| 36649 | 返信 | Re:百人斬り裁判(国際法と世界人権宣言)-つづき | URL | 五番街 | 2005/09/06 06:32 | |
| すこし健康が戻ってきましたので、tpknさんとの議論のつづきを書くことにします。 たいぶ時間が経過しているので、前回までの私の投稿をごくおおざっぱにまとめてみます。 まず、焦点になったのは(実際には言及していないけれど)、告天子さんの次のような見方です。 >不戦条約には、違反に対して罰則がないのですから、違反国の責任者を 縛り首にするなど、運用として完全に間違っているのですが。(#34607) >罰則のない法に基づいて縛り首にしたなら、そいつは無法者です。改めて そう主張します。(#34767) >罪刑法定主義を持ち出せば、東京裁判が明らかに不当な裁きであることは 明瞭です。 このような見方に対して、私の見解を要約すれば次のようになります。 >「罪」の規定のみが存在し、罰則規定が存在しない国際法に罪刑法定主義を適用することはできない。 >国際法違反者の処罰は、各国に委託されており、各国では国内法(多くは軍律)を定め、その違反者として処罰することが国際慣習法として定着していた。 >この処罰の仕組みは、罪刑法定主義とは異質なものである。したがって、国際法違反者の処罰に関して、罪刑法定主義の観点に立って、違法か合法か判断することはできない。そして、この仕組みに準拠する処罰は、国際法的観点では合法である。 私の投稿の問題点は、国際法違反者を処罰するために、各国が定めた国内法(軍律・・・たとえば連合国の極東軍事裁判所条例や日本の空襲軍律)を、私が「罪刑法定主義の原則を採用した」と書いたことです。 私としては、このように書くことで、「罪」と「刑」を明示した国内法(軍律)を定めたことを言いたかったのですが、これでは、この国内法では「事後法」と「慣習法」が排除されていると解釈されても仕方がないので、これは訂正する必要があります。 むしろ、国際法違反者を処罰するための国内法(軍律)には、通常の国内法とは異なり、事後法の採用が認められている、とでも書くべきでした。 この国内法(軍律)と事後法の関係について述べることにします。 たとえば、1942年に東京、横浜、名古屋などを無差別爆撃したドーリットル爆撃で、捕獲された米軍搭乗員を処罰するためにいわゆる空襲軍律が制定されました。この軍律は、この制定以前の行為であるドーリットル爆撃を行った搭乗員に対して遡及適用されるという事後法です。この遡及的用に関して、次の4つの見解が出されています。これらの見解は、「軍律法定」(北博昭著 朝日選書)の原文を私なりに要約したものです。 (1) 軍律には近代刑事法の刑罰不遡及の原則が適用されない。したがって、空襲軍律によって、この 軍律の制定以前に行われた国際法違反のドーリットル爆撃の実行者(搭乗員)を処罰することが できる(陸軍省法務局) (2) ドーリットル爆撃は国際法に違反する無差別爆撃であり、戦争犯罪の処罰は国際法によって 認められている。したがって、この爆撃を実行した搭乗員を処罰できる(同) (3) ドーリットル爆撃は国際法に違反する無差別爆撃であり、戦争犯罪の処罰は国際法によって 認められている。事後に制定された空襲軍律は処断手続に過ぎない(陸軍省を継承する復員庁第一復員局) (4) 国際法によって無差別爆撃は禁止されている。ドーリットル爆撃は国際法に違反する無差別爆撃で ある。しかし、この爆撃の後に罰則を定めて処罰することはできない。近代刑事法では 刑罰不遡及の原則・事後法の禁止が原則である。したがって、空襲軍律を制定して搭乗員を処罰 することは、近代刑事法の原則に違反する(著者の北博昭) これらの見解のうち、空襲軍律の遡及適用を違法とするのは、著者の北博昭のみです。他の3つの見解は、空襲軍律を適法としていますが、軍律に近代刑事法の原則(罪刑法定主義の原則)が適用されないという見解(1)と、国際法違反の場合は、その原則が適用されないという見解(2)と(3)に別れます。さらに、(1)と(2)は同じ陸軍省法務局の見解であるにも関わらず、前者は、軍律を罪刑法定主義のワクの外にあると述べ、後者は、そのワクの中にあるが、国際法違反の場合のみ、適用を免れると述べています。 一方、BC級戦犯を裁いた横浜法廷では、この空襲軍律(正確には、その後継軍律である第一総軍軍律)の制定後に、行われた空爆で、捕獲され、処罰された米軍搭乗員の軍律法廷に関わった法務少佐が起訴されて、有罪判決を受けていますが、ドーリットル爆撃の搭乗員に対する事後法の適用などに関しては起訴されていません。そのため、連合国も日本政府と同様に空襲軍律の遡及適用を合法的と認めていたと考えられます。 このように、国際法違反を処罰するための国内法(軍律)には、罪刑法定主義の原則(近代刑事法の原則)が適用されないことは、各国の共通する見解であったと考えられます。 同様に、東京裁判の法的根拠となった極東国際軍事裁判所条例においても、ハーグ法で認められた事後法が採用されており、これは罪刑法定主義の観点からすれば違法になりますが、この条例が空襲軍律の場合と同様に、国際法違反を処罰することを目的としているため、罪刑法定主義の原則のワクの外におかれます。罰則規定についても同様です。(なお、この条例における事後法は、人道に対する罪(特定の人種の迫害・無差別殺戮の罪)です。平和に対する罪(侵略の罪)は、不戦条約をベースとしているため、事後法ではありません。ただし、人道に対する罪は、実際には適用事例がなく、この罪に問われた戦犯は存在しません。) |
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