| 36321 | 返信 | グランサコネ通信05−25 | URL | 前田 朗 | 2005/08/14 21:11 | |
(1)戦時性奴隷制決議 今年の戦時性奴隷制決議は昨年とほぼ同様の内容です。以前とは違って、もう新しい問題提起がないため、同じ決議をするのはそろそろやめようという雰囲気も出始めていますが、鄭鎮星委員が賛同者を集めて、提案し、採択されました。前書きなどを省略して、本文を紹介します。 2005/27 武力紛争時における組織的強姦、性奴隷制、奴隷類似慣行 1 事務総局の仕事を歓迎し、女性、平和、安全に関する報告書(S/2002/1154)を感謝をもって留意し、 2 組織的強姦、性奴隷制、奴隷類似慣行に関する人権高等弁務官の仕事を歓迎し、その報告書(E/CN.4/Sub.2/2005/33)を大いなる感謝をもって留意し、 3 組織的強姦、性奴隷制、奴隷類似慣行が、文民や軍隊要員に屈辱を与え、社会を破壊し、紛争の平和的解決の可能性を低減させるために今なお用いられていること、上記の報告書で述べられているように、その結果もたらされる重大な心身のトラウマが個人の回復だけでなく、紛争後の社会全体の再建を危うくすることに関心を持ち、 4 ICTY、ICTRおよびシエラレオネ特別法廷が、強姦を、さらに最近は性奴隷制を人道に対する罪に当たると認定したこと、ICCローマ規程において、国内または国際的武力紛争の文脈で行なわれた性暴力と性奴隷制がICCの管轄権内の人道に対する罪、戦争hン罪、ジェノサイドにあたることを特に認知し、拷問、強姦、女性に対する暴力は戦争や紛争の不可避の部分であるという広まっている認識に挑戦して、女性の人権保護における重要な一歩を示したことを考慮し、 5 各国が、救済の与えられていない暴力について効果的な刑罰と補償を与え、武力紛争時における性暴力に関する不処罰のサイクルを終わらせるよう強調し、 6 各国が、武力紛争時における組織的強姦、性奴隷制、奴隷類似慣行問題に関する人権教育を促進し、教育課程における歴史の事実の記述を正確にし、こうした侵害の再発を予防し、すべての人々によりよい理解をもたらすよう努力するよう励まし、 7 人権高等弁務官に、武力紛争時における組織的強姦、性奴隷制、奴隷類似慣行問題について、人権小委員会58会期にアップデイトな報告書を提出するよう呼びかけ、 8 この問題を58会期において同じ議題のもとで審議することを決定する。 (2)性暴力の責任決議 「2005/3 性暴力に関する責任または有罪を認定することの困難性」は、ラコトアリソア委員に58会期に当該報告shを提出するよう要請しています。 (3)2006年の作業部会の構成 以下、部会名と委員の名前。カッコ内は副委員。 少数者 シェリフ(ムボノ)、ソラブジェ(サター)、カルタシュキン(サンドル・ポペスキュ)、ベンゴア(オコーナー)、アルフレッドソン(クーファ) 奴隷制 サラマ(ワルザジ)、サター(鄭)、モト(ビロ)、ピンヘイロ(オコーナー)、ボスユイ(デコー) 先住民族 ムボノ(サラマ)、横田(林)、ビロ(モト)、アルフォンソ・マルティネス(ツノン・ヴェイユ)、ハンプソン(クーファ) 通報 ワルザジ(シェリフ)、チェン(リュー)、カルタシュキン(ビロ)、アルフォンソ・マルティネス(ツノン・ヴェイユ)、デコー(ハンプソン) 社会フォーラム ムボノ、サラマ、鄭、サター、ビロ、モト、オコーナー、ベンゴア、(ピンヘイロ、ツノン・ヴェイユ)、アルフレッドソン、ボスユイ (4)人権機関改革 日本政府が無能無策の外交を繰り広げて失敗している安保理改革問題ですが、国連では同時に人権機関改革も議論が進んでいます。日本のメディアは日本政府情報の垂れ流しばかりのため、人権機関改革についてはあまり報道していません。人権機関改革は昨年から出ていましたが、特に今年春にコフィ・アナン事務総長が「人権理事会」の具体案を出し、総会のピンク報告書が出たことで大きな流れになっています。 アメリカ主導案は、人権委員会を人権理事会に「格上げ」する(つまり安保理や経済社会理と同格にする)とともに、現在53カ国の人権委員会委員を25カ国程度に絞るというものです。予算や事務局の人員については若干の増額をするようですが、さして変化はありません。 アメリカ案は、要するに、人権理事会の国家数を減らして、アジア、アフリカ、イスラム諸国を排除し、アメリカの息のかかった国家だけで運営しようというものです。 先日ようやく概要がまとまったイスラム諸国案は、人権委員会を同じ規模、同じ性格で人権理事会に「格上げ」するもののようです。 改革が実現すれば、人権委員会がなくなるわけですから、当然のことながら、人権小委員会もなくなります。そこで、2つの見解が登場します。 第1は、人権小委員会不要論です。審議に時間がかかるし、NGOが政府による人権侵害の報告ばかりやっているので、政府としては邪魔な存在です。人権小委員会では政府は他国の批判ができないのに、NGOは続々と政府批判をします。世界人権宣言や国際人権規約など人権法のタテマエからは人権小委員会の存在を否定できないでしょうが、効率性や予算問題を口実にして、人権小委員会を廃止する、あるいは縮小して形だけのものにして再編する見解です。 第2は、人権小委員会存続論です。人権委員会は政府が委員ですから、文字通り外交の場所であり、国際政治の場所です。人権小委員会は政府から独立した専門家委員会ですから、国際条約・宣言・ガイドラインなど国際人権基準の設定のために大きな役割を果たしてきました。その役割は今後も期待されます。非難合戦はやめ、NGOの発言も制限しながら、シンクタンクとしての機能を強化する案です。 こうした議論の中で、今年の人権小委員会でもこの議論が行なわれました。決定するのは、政府による人権委員会ですが、人権小委員会の側から提案をするべきだということで、様々な議論が行なわれました。 結局、政府側に大幅に譲歩するアルフレッドソン委員の提案と、ハンプソン委員たちの提案の2つが提出されましたが、アルフレッドソン委員が最終的に提案を撤回して、ハンプソン提案に落ち着きました。 アルフレッドソン提案(後に撤回) 1 世界各地の重大人権侵害を報告する議題2を廃止して、人権小委員会をシンクタンクに純化する。 2 個人通報作業部会を廃止する。 3 報告書作成期間を3年から2年に短縮する。 4 委員の任期を2期とする。 5 委員の選出方法のガイドラインをつくる。 6 この決定を関係者に送る。 ハンプソン提案 「国連人権機関改革における独立専門家委員会の役割」は8ページの文書ですが、ポイントは、次の通り。 独立専門家委員会の役割を、政策の主導、新しい国際規範やガイドラインの設定、基準相互間や監視方法のギャップの確認、良好な実例の研究とする。これらは条約機関や人権高等弁務官事務所も行なっていない仕事なので独立専門家委員会の仕事にふさわしい。そのためには独立専門家委員会が市民社会と提携して、つまりNGOや人権研究所の協力を得て進める必要がある。 (5)NGOの役割 経済社会理事会の決定により、一定の手続きを経たNGOは経済社会理事会との協議資格を認められると、人権委員会や人権小委員会に参加して、資料を請求したり、発言したりすることができます。国家の連合である国連にNGOが積極的な参加と活動を認められているのは、特に人権分野では、ほかならぬ国家自身が人権侵害を引き起こすことがあり、国家は事件を報告せず、隠蔽しようとします。そうでなくても、国家が国内における重大人権侵害を把握せず、見落としてしまうこともあります。このためにNGOが役割を果たすことになります。NGOは実は国連創設時から活躍してます。 a 政府報告の監視−−人権委員会などの機関や、条約に基づく自由権委員会・社会権委員会・人種差別撤廃委員会・女性差別撤廃委員会・拷問禁止委員会・子どもの権利委員会など、各種の委員会に政府は様ざまな形で報告を行ないます。しかし、政府による報告は、国内の状況を正確に把握しているとは限りません。あえて嘘を書くことはまれでしょうが、一部を隠したりゆがめたりするのはしばしばあることです。NGOは政府による報告では落ちていること、事実と異なることを指摘することができます。 b 委員会への情報提供−−政府報告書の有無にかかわらず、NGOは人権機関に各種の情報提供ができます。条約による委員会の場合には、NGO報告書の提出、(個人通報制度を受け入れている政府の場合には個人通報−−日本政府は受け入れていないので、できません)、人権委員会への文書提出、人権委員会での発言などです。こうした中で、市民社会に起きている新しい問題を提起することが期待されています。 c 自国への伝達−−政府は人権機関において起きたことのなかで都合の悪いことはなかなか自国に報告しません。報告する際に趣旨をゆがめることもあります。NGOは人権機関における情報を持ち帰ることで、国際人権の舞台で何が起き、どのように議論されているのかを知らせる必要があります。 d 国際連帯−−人権機関には世界中の人権NGOが集まります。少数者、先住民族、女性、子ども。パレスチナ、イラク、イラン、スーダン、コンゴ、ネパール、チベット、インドネシア、日本。人権活動家、法律家、研究者、医師。こうしたNGOの連携で、ジョイント発言をしたり、ブリーフィングを開いたり、声明を出したり、デモをしたりします。会期外には連絡を取って各種の活動を行なうことができます。 人権委員会改革がどのような形に落ち着くかはまだわかりませんし、人権小委員会がどう変わるのかもわかりません。しかし、人道分野(医療、食糧)とともに、人権分野におけるNGOの活動は国際的に定着してきていますから、今後もこうした活動の意義は大きくなっていくものと思われます。どのような改革が実現しても、人権NGOの果たすべき役割は残るはずです。 日本の場合は、上記のことはいっそう大きな意味を持ちます。欧米とは異なって、日本の人権NGOの歴史はまだまだ浅いものしかありません。アフリカやラテンアメリカと比べても層が薄いのではないでしょうか。NGOという言葉が流通するようになったのはたかだかここ10年のことです(東京で開催されたアフガン復興支援会議の際の鈴木宗男議員発言が大きかったり)。 a 政府報告の監視−−日本政府は自国内の人権問題を人権委員会に報告してきていません。自由権委員会などへの第1・第2回報告書は日本社会の実情を反映していませんでした。NGOの情報提供によって委員会の審議が充実し、第3回には日本政府も比較的実情を反映した報告書を提出するようになってきました。社会権、子どもなども同じです。人種差別撤廃委員会や拷問禁止委員会への報告書を出す期限がすぎているのに、なかなか出しません(特に名古屋刑務所事件が発覚したため、恥ずかしくて報告書を出せない)。この点の監視も重要です。 条約解釈についての議論も重要です。日本政府は自由権規約の「少数者minorities」概念を勝手に「少数民族」と訳して、少数民族にあたらない少数者は含まれないとしていたことがあります。人種差別撤廃条約の解釈でも、在日朝鮮人やアイヌが条約の適用対象であることを認めていますが、被差別部落については条約の適用対象外と解釈していました。しかし、インドやネパールのダリットが条約の適用対象ですから、被差別部落も適用対象のはずです。さらに、日本政府は、アイヌが先住民族に当るか否かはわからないなどと主張していますが、NGOの情報提供により、人種差別撤廃委員会はアイヌは明らかに先住民族にあたるとしました。 b 委員会への情報提供−−人権委員会では、日本の精神病院問題や日本軍性奴隷制問題が大きな話題になりましたが、これはNGOの情報提供に始まっています。そのほかにも、代用監獄問題、監獄問題、朝鮮人差別問題などが繰り返し情報提供されて、時には報告書に掲載されています。条約に基づく委員会での審議においても、委員は日本の情報を持っていませんから、政府報告書だけを見ても具体的な審議ができません。NGO報告書を手にすることで、はじめて比較が可能になり、審議が充実します。かつて自由権規約委員会に日本のNGOが情報提供したときに、あたかも委員たちが「NGOがやってきて邪魔であった」と言っているかのような情報が流れたことがありますが、そんなことはありません。私の知る限り、どの委員会の委員もNGOによる情報提供を歓迎しています。それがなければまったく仕事にならないからです。 c 自国への伝達−−ジュネーヴの人権機関の情報はなかなか日本に伝わりません。政府がごまかすだけではありません。マスコミも十分な報道をしていません。国連欧州本部にはマスコミ7社(朝日・毎日・読売・日経・共同・時事・NHK)が常駐していますが、ジュネーヴにはWTOもあればILO、WHOその他の多数の国際機関があるため、人権機関の報道は限られます。しかも、96年のクマラスワミ報告書のときは、常駐している各社が報道していないのに、記者がジュネーヴにいない新聞社がおかしな記事を書いていました。98年のマクドウーガル報告書のときは、まだ報告書が公表されていないのに、日本のある新聞社が、なんと社説でマクドウーガル報告書批判を書いていました。内容をきちんと紹介せずに、ひたすら批判している異常な記事でした。こういうことが起きますので、NGOは政府を監視するだけではなく、マスコミが伝えた内容をチェックし、マスコミが伝えない内容を伝えなければなりません。NGOの大きな役割は、政府やマスコミが伝えない事実を日本に伝えることです。現に、ここ数年のことで言えば、人権委員会と人権小委員会の情報を、マスコミ7社が伝えたことよりも、たった1人のNGOが伝えたことの方が数十倍の内容を持ってます。 d 国際連帯−−日本軍性奴隷制問題に関する国際連帯は、日本とアジアの女性たちの手で大きく広がってきました。人権機関でも様々な形で連携してきました。イラク反戦や平和運動はいろいろなところで広がっていますが、人権機関もそのひとつの場所です。イラク世界民衆法廷(WTI)の関係者では、カレン・パーカーさん、ヤン・レーンさん、ムゲ・ゾクメンさんなどが人権委員会に参加してます。人権小委員会改革についても、NGOが連携をとることになりました。連帯や友好という点では、国際民主法律家協会IADLが4年続けている「ジャパン・デー」は大きな役割を発揮しています。 |
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