害者のシン・ダルユンである。彼女は12歳で強制連行され、日本軍の性奴隷にされた。その体験を語るために韓国から人権委員会にやってきた。彼女の訴えは、日本が法的責任を否定するためにつくったアジア女性基金に関するものである。彼女はアジア女性基金のお金を拒否している。補償葉民間飢饉からではなく、日本政府から払われるべきだからである。ところが、彼女がアジア女性基金のお金を受け取ったという噂が流れ、彼女は嫌がらせを受けている。アジア女性基金に事実を明らかにするように繰り返し要求しているのに、アジア女性基金は明確な説明をしない。日本政府は韓国、台湾、フィリピンで285人に支払ったと説明しているが、秘密活動をしているので他の284人がどうなっているのかわからない。こうした日本の姿勢は被害者をいまなお傷つけている。日本政府の責任をもとめる20万の署名を持ってきた。戦後60周年になるが、日本が法的責任をとらないのなら常任理事国の資格はない。

H)日本政府の反論

日本政府は反論権を行使して次のように述べました。

日本政府は過去の問題についてはすでにその立場を述べている。朝鮮政府が述べている被害の数字には根拠がない。日本と朝鮮の間では平壌宣言を結び、国交正常化をはかっている。一方、拉致問題があるので、朝鮮政府はその解決に協力するべきである。何よりもまず被害者を日本に返すよう要求する。

I)朝鮮政府の反論

日本政府には過去の問題を速やかに解決する責務があるのに、何もしようとしない。謝罪と称しているがリップサービスにすぎない。それどころか歴史を歪めている。過去の問題の数については、「慰安婦」の数はしっかり記録されている。拉致問題は平壌宣言によって解決している。日本は20万の性奴隷、840万の強制労働、100万のジェノサイドに法的責任を認め、謝罪するべきである。

J)日本政府の反論

過去の問題は先ほども述べたようにすでに明らかにしている。拉致問題は解決していないので、拉致された女性と男性たちを日本に返すべきである。朝鮮政府に誠実な努力をするよう促す。

K)朝鮮政府の反論

日本政府の主張を全面的に否定する。拉致問題がすでに解決していることは、平壌宣言で明らかになっている。過去と現在の犯罪については、20万の性奴隷、840万の強制労働、100万のジェノサイドについて、謝罪と補償をするべきことは、国際社会において否定しようのないことである。


******************************************

1)以上のように、7日はすごい一日でした。6日の韓国政府発言に続いて、朝鮮政府、6つのNGOが続々と日本政府の責任追及を行いました。1996年のクマラスワミ報告書のとき以来のことです。60周年ということで、発言が多くなり、しかも力が入っているのがよくわかります。2001年の教科書問題のときもわりと多かったように記憶していますが、教科書や靖国問題などに焦点があてられがちでした。今回は、教科書も重要視されていますが、なんと言っても性奴隷制に焦点が当てられています。

2)朝鮮政府は従来からの主張を明確に唱え続けています。反論権の際に、ジェノサイドという言葉を使ったのは初めてではないかと思います。従来は戦争犯罪と人道に対する罪という言葉を使ってきました。

3)NGO発言の第一の特徴は、6つのNGOすべて女性が発言したことです。人権委員会では、「慰安婦」問題について男性ばかり発言してきました。ここ数年はシン・ヘイスーさんとソン・ヘスクさんが発言していますが、それ以外は男性でした。第二の特徴は、常任理事国問題に言及していることです。

4)日本政府が数字のことを持ち出したのは昨年に続いてのことです。2004年の人権委員会で、同じ遠藤大使が、「朝鮮政府が言っている数字には根拠がない」と発言しています。そのときは、朝鮮政府は「人権委員会が採択したクマラスワミ報告書に20万と書いてあるではないか」と反論しました。クマラスワミ報告書は、日本政府がクマラスワミ特別報告者を日本に招いて、資料を提供し、協力した結果、作成・提出された報告書です。人権委員会での議論にも日本政府が参加しています。その結果として、人権委員会で採択されています。ところが、今回再び「数字には根拠がない」と述べています。朝鮮の反論は、well documentedというものでした。やはりクマラスワミ報告書を念頭においているものと思われます。