今日のIT業界では、いわゆるGAFA(Google,Apple,facebook,Amazon)やMicrosoft社(cf.GAFAM )などの、巨大IT企業が多くのサービスを提供している。しかしながら、これらの巨大企業についていくつか問題が指摘されている。そして、GAFAの寡占的・独占的な地位や影響力からして、社会にとってもこのような議論は大きな意味をもつと考えられる。
そこで、本論文では、まず「第一章」でGAFAに関する諸議論を整理する。そして「第二章」ではそれらと適宜関連付けつつも、特にGAFAの「寡占」に関する議論を掘り下げて考察して行きたい。そして「結論」では、第一章からの考察を基に、寡占による問題について今後どのような対策が望ましいのか、筆者の提言を述べていきたい。
まず、前提として、GAFAが世界にもたらした革新的影響を説明していきたい。
これに関して、IT企業「アイネス」では、次のようにまとめている。すなわち、GAFAは無料や低価格でも高クオリティの製品や、革新的な商品の提供により、消費者の利便性を向上させ、また成長してきたというのである。また、企業にとっても低コストで気軽に参入でき、また初期投資が少ないため初めは簡単に撤退ができるというメリットがあった。
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無料や低価格での高クオリティの製品というのは、複製コストの低い情報産業であること、多くの利用者がいる構造(薄利多売)ならではとも言えよう。
また、前述の「アイネス」のGAFAについての解説を基に整理すると、GAFAの特徴としては、いずれも大規模なプラットフォームを保有する企業であるという点が上げられるという 2 。たとえば、Googleでいうならば検索サイトの「Google」、Appleでいえば、iPhoneやiPad、Mac、AppleWatchなどのハードウェア(とMacOSやiOS、iPadOSなどの内蔵OS)や、App Storeなどのアプリストアが上げられるだろう。また、facebookでいえばSNSのfacebookやInstagram、Amazonでいえば電子商取引(EC)サイトのAmazonなどだ。これらGAFAの代表的なサービスは、すべて「プラットフォーム」に該当し、各企業が商活動をする土台となるものだ。Microsoft社についても、中核サービスのWindowsOSは「プラットフォーム」だといえる。
そして、プラットフォームを保有しているということは、当然、そのプラットフォーム上で活動する無数の個人・企業に対し、大きな影響力と、したがって強い立場を持つということでもある。極端な例を上げれば、そのプラットフォーム上に投資をしているユーザーは、プラットフォーム企業の意向一つで損害を受ける可能性があるのである。例えば、産経新聞によればAmazonと同じくECプラットフォームを運営する楽天は、以前に一定金額以上の購入で送料が無料になる制度について、事業者が負担する形での実施を検討し、独占禁止法の疑いで公正取引委員会が介入する事態となった。 3 朝日新聞によれば、これは独占禁止法が禁じる優越的地位の乱用に当たる可能性を指摘されたものである。 4またNHK 解説委員室の「動き出す GAFA規制 (時事公論)」によれば、Amazonの日本法人が、商品を出品している事業者に対し、販売価格の1%を出品者の自己負担で消費者にポイント還元するよう求め、公正取引委員会による独占禁止法違反の調査を受け、撤回する事件があった。5 プラットフォームの利用者は、プラットフォームの意向に従わなければそのプラットフォームを利用できず、さらにこのプラットフォームが代替の難しい巨大なものである場合や、既に巨額の投資をしている場合、収益を依存している場合は、その優越的地位は顕著といえる。
また、プラットフォーム上での公共の利益のための様々な施策についても、実質的に実装できるのはプラットフォーム企業であるため、プラットフォーム企業にはプラットフォーム上での犯罪など、反社会的行為を取り締まる擬似的な「政府」のような役割と倫理が求められると言えるだろう。その具体例としては、ネット上での不適切なコンテンツ(cf. #SEOセックス change.orgより)や、誹謗中傷・フェイクニュース(cf.米選挙戦でのSNS上のフェイクニュース 日本経済新聞より)などへの対応が求められた例がある。しかし一方で、民主的な方法によって選ばれたわけではない「企業」が、政府のように情報を統制することには懸念もある。
また、特にSNSや検索サービスなど、個人情報を扱う企業に対しては、その管理に関しても懸念がある。
NHKの解説委員室6
によれば、2018年、フェイスブックで最大8700万人分と言われる大量の個人データの流出が明らかになったという。また前出のアイネスによると、Facebookは以降も2020年までの間に大規模な情報流出事件を数回起こしているという7。
また、ビジネスIT+の「世界中で疑義が呈されるGAFA、日本だけが知らない現状と本質」によれば、FacebookのWhatUpの買収では、異なるプラットフォーム間での個人情報の共有が問題視された8。私達がSNSを利用する際は、普段は会社に「情報を集められている」などとは意識せず、意図しない利用をされたくないような情報を書き込むこともあるだろう。そのような場で収集された情報が流出したり、プラットフォームを越えて統合された形で管理されることは、筆者としても一ユーザーとして意に沿うことではない。
また、前出のビジネスIT+の資料によれば、新しい権利の概念として「わすれられる権利」という概念が提起されている。フランスでは、ある個人が過去の情報の削除をGoogleに申し立てた結果、裁判でGoogleに勝訴した9。。
インターネット上の情報は容易に消えることがない。プライバシーの問題は情報産業にとって重要な課題といえそうだ。
また、前出のNHKの解説委員室によれば、GAFAの租税回避も問題視されている。同サイトによれば、企業にかかる法人税は、基本的に本社や支店、工場など、物理的な拠点がある場合に適用される。 このような既存の法体制では、物理的な拠点を設けないプラットフォーマーに対して課税できないのである10。 このように、GAFAはユーザーに利益をもたらしてきた一方で、プラットフォーマーとしての優越的地位の濫用やプライバシーの問題、納税の問題など、さまざまな指摘もなされているのである。
日本経済新聞は、米下院でのGAFAの市場独占への批判を報じた。同紙によれば、GAFAは各業界で高いシェアを持っている▼
議会では、Googleは検索エンジン市場などでの寡占、Facebookは、競合他者の排除(Instagramの買収など)、Appleは、AppStoreでアプリの配信サービスを独占し、アプリ開発者に高額の手数料を課していること、Amazonは、出店企業の販売履歴を利用して自社製品の開発をしていることが問題視された。
11。Appleの例を上げれば、筆者自身がiOSアプリを開発してAppStoreにリリースした経験があるが、配信にはAppleの会員サービスへの登録、膨大な審査、毎年1万円ほどの手数料を求められた(手数料が払えないとAppStoreから消されてしまい、独自の効果的な販売経路を持っていない限り、アプリの新規ダウンロードが期待できなくなる)。また、iOS向けのアプリを配信しようとすれば、AppStoreに出す以外の選択肢は現実的ではなかった。AndroidのPlaystoreの審査とは対象的だったと記憶している。
このような行為が独占を背景としているとすると、企業間の競争を阻害して優れた商品が売れることを妨げ、あるいは他の売り手がほとんどいないことを利用して不利な条件を提示することで、消費者にとって不利益が起きる可能性があると言えるだろう。また情報や資産、資金、顧客数であまりに寡占企業が突出していれば、スタートアップなどの入り込む余地もすくなくなるかもしれない。
さらに、第一章で述べたような諸問題についても、その一部の原因は、GAFAが独占的な企業であるという点を含むと、筆者は考える。 例えば、前述のプラットフォームによる出店者への不利な条件の提示に関しても、ECプラットフォームがもし無数にあれば、出店者は今後他のプラットフォームに乗り換えることができるし、また、プラットフォーム側も、出店者の減少を恐れてあまりに不利な条件は提示できないだろう。また、プラットフォーム上の不適切と考えられる行為のの取締に関しても、プラットフォームが一部企業によって独占・寡占されていることで、規制された対象が他のプラットフォームで代わりに活動することが難しくなり、特定の企業の価値観による判断によって発信が全くできなくなるような事が起こりかねない。
本節では、前出のような諸問題への対策を考える上での土台として、なぜGAFAMのようなITプラットフォーム企業が独占的な影響力を持ち、様々な問題が発生しているのか、IT市場の性質という普遍的な観点から考察していきたい
脚注。
脚注:通常、大企業に有利に働くメカニズムとして生産上の規模の経済は有名だが、本節ではIT市場特有の追加要因について扱いたい
根岸哲らは、『ネットワーク市場における技術と競争のインターフェイス』で、GAFAMの一角であるMicrosoft社のOS市場における優位性の根本的事由として、次の点を指摘する。すなわち、「あるユーザーがある製品を選択したことにより、他のユーザーがその製品を選択することのメリットが増加する効果(ネットワーク効果)」があるというのである。前出の根岸らは同書で、ネットワーク効果を以下の2つに分類している。
しかし、前出の根岸らは、あまりにも大きなネットワーク効果が働くことで、後発のより優れた製品が市場に登場しても、従来の大多数が利用する標準に勝てない可能性があることを指摘する。同氏らは、OSの例で、例えばWindowsOSに代わる新しいOSを作って需要を生み出すには、それに対応した「補完財」(アプリケーションなど)が必要であるが、補完財の開発者は、需要がないと新たなOSに対応した補完財を開発しようとしないはずだと説明する(2.のネットワーク効果が働いていると言えよう)。このことによって、特定企業の事実上の標準と化した製品による独占が容易に維持・強化されるというのである13。その結果として、競争が阻害されてしまうのだ。
また、独占の背景としては、情報産業の特性も関係していることが考えられる。後藤らは、『IT革命と情報政策』において、情報の特性として、制作費用が高く、複製配布費用は安いという点を指摘して、このようなものは広範囲に配布するのが望ましいとしている14。このような特性上、多くの利用者がいるGAFAは、その分価格設定を低くしても、配布費用が安いため、相対的に制作に多くのコストをかけて高品質なサービスを作ることができるといえるだろう。
これまでの各論をまとめると、第一章では、GAFAMがプラットフォーム企業であるということ(前出 アイネス)15や、GAFAなどの巨大IT企業をめぐる様々な議論や問題を指摘してきた。そして第二章では、中でも巨大IT企業の寡占・独占による問題と、その原因分析を行った。これらを踏まえ、本章では、まずGAFAMなどの巨大IT企業による問題をどう解決するべきなのか考察し、またGAFAMの今後について論じていきたい。ついで、本章を含めた全体に関して評価し、今後の課題を記して結語に代えたい。 まず、GAFAMについては、これまでに述べてきたように、多くの問題が指摘されているが、それでも当面は寡占・独占状態は継続するものと考える。なぜなら、第二章で挙げたような原因はプラットフォームやSNS,情報産業などの普遍的な性質のように思われ、今後も短期のうちに大きく代わることはないと考えられるからである。資本や情報、人的資源の確保、規模の経済などと言った要因もそれを加速させるだろう。さらに、coindeskは、「GAFA繁栄の3つの大弊害。それでも人がデータを提供する理由【増島雅和弁護士】」で、データを解析するAIの発展により、中央にデータを集めるモデルであるプラットフォームは、重要性を維持すると指摘する16。既に情報資源をもっていて、プラットフォーム企業であるGAFAにとっては追い風だろう。
また、GAFAは優れたサービスを提供していることも前述のとおりである(前出 アイネス)。したがって、GAFAに対して、なくそうという動きではなく、GAFAによる問題を解決するアプローチが必要だと筆者は考える。
具体的には、情報産業におけるルールとして、プラットフォームに依存しない補完財を作れるよう、国が法規制によってクロスプラットフォーム(OS市場におけるJava仮想マシンを想起されたい) を支持し、独占・寡占企業に対してクロスプラットフォームを可能にするサービスを開発する企業に必要な情報を提供することを義務付けたり、補助金を支出したりすることを提言したい。このような取り組みは、ネットワーク効果の恩恵を維持しつつ、競争を推進するものといえるだろう。
最後に、本論文ではプラットフォーム企業の寡占による、川下市場でのプライススクイーズ問題については、ふれることができなかったことを付記する。この点については後日を期したい。