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薬に関する情報とその伝達

ソリブジン事件で、日本商事の説明書には、たしかに副作用の点は書いてあっ た。全く掲載されていなかったわけではない。しかし、使用した医師はそのこ とを重視していなかったという問題がある。「説明書は見たけれども、それほ ど重要とは思わなかった」とインタビューに答えていた医師もいたと報道され ている。
厚生省の調査報告書によれば、以下のような極めて驚くべき事実があったとい うのだ。以下に原文を引用する。
「日本商事は、販売開始に先立ち作成したMR(医療情報担当者)の社内研修用 の資料(MR教育用テキスト)に、FU系抗ガン剤とは併用禁忌であり、この 注意事項を医師に必ず告げるよう掲載するとともに、『ユースビル錠 (ソリブジン)とFU系抗ガン剤との併用は、最悪の場合、死に至る恐れが あります。』と、掲載した。エーザイが、このMR教育用テキストと添付文書の 表現の差異について、平成5年(1993年)8月20日頃に日本商事に照会 したところ、日本商事は、『添付文書の表現は厚生省の審議結果に基づくもの。 MR教育用テキストについてはMRに強く印象づけるため動物実験結果を比喩して 書いたにすぎない。』と説明した。(日本商事・エーザイからの事情聴取)」
つまり、日本商事はソリブジンの「最悪の場合は死に至る」危険性を知って いながら、そのことを隠して同剤を販売したということになる。これでは 「生の商人」どころか、「まさに『死の商人』」といわれても仕方ないのでは ないか。
薬については実際の臨床の現場で学ぶ以外に方法がない。しかhし、病院勤務医 にしても診療所のドクターにしても、薬を専門にしていない限り、薬の勉強を する余裕がないといわれる。そこで、いきおい、メーカーや薬の問屋からくる、 俗にプロパーといわれる人達の説明や、薬の中に入っている説明文に頼る ようになる。しかしこのプロパーと呼ばれる人達は、どうしても薬を売り込もう とする。いきおい、効果ばかりを強調して副作用については控え目になる。 ソリブジンの場合も、そういう傾向が強かったといわれる。これは以前から 指摘されていた問題で、プロパーをMR(メディカルプレゼンタティブ)と改めて、 MRは薬品の情報提供をするだけで、販売にはタッチさせないという方針を 厚生省はうち出し、業界もそれに呼応して改革を進めていた最中の事件であった。 厚生省の「医療におけるMRの在り方に関する討論会」の報告のようにMRに資格 認定制度を導入すべきである。それによって、MRの社会的地位も向上するし、 ひいては国民を薬害から守ることにも通じるのではないだろうか。MRのほうは、 社命で自社製品を売り込みたいために、どうしても医師の雑用を手伝ったりする。 いつのまにかそれが本業のようになってしまう。MRは医薬情報をきっちり医師に 提供し、特に副作用情報をもれなく伝達しなければならないのではないかと 思われる。
ソリブジンの場合、添付文書の中で当初「併用投与を避けること」という表現で 一応注意がなされていた。しかしこのような控えめな記載で「適正」だったと 果たしていえるのだろうか。なぜ、最初から「抗ガン剤との併用後に死亡した 例も報告されているので、抗ガン剤との併用は絶対に行なわないこと」という 内容を、「警告」として書かなかった(厚生省としては書かせなかった)の だろうか?
厚生省の担当官は、「警告は乱用したくない。これを書いたら、次の措置は 販売停止しかない。」といった発言をしている。国民の命に直接関わる「警告」 の記載を、「乱用したくない」という理由で書かせることをしないといった態度、 このような企業擁護の安全性軽視の行政こそが、ソリブジン薬害発生の大きな 原因といえるのではないだろうか。



Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997