6月6日、作家の土門蘭さんをSFCにお招きしました。
慶應SFCでオーラル・ヒストリーをはじめてからちょうど今年で10年になる。やる気に満ち溢れてきたはずの着任1年目。その講義評価が最悪で、どうしたらいいのかなと頭をひねってひねって出てきたのが「ライティング技法ワークショップ」というクラスをインタビュー中心で作ってしまうことだった。こちらも必死に勉強しながらの、いわゆる半学半教だったからだろうか、これがうまくいった。ゼミにしてほしいという学生が4人も来てくれて、オーラル・ヒストリーゼミができた。
2014年に在外研究に出るまでのオーラル・ヒストリーゼミは、なんともSFCらしいイケイケ集団だった。インタビューを軸にしたゼミなのに、若手経営者が5人も出ている。変だ。ゼミは時間割上は4限(14:45~16:15)なのだけど、20:00まで延びることはザラだった。いつしか、大学事務も同じ教室を夜まで押さえてくれるようになった(こういうところが、SFCのすてきなところだなあ)。
在外研究から帰ってきて、メンバーが入れ替わると様子が変わった。ぐっと「人」「心」に寄り添った「聴く」が求められるテーマを選ぶメンバーが多くなった。すばらしい、が困った。僕は本来、適当に人の話を聞くタチだ。こんな真剣に「聴く」に向き合う学生たちを前にどうしたらいいのだろう。まあ、できないときには仲間に頼るのが桃太郎もウルトラ・セブンもやってきた伝統芸だ。こうして、すばらしい卒業生や研究仲間にゲスト講義に来てもらうようになった。これは自分にとっても大きな学びになった。
そうしているうちに、ゼミから「聴く」そのものを仕事にするメンバーが出始めた。すごいことだ。誰でもできることを、みんなとは違うレベルでやってしまうのだから、すごい。そんな卒業生たちは、僕に「自分たちが見た、さらにすごい聴き手」を紹介してくれるようになった。去年からは、こうした「すごい人」にも来ていただくいている。去年は加治屋健司さん(日本美術オーラル・ヒストリーアーカイブ)と富永京子さん(『みんなの「わがまま」入門)。これにはハマった。
ようやく土門さんの話に。去年のクリスマスのころだったか、やはり卒業生が土門さんを推してくれた。学期末でドタバタしたあと、教えてもらった記事を読んだ。ウェブ雑誌BAMPで土門さんが連載するインタビュー記事「経営者の孤独」。このタイトルからして反問式でぐっとくるのだけれど、読んでいて、びっくりした。インタビューのその空間で、土門さんの後ろにそっと座って聞かせてもらっている気分になった。「聴く」もすごいけど、この人は「書く」が突き抜けている。
すぐに「衝撃を受けて、動かずにいられないので、ゲストに来てください」とメールした。しかも、土門さん個人ではなく、土門さんが営まれる「自分たちの本を、自分たちで作って、自分たちで売る」文鳥社さんのサイトからの「お問い合わせメール」で。普段、こういうコンタクトはしないように学生に話しているけど、とにかく、手を止められなかった。あまりにおかしなコンタクトに呆気にとられたのだろうか、幸いにお引き受けいただけた。
それから4か月。待ち遠しかったゲスト講義の日がやってきた。あの、インタビュー空間のうしろに座らせてもらっている感覚がどう生み出されるがが、大きく見開いた目と前に迫ってくる声で解きほぐされていった。自分と対極にある「聴く」をしている方に来てもらったつもりが、自分のなかにたくさんの共感が生まれていた。なんだろう、これは。
土門さんの話の面白さを、さらにぐいぐいと広げてしまう柳下恭平さんが来てくださったのもありがたかった。アフロにアロハに短パンという、SFCにマッチしたスタイル。「今日は運転手としてきました」と言いながら、どんどんドライブ。うん、土門さんが車で、柳下さんが運転手なのかもしれない。
あー、このブログ、こんなに長く書いたことがあったかな。たぶん、初めてです。書き留めておきたかったので、お許しを。
土門さんに、柳下さんに、卒業生のみんなに、現役のみんなに、ありがたい場に、感謝!!
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