37081 返信 Re:C級犯罪 URL 五番街 2005/09/30 10:07
タラリさん

> ハーグ法のマルテンス条項の趣旨を私なりにまとめると<ハーグ法から漏れた慣習法によって犯罪とされる行為、さらに人道に反する行為および良心に反する行為も戦争犯罪とする>となると思います。(五番街)


(以下はタラリさんの発言です)
マルテンス条項
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一層完備したる戦争法規に関する法典の制定せらるるに至る迄は、締約国は、其の採用したる条規に含まれさる場合に於ても、人民及交戦者か依然文明国の間に存立する慣習、人道の法則及公共良心の要求より生する国際法の原則の保護及支配の下に立つことを確認するを以て適当と認む。
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「一層完備したる戦争法規に関する法典の制定せらるるに至る迄は」ではじまる以上、これは人道に対する罪一般の規定ではなく、戦争行為に対して人道の法則、公共良心の要求に従って行動、判断するようにいっそう求めていると理解できます。(タラリさん)


マルテンス条項の理解の仕方についてですが、このタラリさんのご意見におおかたで賛成しますが、部分的には異論があります。詳しく見てゆきましょう。

・「これは人道に対する罪一般の規定ではなく」:これはその通りだと思います。私も同じ趣旨の発言をしております。

・「戦争行為に対して人道の法則、公共良心の要求に従って行動、判断する」:これも賛成です。

・「ようにいっそう求めている」:ここには、原文の【国際法の原則の保護及支配の下に立つ】という部分が反映されていないように思います。この部分は、国際法が適用されるということです。

このマルテンス条項の構造は、次の二つの要素によって構成されています。

・締約国は、其の採用したる条規に含まれさる場合に於ても、国際法の原則の保護及支配の下に立つことを確認するを以て適当と認む。

これは、ハーグ法の締約国は、ハーグ法が規定しないケースも国際法(戦争法)の原則(理念)が適用されることを承認する、という意味です。

・人民及交戦者か依然文明国の間に存立する慣習、人道の法則及公共良心の要求より生する国際法の原則

これは、国際法(戦争法)の理念は、慣習法、人道の法および誰もが有する良心の法をベースとして生まれたものだ、という意味です。つまり、戦争・戦闘における慣習法に反する行為および反人道的・反良心的な行為は、国際法(戦争法)に反するものだ、ということです。

原文の「国際法の原則」という意味が理解しにくいと考えられますが、これは、英文では「the principles of international law」となっており、国際法の原則、本質、理念などという意味です。むしろ、「国際法の理念」と考えた方が理解しやすいと思います。そして、国際法の理念に反する、ということは、国際法に反すると同義です。

この二つの要素を私の理解の仕方によって統合すると、マルテンス条項の意味は次のようになります。

・戦争においてハーグ法が規定しないケースにつき、それが慣習法に準拠する行為、あるいは人道的・良心的行為であれば、国際法(戦争法)が承認するとみなし、逆に、反慣習法行為、反人道的行為あるいは反良心的行為であれば、国際法に違反するものと見なす。この見解を締約国は承認するものとする。ただし、この承認は、将来において戦争法が完備まで有効とする。


以上のことから、タラリさんの文章を借用して、私なりの理解の仕方を示すと、次のようになります。

#これは人道に対する罪一般の規定ではなく、戦争行為に対して人道の法則、公共良心の要求にしたがって行動、判断することが国際法(戦争法)によって求められる、と理解できます。


次に移ります。

セント・ジェームス宣言は条約の形はとっていないし、国の数が少ないのでC級犯罪の骨格としては不戦条約の骨格と比べても立ち後れていると言えるでしょう。(タラリさん)


じっさいには、私はセント・ジェームス宣言を読んでいないのですが、私の言いたいことは、ドイツにおけるユダヤ人などに対する「人種的・種族的または宗教的所属を理由とする」迫害・虐殺を犯罪とする見方が存在し、この見方が、ニュルンベルグ裁判のC級犯罪(人道に対する罪)の骨格(ベース)となったということで、この宣言によって、C級犯罪の概念・定義が明らかになったというのではありません。(ただし、私がこの宣言を読んだ後に、この見解が修正される可能性はあります。)

次に移ります。

> これらの特徴の中で、「全ての一般住民」の意味は、自国あるいは交戦国の市民を問わず、また、戦争中、あるいは占領下、占領地の隣接国、交戦国の軍隊が駐留する他国の住民を対象とするということです。ハーグ法には、戦闘地および占領地における住民の虐待・殺害などを禁止する項目はありませんが、それらは慣習法によって禁止されていたと考えるべきでしょう。そうすると、この定義での特徴は、自国民および占領地以外の土地の住民を対象とすることが新しい点になります。(五番街)



ハーグ陸戦規定の52条がC級にかなり近いようです。
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占領軍の必要性を除いて徴発または労役を占領地の住民または自治体に課してはならない。それらはその国の資源に比例的でなければならず、自国に敵対する軍事作戦に関与しない性格のものに限定される。
これらの徴発と労役はその地区を占領した軍司令官の権限によりのみ課される。
あらゆる寄与にたいし金銭をもって支払いがなされる。そうでない場合は金銭によって計測された受領証が発行される。http://ww1.m78.com/topix-2/hague.html
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「占領軍の必要性」とか、「軍事作戦に関与しない正確に限定される」「軍司令官の権限」などの文言は逆に戦時を念頭において作られていることを強く示唆しています。逆に言えば非常に長期にわたった占領軍政中、または傀儡政権樹立後に一般住民を虐待・虐殺するような事態は予想していなかったと考えられます。すなわち、戦争継続中ではあっても、当該地域は戦時と考えられず、直接の軍事上の必要がないという状態です。

新しい定義には自国民および、長期の被占領地区または傀儡政権が樹立された国の国民に拡張されたということにならないでしょうか。(タラリさん)


まず、【長期の被占領地区】と書かれていますが、<長期の>という限定句がつけられていることがうまく理解できません。特に、長期に限定する適切な理由があるとは思えません。さらに、ハーグ法の28条では戦闘後の略奪の禁止、46条では占領地での私有財産の没収、47条では同地での略奪の禁止が明示されていることからすれば、それに関連して、住民の虐待や虐殺が発生することは予想されることですし、25条で禁止されている不必要な徴用・使役も虐待の一種とみなすことも可能です。これらの禁止は占領の長短には関わりはないと考えられます。同様に、【傀儡政権が樹立された国】に限定する必要もないと思います。

私は、このC級犯罪の定義は、侵略戦争の遂行の目的またはそれに関連して、自国民であるか否かを問わず、また戦争中あるいは戦争前であるかを問わず、さらに自国内、占領地内あるいは自国外、占領地であるかを問わず、さらに、法律によって許容されたか否かを問わず、人種、民族、宗教あるいは思想信条によって一般住民を迫害・虐殺することを禁止したものであり、特に<長期の占領地区>や<傀儡政権が樹立された国>という制限はないと考えています。

次に移ります。

> 藤田は、「全ての一般住民」が除かれていることを指摘した後に、【東京裁判の起訴状は、日本領土で日本国民に対して犯された犯罪を理由に日本の主要戦争犯罪人を告訴せず、日本国民以外の人に対して犯された犯罪に限定した】と述べています。藤田は、「全ての一般住民」の除去によって、人道に対する罪の適用が「日本国民以外の人」に限定されると明確に述べているのではないけれど、それを示唆していると受け止められると思います。
>
> どうも、この点が私にはよくわかりません。「全ての一般住民」の意味が、「自国民を含む全ての一般住民」ということだと考えても、これを除去した場合には、その対象が不明確になるのだから、たとえば「軍隊構成員および一般住民」というように、拡大しているとも受け止められます。(五番街)


藤田氏の解釈でいいのでは? つまりドイツでは自国民であるユダヤ人が虐殺対象になったが、日本では日本人自国民は虐殺・虐待の対象とはならなかったということで除かれたのではないでしょうか。「軍隊構成員」とはすなわち敵国軍隊のことでしょうから、これはハーグ法で規定済みと見なせますので、「軍隊構成員および一般住民」という方向の拡張はないでしょう。(タラリさん)


藤田久一の見解では、<東京裁判では、すべての一般住民、という表現が削除されたことで、C級犯罪の対象が「日本国民以外の人」に限定された、というものであり>、この見解では、(ここまで、追加)、極東条例の制定後に日本国民に対する虐待や虐殺などの犯罪が露見した場合、この犯罪は、C級犯罪とはみなされないことになります。そして、ドイツでは自国民であったユダヤ人を虐待・虐殺した犯罪をC級犯罪と見なすのに対して、日本では自国民を虐待・虐殺した犯罪がC級犯罪とはみなされないという不都合が生じます。この不都合の発生は、容易に予想できることです。

「全ての一般住民」という表現を除いたことは、このような不都合を発生させる可能性を生み出すためではなく、その逆に、「一般住民」という制限を取り除き、対象を拡大して、一般住民以外にも誰であってもC級犯罪の被害の対象としたと解釈すれば、このような不都合は発生しません。このような解釈がより合理的ではないかと思います。あるいは、「一般住民」という定義に問題があったとか、その定義づけが容易ではなかったという問題が、この表現の削除になったのかも知れない、とも思います。

たしかに、タラリさんが言うように、「軍隊構成員」は当時のハーグ法の対象となるために、その虐待・虐殺はB級犯罪に分類されるのですから、これは私の間違いですし、「一般住民以外の誰であっても」には、軍隊構成員は含まれませんね。

次に移ります。

セントジェームズ宣言はユダヤ人の迫害から「人種的・種族的または宗教的所属を理由とする迫害から殲滅にいたる犯罪」を定義してC級犯罪が考えられたわけで、おそらく、ユダヤ人圧迫に並ぶような包括的、持続的迫害または虐殺を想定したと思われます。しかし、それがどこまでの範囲をカバーする概念かは決まっていなかったと思われます。(タラリさん)


いや、ドイツのC級犯罪の概念は明確であったと思います。だから、ユダヤ人、ロマ民族あるいはポーランド人などに対する迫害・虐殺がC級犯罪とされたと考えられます。日本でも、被害を受けた人種や民族が異なるとはいえ、同種犯罪を想定できるために、C級犯罪が設けられたのではないでしょうか。そして、日本では、ドイツと異なり、人類史上希有な規模でのC級犯罪が行われなかったけれど、当時に発覚した花岡事件は、その犯罪概念に適合すると考えられたと思います。

ある人種・国民について無差別、制限なく皆殺しにするというのが、最も重大なC級犯罪と言えます。南京大虐殺も一定期間、ある地域ではそれに近いような様相を呈していますが、ほとんどの日本兵の意識の中では「戦闘行為」として認識されていますので、危険が感じられなくなった時点で虐殺は終息しています。親日中国人は保護するのが政策であり、建前でもありました。(タラリさん)


南京大虐殺における一般住民に対する略奪、強姦、虐殺について、日本兵士が「戦闘行為」として認識していたとは到底思えません。武器をもたない住民に「危険」を感じるというのもうなずけません。住民対する大虐殺が終息したのは、狂乱状態がおさまったとか、それを引き起こした心理的要因が満たされたためとか、の理由によるものでしょう。

南京法廷ではたった四人の死刑判決があり、その中で第六師団の谷寿夫師団長は南京大虐殺の責任を一身に負わされた感がありました。彼は最終的に虐殺の責任を認めながらも、法廷は参謀長クラスや他の師団長クラスをすべてを喚問し、事件の総体を明らかにすべきではなかったか、と指摘しました。これには、むろん、私よりもっと責任が重いものもいたはず、と言外の意味も含んでいますが、これは決して言い訳や責任逃れのためだけではありません。誰がどの程度責任を負うべきであったかを明らかにした上で自分自身の責任もとりたい、と表明したのです。(タラリさん)


むろん、南京大虐殺事件では、もっと多くの実行者、指揮者が裁かれるべきであったと思います。

以下略。