読書委員半年(7月23日)

 読売新聞の読書委員に就いて半年が過ぎました。6ヶ月半で11冊と、ほどよいペースで書かせていただいています。

 お話をいただいたときは、それはうれしかったことを覚えています。ちょうど20年ほど前に研究所で助手を務めていたころ、研究室の教授が話してくれる読書委員会の様子がとても楽しく、さまざまな専門の方が集まり、それぞれに好きな本を語るなんて夢のようなだと思っていました。その会に加われるとは、望外の喜びと言わずになんと言えばよいかわかりません。

 同時に、私でいいのだろうかというプレッシャーも強く感じました。やはり20年ほど前、初めて学会誌で書評を担当させていただいたとき、自分は著者の意図をきちんと読み取れているのだろうか、議論を理解できているのだろうかと不安で、最終的には脱稿したあとに著者に直接電話して確認していました。真夏で、どこかに合宿に行っており、宿の近くにあった電話ボックスから架けた記憶まで残っています。ご本人を煩わせるだけでなく、一研究者としてもなんとも頼りないことですが、そうしなければ不安で原稿を出せませんでした。真摯に対応してくださった著者には感謝の申しようもありません。

 その後はさすがに著者本人に確認をお願いすることはありませんでしたが、いつも不安を抱えながら出し、著者からリプライをいただいてホッとすることを繰り返してきました。とはいえ昨年までで24冊。学会誌でも新聞雑誌でも、専門に近い本を積み重ねていくことで、自分の書評のスタイルのようなものも少しずつできてきたように感じていました。

 新聞の読書委員となれば、そうはいきません。専門分野はもちろん、隣接分野でも、自分の専門との掛け算で、読者のみなさんが面白い本に出会うきっかけを作っていかなければいけません。私では分不相応ではないか、おこがましいのではないか。読書委員会に参加でするワクワク感が、それを務めることのプレッシャーでプチプチと潰れていくのがわかりました。

 お話を持ち掛けてくださったデスクにそのまま話したところ、そう思う気持ちを大切にして担当すればよいのではと仰ってくださいました。そう、もうひとつ、デスクは「書評委員会ではなく、読書委員会ですから」と言ってくれました。かつて私にその世界の面白さを垣間見せてくれた教授も同じ趣旨のアドバイスをくれました。おかげさまで踏み切れたように思います。

 そこから半年。紹介させていただいたのは11冊ですが、その数倍、じつにたくさんの本と出会う機会をいただいています。専門に近く、これはやらねばと意気込んで臨んだ本から、あまりの面白さに魅了されて書き連ねたもの、勉強になったけれども書けなかったものまで、じつにいろいろです。幅広く、、、と思いましたが、あらためて11冊を眺めるとやはりずいぶん偏っていました。でも、無理をせずに、楽しんでいきたいと思います。いつもたくさんの刺激をくださる読書委員のみなさん、デスク、記者のみなさん、ありがとうございます。

 委員会が夕方にあることで、今年から学部ゼミ(日本政治外交)の時間を4・5限から3(・4)限に移してもらいました。ゼミ生には迷惑をかけてしまっている分、読んで学ばせてもらったことをできるだけ伝えるようにしています。今年のゼミ生に本読みが多いこともうれしいことです。

 もうひとりお礼を申し上げたいのは、もう一つの学部ゼミ(オーラルヒストリー)で初めてのインゼミ相手になってくださった打越正行さんと打越ゼミのみなさんです。読書といいますか、先行研究を読むこと、先行研究について書くこと、他者の文脈を理解すること、されることに難しさを感じていたときに、ちょうど打越さんとのインゼミがありました。その予習にと打越さんの論文(「青年期の労働をとおして考える〈生活―文脈〉理解」宮内洋・松宮朝・新藤慶・打越正行『〈生活―文脈〉理解のすすめ』北王路書房、2024年)に出会ったことで、そうした悩みからずいぶん救われました。ありがたいことでした。

 ああ、オチもなにもありません。書きたかったんです。半年、すてきな環境に置いていただいたことの感謝をみなさんに申し上げて、次の本に向き合いたいと思います。ありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いします。

<ここまでの11冊>
シュミット堀佐知編『なんで日本研究するの? Why Study Japan?』文学通信、2023年10月

若林正丈『台湾の半世紀 民主化と台湾化の現場』筑摩書房、2023年12月

中村恵佑『大学入試の共通試験改革をめぐるポリティクス』東京大学出版会、2023年12月

近森高明/右田裕規編『夜更かしの社会史 安眠と不眠の日本近現代』吉川弘文館、2024年1月

手嶋泰伸『統帥権の独立』中央公論新社、2024年2月

松浦正孝編『「戦後日本」とは何だったのか 時期・境界・物語の政治経済史』ミネルヴァ書房、2024年2月

室橋裕和『カレー移民の謎』集英社、2024年3月

井上寿一著者代表/櫻田會編『立憲民政党全史 1927‐1940』講談社、2024年3月

新井浩文『文書館のしごと』吉川弘文館、2024年3月

近衞忠煇/聞き手 沖村豪『近衞忠煇 人道に生きる』中央公論新社、2024年5月

赤松健『マンガでたのしく! 国会議員という仕事』筑摩書房、2024年6月


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