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電気事業界の規制緩和に対する8班の提言

政策提言を行うに当たり、まず、私たちの提言の最大の目的を明らかにしたい。こ れは、他の多くの規制緩和の目的と同じく料金(価格)の低下である。市場経済社会 においては、政府の行う規制によってものの価格が市場の決定する価格よりも高く設 定された場合、消費者は不利益を被ることになる。ただやみくもに規制の緩和を叫ぶ だけでなく、価格を規制することによってどのような社会的メリットがうまれるのか を考えることも重要だが、原則自由の市場経済社会にあっては、やはり規制は必要最 小限であるべきだ。
私たちの目的をより明確にするならば、料金の適正化ということになる。電力供給 が公共事業であるからこそ、より重要なのである。   料金が適正な水準に戻ることにより、どんなメリットが生じるであろうか。折しも 現在、日本経済は不況の底で苦しんでいる。しかも、今後、再びあのバブル景気のよ うな好況がおとずれ、GNPが大幅な成長を遂げることは、ほとんど期待できない。アジ ア諸国をはじめとする新たな工業国が急速な発展を続ける今日、このまま放っておい ては日本経済の未来は決して明るいものとはなり得ないことは誰もが認めるであろう 。
   産業の空洞化ということが言われて久しい。国内の高い人件費・物価を避け、製造 業を中心に多くの企業が安い人と材料を求めて海外へと脱出している。電力も、その 1つの要因となっている。アルミ精錬など、大量の電力を消費する工場は次々と海外 へと飛び出していった。日本の電気料金が高く、いわゆる内外価格差が大きく開いて いるためだ。このことは、産業界を中心に以前から言われてきたことだが、電力会社 側の言うように電源構成や供給信頼度の違いから単純な比較が難しいとしても、欧米 と比べて1.5倍〜3倍の開きがあるというのはどうみてもおかしい。これだけ高い電気 料金が下がれば、企業はコストを削減することができる。それがそのまま製品やサー ビスの価格に反映されることによって、一般消費者はメリットを受ける。電気料金の 引き下げといっても、1家庭あたりでみるとせいぜい1か月10円単位にしか過ぎないが 、このように経済全体の流れを見れば、大きなメリットが生まれるはずだ。そして前 述の産業の空洞化を防ぐことによって雇用が確保されることも大きな意味を持つ。
   電気料金の適正化は、他の規制緩和とも結びついて経済の活性化にとって有効とな るのだ。  料金の適正化のためには、過保護とも言える規制を緩和し、競争原理を導入するこ とが必要になる。電気事業法改正により、発電部門への新規参入事業者に対して入札 が実施されるが、この入札制度が最大限に活用され、競争原理による価格競争が起こ るようなシステムを作らなければならない。
 入札を実施する電力会社は、入札対象電源と同等の発電を自社で行ったとした場合 の様々なコストを計算し、これを回避可能原価として公開することになっている。入 札者は、この回避可能原価以下でしか応札することができない。
 ところが、この制度には誰もが気づくであろう大きな欠陥がある。制度の透明度を 高めるために回避可能原価をあらかじめ公表するのであるが、入札価格が回避可能原 価に張り付いてしまい、ほとんど電気料金は下がらない結果になるなる恐れが強いの だ。この点について、電気事業審議会では「考慮する」としているが、実際、イギリ スでは発電市場が自由化されているものの、落札価格が回避可能原価に張り付くこと が主な要因になり、市場価格は上昇傾向にあるという。これでは何のための自由化か 分からない。
   そこで私たちは、回避可能原価を公表しないことを提案する。
 もちろん、基本諸元となる発電所の耐用年数、設備利用率などは入札実施者と応札 者が同一の指標を使った方が好ましいために、必要最小限度のデータは公表する。そ もそもの入札の意義を考え、それぞれの参入者の企業努力を最大限に発揮させるため には回避可能原価の非公表は有効な手段であり、より一層の効率化が進められると考 える。
 また、回避可能原価を非公開にすることにより、公共事業の入札では常に問題とな る談合についてもその危険性を低めることができる。現行の独占禁止法では10電力の 地域独占を認めていることなどから、電気事業に対しては適用を除外している。入札 制度に関しては当然のことながら独禁法の対象とし、他の公共事業も含めて公正取引 委員会の監視を強化すべきである。   競争原理の導入が必要なのは、新規参入事業者に対する入札の場だけではない。既 存の10電力会社間にも競争意識を働かせ、経営の効率化を進める必要がある。新たな 料金算出法として、「ヤード・スティック方式」が採られるが、通産省は改正電気事 業法の施行後、直ちに新方式を導入するという。
   ところが既存の10社間でも、規模はまちまちだ。世界最大級の民間電力会社である 東京電力は、総資産が約1兆3千億円、約5千万kwの発電設備を持つ。これに対し、北海 道電力や北陸電力は東京電力の1割程度の規模にすぎない。10電力会社を3段階で評価 し、効率が悪いグループに対しては政府が厳しい査定を行うというが、10と1程の差の ある電力会社を一律にふるいにかけるというのはいかがなものだろう。各社ごとの地 域事情を明確に評価する何らかの指標が必要だろう。この際には、各社がそれぞれの 立場においてなしうる限りの効率化をはかり、それが料金低下に結びつくよう、査定 を進めなくてはならない。
 ところで、電力会社間に競争原理を採り入れるために、現在の地域規制までも撤廃 しようという過激な意見もある。私たちは、この規制が電力の安定供給という面で十 分に機能してきたことを認め、新規参入に対しては入札制度、電力会社間にはヤード ・スティック方式を導入する他、特定地点供給の促進など、あらゆる面から料金適正 化のための規制緩和をすすめることにより、最低限の安定性を維持するためのシステ ムとして、当面はこの地域規制は残す必要があると考える。

 料金低下のためには事業者の数を増やすことが必要である。10大電力会社による 地域独占体制の現行の供給システムは競争的要素が少なく、電力会社による新規の大 型電源は需要密集地からますます遠隔化している。遠隔化は送電コストの上昇に直結 し電気料金の値上げにつながる。一方で自家発電設備やコージェネレーション・シス テムなどの分散型電源の普及が進展しつつある。これらの分散型電源は需要地の近く に立地できるので送電コストが低く、エネルギー変換効率が高く経済性にも優れてい る。また規模が中小であるために設備投資も抑えられる。来年1月の電気事業法改正 で卸発電事業が自由化され、また特定電気事業の規制が大幅に緩和されるので、この 両分野には分散型電源による既存の電気事業者以外の多様な事業者が新規参入してく ると予想される。発電部門については同時に導入される入札制度により、新規参入事 業者間に競争原理が取り入れられることで発電コストの低減が期待される。特定電気 事業の規制緩和についてはこれにより需要家が供給事業者を随時自由に選択できると いう意味での競争には直ちにつながらないものの、既存の電気事業者の競争的刺激と なることが期待される。このような電力会社以外のものが電気事業に参入することは 、伸びつづける電力需要に対応しきれていない電力会社の負担を軽減できるし、電力 会社の電源開発に対しても一層の効率化努力を促すにちがいない。これらを通じて、 内外価格差についての指摘を受けているわが国電力産業全体としての効率化が促され 、結果的に、国際的に高い電気料金を抑えることにつながる。
 事業者数を増加するためには、電気事業への参入を促進する体制を整えなければな らない。我々が先に提言したように、卸発電市場での入札制度において回避可能原価 を非公開にすることで入札制度はより公平で透明なものとなり、潜在的な事業者の参 入が促進される。しかしいまなお新規参入の障害となっているのが工事計画、事業計 画その他の許認可手続きの煩雑さである。来年1月の電気事業法改正で発電事業への 参入に係わる許可は撤廃されたが、特定電気事業はその供給範囲が広げられたものの 、参入には通産省の審査の上での許可が必要である。そして現状では、計画の申請か ら許可が下りるまでに非常に長い時間がかかるのである。例えばコージェネレーショ ン・システムによる特定供給として注目を集めている相模原市のショッピングセンタ ーのジャスコの場合では、特定供給を行う昭和シェルが工事計画を通産省に申請して から許可が下りるまでに6年もかかっている。効率的に新規参入を促すためには行政 改革を進めることにより、行政組織を縮小し審査等にかかる時間を短縮し許認可制度 を簡素化しなければはならない。  発電事業は長期的に安定した利潤が期待できる事業ではあるが、莫大な設備投資費 が新規参入の障害となっている。事業の性質上、設備投資にコストがかかるのはやむ を得ないのであるが、わが国の発電設備にかかるコストは先進諸外国と比較してかな り高い。その背景には必要以上に高水準の安定した電力供給を目指す電力会社と高コ ストの発電機材を電力会社に購入させようとする業者の間の癒着関係がある。発電コ ストを抑えて新規参入を促すためには電力供給に係わる基準を見直して現状にあった レベルに落とすべきである。そしてさらに新規参入を促すためには、各事業者(特定 電気事業者)が各々の電力供給基準のレベルと料金を公表し、消費者が自由に選択で きるようにするべきである。電話事業においてはすでに同様の試みが成功を収めてい る。また様々な分野の企業が発電事業に参入してくることが電気事業界の活性化につ ながる。例えば新設のニュータウン地域においては特定電気事業者の方がより効率的 な電力供給が可能な場合が多いと考えられる。その際にニュータウン計画を請け負う 不動産会社に対し自治体レベルで特定電気事業への参入を促す、というのどうであろ うか。

 発電量の増加は料金低下には不可欠の要素である。伸び続ける電力需要に対し電力 会社は対応しきれずにいて発電量不足はまだまだ解消されていない。そこでわれわれ は次のように提言する。現在、全国には予算不足や経営悪化などの事情で休業中の発 電所、あるいは自家発電設備が多く存在する。これらの設備を有効に利用するために 、その管理を安く行うことの可能な企業との提携を発電設備の経営サイドに都道府県 レベルで促すのである。  今、電気料金を引き上げている原因の1つに「過度の設備投資費」が挙げられる。 わが国の電力の安定性は世界一ともいわれるほどで、電気の質がよく、停電などが少 なく、安全設備がしっかりと整っている。そこで問題なのが、余りに安全性を追求す るがための、膨大な設備投資費である。最ももったいないと思われるのが、安全確保 のためにつくられる余剰電力である。これは、災害時や自己発電している施設の緊急 時用につくられる、バックアップのためのもので、ふだんは捨てられてしまっている 。電気は石油などと違って蓄積しておくことが困難なので、非常用のものは常につく り続けていなければ対応できない。災害時での電力会社によるバックアップは必要で ある。しかし、そのために相当量の電気を垂れ流しにしてしまっているという事実は 改善しなければならない。わが国では行き過ぎた完全主義が無駄を作り出してしまっ ていることが多い。電気についても同じことが言えるのではなかろうか。
 コンピューターには安定した電気供給が必要である。しかし、クーラーなど一般の 供給や、産業用の供給については、緊急時には停止するなどのある程度の対応はやむ を得ないのではないだろうか。完全な対応を目指すあまり無駄になってしまうような 、余分な資源などないのである。  現在、わが国の電力は主に火力発電に頼っている。具体的なデータを示すと、1992 年度の電源構成は、石油24 、地熱、LPG、その他2 わかるように約6割は火力発電によるものだ。これは、火力発電が現在においては最も 行いやすく、コストが安い発電設備であることを意味する。しかし、今日では化石燃 料の過度利用による地球温暖化現象が危険視されている。火力発電での燃料利用もそ の原因の1つであることは確固たる事実である。さらに、化石燃料は無限ではなく、そ う先ではない将来底をつくだろうとも言われている。
 そこで、今では盛んに化石燃料に代わる新しいエネルギーを開発している。その筆 頭としては原子力エネルギーが考えられている。化石エネルギーに代わるには効率が 良い大出力のものでなければならないと考えられ、原子力エネルギーが注目視されて いるのである。原子力発電は1基だけで100万キロワットもの電気をつくりだし、1機 でも200キロワットの風力発電とは桁違いである。しかしその反面、原発に対する反 対も多い。過激な反原発の人でなくても、一般の人々でもある種の恐怖感を抱いてい るのは確かだ。私も一般市民として、「原子力発電は私達に悲劇を呼ぶのではないだ ろうか。」という気持ちがある。電力会社や専門家は、多少の不安要素はあるにしろ 安全であるし、今後の急増する電力消費に対応するには原発を使わなければ不可能な のだという。確かに、原発を停止することなどできないかもしれない。だが、圧倒的 多数の市民が原発に何か不安を抱いているのは事実であり、それをなおざりにして建 設を進めていくのは間違っているであろう。電力供給は一種の公共事業なのであるか ら、国民の意志に反した事業を行ってはならないし、国民にありのままの事実を公開 し話し合いの場を頻繁に設けなければならないと考える。
 化石エネルギーに代わるものは原子力だけではない。太陽エネルギー、地熱、風力 、バイオマス、海洋エネルギー、核融合エネルギーなど数多く研究されている。その 中にはまだまだ研究段階のものや、出力が小さいなどの問題がある。さらに最も問題 なのはコストが高いことで、それが普及を難しくしている。そこで、新エネルギーを 普及させるために、それらの設備により発電された電気の優先的買い取りを義務づけ たらよいのではないだろうか。新しい試みには援助が必要である。たとえ今は、コス トがかかるものかもしれないが、将来、化石エネルギーがなくなってから始めるので はなく、余裕のある今のうちから取り組むことが未来の成功につながるであろう。
 現在でも、新発見は毎年のように多々あり、新しい技術も日々進歩している。未来 へ向け、可能性は限りない。新しい技術が社会で普及するのには、先見性を持った人 物の助けが必要なのだ。今では使い物になりそうもないものでも、やり方によっては 将来、当然のものになるかもしれない。少しでも可能性のありそうなエネルギーであ ったなら、投資してみるべきである。今、少しの犠牲が後に大きな成功として跳ね返 ってくる可能性は十分あるのである。  上に述べてきた規制緩和策を実施するのであれば、逆に、電力会社への規制あるい は制限も緩和していく必要がある。電力事業をもっと民主的なものに変え、市場を開 放されたものにし、新しい参入者を受け入れられるようにするならば、その分野での 、既存の電力会社のシェアは確実に減るであろう。ならば、電力会社には他の新しい 産業にも展開できるように、電力事業における義務要素を減らして行かねばそれは、 難しいと思われる。
 電力会社が電力事業だけでなく、多様な産業に着手していくことは、会社の活性化 に役立つと思われる。発電などの分野での技術改良が行われているにしろ、電力とい う確実に安定した商品を扱っているため、今までの状況では、会社内に慢性化、怠惰 化が起こりやすい。「つぶれてしまうかも」というような、緊迫感が全くない仕事場 は堕落してしまうであろう。
 そこで、電力会社は電力という専門分野を活かした新しい事業をますます行ってい くべきだ。現在でも既に電気自動車や通信分野に手を出し始めてはいるが、新しい事 業として本腰を入れている姿勢は見られない。それは、電気自動車の開発展開を見て もわかる。電気自動車を手がけ始めて、そうとう月日が経つが、未だ自分の会社の事 業用としか成り立っていない。ただの実験としか考えていないようでもある。市場を 築こうという努力は見られないのである。他にも、これからの事業と思われるもので 、電力会社が技術を活かして、先頭に立てそうなものはいくらでもある。新エネルギ ー分野としての一般向けのソーラーシステム、その広いネットワークを利用した情報 産業、さらには、発展途上国のエネルギー開発の支援、などである。
 今まで電力会社は電力分野において独占的に開発を進めてきたのであるから、その 範囲は他と比較できないほど広く、資本も莫大であり、技術も秀でている。それらを 活かし、未来を創る新しい産業を自らが先頭になって起こしていくことが、低迷期に いる今の日本を救うことになるのである。 政策提言を決定する過程において、提言に加えるにはいたらなかったが有益な議論 を展開することができたのが、電気供給システムの縦ライン解体の問題と小売り託送 導入の問題である。どちらについても、我々の考える規制緩和が目指す料金低下に大 きな影響を及ぼす競争原理導入に関する問題であるとともに、海外で実施されている 例もある非常に重要な問題である。
一つ目の電気供給システムの縦ライン解体とはつまり、現在の日本では発電、送電 、配電のすべてを一般電気事業者が行っているが、発電会社と送配電会社、もしくは 発電会社、送電会社、配電会社に分解するということである。この政策の目的は、9 6年1月から実施される規制緩和で新規参入が許可される発電部門だけでなく、現在 、独占的に行われている送電、配電事業にも新規参入を促すことで競争原理がさらに 導入され、経営努力が進み、それにより消費者に利益が還元されるということである 。実際に、電力市場解放に積極的なイギリスやEUでは発電、送電、配電部門に分割 されていることからも、この政策が電力市場の規制緩和の一つの手段であることは明 らかである。しかし、この電気供給システムの垂直統合解体は、同時に多くの問題点 も含んでいる。まず第一に、電力は蓄積することができないという特殊な性質のため に、発電、送電、配電の設備が一定のものであることが非常に重要なことであるのだ が、この政策を実施すると設備が固定されてないために電力輸送がうまくいかなくな る可能性がある。第二に、送配電システムがこれまでの固定供給ラインから多種多様 の供給ラインに移行することにより供給システムが複雑化し、供給システムの管理が 非常に難しいものとなり、電力エネルギーにとって不可欠の安定供給が脅かされるこ とになるおそれがある。第三には、第一、第二の問題に関連しているのだが、電力輸 送の円滑化、安定供給の確保をするためにさらなる規制が生じてしまうことも考えら れる。 我々としては、この政策が電気市場にもたらすこのような良い影響、悪い影響 を比較検討した場合、悪い影響を避けることの方がベターだと考えられるとともに、 やっと発電部門に新規参入がなされようかとしている現時点では、送配電部門に新規 参入を認めるこの政策は時期尚早といえ、我々の政策提言には不適切であるという結 論にいたった。
二つ目の小売り託送導入の問題とは、一般電気事業者が管理している既存の送配電 線を、使用料金(託送料金)を払い利用することによって、直接需要家のもとへ電気 を送ることを可能にするということである。つまり、直接発電施設から需要家のもと へ電力を送ることができるようになるため、小規模発電施設である工場の自家発電力 などを安値で利用することが可能となる。さらに、送配電線は既存のものを借りて利 用するため、設備投資のコストがかかる心配もない。また、これまでは一般電気事業 者にのみしか電力を売ることができなかったのが、直接需要家に電力を売ることがで きるようになるため、発電部門の新規参入や夏の間のみ使用しているなどの非効率的 な発電施設の有効利用が促され、電力市場が活性化されることは間違いない。また、 EUでも小売り託送は実施されている。しかし、このように様々な利点があるように見 える小売り託送にも、よくよく考察してみると小売り託送を導入した際にそれに伴い 生じるおそれのある問題点を幾つかあげることができた。その問題点とはまず、先に 述べた電気供給システムの縦ライン解体における問題点とも重なる問題点として、送 配電システムの複雑化によって安定供給に不安を残すということ、手続きの増加に伴 う規制増加のおそれがあることである。次に、大工場などの大口需要家と一般家庭な どの小口需要家では発電会社が大口需要家を優遇してしまう可能性があり、電気供給 に不平等が生てしまうおそれがあるという問題である。さらに、小売り託送を導入す れば、現在の完全に一元的管理下にある電気供給システムも大幅に変える必要があり 、そのような大改革を行うことは非常に困難であるといえ、独占的な送配電システム を解体するなどの段階を経て実施するべきものである。つまり、現時点では現実的で はないといえる。このような問題点を考慮に入れて、結局、トータル的に見て小売り 託送導入も我々の政策提言にはふさわしくないと判断した。
結果的には電気供給システムの縦ライン解体、小売り託送導入、どちらの問題も結 局はデメリットの方がメリットよりも大きいと判断し提言には加えなかったが、それ はあくまでも現時点での判断であり、今後の電気事業界の変化によってはまだまだ十 分議論の余地のある問題であり、将来議論の的となる問題であることは間違いない。
最後に付け加えることとして、これも提言には加えなかったのだが、省エネの問題 をあげたい。よりよい電力市場を、と我々が様々な政策を考える上で常にぶつかる障 害が、電力エネルギーは蓄積できないという電気の特殊性であった。この特殊性が電 力の問題を難しいものとしているのだが、電気の省エネが展開されれば電気事業界の 規制緩和が進みやすくなるといえよう。それは、電力エネルギーにとって安定的供給 こそがもっとも重要なことであり一般電気事業者は安定供給を絶対条件としているの だが、蓄積できないがために常に大量の電力を余分に生産しておかなくてはならない 。さらに、時間的、季節的に使用電力量が大きく変化してしまうため、さらに余分な 電気を生産しておく必要が生じてしまう。そのために、安定性確保の実現に向けて、 設備に関する規制の増加や設備投資の増加の必要性が必然的に生じてしまう結果にな るのである。そこでもしも省エネが展開されれば、安定性確保に関する設備規制が削 減される可能性があるというわけである。こうして規制緩和が進めば、電気料金の大 部分を占める安定性確保のための設備費を減らすことができ、消費者に利益が及ぶと いうわけである。省エネを多くの国民が意識して実行し、現在の毎年伸びゆく電力需 要を抑えることができたり、ふだんと格段の差のある夏のピークの電力需要を少しで も減らすことができたならば、電力供給の最大の目標である安定性を確保しつつ今ま で膨大な費用のかかっていた設備費の削減を実行できることとなるだろう。省エネを 積極的に推進することは、回り道ながらも確実に消費者のためになる、そして地球環 境のためにもなる規制緩和を導く一つの手段といえるだろう。我々は、規制緩和につ ながる省エネを推進するような政策を考え展開することも必要なことである、という 意見で一致したことを最後にここで述べておく。



Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997