| 37054 | 返信 | Re:C級犯罪 | URL | 五番街 | 2005/09/28 11:37 | |
| タラリさん、烏龍茶さん C級犯罪に関する議論、私も参加させてください。 >ハーグ法に「人道」の概念が導入されているとはいっても、それは戦争行為の中での話です。ナチスによるユダヤ人迫害とか、日本による朝鮮人・中国人連行とかは直接、戦争行為の中では行われていません。戦争の時期に同時に虐殺・迫害が行われていた、戦争遂行者が同時に犯罪を犯していた、というに過ぎません。その意味で人道に対する罪というものが国際的な合意の中で形成されていたとは言い難いと推測しています。(タラリさん) ハーグ法のマルテンス条項の趣旨を私なりにまとめると<ハーグ法から漏れた慣習法によって犯罪とされる行為、さらに人道に反する行為および良心に反する行為も戦争犯罪とする>となると思います。しかし、これらの反人道的行為や反良心的行為の定義あるいは概念が決められず、曖昧な状態に置かれています。たとえば、他国を侵略する行為も反人道的(あるいは反良心的)行為と見なすことも可能であれば、捕虜を虐待・殺害することも、同様に反人道的(あるいは反良心的)行為と呼ぶことができます。しかし、このマルテンス条項は、ハーグ法の規定の外にある行為を対象としているため、同法が規定する捕虜の虐待・殺害などは除かれることになります。そして、この新しいタイプの戦争犯罪という点が反人道行為、すなわち、人道に対する罪の特徴の一つになります。 藤田久一の「戦争犯罪とは何か」(岩波新書)によれば、第一次世界大戦の犯罪に関しても、「人道の法違反という表現を援用した」と述べているにとどまり、人道法違反の概念・定義は明確ではありません。 そして、藤田は、ニュルンベルグ裁判における人道に対する罪の背景として、1915年のトルコでのアルメニア住民の虐殺に関する仏・英・ロシア政府の宣言で「人道に対する罪」ということばが使われたこと、さらに、1942年にヨーロッパの諸国連合がセント・ジェームス宣言を採択して、ナチ・ドイツの一般住民に対する人種的・種族的または宗教的所属を理由とする迫害から殲滅にいたる犯罪の責任者の処罰を求めたことを指摘しています。このことは、人道に対する罪の骨格がニュルンベルグ裁判以前に出来上がっていたと考えることができると思います。(ですから、不戦条約違反によって侵略戦争の罪を政治指導者に課すことが出来たのと同様に、人道に対する罪も事後法ではないという言い方もできるかも知れませんが、不戦条約の締約国の数が多く、人道に対する罪を認定する国の数が少なかったという反論も可能でしょう。 それはともあれ、ニュルンベルグ裁判での「人道に対する罪」は、セント・ジェームス宣言をベースとして、当時に知られていたドイツのユダヤ人あるいはロマ民族に対する迫害・殲滅を戦争犯罪とみなしたものと考えることが出来ると思います。じっさいには、これらの2つの民族以外に、ポーランド、ソ連およびチェコスロバキアの市民を対象とする同様な行為にも適用されています。 同書では、この人道の罪の特徴として次の要素を上げています。 1. 「戦前または戦争中」 2. 「全ての一般住民」を対象とする 3. 「犯罪の行われた国の国内法に違反すると否とにかかわらず」 私は、それに加えて、4.「政治的・人種的または宗教的理由にもとづく」も、その特徴に加えるべきであると思います。 また、この犯罪が、平和に対する罪および通例の戦争犯罪に関連することも条件に加えられます。これは、同裁判が、戦争犯罪を裁くという観点から、もたらされたものであろうと考えられます。(ちなみに、1945年12月の連合国ドイツ管理委員会の、同管理委員会法律第10号では、戦争犯罪に関連するという条件が除かれ、人道に対する罪の概念が拡大されています。) これらの特徴の中で、「全ての一般住民」の意味は、自国あるいは交戦国の市民を問わず、また、戦争中、あるいは占領下、占領地の隣接国、交戦国の軍隊が駐留する他国の住民を対象とするということです。ハーグ法には、戦闘地および占領地における住民の虐待・殺害などを禁止する項目はありませんが、それらは慣習法によって禁止されていたと考えるべきでしょう。そうすると、この定義での特徴は、自国民および占領地以外の土地の住民を対象とすることが新しい点になります。 このような諸条件を満たす犯罪が、ユダヤ人などの特定の民族、国籍者に対する迫害・虐殺であり、適用範囲が限られることになります。これは、もともとこの人道に対する罪が、当時明らかであったユダヤ人などに対する迫害・虐殺に焦点をおいているためであろうと考えられます。 極東軍事裁判所条例では、人道に対する罪は、次の特徴があります。 1. 「戦前または戦争中」 2. 3. 「犯罪の行われた国の国内法に違反すると否とにかかわらず」 この条例の定義では、ニュルンベルグ裁判での第2項の「全ての一般住民」を対象とする、が除かれ、さらに私が挙げた4.「政治的・人種的または宗教的理由にもとづく」のなかで、「宗教的理由」が除かれています。 藤田は、「全ての一般住民」が除かれていることを指摘した後に、【東京裁判の起訴状は、日本領土で日本国民に対して犯された犯罪を理由に日本の主要戦争犯罪人を告訴せず、日本国民以外の人に対して犯された犯罪に限定した】と述べています。藤田は、「全ての一般住民」の除去によって、人道に対する罪の適用が「日本国民以外の人」に限定されると明確に述べているのではないけれど、それを示唆していると受け止められると思います。 どうも、この点が私にはよくわかりません。「全ての一般住民」の意味が、「自国民を含む全ての一般住民」ということだと考えても、これを除去した場合には、その対象が不明確になるのだから、たとえば「軍隊構成員および一般住民」というように、拡大しているとも受け止められます。 さらに、東京裁判の起訴状が「日本国民以外の人に対して犯された犯罪に限定した」といっても、たとえば、ドイツでは、ユダヤ系国民に対する迫害・虐殺が起こったことは事実であるが、日本では朝鮮系あるいは中国系日本人に対する同様な犯罪が行われたという指摘はなく、また、日本で唯一C級犯罪として認定された花岡事件のような犯罪が、朝鮮系あるいは中国系日本人に対しても行われたとしても、東京裁判の当時にそれが明らかになっていなかったとも考えられます。 同様に、共産主義に対する弾圧や大本教に対する弾圧のような思想の弾圧にしても、侵略戦争の実行の目的あるいはそれに関連して行われたという側面がある一方で、当時の日本の体制を転覆させる思想を弾圧するという意味からしても、人道に対する罪を適合するには無理がある思います。 南京大虐殺は、この「日本国民以外の人」が被害者であるという特徴は、東京裁判でのC級犯罪の規定の一つに合致するものですが、反面では、中国人のみが被害者であったからといって、ユダヤ人やロマ民族のように、特定の人種・民族をターゲットにしたものとは言えません。また、この事件は、いうまでもなく戦中に起こったもので、戦前から同様な犯罪が継続していたものではありません。さらに、ドイツはユダヤ人を迫害するために法の制定によってこの犯罪を正当化していましたが、むろん日本では、このような法律は存在しませんでした。 このように考えると、南京大虐殺はB級犯罪が適用されると考えられますが、しかし、中国人に対する日本人の蔑視感情が戦前から存在したことも事実であり、また、それが法制化されなかったとはいえ、日本社会における中国人蔑視の承認が指揮官や兵士を大虐殺に駆り立てた心理的要因となっていることを考えれば、C級犯罪との強い類縁性があると言えます。そして、この世界史上、特筆される大虐殺を強調するためにも、よくあるようなB級犯罪の一つとせず、ドイツのユダヤ人などの虐殺に比すべきC級犯罪と認定すべきであったと思います。 ユーゴスラビアなどで戦争ではない状態の民族浄化は、戦争の遂行あるいはそれとの関連が削除された1945年12月の連合国ドイツ管理委員会の、同管理委員会法律第10号の「人道に対する罪」の定義に当てはまります。 |
||||||
![]() | ||||||