35754 | 返信 | Re:単一民族論 | URL | タラリ | 2005/06/28 22:59 | |
小林さんのオリジナル投稿に対してres 民族の概念は言語、宗教、人種、文化などから他とは区別され、内部では同一のアイデンティティを有すると信じられる共同幻想である。この概念、イデオロギーは民族国家が形成される時期に出現した。民族とは外部に対しては排他、内部に対しては同化を強いる文化的ツールになった。 であるから、民族という概念は国家・国民意識の下支えであり、国家・国民意識が覚醒されるときに起こる、あるいは国家・国民が危機にさらされるときに興隆するイデオロギーと見なすことができる。これは独立運動や侵略に対する抵抗運動として起こるときには正義の概念とみなされる。 しかし、民族があって国家があるように見えて、実は民族意識をかき立てているのは国家そのものであることがある。戦前の軍国日本、スターリン支配下のソ連、ナチス・ドイツなどがそうである。 もともと「民族」という概念が近代において民族国家が成立する段階において生じてきたのであり、単一民族という議論もそういう歴史的背景なしには語れない。 単一民族とはどのようなイデオロギー的意味合いがあるか。たとえば、ナチスドイツでは一つの民族、一つの国家、一人の総統とかいうスローガンが高唱された。混じりけのない民族ほど高い価値を有するという考えである。しかし、本来がいろんな人種、国籍の民衆が混じり合って生活しているのにそれをわざわざ仕切って純粋さをたたえるということには何らの価値も見いだせない。 いったい、単一民族国家のほうが多民族国家より優れているなどという主張に何の正当性があるだろうか。ナチスドイツが単一民族をたたえる裏では数百万のユダヤ人を闇に葬っていたのである。単一民族という概念やそれが優れているというイデオロギーにはそのような毒があるのである。 しかし、日本が多民族国家であるという主張は事実に照らして飛躍があると思う。なぜなら、エスニック・グループや日本の中心的な文化、人種、言語グループに対する少数グループといえどもそのことごとくを民族と称するのは無理があるからである。 およそ民族というからには、独自の言語、宗教、人種、文化などの環境を持ち、他との区別、ときに差別を強調し、内部には中心的グループへの同化を求めるのが民族であろう。多民族国家のうちには支配的民族と支配される民族がある場合がある。被支配民族の多くは国家として独立を主張することがある。民族とはおおよそ、国家を目指すものと言ってよい。 国家の主要な民族から区別されるエスニック・グループがあったとしても、そのグループがこのような政治要求を持たなければ民族とは呼ぶのは当を得ない。たとえば、海外在住する他国民をもって民族と呼ぶのはおかしいだろう。かれらは母国の国民という意識をもっているからであり、その国の中での民族を構成することは考えていないからである。 日本国内の在日朝鮮・韓国人は一応、共和国公民、韓国公民としての扱いを受けることを主張している。彼らは生活環境その他からすると母国の国民よりは日本国民に近く、今さら本国に帰ることは希望していない。本来ならば、あるいは差別がなければ、帰化の条件が不当に厳しくなければとうに日本に帰化して不思議がなかった。また、日本国民となってでさえ、朝鮮・韓国の文化を保持することは当然許されなければならなかった。 歴史上では明治期の北海道原住民=アイヌ、沖縄住民は内地日本人に対して別の文化環境を保持していたが、圧倒的に人数が少ないこと、あるいは文化的環境の差がさほど大きくないこと、明治期の強圧的な支配のために同化を強いられた。そのために彼らの民族意識は生まれる前に日本に吸収されてしまったのである。 ただ、単一民族国家(説)というイデオロギー的主張は受け入れられない。歴史的に見ると平安朝の頃から東北においてはアイヌ原住民の絶えざる支配・同化があったと思われる。また、この主張は民族の人種的均質性、歴史的同一性、純粋性を強調し、単一民族(国家)の方が多民族(国家)より優れているという民族主義の純化された思想に近い。ちょうど歴史的一貫性を主張する「万世一系」の虚構と補完しつつ、日本の国体は西洋諸国より、優れているというばかげた主張の伏線となっている。 「左翼が単一民族だというと怒る」と小林さんがいうのは一体どういう左翼が、どういう文脈で主張したのか不明なのでコメントできない。私は日本はほぼ単一民族であると単純化して言ってよいと思う。しかし、少数の文化的背景を有する、本来の民族とは言えない段階のエスニックグループがいることは事実であり、彼らを排除した歴史をねつ造したり、差別し同化を強制することはあってはならない。日本に住むどのような集団といえども独自の文化を享受し、それを発展する自由を有する。 |
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