36779 返信 選挙結果に嘆息するAさんへの手紙 URL クマ 2005/09/14 01:40


 前略すいません。昨夜はメールありがとうございました。
 総選挙の結果について、「もう海外への亡命しかないので、どこかいい場所を知らないか」とのこと、どうしてもお望みだというのであれば差し当たりキューバでも推薦しておきますが、どうもAさん、落ち込みすぎなのではないかなあと思います。もちろん冗談だろうと思いますけど。Aさんだけではなく、運動系のメーリングリストや掲示板の投稿を見ていても、自民党大勝への絶望と幻滅、嘆息ばかりが聞こえてきます。

 日刊「ゲンダイ」の見出しは象徴的で、たぶんAさんの心境をそのままズバリ代弁しているのではないかと思います。Chance!のメーリングリストに紹介されていましたが、Aさんも見ましたか?

 この国の民主主義は死んだ
 もはや何事も言う事なし
 この選挙結果は狂気の果てだ
 自民党に投票した若年層はその悪の報いで酷いめにあうだろう
 狂人首相が勝ち誇って、この国はどんなことになるのか、世の中お先真っ暗
 これから先、生きるのが辛い大多数の庶民と、濡れ手でアワの一部詐欺集団に二分化され、アメリカと同じになっていいのか
 全く情けなかった民主党、これから暗黒の10年が必ずはじまる
 政権交代は夢の夢

 いやー、「世の中お先真っ暗」なんて、慨嘆もここまで徹底していれば爽やかな感じがしますね。面白くもない「客観報道」「不偏不党」で権力への牙を抜かれたマスコミより100倍偉い。頑張れ、日刊「ゲンダイ」。

 でも、Aさんも「ゲンダイ」も、僕から見ると落ち込みすぎ、嘆きすぎだと思う。「ゲンダイ」はともかく、Aさんは私と同じくレッキとした左翼でしょう。今回の選挙結果は、要するに保守党岡田派の議席が保守党小泉派に移動しただけの話で、保守党内部での議席の移動など、極端に言えばどうでもいいことではありませんか。民主党の西村眞吾という、例の「刀剣友の会」顧問の二世極右ボンボン議員は選挙区で落選(比例で復活)しましたけれども、これは悲しむべきことではないでしょう。彼を切れない民主党などに幻想を持たないことです。たしかに保守党岡田派は今は野党だし、私たち左翼の票を取り込もうとしているので、多少なりともリベラル味を出していますが、これは合成添加物によるもので、素材本来の味ではない。

 それよりも、私が票を投じている反戦・護憲の共産党や社民党は現状を維持しているわけです。いや、むしろ前回の総選挙に比較すると社共は比例の獲得票を伸ばしている。私は「小選挙区で勝てない政党は比例でも票が減る」原則によって、社共が壊滅してしまうのではないかと、それだけが心配だったので、社共が生き残ったことに、心から胸をなでおろしているのです。私は心から叫びたい、「社共よ、痛みに耐えてよく頑張った!感動した!」とね。まあ、そうはいっても議会における護憲派が、依然としてイリオモテヤマネコ並みの絶滅危惧IB類であることは変わりませんけど。

 それとAさん、自民党に投票した有権者に対して「地獄に落ちろ」と八つ当たりするのもどうかと思うね。又吉イエスじゃないんだから。唯物論者としてふさわしくない表現でもあります。例外は茨木7区で、ゼネコン汚職で有罪になり実刑判決を受けて服役した男を当選させている。彼に投票した茨木7区の有権者は「腹を切って死ぬべきである!」

 そう、小選挙区制。これこそ民主主義の敵だ。数字を見てみればわかる。比例の得票率と議席の占有率を見てみよう。

政党名  比例での得票率   議席占有率
自民党  38.2%       61.7%
民主党  31.0%       23.5%
共産党   7.3%        1.9%
社民党   5.5%        1.5%

 これは比例で得られた議席も含めて占有率を計算しているので、これをのぞくともっとすごいことになるぞ。

政党名  比例での得票率   選挙区での議席占有率
自民党  38.2%       73.0%
民主党  31.0%       17.3%
共産党   7.3%        0.0%
社民党   5.5%        0.0%

 つまり、政党としては過半数に届かない38%の得票しかなかったにもかかわらず、小選挙区では自民党は実に4分の3近くの議席を占有しているわけですね。これが今回の自民党大勝のカラクリです。だから、選挙結果はゲンダイが言うような「狂気の果て」ではない。捏造された「自民党大勝利」なのであります。これが民意を正しく反映する比例代表選挙であったら、自民党の得られた議席は、過半数に遠く届かない183議席に過ぎず、対する民主党は149議席で、公明党や我らが社共の行方次第で政権交代も可能だった、というわけです。「政権交代されやすい」というのが小選挙区制導入のセールスポイントだったにもかかわらず、実際には自民党一党独裁を強固なものにしていることがよくわかりますね。まったく、あれこれと思いつく限りのインチキを並べて小選挙区制導入に旗を振ったマスコミと御用文化人たちこそ「腹を切って死ぬべきである!」、であります。

 だから、「亡命」のために『地球の歩き方』を買いに行くとか、有権者に八つ当たりしているヒマがあるなら、選挙制度を民主的なものに変えるための運動をするほうが、よほど前向きだと思いますよ。少なくとも僕はそういう運動をしたいと思っています。それに、この期に及んで選挙協力を検討すらしないという、あまりに危機意識の欠如した共産党と社民党をどうにかしないとね。

 ところで、僕は総選挙の日は沖縄にいたんですが、沖縄では那覇を中心とした一区で反自公を掲げた候補者(保守系だけど)が社民党や社大党の推薦を得て勝利し、基地の集中する中部の二区では社民党の候補者が勝利しました。それで、僕は絶望を感じなかったのかもしれません。

 絶望というのが、抗議することや要求することをあきらめるということを意味するのなら、Aさん、そりゃおかしい、と僕は思う。少なくともAさんも僕も、酔狂やヒマ潰しで運動しているわけではないはずだ。沖縄にいて、そう思った。爆音が響き、女性が犯され、軍用ヘリが墜落し、米軍基地の建設が狙われる此処では、絶望すら余興になってしまう。

 それに、今回はものの見事に「郵政民営化」に争点が誘導されてしまって、しかもその郵政の問題でも小泉首相の大ウソ(この点は共産党の批判がわかりやすかった)がそのままテレビやマスコミで垂れ流されて、自民党(保守党小泉派)への票も多少は増えたけれども、9条や靖国や基地やイラク派兵や…という問題では、各世論調査を見る限り、私たちのような考え方をする人は多数派であるかそれに近いわけです。ぜんぜんマイノリティではない。夏のアブラゼミぐらいに一般的な存在だ。こんな状況で「亡命」をウンヌンするなんて、ちょっと敗北主義的すぎるんじゃないでしょうか。

 以上、私としては、今回の選挙結果について、「遺憾ではあるんだけども、社会に向き合う姿勢と見解には特に変化ナシ」というところです。やるべきことをやっていくまでの話だ。というわけで、またどこかの集会ででもお会いしましょう。

追伸 涼しいほうがいいなら、ノルウェーもおすすめです。国連開発計画(UNDP)によれば生活の豊かさは一位で、日本の選挙の翌日に行なわれた選挙で労働党を中心とする左派政権が誕生したそうです。

kuma@office.email.ne.jp 熊谷 伸一郎 拝