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情報公開制度の改修

現状の情報公開制度には、2章で挙げたように4つの欠陥がある。そこで我々はこの4つの問題の解消について考えてみることにした。

まず第1に、(1)の情報が分散している、という問題点であるが、これは情報を一元化することで解消できるのではないだろうか。具体的にいえば、文書や資料、パンフレットを含めた情報すべての統括を行う機関をつくり、外部から情報を得るために来た者はここに行くだけで、どのような媒体のどんな情報でも手に入るようにするのである。このようにすれば、情報を得ようとする人は1カ所に集中された、その機関に行く不便以外はなくなる。つまり、情報を得るために様々な部署を回るという苦労がなくなるのだ。それは情報の収集が短時間で行えることを示す。要するに、この情報の一元化は物理的かつ、時間的な情報公開制度の欠陥を解消するのである。

次に、(2)の与える側に都合のよい情報しか公開されてない可能性がある、という問題点であるが、これはいったいどうしたらいいだろうか。この問題点については、なぜそのようなことが起こる可能性があるかを考えてみなくてはならないだろう。

現在の制度では公開の請求があると、その文書をつくったところが公開するかどうかを決めている。もちろん、その公開、非公開の決定は東京都の情報公開条例に照らし合わせて行っている。だが、この東京都の情報公開条例はその情報に対する解釈の仕方によって、公開、非公開の決定結果が180度変わってしまう曖昧さを持っている。

例えば、一般都民にとっては都で行なわれる入札の際の会議等は公開するのは当然であり、公開しない理由もないと判断する人が多いだろう。だが、都の役人や、入札を行なった企業にとっては、それは秘密で行なわれた方が都合がいいだろうし、そのような都合のいい解釈を情報公開条例に求めることも可能だろう。憲法9条にもいえることだが、そういった法や条例の都合のいい解釈など簡単であるし、その結果が全く反対になっているのは周知の事実である。つまり、その情報がどのようなものか解釈を行う機関によって、公開になったり、非公開になったりしてしまう可能性があるのだ。だから、この解釈を行う機関がどのような人かを考えなくてはならない。

では、この解釈を行う機関というのが現在の制度ではだれかというと、その対象となる文書をつくったところということになる。このつくったところが行う、というところが問題なのだ。なぜなら、つくった機関はその文書の公開によって、不利益を被る可能性のあるところであるからである。具体的にいうと、文書を公開することで東京都と請求者だけの問題ではなくなってしまうのだ。なぜかというと、そのことによって第3者の、都と関係のある企業や個人などにも影響が及び、そういったところとの信頼関係を損ねたりすることを行政の担当者が恐れるからである。つまり、解釈を行う機関がその文書の製作機関である現状では、仕事先との関係を悪くしたくないという「行政の論理」が情報の非公開を招くのを避けることができないのだ。

それでは、いったいどうしたらよいだろうか。解釈を行う機関が、ある意味、周りの状況を無視して、都の情報公開条例に忠実に行えればいいのである。だが、それを行うには解釈を行う機関がその文書の製作機関ではうまくいかないだろう。だから、その解釈を行い、開示・非開示を決定するところを、文書の製作機関とまったく別な機関とすればいいのである。このようにすれば開示・非開示の際の文書の解釈に、「行政の論理」が働くことをある程度避けられるのではないか。

では、(3)の問題点の、一般都民にとって実用的な情報公開制度ではない、ということについては、どのようにしたらよいであろうか。

この問題について、まずいわなければならないことは、文書名がわからないからといって情報が得られないことはおかしいということである。あなたがもし、初めて入ったお店でメニューも見せられずに注文を尋ねられたら困ってしまうだろう。このことと同じである。いきなり、欲しい文書の特定化をいわれても、リストも知識もないのに答えられるわけがない。先ほどの比喩を使えば、都の情報公開制度は、そのお店が何を出しているか知っている常連や一部の通のような人でなければ、使えない制度なのである。逆にいえば、そんなことを知らない普通のお客さんのような人は、ただひたすら困ってしまう制度なのである。

このように、都の現在の情報公開制度は一般都民にとって実用的でないことは明白である。一般都民が欲しい情報を文書名を知らなくても得られるようでなくてはならない。つまり、一般都民が欲しいと思った情報について、文書名の特定化という翻訳を行ってくれる人が必要なのである。普通の都民が行政のことを何か知ろうと考えたとき、最初に文書の特定化を迫られるのではなく、「どのようなことを知りたいのですか?」と言ってもらえるような仕組みがなければ、現行の公開制度すら有効に活用することはできないだろう。また、「こんなことを知りたい」と漠然と考えただけで、必要な文書を公開してくれるようでなければ、普通の都民が都の行政情報を得るのは不可能である。それに、たとえ得ようという意欲があっても、その難しさゆえに挫折して、都の情報を得ようという意欲さえ失わせてしまい、そのため都民が都の行動をチェックすることをあきらめてしまう恐れさえある。都民の視点に立った情報公開制度を作り上げるために、行政側と、都政のことをほとんど知らない請求者の間の橋渡しをする人間が必要なのである。

つまり我々としては、この実用的ではないという問題は、請求者と行政との橋渡しを行えるような人間を要することが必要だと考えるのである。反対にいえば、そのような人間がいれば都の情報公開制度は実用的になるのではないか。

そして最後に(4)の、開示・非開示の決定に時間がかかるという問題である。これについては、なぜ時間がかかるかということを考えなければならないだろう。

では、なぜ時間がかかるのか。端的にいえば、開示請求がなされてから、開示か非開示を決めるからである。もちろん、請求から10日もかかるのはおかしいから、早く決定してもらって、2日後くらいに開示・非開示の決定をして欲しいというのも1つの考え方である。だが、もっといえば、そもそもそれぞれの文書について開示・非開示の決定が最初からなされていれば、1日も、1時間もかからずに開示をしてもらえるか、してもらえないかの結論が出るはずである。というより、開示できる文書しか置いておかなければよいのである。

つまり、この(4)の問題は、それぞれの文書について最初から開示・非開示を決定しておけばよいということになる。そうすることが、開示・非開示の決定に時間がかかるという不便をなくすことになるだろう。

さて、以上のような分析結果をまとめてみよう。

  (1) 情報が分散している
     ……情報を一元化する

  (2) 与える側に都合のよい情報しか公開されていない可能性がある
     ……開示・非開示の決定を担当機関とは別な機関が行う

  (3) 一般都民にとって実用的ではない
     ……請求者と行政との橋渡しを行えるような人間を要する

  (4) 開示・非開示の決定に時間がかかる
     ……それぞれの文書について最初から開示・非開示を決定しておく



Atsushi Kusano
Sat May 10 18:41:20 JST 1997