聴くことがつないでくれる(10月14日)

 岸政彦さん編『東京の生活史』(筑摩書房、2021年)に聞き手として参加させていただきました(研究室の、ターケル&岸&土門棚)。

   

 昨年の春も終わるころ、社会学者の岸政彦さんが、東京で暮らすひとの生活史を集めたい、ついては話し手ではなく聴き手を集めて本にしたいとツイートされました。これを見て、ああ、ついにこの日が来たとちょっと震えを感じるような喜びを覚えました。

 

 以前、岸さんにオーラルヒストリーゼミに来ていただいたとき、(飲み会で)岸さんの東京に対する想いや、東京でも生活史を残すプロジェクトをやってみたいというお話を聞いていました。酔った勢いで、僕もそんなプロジェクトをやろうとずっと思っていた、と口を滑らせていました。

     

 実際、ずっと、スタッズ・ターケルの『仕事!』のような本を作ってみたいという思いがありました。とはいえ、自分は一応は政治学者。オーラルヒストリーを専門のひとつと称してゼミを運営したり、方法を議論したりしていますが、まさに半学半教。とても自分が旗振りする立場にはありません。率直にいえば「やりたいけどできないとわかっていたことを、岸さんがやってくれる!(やっぱり自分ではできなかったよなあ)という、ちょっと複雑な、でもうれしい喜びでした。

     

 そこに岸さんのツイートです。すぐに応募しました。応募情報を入力しながらあらためて感じたのは、聴くことがさまざまな縁をつないでくれることでした。岸さんと縁は、あるゼミ生が「どうしてもこの人の話を聴きたいから、ゲストに呼んでほしい」というので、熱意にほだされて、全く存じ上げなかった岸さんにメールでお願いしたことから。思えば、そのゼミ生と知り合ったのも、長く話を聴かせてもらっていた学生が起業し、そこに彼が参加していたことが入口でした。

      

 いや、そもそも無粋な僕がターケルなんて知る由もない。ターケルを教えてくれたのは、東大先端研時代に僕らのお兄様的存在であった武田徹さんでした。武田さんと出会えたのは、もちろんオーラルヒストリープロジェクトに参加していたから。いや、そのプロジェクトに参加するきっかけも、ある先輩のお悩みを聴いていて、そのなかで「そういえばこんな仕事があるらしいよ」と紹介していただいたからでした。

      

 本書には150人の聞き手と、150人の語り手がいます(岸さんは、話し手といわずに語り手というんですよね)。先日、岸さんと編集担当の柴山さんによる「おわたし会」に伺ったときも、受け取りに来た聞き手が自然と座って、お互いに「どのお話を聞かれたんですか」とお互いの聞き書きを探して、語り、聴く。コロナが明けたら全員で集まりましょう!と講習会のたびに話になっていましたが、それがとても楽しみになります。

      

 そして、本であるからには、刊行された瞬間から、多くの方がそれぞれの読みをされる。いや、それぞれの感覚で聴いていくのでしょう。最近、ようやく弊キャンパスでも、「清水さんのゼミって、ただ聞いているだけじゃないんだね」と、僕たちの取り組みに理解を示していただけることが増えてきました。「聴く」に出会えたことをありがた く。

      

 筑摩書房『東京の生活史』プロジェクトへのリンク


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