35720 返信 Re:戦争の起源 URL 武蔵の一住民 2005/06/26 11:10
戦争の起源と日本軍事史については私もここ数年ほど
ずっと調べていて、小論としてまとめてみようかと
考えているところなので、小林様の投稿にも関心を
もったのですが、あっという間に単一民族論のほうに
話題が集中しているようで…

単一民族論について、私のほうから付け加えるような
ことはとくにないのですが、ちょっと気になったので、
人種について一言。

一般に人種は生物学的特徴にもとづく分類とされて
いますが、従来の人種区分に生物学的根拠がないと
いうのは、自然科学の様々な分野において通説と
なっています。
ただ、明確な線引は難しいとはいえ、現代人間に
形質・遺伝的な相違があることは明瞭で、人種区分
可能派は、人種を論じることがタブー視されている
として、様々な形で人種区分を述べていますが、
各形質は必ずしも関連したものではなく、相互に
独立したものも多いため、新たな説得力ある人種
区分に成功しているとは言えないところがあります。

ちなみに、黒色・黄色・白色という人種区分は、
歴史の教科書にも掲載されるくらい一般に浸透
していますが、これは俗流人種区分と言うべき
だと思います。
高名な古人類学者で人種区分問題の大家だった
カールトン・クーンは、1960年代に、人類を
オーストラロイド、モンゴロイド、コーカソイド、
コンゴイド、ケイポイドの五つの亜種に区分
していました。


さて、本題の戦争の起源についてですが、戦争の
定義はひとまずおくとして、小林様ご指摘の通り、
戦争は農耕開始以降に始まるというのが、通説と
なっています。
しかし、同じく小林様ご指摘のように、アメリカ
大陸の狩猟民のあいだで戦争がなされていたこと
も報告されています。

しかし、アメリカ大陸の事例は、採集狩猟社会
としては例外的に人口密度の高いことが指摘
されており、戦争の根本的な原因は、結局の
ところ人口密度の高さと資源の争奪に求める
のが妥当と思われます。
農耕開始以降に戦争が盛んとなるのは、人口
密度が高くなったことと、それに反比例して
利用価値の高い土地が狭くなったことが原因で、
こうした事象が、一般に採集狩猟社会では農耕
社会ほど深刻にならないことが、戦争と農耕と
に密接な関係があるように見える要因でしょう。

逆に、採集狩猟社会で様々な条件が重なって
人口密度が高くなれば、戦争のおきる可能性も
高くなるわけで、その意味で、農耕開始以前の
戦争というのもありえるでしょう。
じっさい、スペインの岩絵(対立する二集団が
弓矢で闘争しているとされる)やスーダンの
武器で殺傷されたらしい多数の人骨が、その
証拠であると報告されていますが、年代に
疑問をもつ研究者もいます。

小林様ご指摘の「縄文時代の1万年の平和」
に対しては、inti-sol様から高知の居徳遺跡群
という反例が提示されていましたが、弥生時代
の実年代が大幅に繰り上がる可能性が指摘されて
いますから、小林様もおっしゃる通り、これは
弥生時代の遺跡とみるのが妥当かもれません。
もちろん、弥生時代の実年代の繰上げに伴い、
居徳遺跡群の実年代も繰り上がる可能性はある
のですが…

縄文時代には、一部で農耕もなされていたよう
ですが、それでも、弥生時代以降と比較して
人口がかなり少なかったことは否めず、高密度
の人口を支えるほどのものではなかったので
しょう。
したがって、現時点では縄文時代には戦争が
なかった可能性が高く、その意味で、小林様
ご指摘の「縄文時代の1万年の平和」は間違い
とはいえないでしょうが、それを根拠に「平和
民族」というのには賛同できません。

私の考えでは、現代人につながる系統の人類は
少なくともここ5万年間ほど潜在的な資質に
違いはなく、その間の大半を戦争なしに過ご
してきたものと思われます。
人類は社会環境の変化で戦争を始めるように
なったのであり、平和民族か否かといったよ
うな資質を問うことは無意味と言うべきでしょう。